第7話 名付け
日暮れ時から続いたお願いで、明け方になってサンダータイガーが折れた。SPも半分ぐらい減っていた。
シルビアはもう荷台で眠っていた。
『お前って【念話】が使えたんだ、そういえばあったな。オレもテンパってたよ。』
『契約についてはどうすればいいのだ、馬車に忠誠を誓えと言うか。』
『それはちょっと・・・だな、オレも忠誠なんか望んでないよ。この子には忠誠は誓えないのか?』
『我はその子供に負けたわけでは無い。』
たしかにおっしゃる通りです。
確か、契約が2つあって『牽引契約』と『従者契約』だったよな? オレは引っ張ってもらえばいいんだから『牽引契約』でいいわけだ。さっき契約に応じようって言ったから『牽引契約』は出来たんじゃないの?
まずは引っ張ってもらって感触をたしかめようよ。引くだけなら忠誠なんて関係ないでしょ。
『オレは引っ張って欲しいだけなんだ。えーと、なんて呼んだらいい? 名前は?』
『名前など無い、呼ぶ必要もあるまい』
『いや呼ぶだろ、じゃあ仮でもいいから付けるぞ? 呼ぶのに不便だからな。』
『え、い、そ、そうであるか。では格好良いやつを頼む。』
格好良いやつって、今必要ないって言わなかったか? トラのすけって付けようと思ったのに付けられなくなったぞ。オレ的には格好良いとは思うけどね、こんな武士みたいな奴なら文句を言われそうだ。格好良いってどんなのだ? ストロングサンダーとかダイナミックボンバーとか格好よくね?
でも呼びにくいわ! おい、ダイナミックボンバーそこを右だ。とか咄嗟の時に困るっつーの。
呼び易くて格好良くて似合うやつか。
『格好いいやつね、じゃあボルトってどうだろ?』
『おお! それはいい。ボルトか、ありがたく頂く。』
ボルトが帯電を始めた。バチバチっとまだ薄暗い中で電気が身体中を走っている。
ボルトは眠りに付いたようだ。
オレの視線の画面も急に2つになった。正面と荷台の画面だけになった。
他の画面は真っ暗になって見えなくなった。
なんだ? どうした? 初めの頃に戻ったみたいになったぞ?
画面のバーを見てみたらSPが0になっていた。
え? 半分ぐらいあったと思ったけど、名付けってSPを削られるの?
なんだよそのペナルティみたいなもんは。名前を付けただけじゃねーか。
『ナビゲーター、このSPが無くなったのは名前を付けたからか?』
《その通りです。この世界では名付けという行為は非常に重要で、名前を付けられることで強くなったり特殊な能力に目覚めたりします。今回の名付けの様に進化する場合もあります。その為にSPを消化します。今回は制限を設けなかったのでSPをすべて消費しました。》
『え? 制限できたの?』
名前を付けることでSP消費すら知りませんでしたけどね。言っとけよ。
《もちろんできます。SPをどれだけ与えるかで、能力の上がり方も変わります。》
なんでもちろんって付くんだよ、そんなローカルルールは知らねっつーの。
『もう名前を付けることは無いかもしれないけど、その時は出て来てアドバイスしてくれよ。』
《分かりました。》
視線の画面が回復してくるとハイアングル画面も見えて来た。
うおー! でっかい魔物がいるー! やばいやばい、やばいぞー!
チェックチェック、荷台チェーック! シルビアOK。さぁ逃げるぞー!
逃げるって? オレの速度3.1キロ。無理ー! そんなもん動いた瞬間に瞬殺されるわ。
シルビアも眠ってるからまずは【結界】だな。【結界】を出して、あとはあとは、何も出来ることが無い。うそー! あいつはどこ行ったんだ? あいつに助けてもらおう、でもこいつの方がデカいし見えない所を見ると、もう食われちまったか? えーとボルトだボルト、『ボルトー!』
『御意!』
『え? お、お前? だれ?』
『ボルトでございます。』
さっきまで横で寝ていたデカい魔物がボルトだと名乗る。
5メートルぐらいはあるんじゃねーの? 3階の窓から普通に覗けそうってどんだけデカいのよ。後ろ足で立って手を出したら5階建ての屋上まで届きそうなぐらいデカいんですけど。オレの倍どころの話しじゃないぞ? これでオレを引けるの?
シルビアも起きて来た。
「あ、本当に仲間にしてる。すごーい、しかも大きくなってるー。すっごく大きいー。」
シルビアも見上げている。
『おはようシルビア、こいつはボルトって言うんだ。仲良くしてやってくれ。』
「ボルトか、格好良い名前だね。私はシルビア、よろしくね。」
『うむ。』
ボルトは名前を誉められて照れている。
『しかし、なんでそんなに大きくなったんだ?』
『主殿より名前を付けて頂いた時に大きな力も頂き、我も力を得ました。主殿、今後とも宜しくお願いします。』
『主殿? どういうことだ? 『牽引契約』ってそんなに強力なの? 寝る前には馬車って言ってただろ?』
『名前を頂きました。その恩恵により進化も果たしました。これ以上のご恩はございませぬ、今後我の忠誠を捧げます。』
馬車にそこまで忠誠を捧げなくてもいいよ。牽引契約じゃなかったのかよ。
ナビゲーター? ボルトとは牽引契約じゃなかったのか?
《初めは牽引契約でしたが名付けをした事で従者契約に変わりました。》
名付けって従者契約になるんだ、被害者を増やさないためにも覚えておこう。
しかしデッかくなったなぁ、5メートルはあるよな。
【鑑定】
名前: ボルト
分類: 雷獣(魔獣)LV10
HP:811/811 MP:803/803 ATT833 DFE815 SPD1010
スキル:【牙】3/10【隠形】3/10【念話】1/10【魔法】1/10【変身】1/10【眷属召喚】1/10
魔法:【火】1/10【風】1/10【雷】3/10【闇】2/10
ユニークスキル:【影操作】【鑑定妨害】
称号:馬車の従者
凄く強くなってねーか? シルビアがもうちょっと強くなれば勝てそうなぐらいだったのに、今だったら全く歯が立たねーぞ。進化ってすげーのな、思ってた以上だわ。
バーゲストにはまだまだ及ばないけど、あいつは別格だったしな。それを倒す龍もいるんだもんな、注意しとかないとな。
しっかし、馬車の従者って格好悪いな、ホント申し訳ない。
そういや【バング】をはずしてなかったな。
【バング】を解除した。
《【ウィッシュ】のレベルがMAXになりました。【ウィッシュ】が【コマンド】に進化しました。》
《【バング】のレベルがMAXになりました。【変身】による馬車変形が9種類可能になりました。農馬車、幌馬車、スピードタイプ、2人乗り、4人乗り、8人乗り、防御タイプ、戦車タイプ、宿泊タイプ。》
んー、これってありがたいんだけど、オレにどうしろと。戦闘できないんだよ? 誰かを育てて魔王でも退治させるのか? ムリですよねー、ホント何をさせたいために馬車に転生させたんだか。目的を教えてくれー!
【バング】はレベルが上がるたびに伸縮できる様になったり皮紐も太くできるようになったりしてたんで、十分レベルアップボーナスを貰ってたと思うんだけどね、カスタマイズが一気に来たね。でも9/10ってあと1はどうやって上げんの?
名前: なし
分類: 馬車
レベル:【戦闘】LV9 【移動】LV13 【速度】3.1キロ
LP:780/780 MP:790/790 SP:313/1100
スキル:【鑑定】Max【フェロモン】16/100【ハーネス】Max【バング】Max【コマンド】1/10【亜空間収納】4/10【魔法】6/10【変身】9/10【回復地帯】2/10【結界】2/10
魔法:【クリーン】Max
ユニークスキル:【育成】
称号:
従者契約:ボルト
サポートしか無いよね。
馬車ってだけでサポートだからね。
たしかにいるよ? 回復系魔法使いとか弱い奴。でも最後は聖属性なんかの極大魔法とかアンデッド系には強かったりするじゃん。オレは戦闘にすら参加できねーっての。
名前を思い出したら元の能力が復活して最強馬車になるとか? んー無いね。ありえねーわ。そんな馬車って想像もできねー。
まずは引いてもらおうか、レベルが上がれば何か見えて来るかもしれないね。
『ボルト? 体調は大丈夫?』
『御意、問題ありませぬ。今は進化直後で暴れたくてウズウズしております。』
『暴れたいって・・・その武士言葉、もう少し軽くならない? オレ馬車だし。念話だから誰にも聞こえてないかもしれないけどね。』
『我はこの言葉以外ですと荒っぽくなってしまうゆえ。』
『いいんだけどさ、引いてもらっていい?』
『御意。』
ボルトはオレの手の前に来てくれた。
【バング】を付けて準備完了。
5メートル級の魔物だから両手の間に入らねーし。
カスタマイズできるようになったから、手を収納して【バング】だけを付けている。
【バング】は大小伸縮自在だったし、バングに付いている皮紐も伸縮自在だから装着はできたんだ。馬車には便利な機能満載です! は~逆に落ち込むわ。
これって急停止したらどうなるんだろ? ボルトにぶつかるよね? とお思いの皆さま、安心してください、付いてますからブレーキが。カーブについては強引に引っ張ってもらいます。
今も練習と経験値の為にゆっくりと徘徊してもらっている。