第85話 帰宅
ガンちゃんを町に連れて来る事は出来ないので、当面は東の森のダンジョン前にいてもらう事にした。
食事はどれぐらい食べるのかと恐る恐る聞いてみたら、食べても食べなくてもいいという事であった。ガンちゃんは雑食だから何でも食べるらしいんだけど、基本は魔素を吸収するだけでも生きていけるらしいので、この東の森は大そう気に入ってくれたようだ。
確かにここは魔素が濃いから高クラスの魔物が寄りつくもんね。何が原因なんだろうね、そこの所はまた調べてみようかな。たぶんダンジョンが関わってると思うけどね。
「ボルト、お前ガンちゃんが出てから大人しかったよね。ガンちゃんと何かあったの?」
「……ガンキとは歴代の雷獣が一度戦っております。それを戦いと呼べるかどうかも怪しいですが……」
やっぱり戦ってたね。でも一度なんだ、センの冰龍とはよく戦ってたみたいなのにね。
「ガンキは戦わぬのです。雷獣がいくら攻撃しても攻撃が通らぬのに対して、彼奴は戦わぬのです。三日三晩、雷獣が攻撃を繰り返しましたが最後は諦めてしまったようです。だが、我なら雪辱が果たせるかもしれませぬな」
確かにガンちゃんの防御力は高いもんね。歴代の雷獣でも歯が立たなかったんだ。
「もう仲間になったんだから戦いはダメだよ」
「御意」
「あと、ちょっと気になったんだけど、ガンちゃんも意志を継ぐものだったりする? もしそうなら初代じゃない?」
「彼奴は二代目だったと思います。彼奴もまた意志を継ぐ魔物です」
伝説の四獣って全部そうなのかな?
「もしかして焔鳥もそうなの?」
「御意、その通りです」
そうだったんだ。ま、会う事は無いだろうけどね。
あ、これってまたフラグ立てちゃった? いやいや、これぐらいなら大丈夫でしょ。
それからガンちゃんが落ち着ける場所を探していたら夜になってしまった。
どこでも同じじゃんって思ってたが、意外とこだわりがあったみたいで、一度【擬態】をしては「ここじゃない」別の場所に移動押しては「ここも違う」と言いながら八か所目でようやく納得したみたいだ。
どこがどう違うのかは分からなかったけど、納得できる場所があったので良かったんじゃないかな。
ガンちゃんの場所が決まると、そこで夕食を摂った。もう町に入れない時間だったし、シルビア達にはもう一日留守番をしてもらおう。明日の朝に戻ればいいよね。
ガンちゃんは話すスピードも速くなっていた。ステータスのSPDが関係してたのかもね。普通の速度で話せるようになってたよ。
料理を出してやったら、軽く十人前をペロリ。そんなに食べないんじゃなかったのかと聞いたら、オレの料理は美味いからいくらでも食べれるって言って更に十人前をペロリ。確かにデカいから食べるのはわかるんだけど。
まだまだ素材のストックはあるとはいえ、まだまだ食べそうだったし、このペースで食べられたらすぐにストックも無くなっちゃうよ。
そう心配したけど、基本はやはり食べなくても生きていけるのは嘘じゃないので、月に一回100人前で手を打ってくれた。
それぐらいなら一食二~三人前の計算だから皆とも変わらないね。一気に食べる方が満足度が大きいという事で纏め食いをしたいのだそうだ。
ガンちゃんが魔素を食べるというか吸収するというのは本当で、ガンちゃんが【擬態】で落ち着くと周りから魔素が無くなって行く。それでも魔素が濃い場所だから魔素は集まって来るんだけど、場所によっては一度魔素を吸収すると集まりが悪くなる。魔素の流れがあるようで、それにはダンジョンが関係しているみたいだ。
どうやらダンジョンもガンちゃんと同じ様に魔素を食ってるみたいだ。だから、ガンちゃんが魔素を吸収した時と同じように周りに魔素が無くなって、ダンジョン前に安全地帯みたいな魔素が少ない所ができるんだね。
ガンちゃんもいつもオレ達がいるダンジョン前から1キロぐらい離れた所に落ち着いた。
そこだとガンちゃんが魔素を吸収しても魔素の流れが変わらずダンジョンにもガンちゃんにも魔素が集まるような流れになった。最後はナビゲーターが算出してくれたんだけどね、その場所を見つけるまで大分時間が掛かったのが夜になってしまった原因なんだよ。
翌朝、町の門が開門すると同時に町に入り屋敷に戻った。
シルビア達はまだ寝てたようなので、【御者】は出さずに屋敷の庭でハヤテといた。
ハヤテはすぐに寝てしまったし、センとキューちゃんとパルは屋敷に入ったし、急に暇になった。
こういう暇な時には決まってモノ造りをしている。
武具だったり、アイテムだったり、回復薬だったり。お陰で腕も上がったしストックも増えた。
今日は新しく手に入れた『長寿の水』を使った薬を作ろうかと思う。
『長寿の水』を収納したときからだと思うけど、項目がまた増えていた。
【エリクサー】
これは造るっきゃないでしょ。HP・MP全快のやつだろ? 必要な素材は『長寿の水』『ユグドラシルの葉』『MP100』『HP100』『ホエーラーの血』。
一つ足りない……。
『ホエーラーの血』、ホエーラーってなんだ? どんな魔物だろう。
『ボルト、ホエーラーって知ってる?』
『御意、海にいるデカい魔物ですな』
『海にいるデカいやつ……クジラか?』
『御意、クジラが魔物化したものだと思われます。それがどうしたのでしょう』
『デッカイってどれぐらい? そいつの血が欲しいんだけど、取れないかなぁ』
『むぅ、海ですからな。我は苦手でございます。大きさはガンキよりはデカいですな』
だよねー、ネコだもんねー。ガンちゃんよりデッカイってどんだけだよ。海の生物はデカいのが多いよね。
うちの連中で水の中が得意なのって……いないね。諦めるしかないのかなぁ。
でも【エリクサー】の続きもあるみたいなんだよね。何ができるのか文字すら出て無いんだけど、素材の所にエリクサーの暗い文字が出てるから。エリクサーを造ると出て来るんだろうな。ホエーラーの血かぁ、なんとかできないかな。
ガチャ!
「お帰りなさいませ! ご主人様ー!」
玄関が開いて嬉しそうなルシエルが走って来て挨拶をしてくれた。まだ朝の五時半なのに、満面の笑みで出迎えてくれた。
「ただいまルシエル」
オレも【御者】を出してルシエルに挨拶をした。ここまで嬉しそうにしてるルシエルには念話だと悪い気がしたから。
「どうだった? 何もなかったかい? 遅くなって悪かったね」
「とんでもございません。一週間ぐらいになるかもしれないと初めに言われておりましたし、私達も昨日までダンジョン攻略しておりましたので、丁度良かったです」
「え? ダンジョン攻略? …誰が?」
「はい! 私達三人で西のダンジョンを制覇しました!」
……凄っごく嬉しそうだね。これは褒めるべきなんだろうね。
「そ、それは凄いね。大したもんだよ」
少し棒読みになっちゃったけど、オレが褒めるとルシエルは真っ赤な顔をして少し俯き加減でモジモジしながら徐々に【御者】に寄って来る。
これって……
位置的に頭を撫でてほしいってやつ?
希望通り? 頭を撫でてやると、今まで生きてきた中で一番幸せって顔になって暫く動かなかった。
十分ぐらい待って、それでも動かないルシエルに「報告は?」と尋ねるとようやく再起動して、いつも通り荷台や車輪を磨きながら報告してくれた。
西のダンジョンを制覇した事、秘書のマリーブラさんに転送魔法陣を頼まれた事、Aランクになれた事。学校も休まずに行った事、昼食は学校の食堂で食べたことなどを報告してくれた。
魔石やアイテムが売れた事で得た金貨は、三人で持っていればいいと言っておいた。
将来、一人立ちをする時にも、お金はいくらでもあった方がいいからね。
そうか、ルシエルもライリィもAランクになったんだな。学校を卒業したら、それぞれに巣立って行くんだろうな。
ルシエルの洗車作業が終わった頃、シルビアとライリィも起きて来た。
久し振りに全員で食事をして、それぞれの報告をした。
オレが話す前にルシエルとライリィが武勇伝を話してくれるもんだから、オレから話す事は出来なかったけどね。珍しくシルビアも一緒になって報告してくれた。楽しそうにいい顔で話す三人は全然似て無いのに本当の姉妹の様に見えた。本当に三人共、仲が良くてオレも嬉しくなって来る。
オレからの報告は夜でもいいだろ。
学校が終わったら秘書のマリーブラさんから呼び出されてると言っていたので、オレも報告があるし、一緒に行く事にした。そうなると午前中が暇だなぁ。
暇と言ってもオレはモノ造りをしてるし、ハヤテはパルと魔法について語り合ってるし、キューちゃんはセンの為に硬度の高い土人形を造って動かしてやってるし、ボルトは影の中で寝てるし。
キューちゃんとセンの模擬戦をするスペースなんか猫の額ほどの庭には無いって? はい、確かにありません。そこは魔法の世界、キューちゃんが地下10メートルの深さに大きな大空洞を土魔法で造って、そこが午前中の修練所になっている。階段なんかありません、通気口を何本も取ってるけど人間が入れるほどの大きさではありません。転送魔法陣で出入りしています。
もう、なんでもやっちゃってください。あなた達に反則って言葉は通用しませんから。
昼になり三人が戻って来たので、一緒に冒険者ギルドまでやって来た。
全員で来たのには訳がある。報告だけならオレとシルビア達三人でいいんだけど、冒険者カードには達成した記録を残さないといけない。そこでランクアップやランクダウンもあったりするので、一緒に行動したパーティは全員で報告に来ないといけないのだ。
パルとセンも冒険者カードを持ってるし、ハヤテにはオレを引いてもらわないといけない。ボルトはどうせオレの影の中だし、結局全員で来ることになる。
ハヤテとボルトとオレ以外で冒険者ギルドに入っていった。
【御者】は入って行ったけど、オレじゃないからね。オレの出すスキルだからね。
オレは馬車です。もう認めます、馬車です。……やっぱり認めたくねー




