第84話 帰る方法
厳亀との話も穏便に終わり、東の森のダンジョン前に戻る事になったが、どうやって帰ろう。やっぱりハヤテにひとっ飛びしてもらう? この断崖絶壁を登って?
そうだ! オレ達だけなら転送魔法陣で帰れるんだ、でも厳亀はどうしようか。
東の森のダンジョン前に描いた転送魔法陣の一つをそのまま消してない事を思い出した。屋敷から転送で行けないかと思って、残しておいた分だ。
「セン、オレ達だけなら転送魔法陣帰れるんだけど、厳亀はどうしよう。こんな大きな魔法陣は描けないよ」
高さ15メートル、長さ30メートルオーバー、幅15メートル。
描けない事は無いけどさ、相当魔力を消費するんじゃない? いくらキューちゃんでも無理だろうね。
「はっ、それは問題ございません。此奴は飛べますゆえ」
「飛ぶって?」
まさか亀繋がりでクルクル回転して火を撒き散らしながら飛ぶ? 大怪獣みたいに?
「お館様が先程汲んだ此奴の水を行った先で少し地面に垂らしてやれば、此奴はその水の元とまで飛んで行けるのでござる」
「空を飛んでくるの?」
「ふぉっふぉっふぉ、お館様もご冗談がお好きでござる。こんな馬鹿デカい亀が空を飛べるわけがござらん、瞬間移動でござる」
オレだって空を飛べるとは思って無かったよ、だから聞いたんだよ。飛ぶ⇒ジャンプね、テレポートって事ね。紛らわしい言い方するから勘違いするんだよ。
あと、その笑い方もどうにかならないもんかね、美女の青い侍って見た目のイメージとギャップがありすぎるよ。もう、ゴザルは諦めたから笑い方だけでも何とかしてほしいね。
「そんな事ができるんなら、なんでこんな所にいつまでもいたんだよ。別の場所に移動すればいいじゃないか」
「はて、何故でござろうか。此奴は5個まで行き先を記憶できたはずでござるが」
中々便利な機能だね、5個までだったらどこでも瞬間移動で行けるってチートだね。
「今はーー、10個まで覚えられるんだどーーー」
「それなら尚更だよ、なんでここにいたんだよ。厳亀って縄張りは大陸の北じゃないの?」
「そーーれーーはーーーー」
話し方が遅すぎるので、要約するとこうだった。
センのフォローも交えながらやっと理解できたが、この厳亀の能力の一つの瞬間移動は、甲羅の上にある厳亀が出した『長寿の水』を魔物達に飲ませるか別の場所に撒いてもらう事で、その水を探知してテレポートで移動できるそうだ。探知できる行き先は10か所まで地点登録できるが、後から『長寿の水』を飲んだ者や撒かれた場所に上書きされていく。
ここまでテレポートしてきた時、十体以上の魔物が一斉に巌亀の『長寿の泉』の水を飲んだ。それですべての登録地点が上書きされ、どこにも行けなくなったそうだ。
不憫な能力だった、チートじゃなかったね。
「じゃあ、オレ達が先に転送魔法陣で転移して『長寿の泉』の水を少し撒けばいいんだね?」
「それでーいいどーーー」
オレが魔法陣を描き、キューちゃんが魔力を込めて準備完了。
ボルトも一番小さなサイズの二メートル程度に縮み、全員無事に東の森のダンジョン前まで戻って来た。
約束していた『長寿の泉』の水をコップ一杯分地面に撒いた。
空気が揺らめき大きな影が姿を現す。巌亀が瞬間移動を使いやって来た。
「おおーー、やっどー出られだどーーーー」
デカいから声もデカい。周りに人間はいないからいいんだけどさ。
「巌亀殿、其方煩いぞ。そんなに煩くしてはお館様に見捨てられるぞ」
「それはー困るーー! 見捨てないでぐでーーー」
どういう事? 見捨てるとか見捨てないとかオレには関係ないけど? あの谷底の様な垂直落下型の洞窟から出してやっただけなんだけど。
「セン? 何の話をしてんの? 巌亀は自分の縄張りに帰るんだよね?」
来てもいいとは言ったけど、自分の縄張りがあるんなら帰ればいいんじゃないの?
「何をおっしゃいますか、巌亀はもうお館様の下僕でござる」
「へ? ちょいとそこのセンさん? あたなのおっしゃる意味がオレにはわかりませんよ?」
センは何を言ってるんだ? 下僕ってなんだよ、名付けも……うん、してない。大丈夫だ。従者契約も……うん、してない……はずだ。
「ふぉっふぉっふぉ、またまたご冗談を。先程、巌亀殿を平伏せたではござらんか」
そんな事をした記憶はございません。
「水をすべて汲み取りそれを了承させ、口寄せで召喚されたではありませんか。巌亀殿は主と認めた者でないと水を撒いたぐらいでは飛べませんからな」
え? オレは言われた通りにやっただけだよ? それに水の件を了承させたのはセンじゃないか。
「ちょ、ちょっと待ってよ。オレは言われた通りにやっただけじゃないか。なんで巌亀の主になってしまうんだよ、おかしいじゃないか。水を撒くと巌亀が瞬間移動の目印にできるって言うから協力しただけじゃないか」
「巌亀殿が瞬間移動できる条件は魔物に水を飲ませて魔物を目印として登録する、と説明したでござる」
「うん、聞いたよ。それと水を撒いても瞬間移動できるとも聞いた」
「左様でござる。巌亀が態々魔物に飲ませるのは自分の魔力を練り込ませた泉の水と魔物の魔力とを合わせる事で地点登録ができるからでござる。自分の魔力だけでは地点登録できないのでござる」
泉の水には巌亀の魔力も含まれてたんだ。だから『長寿の水』になるんだな。亀は万年だっけか、長寿っぽいよね。
「地点登録できない泉の水でも、自分の認めた主に泉の水を媒体として使ってもらう事で口寄せされることができるのでござる。そんなの当たり前の話でござる」
こんな常識をなんで説明しないといけないのか、みたいな目で見られた。
いや、そんな常識知らないから。知識は得たけど、そんな情報なんて無かったから。なんだよ口寄せって、もうそのゴザル語が侍じゃ無くて忍者に思えて来たよ。
「えーと……それで? オレはどうしたらいいの?」
「巌亀殿の主となられたお館様がする事は一つでこざる」
うん、嫌な予感的中っぽい。
「名付けでござる」
はいキター、ダメなやつキター。
「それはダメだろ。だって北の守護獣じゃないの? オレの所にいちゃダメだろ」
バッシャーーーン!
全員が急に水浸しになった。デッカイ水の塊が落ちて来たのだ。
バッシャーーーン! バッシャーーーン!
続けて大きな水の塊が落ちて来る。水系の魔物の攻撃かとも思ったが、オレには見えている。
巌亀の涙だ。デカすぎるよ、直径二メートルの水の塊が涙粒ってどんだけだよ。
ボォォォエェェェェェーーー
バッシャーーーン! バッシャーーーン! バッシャーーーン! バッシャーーーン!……
巌亀が大泣きを始めた。
ヤバい、この辺り一帯が池になってしまう。
「セン! これってどうにかなんないの?」
「お館様が巌亀殿をお認めにならないので泣いているのでござる。認めてやれば泣き止むでござる」
なんだよ、それって脅しかよ、拒否権ないじゃん。でも、このままだと、この辺りが大変な事になっちゃうな。
「わかったよ巌亀。君の望む通りにするよ。だから泣き止んでくれない?」
「ホントがーーーー!」
声がデカいって。
「ああ、本当だよ。だから、もう少し小さな声でね」
「わがっだどーーー!」
巌亀が更に大声になって喜びの声をあげる。
うるさい!!
あー、ホント参ったね。これだけデカいとよく食うんだろうね。今までボルト達が獲ってくれた素材で足りるのかなぁ。
「名前も付けないといけないんだよね?」
周りを見ると全員が頷く。
なんだよ、その連帯感は。
「巌亀だし、巌のようにデカいんだからそのままガンキって名前でいい? ガンちゃんって呼ぶからさ」
「それでいいどーー! 格好いい名前だーー!」
《SPをどれぐらい消費しますか》
あ、例のやつね。いつも通り全部でいいよ。それとガンキの速度って、もうちょっとどうにかできないの? SPD10とかってありえないんだけど。一般人のレベル1より遅いんだけど。
《今のステータスの変更はできませんが、名付けによって上がるステータス分の振り分けは可能です》
できるんだ、凄いねオレも。HPや攻撃力は十分すぎる程高いから全部速度に振るってできる?
《SPの他にMPを1000消費する事で可能です》
その程度の事でいいんならしてあげてくれる?
いつも通り、SPが0になり2画面を残して他の画面は真っ暗になった。
巌亀は水の膜に覆われて眠りについたようだ。
名前: ガンキ
分類: 厳亀(霊獣)LV279
HP:18987/18987 MP:19221/19221 ATT19777 DFE25333 SPD910
スキル:【牙】Max【隠形】Max【念話】Max【魔法】Max【気配感知】Max【魔力感知】Max
魔法:【水】Max【木】Max【風】3/10【聖】6/10
ユニークスキル:【瞬間移動】【擬態】
称号:馬車の従者
【瞬間移動】:地点登録した魔物の所に瞬間移動できる。
【擬態】:山や池などに擬態して自然に紛れる事ができる。
レベルがやたらと高いんだよね。これって、ボルトやセンみたいに引き継がれて来たんじゃないね。引き継がれたボルト達は、レベルは低い所からだったからね。
速度に全振りだからもっと上がると思ったんだけど、900しか上がってないよ。
《適性のステータスではありませんので、これが精一杯でした》
そうか、そうだろうね。ナビゲーターも頑張ってくれたんだね。確かに高速で動く巨大亀。怖ぇーな、見たくねーわ。900でも十分早くなったしね。
仲間にしたのはいいんだけど……いや、よくないけど、ガンちゃんの活躍の場ってあるんだろうか。ここから一歩も動かないような気がするのはオレだけか?




