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第81話 キャリッジシスターズ③

 開いた扉からは冒険者が出て来た。先客の冒険者が戻って来たようだ。


「ふー、やっぱりダメかぁ。今回は行けると思ったんだがなぁ」

「もう八回目ですよ。もうこのメンバーでは無理でしょ、せめてあと一人増やしましょうよ」

「そうだぜ、誰かいないのかよ」

「探してはいるんだけどなぁ、前にもっとシルビアちゃんを口説いておくべきだったよなぁ」

「そうよ、あの時ならまだGランクだったのに、今ではあの子Aランクになっちゃって、もうこっちからは誘えないじゃない。なんでもっと強引に誘わなかったのよ」

「そうそう、オレに任しときなって言った割には見事に振られちゃってたよな。あの子がいればなぁ」

 剣を持った戦士と魔術士の女、それに少し小柄な弓術士と大柄な槍の戦士が息も絶え絶えに扉から出て来た。

 戦士と女魔術士と弓術士は多少怪我をしているようだが、軽口を叩いているので大した怪我ではないんだろう。大柄な槍を持った男は立ったまま三人の話を黙って聞いているだけだったが、一番重症のようだ。兜から血が流れ出てるし立っていても少しふらついている。


「あ、インザーグさん」

 そう、扉から出て来たのはインザーグ冒険団の四人だった。


「「「シルビアちゃん!」」」「・・・・・」

 槍の戦士以外の三人がシルビアを見て叫んだ。


「なんでシルビアちゃんがいるの?」

「ダンジョン攻略中」

 驚いて尋ねるインザーグに平常モードのシルビアが答える。


「皆、怪我してるね。そっちはお願いできる?」

 シルビアがルシエルに槍の戦士を治してもらうようにお願いした。ルシエルは頷く事で同意を示した。



『慈愛に満ちたる聖なる光よ、天使の息吹となりこの者達を癒せ【ヒール】!』


 シルビアが軽傷の三人に向かって回復魔法を詠唱した。

 槍の戦士にはルシエルが回復魔法を掛けた。ルシエルは無詠唱だ。そもそもキューちゃんに習っているルシエルは詠唱をした事が無い。それでも回復魔法LV7/10だから一瞬で槍の戦士の傷が癒されていく。


「じゃあ、私達は行くけどインザーグさん達はどうする? もう大丈夫だよね」

 シルビアからどうすると言われたインザーグは慌てて尋ねる。

「行くってどこに行くんだ? まさか、40階層に行くんじゃ・・・」

「そうだけど・・・・付いて来る?」


 インザーグにすればまさかのお誘いだった。今、自分達が逃げて来たボス部屋にAランクのシルビアがいるとはいえ、女の子三人で入って行こうとするのだ。

 インザーグは助っ人として誘われたのかと思い、提案をした。


「共闘のお誘いは嬉しいんだが、俺達はまだ回復してないから少し休憩してからじゃダメかい?」

「回復はしたよ? まだ治ってない?」

 そう言ってシルビアはインザーグ冒険団の面々を確認する。

 そんなシルビアにインザーグが訂正する。


「いや、そういう事じゃないんだ。怪我は全員治ってる、それについては感謝する。ありがとう」

 インザーグ冒険団のメンバーもシルビア達に向かってお礼のお辞儀をする。


「ボス部屋に入るんだったら少し休憩してからにしてほしいんだ」

「どうして?」

「いや、共闘するんだろ? 怪我は治ったが、精神的にまだ回復してないんだ。メーレの魔力もまだ回復してないし、少し待ってくれないか?」

 女魔導士を指してインザーグが説明する。メーレというのは女魔術士の事のようだ。


「キョウトウ?・・・・先生?」

 シルビアの大ボケをルシエルが溜息を付きながらフォローする。

「シルビア・・・一緒に協力して戦うって事です。臨時パーティを組もうという事です」

「そんな事をしたら、さっきの作戦が狂うよ。そんなのダメだよ」

「そうなのニャ、ルシエルの作戦が狂うのニャ」

 共闘に関してはシルビアもライリィも反対だった。また一から考えるのが面倒なだけのようだが。

 シルビアにしたら十階層のボス部屋に並んでた、下位ランクの冒険者と同じ扱いでのお誘いだったのに、邪魔をされるぐらいなら置いて行こうと考え始めていた。


「もう時間も無いし行こうよ」

「そうなのニャ、遅くなったら明日も学校で眠たくなるのニャ」

「この人達はいいのですか?」

 回復はしたとはいえ、インザーグ達をここに置いて行っていいものかとルシエルが気遣う。


 ルシエルの言葉に耳も貸さず、扉を開けて先に進もうとするシルビアにインザーグが慌てて声を掛けた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺達も行くから」

 インザーグは座り込んでるメンバーにも立つように促した。


「来るの?」

「ああ、微力ながら協力させてもらうよ」

「協力はしなくていいから邪魔しないでね」

「・・・わかった。まずは君たちの戦いを見せてもらうよ。何か作戦があるようだしね」

「それならいい。ライリィもいい?」

「作戦変更がないのニャらいいのニャ」

 ライリィが同意し、ルシエルも頷く。



 シルビアが扉を開けて階段を降りて行く。ライリィも遅れずに続いて行く。

 ルシエルは少し間を開けて遅れ気味に付いて行く。インザーグ冒険団は更に後ろから付いて来る。


 ルシエルが階段を降りる頃にはシルビアとライリィの二人は左右に大きく展開して既に戦闘に入っていた。右の壁際をライリィが、左の壁際をシルビアがウェアウルフの群れを倒しながら進んで行く。

 ルシエルは階段の影に隠れてタイミングを計っている。

 後ろからインザーグが何か言って来るが「邪魔です」と一回言ったきりルシエルはずっと無視している。それだけ魔物の流れに集中していた。タイミングを失うと戦いが長引くことが分かっているから自分の出るタイミングだけを見ていた。


 その瞬間はすぐにやって来た。一分ほど経った頃にウェアウルフに変化が出始めた。

 ライリィとシルビアの突破力が凄いので、ウェアウルフロードも慌てて群れを左右に分け始めたのだ。

 その隙を見逃さずルシエルが中央に踊り出る。狙いは中央奥のウェアウルフロード。

 弓を構えたルシエルはウェアウルフロードに狙いを付け、弓を射た。


「四連射!」


シュシュシュシュン!! ドドドドシュッ! カカカカーーーン!


 今のルシエルの弓レベルでは四連射までしかできない。が、それで十分だった。

 ルシエルが放った矢はウェアウルフロードの頭と胸に一本ずつ命中した。残りの二本は隣にいた上位種のウェアウルフの二体の眉間を貫いた。毎日の練習の成果だ。

 命中した矢はウェアウルフロード達を突き抜けて、奥の壁に突き刺さった。


「二人共、今です!」


 ルシエルの合図にライリィとシルビアが反応した。


「【泳龍・樹】!」

「【雷正拳・波動(拡)】!」

「【コメット・ミラ】!」


 シルビアの放った【泳龍・樹】は【登龍】の水平バージョン。今回は樹魔法を合わせる事によって無数に枝別れして魔物を串刺しにして行く。

 ライリィの【雷正拳・波動(拡)】は雷属性の正拳を前方に拡散放射する事で広範囲の魔物を殲滅する技だ。

 ルシエルの【コメット・ミラ】はベヌディアダンジョンのダンジョンマスター戦で見せた【コメット・カペラ】の劣化版だ。前回ほどの威力は必要ないとの判断だったが、十分すぎる程の威力だった。


「・・・・残った魔物は・・・いないようですね」


 ルシエルの後ろで見ていたインザーグ冒険団の面々は口を開けたまま瞬きもしていない。

 ルシエルの呟きにもツッコミを入れたいが、そんな余裕も無い。


 作戦ってなんだったんだ! から始まって、左右に展開した二人の戦闘力。弓の威力に正確さに連射。最後の三人の大技。ツッコミどころが満載なんだが、どれ一つ取っても自分達の理解を超えていたため、言葉が出ない。


 シルビア達は魔石とドロップ品を拾い集め、フロアボスの魔石と落としたドロップ品の『ウェアウルフロードの牙』をまだ呆けているインザーグ冒険団の前に置いて下の階層に降りて行った。


 キャリッジシスターズから見たインザーグ冒険団は、ボス部屋の前で順番待ちしていた冒険者達と同じ扱いなのだ。

 インザーク達はしばらくして我を取り戻すと、ボスを倒した事で現れた魔法陣に入り地上へと戻って行った。


 シルビア達も41階層のセーフエリアに転送魔法陣を描き、屋敷へと帰って行った。



 ダンジョン攻略四日目。41階層から再開だ。

 この階層からは大型魔獣が増えて来た。ここからはBクラスのエルダーレッドベア、ライオンヘッド、ダブルノーズパオーなどだ。

 加えて大型の魔物も増えている。単体での出現だがギガンテスも出て来た。一階層に一体だがドラゴン系も出て来た。


 四日目は46階層までで終わらせ、五日目は49階層のセーフエリアに魔法陣を描いた所で終了した。

 50階層のダンジョンマスターまであと僅かという所で終わらせたのだ。

 時間はまだ余裕があったが、最後のとっておきはジックリ楽しみたいと三人の意見が一致したので、翌日に持ち越す事にした。


 そして六日目を迎えた。

 

少し修正しました。

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