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第79話 キャリッジシスターズ①

「第一回キャリッジシスターズ作戦会議ー!!」


パチパチパチパチパチパチ


 ルシエルの宣誓で始まった第一回キャリッジシスターズ作戦会議。

メンバーは留守番のシルビア、ライリィ、ルシエルの三人。場所は学校の食堂。食事を終え、本来ならこのまま屋敷に戻るだけなのだが、今日から留守番で屋敷にいるのはこの三人だけ。そこで学校が終わりの食堂で会議を始めたのだ。


「二人共分かっているとは思いますが、今日からご主人様達は一週間は帰って来ないと思われます。そこで以前から考えていた西の森のダンジョンに挑みたいと思います」

「みゃ~、それいいニャ、わたしも行きたいのニャ」

「さんせー」

 ルシエルが大人しく留守番を引き受けたのは西の森のダンジョンに行くためだった。


「でも、ご主人様との約束で学校を休む訳にはいきません。それは分かってますね?」

「当たり前なのニャ」

「わかってるよ。でもインザーグさん達に聞いたけど、ダンジョンに入ったら一か月ぐらい出て来れない時もあるって聞いたよ」


「そう、ダンジョンに入ったら普通はすぐには出て来れません。学校に行くのであれば、せいぜい三~四時間しか入っていられないでしょう。帰りの時間も考えると四階層辺りが限界でしょうか」

「それは面白くないのニャ」

「そうね、それなら態々ダンジョンに入る事はないわ。東の森の方がまだ楽しいよ」

 二人とも浅い階層には雑魚しかいないので楽しめないと思ってる。


「そこで! 私は新しく魔法を覚えました。転送魔法陣です。はい、拍手ー」

 ルシエルが席から立って二人に拍手をするように煽る。


パチパチパチパチパチパチ


「転送魔法陣ってなんなのニャ?」

「そういえばあなた馬車さん達と何かやってたわね」

「そう! ご主人様に教えて頂いた転送魔法陣! ご主人様が魔法陣を描き師匠が魔力を通す事で発動する転送魔法陣! それを私は一人でできるようになったのです」


「「ふ~ん」」


二人共転送魔法陣がなんなのか、イマイチ分かって無い。反応の薄い二人に残念な目線を向けるルシエルだったが、二人の協力が無ければダンジョンにも入れない事が分かってるので説明を続ける。


「転送魔法陣というのは、二つの魔法陣を行き来できるようにできる魔法なのです」

「ふ~ん、凄い魔法を覚えたのニャ?」

「私は一度経験したかな。トーラス伯爵の所から冒険者ギルドに転移した事があるよ。それの事?」

 ライリィはよく分かって無いようだけど、シルビアは一度経験しているから、どんな魔法かは分かってる。ただ、なぜそこまでルシエルが自慢するのかが分からない。


「シルビアは知ってたのですね、それなら話は早いです。もし、その転送魔法陣が屋敷にあって、もう一つがダンジョンの中にあったら?」

「あっ! 時間一杯までダンジョンに入ってられる?」

「そう! しかも、次の日はその続きから始められるのです」

「わぁ! それいい! ルシエルすごーい!」

「なになになんなのニャ、どういう事なのニャ」

 まだライリィには難しいようだ。


「ライリィに分かるように言うとですね、水槽に魚がいました。魚は川に戻りたい。でも水槽にいれば毎日餌をもらえるので、水槽も捨てがたい。そこで魚が考えたのが転送魔法陣です。普段は川にいて、餌が欲しい時だけ水槽にやってくるのです」

「そんな事できるわけ無いのニャ・・・・出来るのかニャ!」

「そう! それが私にはできるようになったのです。今日からダンジョンに行き放題です」ファッハッハッハー


 ルシエルが悪い顔して高笑いを上げている。


ハッハッハッハー

ワッハッハッハー

 シルビアもダンジョンに行ける嬉しさでルシエルに続いて高笑いだ。

 ライリィはまだよく分かって無いが、二人が笑ってるので一緒になって笑っていた。「お魚シリーズは分かりやすいのニャ~」だって。笑ってる所がズレてる。


 この第一回キャリッジシスターズ作戦会議が行なわれている食堂には、まだ食事をしている生徒達がたくさんいる。

 そんな中での三人の不気味な高笑い。周囲の生徒が机を少し離したのは言うまでもない。



 早速三人はいつもの東門では無く、兵士が多く住む西側の門から外に出て西のダンジョンを目指した。

 西のダンジョンはメキドナの町から乗合馬車が出ていたので、それに乗り1時間揺られると到着した。運賃は片道で一人銀貨五枚、少々高いが利用するのは冒険者が多数だし、その冒険者も西の森で魔物討伐をして行き掛けの駄賃として稼いで行く者が多いので少し割高になっているようだ。


 ダンジョンに到着すると活気が溢れている事に三人は驚いた。メキドナの町の冒険者ギルドなどがある東区画がそのままこちらに移って来たような錯覚さえ起こしそうな集落になっていた。

 宿はあるし武器屋や防具屋、アクセサリー屋に道具屋。冒険者に必要な物は何でもあった。冒険者ギルド出張所まであった。


 シルビア達の装備は充実しているし、何も買う物は無いので集落はスルー。すぐにダンジョンに向かった。

 ダンジョン入り口はベヌディアダンジョンの時と同様に両側がアーケードの様になっている所を潜った先にあり、入り口には兵士が二名立っていた。

 アーケードは両側に店が建ち並び色んなものが売られている。

 ルシエルが店の前で立ち止まり、興味を示す。それはマップだった。

 前回のベヌディアダンジョンでマップの重要性を認識したルシエルは全階層分を購入しておくことにした。


 冒険者カードの提示を求められ、言われるままに渡すと、冒険者カードを台の上に置き水晶に手を翳すように促された。

 これはこのメキドナ領が独自に開発した魔道具で、登録した者がどの階層にいるとか死んでしまったとか、何体魔物を倒したなどが冒険者カードを通じて分かるようになっている物だそうだ。

 今の所、他のダンジョンではここまでの物は導入されてないが、これから普及させて行く予定だそうだ。


 ダンジョンの入場料に銀貨一枚を取られる。入場の時にだけ取られるので、何日入ってもすぐに出て来ても銀貨一枚である。



 西のダンジョン地下一階層目に降りた所で、ルシエルが指示を出す。

「ここのダンジョンの浅い層ではハッキリ言って魔物が弱すぎて私達には物足りません。ですので、さっさと三十階層まで行きたいと思います」

「そうだね」

「賛成なのニャ」


「道順は私が指示を出しますから、先頭のライリィは罠にだけは気を付けてください。宝箱は無視します。ドロップ品や魔石は私とシルビアで回収という事でいいですか?」

「わかった、それでいいよ」

「了解なのニャ」


「それじゃあ、さっさと三十階層目指して行きましょう!」

「「おお!」」


 三人はダンジョンを駆け抜けて行く。歩くことはしない、ずっと走り続ける。

 出てくる魔物はゴブリンやコボルト、スライムにキラーラットなど雑魚ばかり。先頭を行くライリィには障害物にすらならない。

 魔物に出くわすとライリィのパンチで出来るだけ前方に吹き飛ばす。魔物がダンジョンに吸われて魔石になるとシルビアが回収する。ルシエルはマップを見ながら最短距離をライリィに伝える。罠の設置場所が書いてあれば、それを伝える事も忘れない。


 ダンジョンに入ってから二時間、三人は十階層のフロアボス部屋の前まで来ていた。

 通常のDランク冒険者だったら、この場所に来るまでに早くても三日は掛かっていただろう。

 通常の冒険者がダンジョンを攻める時、まず走らないし休憩も取る。宝箱も必ず確認するし、罠解除にも手間取る。三人は非常識なスピードで十階層まで辿り着いた。


 十階層前では、ベヌディアダンジョンの時と同様にフロアボス戦待ちの冒険者が列を作っていた。

 三人は列に並ばずに一番前まで行き、一番前で並んでる冒険者にシルビアが冒険者カードを見せた。


 シルビアの冒険者ランクはA。こういう浅い階層では優先権が与えられている。高ランク者は列に並ばずさっさと通り抜けて深い階層を目指してほしいという管理者側の意向でもあるのだ。


 順番を譲る冒険者にもメリットはある。順番を譲った高ランク冒険者に同伴してボス部屋に入ってもいいのだ。その際、経験値は分割なのでフロアボスを倒した時の経験値は減るが、次の階層に苦も無く進めるのが美味しいそうだ。


 通常、ボス戦というのは消耗が激しいので、次の階層に降りてもすぐには動けなかったり、フロアボスを倒す事で現れる地上への転送魔法陣で補給にもどる羽目になる事もある。EやFランクの冒険者にとっては同伴出来る事は嬉しい事なのだ。上位者の戦闘も見学できるし、その見学した戦闘を肴に夜は酒場でネタにもできる。だから順番を譲った場合は同伴を求める冒険者がほとんどだった。


 十階層のフロアボスはゴブリンキング。ライリィがワンパンで瞬殺。

 魔石やドロップ品は順番を譲ってくれた冒険者に渡した。「え? こっちの子がAだったか?」という冒険者は無視して次の階層へ降りて行く。

 二十階層までも同様の走りで二時間で辿り着いた。時刻は六時頃。

 十階層の時と同様、順番を譲ってもらってフロアボス戦に挑む。二十階層のフロアボスはハイオーク。ここもライリィがワンパンで瞬殺。

 ここでも魔石とドロップ品は順番を譲ってくれた冒険者に渡して次を目指して降りて行く。


 三十階層に着いた時には八時を大きく回っていた。いつもなら夕食も済んでいる時間だ。

「三十階層のフロアボスはオークキングだから、ここを倒したら屋敷に戻りましょう」

「賛成なのニャ。もうおなかがペコペコなのニャ」

「そうね、じゃあここは私が倒してもいい?」

 もう皆お腹が減って早く帰りたいと思っていた。途中でセーフゾーンもあったみたいだけど、三十階層まで来るのが今日の目的だから、休まずにここまで来たようだ。


「いいでしょう、ここはシルビアに譲ります。さっさと倒してくださいね」

「よろしくなのニャ」


 三人がボス部屋に入ると大きなオーク―――オークキングがいた。

 手に持ってる武器もこん棒では無く、金砕棒だった。鬼が持ってるアレである。


 オークキングはもちろんシルビアの敵では無く、一刀の元に瞬殺される。

 ドロップ品はさっきオークキングが持ってた金砕棒。誰も使わないけどシルビアが収納。魔石も収納して次の31階層に降りた。


 ルシエルのナビでセーフゾーンに着くと、ルシエルが魔法陣を描く。転送魔法陣だ。

 三人で魔法陣に入ると屋敷に転送された。

 転送された場所はルシエルの部屋だった。キチンと整理されたルシエルの部屋で実体化すると、すぐにリビングに行きいつもより遅めの夕食を摂った。


 その後は風呂に入って、翌日に備える。

「明日も行きますよね?」

「当たり前なのニャ」

「当然ね」

「昼食はご主人様から学校で食べるように言われてますので、食べたらすぐに帰って来ましょうね」

「わかったのニャ」

「仕方が無いわね、学校で食べるように言われてるからね」

「じゃあ、おやすみー」

「「おやすみー」なのニャ」


 キチンと学校に行く事と昼食は学校で食べるっていう事は守ってる所は律儀なんだが、勝手にダンジョンに行くのは彼女達の中では問題無いみたいだ。


 只今、西の森のダンジョン31階層続行中である。


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