第71話 帰還
試練を終え、ユグドラシルから出て来ると、まだ皆が待っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ルシエルが真っ先に出迎えてくれた。
「馬車さん、もう出て来たの? 早くない?」
「そうなのニャ、入ってからまだ5分も経って無いのニャ」
「ご主人様の力をもってすれば、試練などほんの片手間で終わるということです」
シルビアとライリィの疑問にルシエルが意味の分からない回答をする。
「まだ5分も経って無いってホント?」
「はい、本当です。そんなに簡単な試練だったのですか?」
どうやら本当に入ってすぐに出て来たみたいだ。視線モニタの時間が止まっていたのは、この世界で時間が止まっていたって事だったのかもね。
「ああ、簡単だったよ。皆が待っていてくれる世界を選ぶだけの簡単な選択だった。ルシエル・・・皆も、これからもよろしく」
「ははははははい!」
「はーいなのニャ」
「よろしくー」
「よろしくね」
『御意』
『了解っす』
キュキュ『はーい』
皆、思い思いの返事をしてくれた。
「それで、何があったの? 表情は分からないけど、なんだか嬉しそうね」
え? あ、やっぱり馬車に戻ってる。予想通りだね。
「そうだね、中では凄く時間が長かったよ。でも、そのおかげで自分を見直す事ができたんだ。皆がいてくれて良かったよ」
後ろを振り返りユグドラシルに声を掛けた。
「『この選択で良かったのかい?』」
『・・・・・・』
返事が無い。
さっき話してた時と比べて、なんか精気が感じられないな。
「なんだろう、ずいぶん元気が無くなった気がするけど」
『御意、力を使い過ぎて消耗しているようですな。回復するのも非常に時間が掛かりそうですな』
「そうかぁ、今は話もできないみたいだね。じゃあ、パルの所に戻ろうか。っとその前に、ユグドラシルの葉って何か造れるって言ってたよね、少し集めて持って帰ろう。・・・ん?」
ザザザザーーーー!!! ドッサーー!
大量の葉が落ちて来た。わっさーと落ちて来た葉で全員埋まってしまった。
急いで葉を収納し、全員の姿を見る事ができた。
「ふぁ~ん、なんなのニャ~」
「ペッペッ、なんなのー」
「酷い目に合いました、これも試練でしょうか」
皆、口々に文句を言っている。
「たぶん、ユグドラシルの挨拶なんじゃないかな。さ、戻ろう」
パル達と別れた池の畔まで戻って来ると、まだ長とパルとポポーポさんの三人で話し合いというか、怒鳴り合いが続いていた。
長とパルが関西弁だから怒鳴ってるようにしか聞こえない。
オレ達が戻って来た事も気付かずに、まだ怒鳴り合っている。
「そやからうちはご主人様に付いて行くって決まってるんや!」
「そんなん許す訳あれへんやろ! お前は大事な跡取りなんや、ここにおって皆を導くんがお前の役目や。これは前から決まってた事やからお前も分かってたはずやろ」
「その事も大事ですが、まずは結界の修復をいたしませんと」
「まだ爺がおるんやから構へんやん、帰って来たら跡は継ぐって言うてるやん」
「そうは言うてもお前のおらん生活は考えられへん。な、な、考え直せへんか?」
「長、長、早く結界を修復いたしませんと、魔物が来ます。なぜか、今のところ寄って来ないようですが、早急な結界の修復を・・・」
「うちは行くねん!」
「いいや、行かさへん」
「結界の修復を・・・」
なんかグダグダだ。収拾が付かないみたいだね。
何か妥協案みたいなのは無いかな? 先に結界の方が優先事項だと思うんだけどね。
「ルシエル? ルシエルは結界が得意って言ってたけど、ここの結界を張り直すって事はできない?」
「ここに張ってあった結界については再現できますが、規模が大きいものですから私一人では・・・・師匠に協力してもらえば出来ると思いますが」
師匠? あ、キューちゃんの事ね。
「キューちゃん、ルシエルを手伝って結界を張ってくれる?」
キュキュ『いいよー』
ルシエルとキューちゃんが打ち合わせをしてるうちにポポーポさんには伝えておこう。
「ポポーポさん、結界はうちのルシエルとキューちゃんが張ってくれるっていうんで、先に二人が納得できる妥協案を考えてあげてくれない?」
「おお、さすがは雷獣様とその一味ですね。わかりました、でも実はもう話は決まっていて今は長がジャレているだけなんです。お嬢が雷獣様と一緒に行く事はもう決まったんです」
なんだよそれ、心配して損したよ。しかし、雷獣様とその一味ですか。確かにボルトは目立ってるからね。
ルシエルとキューちゃんの打ち合わせも終わり、結界を張るルシエル。ルシエルの張る結界に同調して魔力を足して行くキューちゃん。
やっぱり詠唱はしないんだね。キューちゃんが師匠だから仕方がないんだろうね、キューちゃんは魔物だから詠唱なんてしないし、そのキューちゃんから教わったルシエルも詠唱は知らないだろうね。
詠唱・・・? 全部わかる! さっきの試練で詠唱を全部覚えたよ。オレにも攻撃魔法が使える!?
今は試せないから夜のお楽しみだな。
結界を張り終わった頃にパルが合流した、長の相手も終わったようだ。
「ルシエル、キューちゃん、ご苦労様。パル、もう出発してもいい?」
「はい、お待ちどうさんでした。もうホンマ爺が喧しくて」
「羨ましいよ、そんなに心配してくれる人がいて。パルは愛されてるんだよ」
「えー、そんなはず無いわー、あの爺やでぇ。妖精界一愛って言葉が似合わんわ」
こういう悪口を言ってても顔は笑ってるね、お互いが好きなんだな。家族ってこういうもんなんだろうな。
ポポーポさんに結界が出来た事を伝え、確認してもらってる間に長と挨拶を終え、もうしばらくパルを預かる事にした。
あと100年は長を務めるが、それ以上は身体がもたんからパルを戻してくれと頼まれた。
100年って・・・そんなに一緒にはいないと思います。
偶には立ち寄って欲しいとも言われた。その時には結界を壊さないようにとも念を押された。
そういえば、ルシエルとキューちゃんに結界を張ってもらったけど、オレ達出られないじゃん。
結界はルシエルが仲間達は通れるように設定して張ってくれたようだ。今ならオレにもなんとなく分かる。オレにも使えればもっと分かるんだろうけど、理論だけは分かるようになったから、使えれば使ってみたいな。
長のくどい挨拶も途中で切り上げ、妖精の集落を後にした。
妖精の集落に寄り道はしたが、有意義な寄り道だった。
ハヤテ以外の者はユグドラシルの実を食べて最大MPが大幅にアップしたし、オレは試練で知識を得た。おまけでユグドラシルの葉を大量に頂いてきたし、実も少しある。
【錬金】の薬欄を確認したら、魔力回復関係の薬が増えてるから造れるようになってるんだろうな。これも夜にでも確認しよう。
この世界を自分で選択した決め手って、ここにいる仲間である事は間違いない。それなら、オレも協力できることは今まで以上にやってやりたい。今はそんな気持ちだね。
でも、惑星間を船と呼ばれる宇宙船で渡り歩ける世界って魅力的だったなぁ。
この選択が失敗にならないように頑張ろう。
ミランダリィさんが言うには、メキドナの町に戻るにはまだ少し早いというので、いつもの東の森のダンジョン前で時間を潰す事にした。
でも、行きの3か月が計算に入って無いのはいいのかな?
オレもやりたい事があったので、夜まで待ってハヤテに東の森まで飛んでもらった。
東の森に到着すると、いつものように掃討。回収。鍛錬。風呂。寝る。
鍛錬と風呂の間はオレには関係ないのでする事が無い。その時間を利用して、蜂の魔物のエリーと蟻の魔物のアンと連絡を取り、探し物をお願いした。
【クエスト依頼】にあった『長寿の泉の水』を探すように頼んだ。
ついでに『ゴールデンゴブリン』と『ミスリルを産むガルーダ』、あと何があったかなぁ、『池の主』か。他にももしあれば鉱山を探すようにお願いした。
アイテムの項目で造りたいものがあったんだけど、素材が足らなくてね。『長寿の泉の水』が怪しいと思ってるんだ。
項目にある『命の水』。『長寿の泉の水』って怪しいよね。
オレの得た知識の中でも、この東の森周辺が怪しいので、エリーとアンに頼んで探してもらう事にした。
東の森のダンジョン前で半月ほど時間を潰し、メキドナの町に帰って来たら、もう軍は帰った後で、兵士が一人オレ達を待っていた。
迷いの森で付いてきた女兵士のアンジー・ローウェルだった。




