第88話 依頼も一段落
連絡の一番目はシャンプーの為の倉庫の件だった。
マリーブラさんが他の作業(主にダンジョン前の建築現場)から土魔法のスペシャリストや建築家を終結させ、三日で土地、建物、タンクを作り上げてしまった。
職権乱用も甚だしい限りだ。
学校帰りのシルビア達からの伝言を受けて、指定の場所にオレとハヤテだけで行ってみると冒険者ギルド並みの建物が建っていた。
場所は、冒険者ギルドから少し南へ行った所で、徒歩でも十分程度。幅が30メートル、奥行きが15メートル。高さも三階建てぐらいあったが、中に入ってみると一階建てになっていた。天井の高さが高いのだ。
そこに直径三メートル、高さ三メートルの円柱のタンクが四つ据えられていた。
少し高床にして、その上にタンクを置いてあり、下の方には小さな筒が付いていた。中の液体を出すための小出し口になっているんだろう。
瓶も少し大き目で、500ミリリットルぐらい入りそうだ。
土魔法で造られたタンクには200トン以上入るだろうし、瓶への小分け作業も大変だろうね。タンク一基で40万本以上取れそうだ。
しかし、このタンクも光沢があって綺麗だよ、強度も問題無さそうだ。気合の入った逸品だね。
マリーブラさんが付きっ切りだったっていうから、作業員たちはボロ雑巾の様にこき使われたんだろうね。あの、満足げな笑みを見てると想像がつくよね。
今日までの間に造っておいたシャンプーとリンスで四基のタンクを満タンにして、石鹸も一万個積み上げておいた。
タンク四基に入れてもまだまだ余ってたから、これは収納バッグに入れてルシエルにでも渡しておこう。タンク一個分で収納バッグ一個にすると後で出しやすいと思って分けてみたら十個ずつになってしまった。
作り過ぎたね、夜は暇だからする事も無いし、ずっと作り続けてたんだよね。言うほど時間は掛からなかったけど。
素材も東の森のダンジョン前で獲った魔物や植物から抽出できる油を使ってるみたいで、ストックはいくらでもあったしね。
項目を見たら文字が光ってるから選択していくだけでいいしね。量も最大1000キログラムまで選択できたから造り過ぎてしまった。
マリーブラさんにも満足してもらったみたいなので、良かったんじゃないかな。
小分け作業は、低ランク冒険者や学生を募集してさせるそうだ。
そのまま続いて沼の主を披露するために町の外に向かった。
準男爵や騎士爵も含め大勢の貴族が来ていた。トーラス伯爵の顔も見えたし、近隣の貴族も間に合う人達は来てるんだろうね。多すぎるよ。
披露した後は【御者】に帽子を被らせて退散だね、皆を連れて来なくて良かったよ。
ここを仕切ってるのはギルマスのゲーリックさんだと思ったら、秘書のマリーブラさんの指示通りに動いてるギルマスが仕切ってるだけだった。やっぱりここでもか。
ギルマスの合図で沼の主を街道に出すと、大きなどよめきが起こった。確かに長いもんね。200メートルオーバー、太さも一メートル以上ある。依頼主の貴族も納得してくれただろう。
沼の場所は事前にアーサー事務長に言ってあったけど、確かめようもないしね。報告だけで良かったみたい。沼にいた他の魔物も大量に倒したと報告したけど、あんまり関係なかったみたいだ。
収納には新たに沼の主専用の収納バッグを造って収納。依頼を出した貴族は、報酬の金貨100枚とは別に、収納バッグ毎買い取らせてほしいと言って来た。
売れるもんなら買って貰った方がいいと思って了承すると、なんと金貨1000枚で買ってくれた。主に収納バッグの価格だそうだ。オレの造った収納バッグはたくさん収納できるからね、これだけ入る収納バッグなら安いぐらいだそうだ。
素材はタダだからオレとしては丸儲けなんだけどね。この辺りの貴族は金持ちなんだな。
もうちょっと収納容量を落として収納バッグを売るって手もあるな。この世界では小部屋程度の収納でも高いみたいだから、いい稼ぎになるかもしれないな。
交渉は成立したので、お金を用意するから今晩にでも屋敷に来てほしいと言われ場所を教えてもらった。
そんなに稼いでどうするんだって? ホントどうしようか。使う時って無いのにね。
でもお金はあって困るもんでもないし、心に余裕ができるからあった方がいいよね。
夜になり、沼の主を売り渡しに貴族の屋敷にまで行ったけど、いけ好かない奴だったよ。金貨1000枚を貰ったら、すぐに【御者】に帽子を被らせて撤収。
プライドの高い貴族を絵に描いた様な奴だった。こんな依頼を受けたオレのせいなので自業自得なんだろうけど、今度からは冒険者ギルドに丸投げする事にしよう。
それから更に一週間後、鑑定結果が届いたと呼び出しがあった。
魔石の鑑定結果と『長寿の水』の件でという事で冒険者ギルドを訪れた。
今回も【御者】だけで行かせるので、ハヤテとオレで行く事にした。
結果だけ言うと、ゴールデンゴブリンの魔石は『ゴブリン』の魔石だと判定されたがゴールデンゴブリンの特定までには至らなかった。
鑑定診断書を見せてもらったが、誰も見た事が無いので判定しようが無かったという事だった。だが、こんなに大きなゴブリンの魔石がある事は考えられないので、ゴールデンゴブリンの可能性もあると報告書には書いてあった。
そこで、依頼主の貴族から、魔石を一つ売ってくれれば依頼達成にしてもいいと冒険者ギルドに提案されたそうだ。ナビゲーターは残念がるだろうが、依頼失敗より売る方を選び、依頼達成となった。
『長寿の水』は既に依頼達成の連絡をもらっていた。渡していたコップ一杯分の『長寿の水』を飲んだ男爵が、非常に若返ったそうだ。もう一杯くれたら、次に何かあった時には力になってくれるというおまけまで付いてきた。奥様の分らしい。
貴族に頼る事は無いだろうけど、恩を売ってれば後で何か得するかもしれないので、もう一杯渡しておいた。
蜂と蟻が見つけてくれた情報があったから受けたクエスト依頼だったけど、もう少し控えめにした方が良かったかもね。でも、オレの場合、目立つ事をしても周りから忘れられるからね。
キャリッジ冒険団の皆の冒険者カードには達成記録として残って行くようだけど、オレが絡むと忘れられるようなんだよな。沼の主だって、捕まえて来たのはもう誰かわからないようだしね。
ルシエルの転送魔法陣の依頼は念のためセンとキューちゃんとパルを付けて、キャリッジシスターズなるものに任せてある。そろそろ終わるみたいだ。
40階層までは既に終わってて、もう冒険者が使い始めてると言ってたから。
依頼の件も一段落して、夜中に一人で考えた。
今まで考えて無かったわけでは無いんだけど、今日はいつもより真剣に考えた。
オレの存在って何? って事。
魔王を倒す? それは勇者が行ってるよね。
人間になるために旅をする? 無理なんじゃねって気がする。そもそも馬車になんかなった奴なんていないだろうし。
魔物を倒しまくって平和な世界を創る? 魔物と従者契約してるオレが? メンバーは人外の方が多いんだけど。
人類発展のためにモノづくりをして、レシピなんかを広める? なんでそんな事をしないといけないんだ。そんなもの転生チートな奴に任せとけばいいんだよ。
商売して大金持ちになって国を創るとか? お金なんて使う時なんか無いのに? 馬車が王様の国ってどんなだよ。
必要な物も全部揃ってるっていうか、オレに必要な物って引いてくれる奴だけでいいんじゃね。
引いてもらってどこに行くとか無いし……どこに行けばいいんだろ。
今まででヒントっぽいのはユグドラシルの試練だよな。
あの時の十二の世界。ユグドラシルは何か知ってるのかな。ナビゲーターに聞いても教えてくれないだろうしな。
でも、今はこの町を離れたくないってのはあるんだ。
シルビア、ライリィ、ルシエルが学校を卒業するまでは、このままの生活を続けようと思ってる。
その後は……今考えても同じだな。三~四年は先の話だろ? どうなってるか分かんないしな。
奴隷屋で買ったとはいえ、一人立ちできるように育ててやらないとな。シルビアの場合は、父ちゃん勇者が帰ってくるまでだろうな。
料理は最近始めさせたし、買い物もなるべく行かせるようにしてる。服と調味料だけだけどね。ルシエルは本も買ってるみたいだけどね。本は紙製だから高いんだよね。
あと解体もと思ったけど、解体は冒険者ギルドでしてくれるって言うし、収納バッグを持ってるから敢えて覚える必要も無さそうだ。冒険者を続けるかも分かんないしね。
女の子達だから結婚して落ち着いてくれるのがいいと思うんだよね。
それまでは、このままでいいのかもね。
三年後、成績優秀により、三人共無事卒業を果たした。




