第91話 王都に入る
翌朝、再出発して夜にようやく王都キュジャーグに辿り着いた。
ギリギリ閉門時間には間に合ったのに、ミランダリィさんとアンジー・ローウェルの提案によって翌朝の入門という事になってしまった。
二人共、オレの料理が食べたかったみたいなんだ。
若返った姿を知り合いに見せたいのと、オレの料理を天秤にかけて、オレの料理が勝ったようだ。道中も手鏡を渡しておいたけど、姿見の鏡を横にして荷台にずっと出さされたもんね。どんだけナルなんだよ。嬉しいんだろうからナルシストとは違うのかもしれないけどね。
アンジー・ローウェルには若返った姿を見せたい相手もいないようだし、それはミランダリィさんも同じようだ。もし、見せたい彼氏がいるんなら、オレの料理が負けてたかもしれないね。
いや、そうじゃなくて、町に入れるんなら入ればいいじゃん! 宿でゆっくりする方がいいだろ。ミランダリィさんだってアンジー・ローウェルだって家があるだろ。オレ達はシルビアが行きたくないって言うから宿に泊まる予定だけど、あなた達は違うだろ。
ホント自由だよ、貴族のはずなんだけどね、二人共。
その後、オレ達は王都キュジャーグの門を潜る事になったのだが、忘れていた。
忘れていたというより、思ってもみなかった。シルビアの身元がバレたのだ。
ミランダリィさんも一緒にいるからね、別々に入るとかすればよかったんだけど、ミランダリィさんとアンジー・ローウェルがいれば入門の際にトラブルにはならないだろうと高を括っていたのだ。
実際、トラブルになったのはミランダリィさんとアンジー・ローウェルが若返っていて本人確認が少し長引いた事ぐらい。
でも、念のためと身元確認で呼び出されたミランダリィさんの息子が「お前シルビアだろ!」って大きな声で叫んでしまったんだ。
前に誘拐された前科があるミランダリィさんだから、見た目が若返ってるし身元確認は仕方が無かったとはいえ、シルビアがバレたのは痛かった。
勇者の子だからね、ミランダリィさんの話では登城命令が出るかもしれないという事だった。
オレ達には付いて行けないから、シルビアが城に連れて行かれたらオレ達との旅もできなくなるかもな。
門にいた兵士にはミランダリィさんの機転で自分の屋敷に連れて行くという事で納得してもらい、その場はなんとか凌いだ。
ただ、このあと門を出るのは難関のようだ。普通には出してもらえないだろう。
シルビアが、やはりミランダリィさんの屋敷に行く事を渋ったので、オレ達は宿を取ることにした。ミランダリィさんは一度屋敷に戻った後、宿に来てくれるそうだ。
凄い形相でミランダリィさんの息子を睨んでたからね、ミランダリィさんもシルビアが宿で泊まる事をすぐに了解してくれたよ。
問題はこの後だな。さてどうなるんだろ。
宿に泊まるのはシルビア、ライリィ、ルシエル、センとミランダリィさんが後から合流するから人間は五人分。宿には馬車置き場もあったので、オレとハヤテはそこに。ボルトはいつも通りオレの影の中。キューちゃんとパルは従魔扱い。【御者】が入りたい時は帽子を被らせてればいいし、どうせ宿で【御者】が泊まる事も無いしね。
結局この日はミランダリィさんは来なかった。夕食前に使いの者が来て、ミランダリィさんは来れないと連絡は受けた。明日もどうなるか分からないという事だった。
色々動いてくれているのか、それとも単に屋敷から出られないのか。情報が無いから何とも分からない。
翌日、オレ達もじっとしてても仕方が無いので、町の見物に出る事にした。
宿には誰か訪ねて来ても夜まで戻らないからと伝えてもらうように言っておいた。
昨日はバタバタしてたからちゃんと見れなかったけど、やっぱり王都と言うだけあってメキドナの町とは何もかもが規模が違う。建物も大きくて高いし、人も多い。
シスターズには気晴らしに服やアクセサリーの買い物でもしておいでとキューちゃんとパルを付けて行かせたんだけど、その間にオレはセンと一緒に冒険者ギルドにやって来た。
もしかしたら、依頼で外に出るのならシルビアも一緒に出られるんじゃないかと思ったからだ。
あと、シスターズを連れて来たら、どうせここにもテンプレ担当がいるだろうから、余計な面倒に巻き込まれると思ったのもあった。ね、既にセンが絡まれてるでしょ。
ここのテンプレ担当はどんなのだ?
チビ、デブ、ノッポ。ここのテンプレ担当もベタなのか?
三人共、ちょっとなんか入ってるな。獣人か?
獣人(猿人):LV30
獣人(猪人):LV25
ハーフエルフ(水棲エルフ):LV26
あれ? サル、ブタ、カッパ? 周囲を確認したけど、僧侶はいなかったよ。
オレは絡まれそうになったからすかさず【御者】に帽子を被らせたからね。矛先はそのままセンに向いてしまったみたい。
ゴメンね、でもセンなら何とかするでしょ。もし【御者】を転ばそうもんなら冒険者ギルドが吹っ飛ぶかもしれないからね。オレの判断は正しかったと思うよ。
ほら、ベタのテンプレ団はセンに峰打ちされてのびてしまったよ。ベタ子VSベタ団は当然ベタ子の勝ちだったね。まぁまぁのステータスをしてたけど、CかDランクぐらいかな? インザーグよりは低かったよ、テンプレ担当のゲルバのちょっと上ぐらいか。
周りは誰もセンが何をしたのかも見えなかったみたいだけど、オレには見えたよ。見えたからといって対処はできないけどね。
「お館様、露払いは済ませました。さ、要件を」
奴らはあのまま放置なんだね、でも誰も気付いて無いね。なんでだろ。あ、うまい具合に死角に放置したんだ。やるねセン、これからこういうのはセンに頼もうか。
「……ありがとう。先に依頼ボードを確認するよ。でも、何を言われてたんだい?」
「はっ、なんでも馬に乗るパーティメンバーを探してるとか。無理に頭巾を被せて来ようとしたので断っておったのですが、あまりにしつこいので黙らせてやりました」
やっぱり僧侶役がいなかったんだね。やっぱりベタな奴らだったね、もうオレの中ではベタ団決定だな。
依頼ボードを見てみると、さすが王都だけあって依頼も多いね。でも、半分以上はダンジョン内の依頼みたいだな。
確か、王都の中にダンジョンがあったな。ダンジョンで獲った魔石やドロップ品の買い取り依頼が半分はあるな。でも、残りの半分でもメキドナと同じぐらいあるな。
西の森の依頼? あ、オレ達が通って来た東の森は、この王都から見れば西の森になる訳か。何か名前を付けてやろうよ。ややこしいよ。
ここにもクエスト依頼があるんだ。焔鳥の羽? 雷獣の髭? 冰龍の鱗? 厳亀の涙? オレなら三つは獲れるよ、達成報告が面倒だからやらないけど。でも、ボルトが従魔登録されてるのって伝わって無いのかな?
【御者】の帽子を取って受付へ。
「すみません、ランクが高くて町の外の依頼ってここにあるだけ?」
受付は五つあって、どの受付にも美人さんが座っている。なんで冒険者ギルドの受付って美人さんばかりなんだろ。定番なんだろうね、お約束ってやつ。
その内の一つの受付へ。偶々一番端が空いてたのでそこに行ったんだけど、一番お胸の大きな人だった。偶々だよ、偶々。後ろでセンが張り合って、なんか胸が大きくなってる。
あ、変身だもんね。どうとでもできるのか。
そんな事はどうでもいいんだ、依頼だよ依頼。
「町の外の依頼ですかー? 西の森の奥まで行けばランクの高い依頼はありますよ。あまり人気が無いから依頼をかける人も少ないんだけどね、高ランクの人達はダンジョンに行っちゃいますからね」
結構くだけた話し方をするんだね。
「達成報告は一人で来ても良かったよね?」
「はい、パーティで行っても誰かが報告に来てくれたらいいですよー。他の町でも達成報告はできるしね。ただ、採取依頼の場合は、こちらまで素材を持って来てくれないと達成にはならないよ」
「片道だけの護衛依頼ってのもある?」
「もちろんありますよー、片道だけの方が多いけどね。Aランクの場合は往復が多いかなー。Aランクに依頼をかける人はお金持ちが多いですから。遠距離が多いですね。冒険者カードを見せてもらえる?」
センに頼んで受付嬢に冒険者カードを渡してもらった。オレのはあやふやだからね、一人の時以外は一緒にいる者のカードを見せるようにしてるんだ。
でも、冒険者カードを見せる前からAランク前提で話してるよね、高ランク依頼の事を聞いたからか?
「キャリッジ冒険団の人だったのね、こっちでも噂は聞いてるよー。王都に来てくれないかなぁと思ってたわ。あなた達ならダンジョンで指名依頼があると思うわよー」
なんとも受付らしくない話し方だね。ダンジョンの依頼だったら町の外に出られないじゃん。
「ダンジョンの依頼って?」
「んー、ギルマス呼ぶ?」
「オレに聞かれても」
「どうしよっかなー。困った時はイザベラさんね。でも、イザベラさんは今いないのでー、イーサン事務長の方がいいよね?」
「だから、オレに聞かれても分かんないって」
「ちょっと待ってねー」
オレの話は聞いて無いね。【御者】は帽子脱いでるよね?
受付の女性は後ろの事務員達がたくさんいる所に行き、一人の男性と話している。
その男性は驚いた顔をしてこちらを伺うと、少し難しい顔をすぐに席を立ち受付の所まで来てくれた。
「お待たせしました、ようこそ王都冒険者ギルドへ。キャリッジ冒険団の方達ですね、私は事務長のイーサンです。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。オレはキャリッジ冒険団のリーダーで、こっちはメンバーのセンです」
もう毎回変わる名前を言うのも面倒なので、リーダーと言っておいた。これなら名前が変わってもリーダーって呼んでもらえるからオレも迷わないしね。
「おお、あなたがリーダーでしたか。是非こちらに来て頂きたいと思っていたのです。再三要請を出していたのですが、メキドナのマリーブラが中々あなた達をこちらに派遣してくれないものですから、痺れを切らしていた所です。お会いできて良かった。あちらで少しお話しできますか?」
イーサン事務長が事務員達が仕事をしている一角にある、パーティションで仕切られた面談室の様な所を指差した。
「ええ、オレも相談したい事があったのでいいですよ」
センと二人でパーティションで仕切られた応接セットの所までイーサン事務長に案内された。
「改めまして、ようこそ王都冒険者ギルドへ。本当にお待ちしておりました」
「あの、さっきから待ってたってどういう事ですか?」
「……やはり、何も話が届いてないようですね。要請に出向いた時も会わせてもらえませんでしたし……。お話はいくつかあるのですが、急いでいるのはこれです」
そう言って机に出されたのは見覚えのある二本の瓶だった。
「これって……」
「はい、シャンプーとリンスです。1000本ずつ分けてもらってきた最後の二本です。何とか死守して持っておりますが、いつ奪われるとも限りません。私が持っていないと見本として出せませんからね。それでも執拗にイザベラさんから狙われているのでもう限界でした。本当によく来てくださいました」
イーサン事務長は少し涙目になっている。本当に困っていたんだろうね。
さっきもイザベラさんって名前が出てたけど何者なんだろ。
「シャンプーとリンスを売ればいいんですか?」
「いえ、私共の王都冒険者ギルドにもメキドナと同様に卸して頂きたいのです。既に倉庫は出来上がっております」
仕事早ぇーって、あれ? オレが卸すのはもう決定事項なのか?
「別に断る理由もないのでいいんですが……」
「はい、言質頂きました。では、行きましょう」
言うが早いかイーサン事務長は立ち上がり、【御者】の手を取り連れ出そうとする。
もちろんセンが立ち塞がって……無いね。どうしたのかな?
さっきの受付嬢が綺麗な短剣をチラチラとセンに見えるように出している。センの視線は短剣に釘付けだ、【御者】が横で攫われそうになってるのも気付かない。
なんでセンが剣フェチって知ってんだ? どこ情報だよ。あの受付嬢って意外とできる奴だったの?
敵意は無さそうだからいいんだけど、どこに連れて行かれるの?
イーサン事務長に連れられた【御者】はそのまま裏口から出て、道を挟んだ建物の入り口を入った。
入った中はメキドナの倉庫の様な建物で、高い天井に広い空間。その中にメキドナの倉庫同様のタンクが10基並んでいた。その横には小瓶が入った木箱が山の様に積み上げられている。
「さ、こちらです。このタンクにシャンプーとリンスを満タンにしてください、石鹸はいりません。契約内容はマリーブラから伺っています。契約書もこちらに作成済みです」
イーサン事務長が契約書を出して見せてくれた。
内容はマリーブラさんとの間で交わした内容とほぼ同じで、ルシエルとライリィの冒険者カードに売り上げの一割を半分ずつにした額が振り込まれることになっている。取り分は五分五分になっていた。
「これって取り分が……」
「はい、あちらでは四割の取り分と伺っておりますが、こちらでは五割とさせて頂きました。もちろん、瓶詰作業や販売はこちらで担当致します。他に問題が無ければ、タンクに入れて頂けますか。私の命に係わる事でもありますので、早くお願いできますか」
冷静な表情と口振りの割に、ちょいちょい危機を感じさせる言葉が入るな。
強引すぎる所はいただけないけど、ルシエルとライリィの為でもある事だし、取り分も文句はない。でも、これだけ焦ってるんだ、こっちの聞きたい事も教えてもらえるかもな。
「契約内容は問題ありません。あと、条件を一つ付けてもいいですか?」
「なんでしょう、あなた方キャリッジ冒険団が今抱えている問題でしたらシルビア様の事でしょうか? それとも奥方様の事でしょうか? いずれも情報開示の準備はございますし、出来る限りの協力は致しましょう。それとも受付の秘密ですか? 彼女たちは全員【鑑定】持ちですので、あの席に座れるのです。ただ、あなたは特別な方のようですね。あ、大丈夫です。情報はギルマスと秘書にしか伝わりませんので安心してください」
別に秘密って程の事じゃないけど、鑑定されてたんだな。【御者】はスキルで出してるだけだから鑑定しても何も出ないからね。さっきのセンの剣フェチがバレたのもその辺なのかな? 称号に『剣フェチ』とは付いて無かったと思うけど。
シルビアとミランダリィさんの情報も聞けて協力もしてくれるんだったらオレも協力しようか。
「わかりました。ではタンクにシャンプーとリンスを入れましょう」
「おお! ありがとうございます! これで救われました。では、契約書にサインをしてタンクにシャンプーを四基、リンスを六基でお願いします。どのぐらいで終わりますか?」
【御者】にサインさせ、タンクを満タンにしていく。
シャンプーを四基、リンスを六基のタンクに入れ終えた。【亜空間収納】から出すだけだから一瞬だ。
メキドナでの補充分はルシエルに渡してあるけど、オレがいる時はオレが補充をしてあげようと、かなりの量を造って保存してるからね。ここの分ぐらいなら楽勝だ。
「それで、なんで五分五分じゃないんですか? 石鹸もいらないという事でしたが」
「こちらでは【クリーン】の魔法を約1/10の住民が使えます。使えない者でも魔道具を使えば【クリーン】が発動できますので、洗浄という点ではいらないんです。しかし、このシャンプーだけでも髪はふわふわになりますし、リンスを使えばサラサラになります。更に香りも素晴らしい。余裕のある人はシャンプーとリンスを購入しますし、そうでない方はリンスだけを購入します。3:7でもいいぐらいですが、念のため4:6でお願いしました」
そういう事もあるんだね。【クリーン】はオレもいつも使ってるのに考えに入って無かったね。
香りもいいっていう事だけど、オレは項目通りに選択して造ってるだけだし、匂いはオレにはいは分かんないからね。オレのイメージにはシャンプーやリンスにはいい香りがするってあるから、そのへんが作用してるのかな? ナビゲーターも補正してくれてるんだろうね。こういう細かい事だけはよく気が利くみたいだから。
「それでは早く作業に移って頂けますか」
「もう終わったよ」
「へ?」
驚くイーサン事務長にタンクの中を確認してもらって、シルビアとミランダリィさんの情報を聞くために冒険者ギルドに戻った。
名前変更しました
クラリス⇒イザベラ
イメージが全然違ったので変更しました




