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第87話 お約束

 次の日、シルビア達が学校から戻って来ると、冒険者ギルドからの呼び出しで、またマスタールームに来ることになった。


 マスタールームにはギルマスは不在で、マリーブラさんだけがいた。

 オレも呼び出された理由は分かってたから、ハヤテに引いてもらって【御者】だけでやって来ていた。今なら屋敷から圏内だから【御者】だけでも行けるんだけどね。


 昨日の話の中で、日程調整が終わるとしたら沼の主だけ。それぐらいシルビア達に伝言すれば済む話だ。それを呼び出すって事は、今日立ち寄ったシルビア達の変化に反応したからだろうね。


 実は、シャンプー&リンス&石鹸を造ったんだ。

 ファンタジー小説の定番でもある、調味料とシャンプーと酒と砂糖。調味料はスキルに【料理】があったので確保するようにしていたが、シャンプーや石鹸の事は忘れていた。

 だってオレには不要なものだしね、まったく気づかなかったよ。酒は今の所いらないと思うし、砂糖は確保できたからね。


 今回クエスト依頼で留守にした時に、今までだったらミランダリィさんが服や身の回りの事をしてくれてたなぁと考えていたら、ふと石鹸は? と思ったんだ。

 水浴びの事を思い出してたんじゃないんだよ、最近屋敷で風呂に入るようになってダンジョン前で入る事が減ったなぁなんて思ってないからね。シャンプーより先に石鹸を思い出したんだから。うん、そうなんだよ。……。



 石鹸とシャンプーとリンスは【錬金】の道具の項目に普通にあったよ。

 初めに道具の項目を確認した時には分からなかったけど、たぶんあのユグドラシルの『試練』から増えたんだろうね。それとも項目の文字が暗くなってて気付かずにスルーしたのかもしれないけど。


 武器を三分、料理を一分で造れるオレだ。石鹸やシャンプーだって素材さえあればすぐに造れた。

 折角造ったんだから、昨夜からシルビア達に使ってもらってる。髪の毛がふわっふわのサラサラになったと三人共喜んでいた。やっぱりこういう所は女の子なんだね。

 それで、そのシルビア達の変化を敏感に感じ取ったマリーブラさんに呼び出されたというわけだ。


「ハーディさん、シルビアさんに聞きましたが、なんでもシャンプーという物をお造りになったそうですね」

 あ、今日はハーディか。そろそろ名前も変わらないといいんだけどね。というかまだ思い出せないだよなぁ、自分の名前。どうやったら思い出すんだろ。


「はい、シルビア達に使ってもらいましたが、どうでした?」

「いくらでお分けしていただけます?」

 もう商談? いや、少し試してとか無いの?


「いくらって決めてませんが。売れるのなら商業ギルドにでも行ってお願いしようと……」

「それはいけません! 商業ギルドになんか行かせません! これは私が……い、いえ、冒険者ギルドで扱わせて頂きます!」

「は、はぁ……」

 凄っごい勢いなんだけど、ちょっと怖いんですけど。シャンプーではこういうのがテンプレなんだろうけど、ここまでなの? いつも冷静なマリーブラさんがここまでになるものなの?

 冒険者ギルドがって割にはギルマスもいないし、なんか必死な感じが伝わって来るよ。


「別にオレとしては売れればいいかなぁと思ってるぐらいなんで、マリーブラさんにお任せしてもいいですよ」

「本当ですか! では、この契約書にすぐサインを!」


 マリーブラさんが、バンッ! っと契約書を机の上に叩きつけた。

 え? もう契約? 金額設定とか無いの?


「あの……」

「おっしゃりたい事は分かっています。この契約書は他とは契約しないという誓約書の様なものです。金額設定はハーディさんが決めてもいいという内容も入っています。悪いようには致しません、さ、早くサインを」

 いや、ホント怖いんですけど。【御者】を消してもいい?


「も、もう少し落ち着いて話をしませんか? 他と契約なんかしませんから」

「そんなの信じられません! 早くサインを」

 どうやったら落ち着いて話せるのかなぁ。ドアの向こうには何人かバレバレの気配を感じるし。ここで働く女子達か? そんなに注目するものか?


「わかりました。でも、サインをする前に、一度見てくれますか?」

 そう言って、瓶に入ったシャンプーとリンス、裸の状態の石鹸を出した。瓶は造ったものに入れたけど、石鹸はどうしようかと迷ってるんだ。紙が貴重だから厚紙って訳にもいかないし木箱だと大袈裟すぎるし。だから裸の状態で出してみた。


「ぉぉぉぉぉ」

 マリーブラさんが小声で凄く感動している。なぜ小声になった?


「これがシャンプーと言いまして髪を洗うものです。そしてこちらがリンスと言いまして、シャンプーで洗った後、キチンとすすいでからリンスを使ってください。もちろんリンスも髪全体に行き渡らせた後、綺麗にすすいでください」

 マリーブラさんは、シャンプーから目を離さずうんうんと頷いている。

「使う量はこれぐらいです」と掌に指で丸を書いて量を教えた。


「こちらが石鹸です。手や身体を洗う時に使ってください。物足りなければボディシャンプーを持って来るようにします。あ、シャンプーはお湯で使って頂いた方がいいと思いますよ」


ミシッミシッ! バッキャーー!!


 マスタールームのドアが倒れて来た。


 ドアにガラスは入って無いから怪我は無かっただろうけど、倒れたドアには五人の女子職員が重なって倒れていた。受付のミニッツも混ざっている。


「……」

「……」

 オレもマリーブラさんも何も言えない。


 倒れた五人は四つん這いのまま机まで四足歩行で近寄って来る。五人の目的を察してシャンプーとリンスの防衛に回るマリーブラさん。シャンプーとリンスを持って逃げ回るマリーブラさんだったが、最後は部屋の角に追い詰められていた。


「わ、わかったわよ。でもまだ交渉中なのよ、まだサインをもらってないのよ」

 追い詰められて涙目になったマリーブラさんが言い訳をしている。

 そろそろ助け舟を出さないと大変な事になりそうだ。


「皆さん、落ち着いて聞いてください」

 と、シャンプーとリンスを五セット出した。

 ドドドと机に集まる五人の女子職員。と同時にその場にへたり込むマリーブラさん。

「今回は試供品として差し上げます」

 手を伸ばして来る五人が掴もうとした時にシャンプーとリンスを収納で消した。呆気に取られる五人。


「試供品として差し上げますので、是非感想を聞かせて欲しいんです。それと値段の査定も」

 うんうんと何度も頷く五人の女子。もう必死だ。


 「では」と再度シャンプーとリンスを出したら一瞬で消えた。

 消えたように見えたが、彼女たちの手の中にシャンプーとリンスを見つけた。また消されては堪らないと一瞬で瓶を掴み取ったようだ。


 凄ぇーよ、マジ見えなかったよ。冒険者ギルドの女子怖ぇ~。逆らわないようにしよ。

「これでルシエルちゃんのようなサラッサラの髪になるのね」

「これで私もライリィちゃんのようにふわっふわになれるのね」

 口々に言ってるが、そんなに変わってたかなぁ。いつも通り可愛い子達だったけどね。

 確かにいつもより【御者】と目線が合う事が多かったな。感想を言ってほしかったのかもしれないね。帰ったら言ってあげよう。


 使用方法を説明すると、今度は真剣な眼差して聞いてくれた。全員手に持ってるからね、無くならないように大事に握り締めてるが、使い方を知らないから皆真剣だ。


 説明が終わると女子職員達はマスタールームから出ていった。入れ替わりにギルマスが入って来る。


「わっ! なんだこれは! どうしてドアが壊れてるんだ!」

 ドアが壊れてる事に驚き大声を出すギルマス。


「では、ハーディさん。今日の所はお引き取りを。契約の事は残念ですが、試供品の効果は明日分かると思いますので、その結果を見て契約を練りましょう」

「わかりました、では明日またこの時間に来ます」

 お辞儀をして【御者】はマスタールームを後にした。ギルマスにも軽く会釈をさせる。

 マリーブラさんも立ち上がり、「では、後の事はお願いしますね」とギルマスに告げて部屋から出て行った。出て行く間際に「どうせ暇でしょ」とも付け加えていた。

 残されたギルマスは訳も分からずドアの修理をしていた。なんで? と思いながらも大工仕事が結構得意なギルマスであった。



 次の日、やはり昼過ぎに冒険者ギルドを尋ねると、またマスタールームに通された。

 今日の名前はカーターだった。ホントややこしいんだよ、相手には違和感が無いみたいなんだけど、呼ばれるオレは『だれ?』って感じで気付かない事が多いんだよ。

 今日は裏口から入ってほしいという事だったので、女子職員には会わずにマスタールームに入って来た。商業ギルドなどライバルに対する対策だそうだが、マリーブラさんが独占したいだけの様な気がするんだけどね。



 昨日の話の続きだったが、少し話をするとオレの事を思い出してくれたみたい。シャンプーの威力が凄いのかな? シルビア達と繋がりのあるキャリッジ冒険団の冒険者カードも有効だったみたいだと思う。話題はシルビア達の髪の毛から始まってるしね。


 女子職員五人からの聞き取りでは大好評という事だった。

 金額設定ではシャンプーもリンスも銀貨十枚、石鹸は銀貨一枚というのが五人の平均だった。

 マリーブラさんは他の五人より少し高給取りだったので、金貨五枚でも買うと言ったが流石に他の女子職員に却下された。マリーブラさんを除いた女子職員が出した査定金額の平均がこの価格だった。


 結構な高額設定、他の世界で『円』を使う世界(自分も円だった)で、約一万円。シャンプー一本で一万円? 高すぎるよ。その価格設定だと中々買えないよ。貴族しか買えないんじゃないか?


「ちょっと思ってたより高いですね。もっと安くてもいいんじゃないですか?」

「いいえ、このシャンプーにはそれだけの価値があります」

「でも、そんなに高いと毎日使えないじゃないですか」

「毎日!? 毎日シャンプーを使うのですか! シャンプーを使うのは勝負の日だけです」

 なんだよ勝負の日って。わかるけど、もっと使えばいいじゃん。


「こういうのはどうでしょう。瓶をもう少し凝って貴族にはその価格で販売し、その瓶がそのままのものは銀貨一枚にしませんか? 貴族の適正価格は分かりませんが、庶民の方達にはなるべく使ってほしいんですよね」

「そんなの安すぎます! レシピでもあればどこでも造れるのでしょうけど、独占販売ですのよ! 銀貨十枚は譲れません! 貴族にはもっと高く売ればいいのです。金貨一枚でも絶対買いますわ」

 必死だね、いつも冷静なマリーブラさんのイメージが崩れて行くよ。


「わかりました。オレは商売は分かりませんのですべてお任せします。利益はルシエルとライリィのカードに半分ずつ入れてやってください」

「わかりました。取り分は私共冒険者ギルドが四、貴方が六でいいですか?」

「んー、冒険者ギルドの四割はそのままでいいですが、オレも四割にしましょう。残った二割については瓶代や販売手数料などの経費に当てましょう。どこか場所を指定もらって大きなタンクを設置してもらって、そこから汲み出すようにして瓶に入れる作業と、その瓶の代金をそちらに任せます」


「つまり、冒険者ギルド側で瓶も造って小分け作業もしろと。その代わり二割上乗せすると。そういう事でしょうか」

「その通りです。面倒な事を押し付ける代わりに、その分儲けてくださいという事です」

「わかりました、冒険者ギルド側が貰いすぎな気はしますが貴方がそれでいいと言うならその案で行きましょう。場所はすぐに見つかると思いますが、タンクの設置まで時間が掛かります。設置完了したらシルビアさん達に知らせるという事でいいですか? もちろんその経費はこちらが持ちます」

「それで結構です。ではこれで失礼します」



 本当はキューちゃんに土魔法でプールの様なものを造ってもらって、そこに流し込むのが楽なんだけど、後で瓶積めする作業が大変だと思うんだよ。少し時間は掛かるけどタンクにしてもらう方がいいよね。

 魔法陣の使用料とこれで、ルシエルとライリィの将来は安泰だね。



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