第73話 青い女剣士
朝食を済ますと全員で屋敷から出た。トーラス伯爵もまだいたよ、朝までミランダリィさんに付き合わされてた。
トーラス伯爵邸に行き、前回冒険者ギルドへ転移した円柱形の四階建ての塔から秘密のルートへ転移するそうだ。
ここの魔法陣から東の森のある場所まで転移して、そこから極僅かな者しか知らない秘密のルートを通って王都まで向かうそうだ。
そのルートを通ると歩いても一日で王都まで到着するそうだ。南を迂回する港町ベイナン経由なら十日以上掛かるのにね。
危険な東の森を通り抜けられる秘密のルートね、オレも一度通ってみたいね。でも、馬車だと無理なんだろうな。
ミランダリィさんとは、塔に入る所でお別れをした。「またすぐに来るからねー」と言っていたけど、そんなにすぐに家から出してもらえんのかな?
王様からも帰って来いって言われるぐらいだから無理だと思うけどねー。
ミランダリィさんは、トーラス伯爵に先導され女兵士を伴って塔に入って行った。
ミランダリィさんは戦力としては数に入って無かったけど、色々と教えてもらえたから有り難い存在だったんだよね。今は『試練』で知識を得たからその点は大丈夫なんだけど、シルビアの剣の指導もしてくれてたんだよね。
ライリィはボルトが教えてくれるし、ルシエルはキューちゃんが教えてくれるから二人はいいんだけど、シルビアが今後一人でどこまで強くなれるのか。
勇者を目指してるシルビアだし、やっぱり指導者はいた方がいいよなぁ。
トーラス伯爵の屋敷を出ると、三人を学校に送って行った。三人共、今日から学校も復学だ。
久し振りの登校とあって、嬉しそうに学校に入って行ったよ。さっきミランダリィさんとお別れして少ししょぼくれてたけど、学校を目にすると嬉しそうな表情に変わったね。特にルシエルがやる気に満ちた表情をしてたけど、何かやらかしそうで心配だ。
思い込みの激しい子だからね。しっかりしてそうで抜けてるから心配なんだよ。
いつもなら町はずれに行って食事を摂るんだけど(主にボルトの為に)今日から行かなくてもよくなった。
屋敷があっても、あんなデカいボルトを出す事はできないさ。ボルトが影の中で食事をできるようになったんだ。
屋敷の庭にはオレとハヤテがいるんだけど、ボルトはオレの影の中にいつも通り潜んでる。町の中では影から出ないように言ってあるからね。
昨夜は町の外にも出られないし、庭でハヤテに料理を出してやったら影操作でハヤテの料理を影に引き込んだんだ。どうやら影の中でも食事ができるようになったみたいだ。
今までは出来なかったみたいなんだけど、『試練』後にオレの影に変化があったって言ってた。どう変化があったのかはオレには入れないから分からないんだけど、より快適になって影の中で走り回れるようにもなったそうだ。
影の中で走り回るって想像ができないんだけど。
ハヤテや他の影ではできないけど、オレの影だとできるらしい。これも『試練』の恩恵かな。
三人を学校に送った後は、パルの装備を注文してた鍛冶屋に寄った。
忘れてたわけじゃないんだよ、注文した後すぐに迷いの森に向けて出発したから受け取りに行けなかっただけなんだよ。
出発前にパル用の小さな収納バッグはアクセサリー屋のサンから受け取り済みだったけど、武器はまだ出来てなかったんだ。
ウシュムガルの剣:攻撃力300
こんなにちっちゃいのに攻撃力300もあるよ。青銅の剣が攻撃力8でプラチナの剣が攻撃力25だったから、ウシュムガル系がいかに凄いのかが良く分かる。
鍛冶屋の親父もいい仕事ができたと満足顔だ。取りに来るのが遅すぎると怒られたけどね。
素材で渡したウシュムガルの牙が思った以上に余ったので、サービスとしてスモールキラーラットの皮で、皮の胸当て、小手、レガース、皮のミニスカート、ブーツを造ってくれていた。
この厳ついおっさんのゴツイ手で、どうやったらこんな可愛いミニチュア装備が造れるのか不思議過ぎるけど、パルのサイズに合わせて造ってくれていた。
この装備も早く渡したかったみたいで、毎日オレ達が取りに来るのを待ってたみたいだ。
でも、オレ達が来るのが遅かったのが逆に良かったみたいで、他の客からミニチュア装備の注文が殺到しているそうだ。
いつでも渡せるように店頭に出していた所、可愛いと評判になり、冒険者がアクセサリーとしてよく買って行くそうだ。
素材は何でもいいし、銀貨30枚の高額設定でも購入者は後を絶たないそうだ。
確かに可愛いと思う。オレも欲しいもん。
パル用のミニチュア装備もオレが一旦収納。剣だけはそのままパルに渡して、防具の方は後でウシュムガルの皮で造ったやつを渡す事にした。
でも、パルが剣って使う時あんの? 装備だって気休めのような気はするけど、ウシュムガルの皮で造ってカラーリングを統一してやれば、同じパーティって感じでいいもんね。
後は、アクセサリー屋のサンのとこに寄って蜘蛛系魔物の糸袋を少し卸してあげた。
この町に来た当初からお世話になってるからね、できる事は協力してあげたいよね。
サンの顔が見たい訳じゃないんだよ、協力をしてあげようと思ってただけだからね。そりゃ、サンは美人だしグラマーだしオレのど真ん中のストライクゾーンだけど、それとこれとは・・・・すいません、嘘ついてました。サンに会いたいから来たんです。しかも覚えてもらおうと思ってシルビア抜きで来ました。
いいじゃん、折角【御者】で帽子を脱ぐと覚えてもらえるようになったんだからさぁ。何もできないけど少しぐらいオレだって楽しみたいじゃん。話もできるようになったんだから友達だって欲しいじゃん。
ま、店を出ると忘れられるってとこは【御者】になっても変わって無かったけどね。名前が変わるシステムも変わって無いから毎回一から説明してるよ。
あとは・・・シルビアに剣術を教えてくれる人でも探すか。
学校でも専攻である程度は教えてくれるんだろうけど、達人クラスまではいないだろうから、冒険者の中から探す? 目星いとこではギルマスだな。シルビアとも馬が合いそうだから一度交渉してみようか。
あのギルマスだったら暇そうだし引き受けてくれるんじゃないかな? 雑務は秘書と事務長がやってるから、普段は寝てるんじゃないか?
オレの得た『情報』だと、達人の名前や住んでる町は分かるんだけど、そういう奴らって既に弟子を数百単位で取ってるからシルビアだけを教えてくれるって訳にも行かないだろうし・・・
腕はどうでもいいんだよ。教え方が上手くて技をたくさん知ってる奴で超ヒマにしてるやつ。どこかにそんな都合の良い奴が落ちて無いかなぁ。
ギルマスは教え方は下手そうだもんな。
『なあ皆、シルビアに剣を教えてくれそうな奴ってどこかにいない?』
『剣ですか、我々は武器を持って戦う事がありませんから・・・』
それもそうだよな、魔物が武器を、それも剣を持って戦うってあまり無いよな。ゴブリン、オーガ、スケルトン、リビングアーマー、後はこん棒か槍ってとこだし、人に教える事なんてできる魔物はいないよな。
『自分が知ってるっす』
以外にもハヤテが知ってると言って来た。
『え? 知ってるの? どんな人?』
『人間じゃないっすね、龍っす』
『むっ、彼奴か。確かに彼奴は剣を持っておったの。しかし・・・』
ハヤテが言う龍の事はボルトもピンと来たらしい。でも、あまり乗り気じゃないみたいだ。
『ボルトも知ってるんだ。何か問題でもあるの?』
『問題という程のものではありませんが、彼奴とは歴代の雷獣は必ず戦っておりますな』
いや、それって大問題だと思いますが。宿命のライバル的なやつじゃないの?
『戦ってどうなるの? やっぱり雷獣が勝つの?』
『確か、10勝8敗で勝ち越しておりますな』
やっぱり宿命のライバルじゃん!
『負けた時って・・・』
『御意、消滅します。次の雷獣が生まれるまで敵も討てませんな』
雷獣が雷獣の敵を討つの? しかも代替わりにまで関わってる奴なら、トラブルしか無いじゃん。却下だ却下、ハヤテの意見は不採用!
『しかし、確かに彼奴の剣技には一目置くところはございますな。しかも名剣には目が無い。主殿の剣を見せれば犬のように懐くでしょうな』
『そりゃ旦那言い過ぎだぜぇ。確かに剣は好きみたいだけど、犬って事は無いでしょう』
『いやいや、彼奴は名剣の前では犬が腹を見せて服従するかのごとくであるぞ』
『確かに自分もそこは反論できないっすけど、仮にも龍なんすから犬呼ばわりは辞めてあげましょうよ』
なにその剣フェチ。ヤバそうな奴だし、ボルトの宿命のライバルならそいつは無しだね。
『そいつってどんな奴なの?』
ヘッヘッ、ヘ―――ックション!!
『『『ん?』』』
大きなくしゃみが聞こえたので、一斉に振り向いた。
「なんでい、くしゃみぐらい誰でもするだろい! こっちを見んじゃねーやい!」
スラッとした真っ青なロングヘアの美しい女剣士が、【御者】、ハヤテ、パルが同時に振り向いたのに絡んで来た。装備も青系で揃えてて真っ青だ。
なんか危ない奴だな、美人な顔立ちの見た目とのギャップが酷いんだけど。【御者】の視線を別の方に向けとこ。【御者】が別の方向を向いててもオレには関係ないけどね。
「おっ、妖精じゃんか、珍しいねぇ。あれ? お前疾風龍じゃねーか? そうだ、疾風龍だ。疾風龍じゃねーかよぉ。なんでこんな所にいるんだよぉ、久し振りだねー」
ま、まさか・・・噂をしたからくしゃみをしたってベタな展開な訳ないよね? そんな訳無いよね?




