第80話 キャリッジシスターズ②
明けて翌日。三人は学校が終わると学校の食堂で昼食を摂り、大急ぎで屋敷に戻って来た。
「準備はいいですか?」
「オッケーなのニャ」
「いいわよ」
準備と言っても武具を装備するだけで、何も持って行くものはない。
装備に関しても、収納バッグから直接防具を瞬着できる技を学校で習っていた。
学校では着替える『換装』と服の上から身に付ける『瞬着』を習っていたが、シルビア達は『換装』で服を着替えていた。
『換装』は服を総替えするので、装備の中に下着などインナーも組み込んでおく必要がある。
『換装』で着替えたはいいが、下着を身に付けて無かったという失敗は全員がしている。逆に『瞬着』だとスカートがダブる。シルビアのようにミニスカートなら少しゴワゴワするだけでいいのだが、ライリィのように短パンだとガチガチになって非常に動き辛くなる。
それで、下着まで『換装』の中に組み込んで総着替えにする必要があるのだ。
この技はパルにもルシエルが教えてあげていた。
ルシエルの部屋から転送魔法陣で31階層へ戻った三人は、昨日の続きで更に下層を目指す。
「この階層からは動物系と鳥系がよく出てきます。大型魔獣のレッドベアラーなどは単体で出てきますが、犬系のリカントやワーウルフなどは群れで出てきますので、連携攻撃に注意してください。それとここからは宝箱も取って行きます。罠解除と索敵は私に任せてください。今日、学校で盗賊と狩人の職業を就けてもらってきましたから」
「みゃ~さすがルシエルなのニャ」
「・・・・負けた」
今取れる残り二つの職業をダンジョン仕様に全振りしたルシエルに流石だと尊敬するライリィ。それを負けたと残念がるシルビア。2人の言葉に胸を張るルシエル。
三人共、戦闘よりダンジョン優先の考えみたいだ。
セーフエリアを出る前に魔法陣は消して行く。
魔法陣はペアなので、ここの魔法陣を消しておけば次に造った魔法陣と屋敷の魔法陣を繋げさせる事が出来るが、ここの魔法陣を出したままだと次に造っても繋げる事ができない。他の冒険者に悪用されることは無いだろうが、次の魔法陣のためにもここの魔法陣は消してセーフエリアから出て行った。
ダンジョン攻略は順調で、これまでの階層より戦闘時間は掛かるものの、CやDクラスの魔物ではライリィに一蹴される。群れて来る魔物はルシエルの弓の連射で群れをバラけさせライリィとシルビアで残りを掃討する。宝箱もルシエルが付けた盗賊職業で難なく回収していく。
六時間で34階層まで終わらせて、35階層の途中のセーフエリアで休憩を取った。
「どうしますか? いつもならこのぐらいの時間に夕食ですが、まだ続けますか?」
「どうするかニャー」
「帰りましょ、昨日は遅かったから今日の授業が眠たかったの。だから今日は早く寝たいの」
「そうですね、そうしましょう。実は私も今日の授業が眠たかったのです」ウフフ
「わたしもなのニャ~」エヘヘヘ
満場一致で帰る事になり、35階層のセーフエリアに魔法陣を描き屋敷に戻った。
次の日、35階層のセーフエリアに再びやって来た三人。これでダンジョン三日目だ。
「今日は私も罠解除する!」
そう高らかに宣言するシルビア。
「わたしもなのニャー!」
続いてライリィも宣言した。
「ま、まさかあなたたちも盗賊の職業を取ったのでは無いでしょうね。盗賊はパーティに一人いればいいのですよ」
「罠解除を私もしたいの」
「わたしは宝箱を開けるのニャー。でも盗賊じゃないのニャ」
「盗賊じゃないって、シルビアも?」
「うん、私は暗殺者。暗器も使えるし、罠抜けの中に罠解除があった。鍵は開けられないからそれは諦める」
「・・・・暗殺者・・・・怖い響きですね」
「わたしは奇術師なのニャ」
「「奇術師ー?!」」
ライリィの奇術師発言にシルビアとルシエルが驚いて揃って大声を出した。
「奇術師って銅貨を金貨に変えたり、帽子から剣を出したりするの?」
「そうなのニャ」
「あなた、もうそれできるじゃない。収納バッグを使えばできるよ」
「そうですね・・・」
シルビアのツッコミにルシエルが同意する。
「・・・・それだけじゃないのニャ、カードを使ったり、箱に入って剣を刺されても死ななかったり。奇術には色々あるのニャ」
「・・・・それで、その奇術師の職業と罠や鍵開けとどう繋がりがあるのですか?」
「奇術師もいっぱい鍵が付いている箱から出て来るし、罠抜けも出来るのニャ。うちの村にもいたのニャ」
この世界にも色々と手品はある。貴族が催し事の時に呼んだりするようだ。
ライリィがいた村に、その奇術師がいてライリィは小さい頃、その奇術師の練習台にされてた。小さいからタネなんてあるとは思ってない。目の前で起こる奇跡の数々を見せられて来たのだ、今でも奇術師は奇跡を起こせる職業だと思っている。
「でも、それってタネがあるんですよ、普通は鍵を開けなくても箱から出られるようになってるし、罠も見せる時には発動して、実際やる時は罠が発動しないものを使ってるんですよ」
さすがはお姉さんのルシエル、勉強家で読書家のルシエルはよく学校の図書室を利用している。本で得た知識かもしれないがよく分かってる。
シルビアは横で大きな目をして驚いてる。シルビアもそこまでは知らなかったようだ。貴族だったシルビアもまた小さい頃から奇術師の技を見ているから大掛かりなイリュージョン系は奇跡の技だと思っていた。
「そーーんなはず無いのニャ。あれは神の技だったのニャ」
「そ、そうよ・・・・」
ルシエルの意見に逆らうライリィに、半信半疑で同調するシルビア。シルビアとしては奇跡の技だと思いたいが、ルシエルとライリィを天秤にかけるとどうしてもルシエル側が有利に思える。
「それではライリィに聞きますが、その奇術師の職業を取って何ができるようになりましたか?」
「【器用】と【トリック】と【仕込み】が付いたのニャ」
「「・・・・・」」
シルビアは自分の敗北を知る事となった。両手を地面に付けてガックリしている。
ルシエルは、それでも分かって無いライリィにため息をつく。
「ライリィ・・・あのね、ここにお魚が・・・」
「もうお魚シリーズはいいのニャ! わたしが奇跡の技が出来ると証明してみせるのニャ」
「・・・わかりました。少し様子を見る事にしましょう。でも、無茶な事はしないでくださいね」
「わかってるのニャ、無茶なんかしないのニャ」
ルシエルはライリィが納得するまで見守る事にした。それに対して少し拗ね気味に返事をするライリィであった。
気を取り直して昨日の続きだ。
やる事は昨日までと同じ、ライリィが先頭、シルビアが続いてルシエルが殿で指示を出す。
魔物が少数の場合はライリィが、時にはシルビアが片付ける。群れで来た時はルシエルの弓連射で魔物を撹乱した後にライリィとシルビアが突っ込む。
そうしてやって来た本日一つ目の宝箱。罠がある事はルシエルにもシルビアにも分かっている。
そして前に出るライリィ。ここはライリィが志願して宝箱の前に立った。
宝箱には鍵が掛かっている。その鍵をライリィは難なく開けてしまった。
驚く二人にドヤ顔で答えるライリィ。
確かにマジシャンは鍵開けや縄抜けはトリック無しが多いので、奇術師もそういうものなのだろう。あながち奇術師チョイスも間違っていなかったのかもしれない。だが、罠は解除されてない。ライリィに罠は見破れなかったようだ。
ライリィが無造作に宝箱を開けると毒矢が三本、宝箱の中から発射された。
涼しい顔して横薙ぎの手刀で三本の矢を掴み取るライリィ。
掴み取った矢を持ってドヤ顔で下がって来るライリィ。そのまま次の進路に向かって歩き出した。
「ライリィ、それは罠解除では無いのですが・・・・」
「力技・・・・宝物忘れてる・・・・」
ライリィに二人の声は届いて無い。初めての鍵開け&罠解除(自称)にご満悦のライリィはさっさと歩いて行った。二人も宝箱の中身を取って急いで後を追った。
その後も順調にダンジョンを攻略して行く。
一度宝箱を開けたライリィは納得したようで、罠解除はシルビアが、宝箱はルシエルが担当してドンドンと先へ進んで行く。
そうして辿り着いた40階層のボス部屋前。39階層から40階層に降りる階段室の扉前である。40階層はワンフロアになっていて、ボス部屋があるだけのフロアとなっている。
扉に入る前にルシエルが作戦を提案する。
「ここはウェアウルフロードが指揮をするウェアウルフ100体がいるボス部屋です。作戦としては、早急にウェアウルフロードを倒せば戦いもかなり楽になると思います。ただ、ウェアウルフロードの周りには変異種のウェアウルフがいて、ブレスを吐くものや回復魔法を使うものもいるようです」
ここまでの説明を二人が分かっている事を確認する。
二人共、戦闘に関しては理解が早いのでルシエルも助かっている。
「そこで提案ですが、ボス部屋に入るとライリィとシルビアで左右に分かれてください。私は扉付近で待機しておきます」
「別にいいけど、ルシエルは戦闘に参加しないの?」
「そうなのニャ、この中で広範囲魔法の威力が一番高いのはルシエルなのニャ」
ライリィも、戦闘に関しては頭の回転が早いようで、意見も出て来る。
「いえ、遅れて参加します。二人が極端に左右に展開して戦う事で中央のウェアウルフが手薄になります。その隙を突いて私が中央に進み出てフロアボスのウェアウルフロードを仕留めます」
「なんかいいとこ取り~」
「そうなのニャ~わたしがボスを仕留めたいのニャ」
「だから提案なんです」
「いいよ、ルシエルはサポートばっかりだったから、ここは譲ってもいいわ」
「む~、シルビアが譲ると言うのニャら、わたしも我慢するのニャ」
「ありがとう。フロアボスを倒した後は、群れる魔物だから多少は連携もしてくるでしょうけど、大した脅威にはならないと思います。初めに大技を出してあとは殲滅って感じでいいと思います」
「わかった、それでいいよ」
「了解なのニャ」
少し渋ったライリィだったが、シルビアも賛成したので自分もその作戦に乗る事にした。
作戦も決まったので、ライリィが扉を開けようとしたが、扉が開かない。どうやら先客がいて現在戦闘中のようだ。
「開かないのニャ」
「先客がいるようですね。どうしましょう、もうそろそろ帰る時間なのですけど」
「そうだね、おなかも空いてきたし、あんまり待ちたくないね。帰る?」
三人がどうしようかと考えていると目の前の扉が勢いよく開いた。
微修正しました。




