第63話 町の散策
換金が終わって詰め所を出たら、少し町を散策する事になった。
ミランダリィさんが提案して来たんだけど、オレも【御者】が話せるようになって他でも試したかったから賛成した。
ミランダリィさんは服屋、シルビアは教会、ライリィは道場、ルシエルは武器屋、パルは薬屋、魔物トリオはオレと一緒にブラブラ散策。オレはとりあえず調味料を売ってる雑貨屋に入った。
ミランダリィさんの服屋はいつもの事だな。シルビア達の服も買ってくれてるみたいだし、シルビアも教会でお布施を言われるかもしれないよな。2人には金貨1000枚ずつ渡しておいた。
さっき金貨6000枚以上あったんだから1000枚渡してもまだまだ残ってる。
ライリィは道場だからいらないとは思うけど、ルシエルが武器屋に行くみたいだし、2人にも1000枚ずつ渡した。2人共断ってきたけど、さっき金貨袋の山も見てるし、まだまだあるからと言うと、収納バッグに仕舞ってくれた。
皆バラバラの行動になったけど、強いし大丈夫だろ。
問題はお金を騙し取られるかもって事だけど、お金はまだまだあるし、無くなったらまた冒険者ギルドで素材を売ればいいし、何事も勉強勉強。
雑貨屋には【御者】1人で入った。
特に目新しい物は無かったけど、店の人と話せるのが嬉しかった。
その胡椒はいくらですか? とか、その香辛料を10瓶くださいとか。たわいもないやりとりが嬉しかった。
店にある全種類の調味料を金貨10枚ずつ買ったら、店の調味料売り場の棚が1/3になってしまった。ちょっと買い過ぎたかな? でもボルト達が良く食べるし、美味しく食べるには調味料は必須だからな。
次に武器屋に向かった。オレの知らない武器があるかもしれないし、ルシエルもいるだろうから行ってみる事にした。
案の定ルシエルが武器屋にいて、色々と物色しながら店の人と話してるみたいだ。
ルシエルって人見知りかと思ってたけど、意外と話せるんだな。
オレも武器屋に入るとルシエルが【御者】に気が付いた。
「ご主人様、ご主人様も何か武器を持たれるのですか?」
「いや、オレは武器を持てないんだ。でも、どんなものがあるのか興味があってね」
「そうでしたか、それならこの弓はどうでしょう。同じ素材でも、この弓は他の弓より攻撃力が高いのだそうです。『和弓』と言うのだそうですが、ご主人様に造れますか?」
ルシエルが言った弓とは『和弓』だった。
あるんだ。この世界って意外と何でもありそうだな。
【錬金】で調べてみたが、『和弓』は無かった。
「オレには造れないみたいだな、ルシエルはその弓が欲しいのかい?」
「はい、さっきからこちらの方の説明を聞いていると、今の私に一番合った武器ではないかと思うので・・・その・・・」
また遠慮してるのか、そういう遠慮を無くしてくれた方が嬉しいんだけどな。
「じゃあ、オレが買うよ。それで良い素材の物で造ってやるよ」
「いえ・・あの・・は、はい! ありがとうございます」
自分の為に買ってくれるのは申し訳ないと初めは思ったのか、断ろうとしていたが、すぐにいい返事をしてくれた。
ちょっと嬉しくなった。
「この和弓って、素材は何なの?」
ルシエルと話していた店の人に聞いてみた。
「これは竹という木です。東の国にしかない木で、この辺りでは取れない非常に貴重な素材なんです」
「へー。で、いくらするの?」
「金貨100枚です」
「じゃあ、それをもらうよ」
金貨100枚を出した。もう、【御者】がいる所に出すのは慣れたもんだ。
「ありがとうございます」
店の人がお礼を言って金貨を収めた。
「それで、この和弓の素材って竹が一番いいの?」
「竹はそんなにでもないですが、貴重なんで高いんです。やっぱり武器の素材なら魔物の素材の方が攻撃力は上がりますね」
「例えばどんな?」
「魔力を考えるとドライアドでしょうね、世界樹が最高峰だと師匠から聞いた事はありますが、世界樹がどこにあるか知ってる人なんかいませんからね」
世界樹ってあるんだ。ゲームにしか無いと思ってたよ。
「魔力ならドライアドで、夢のような世界樹ね。魔力ならっていう事は他にもあるの?」
「もちろん! 純粋な攻撃力なら龍の素材に勝てる物はありませんね。あと、弦はブラックエイトの糸が最高でしょう」
店の人の説明にも熱が入って来た。武器の事を聞かれるのが嬉しそうだ。
「龍か、龍も種類が多いよね。やっぱり攻撃力の高い龍の方がいいの?」
「もちろんそうなんですが、和弓の場合は冰龍の爪で造られた弓が伝説では出てきますね」
冰龍・・・冰龍って・・・あのボルトも出て来る伝説の東の冰龍ってやつ?
本当にいるのかな? ボルトもいるんだし、いるのかもね。
他の武器も見てみたが、目新しい物は無いね。
ルシエルを連れてライリィが行った道場に向かってみる事にした。
「ご主人様――!!」
シュン! っと音を立てて虫が超高速で飛んで来た。あ、パルか。
「どうしたんだよ? そんなに急いで飛んで来たら誰かとぶつかったらどっちもただでは済まないよ」
「そんなん言うてる場合とちゃうねん! 大発見や! 大発見!」
「だからどうしたんだよ」
パルが大発見と捲くし立てて荷台の周りを飛び回っている。
「ええから、うちに付いて来て!」
大慌てで捲くし立てるパルに、ハヤテに引いてもらい急いで付いて行く。
ライリィが行った道場から少し逸れるが、同じ方向であった。
町中だから、ハヤテにはゆっくり走ってもらい、15分ほどパルに付いて走った所で目的の場所着いた。
「ここやここや! ご主人様、早よ来てー!」
まったく一体なんなんだよ、ホントにパルはいつも騒がしいよな。
パルに連れられてやって来た所は薬屋、パルが向かうと言っていた所だった。
店に入るとぽっちゃりしたの優しそうな小柄なおばあさんが店番をしていた。
「おやおや、パルちゃん。今度は誰と来たんだい?」
「ご主人様や! うちのご主人様を連れて来たんや! ソフィア、さっきのやつをご主人様にも見せたってほしいんや」
ソフィアというのは、このおばあさんの名前か? パルは呼び捨てにしてるのか?
ピキッ
ん?
「パル! お前、目上の方を呼び捨てにしたらダメじゃないか! うちの者が失礼しました、私は・・・ジョンといいます」
さっきから帽子を脱いだままだから名前も変わってないだろ。
「いえいえ、私も年甲斐も無く久し振りに妖精を見て嬉しくなってしまってね。妖精に呼び捨てにされると子供の頃を思い出して楽しかったわよ」
「それでも目上の方を呼び捨てはいけません。申し訳ありませんでした」
【御者】に頭を下げさせた。もう人間と大差ないね、さすが最終進化形だね。
パルの事は妖精と思ってるんだね、小さいけど精霊に進化したんだけどね。
「いえいえ、気にしてませんよ。こちらも楽しかったですよ」
「ご主人様・・・・」
おばあさんがニコニコして気にしてないと言ってくれた横で、パルは反省してくれてるようだ。
「パルちゃん、もういいからあなたのご主人様にこれを渡してあげて。これの事で来たんでしょ?」
「ソフィア・・・さん。ごめんなさい」
パルは反省しソフィアさんに謝ると、ソフィアさんから差し出された物を受け取った。
「わはははー! これやこれや、これやねんご主人様。ちょっと見てみてー」
おい! 反省してたんじゃないのか! ホントにもう。
ピキピキッ
さっきから何の音だ?
「ご主人様、私も以前より見かねておりました。パルの事は私にお任せください」
オレの気持ちを察してくれたのか、ルシエルが申し出てくれた。
【御者】は、感情を出せないから分からないと思うんだけど、ルシエルはオレの事でよく気が付いてくれるよな。
「うん、ルシエルありがとう。じゃあ、パルの事は任せるよ、やり過ぎないでね」
「承りました、お任せください」
なんとなく、やり過ぎないでねって付け加えたけど、たぶん言って良かったと思う。
ルシエルを見る限りやる気に満ち溢れ過ぎてるから。
それでパルは何を見せたかったんだ?
「パル、それはなんなの?」
「わっはははー、聞いて驚け、見て騒げ。これはうちのおった所にしか生えへん『ユグドラシルの葉』や!」
「・・・・・・・」
「なんでー!? なんで驚けへんの?」
「いや、知らないから」
「嘘やーーーー!! こんな有名なん知らんのーー?」
「知らん。それで、その葉がどうしたんだよ」
「あー、もうアカンわ。こんな人らに言うても損するだけやわ」
ピキピキピキッ!
あっ! ルシエルだったのか、ルシエルが爆発寸前になってるよ。ヤバいヤバいヤバい。こんな所で爆発されたら薬屋が吹っ飛んでしまうぞ。
「ちょ、ちょっとルシエル、落ち着いて」
「・・・ご主人様、私は落ち着いております」
全然落ち着いて無いから! 口元が薄っすら笑ってて怖いからー。
「わかった。ルシエル、ちょっと向こうで話そうか」
「ご主人様・・・私はパルと少し話がありますので、それが済んだら伺いましょう」
ダメだって! どうやったら落ち着いてくれるんだよ。
「ディーディパル・・・」
もうダメだー! パルの事をフルネームで呼んでるし。
ダメ元だ!
【御者】でルシエルの肩を抱きよせた。
ボッ!
一瞬でルシエルの顔が真っ赤になった。
「ごごごごご主人様?」
「ちょっと落ち着こうか。まずは話を聞いてくれる?」
「わわわわかりまひら」
ルシエルは顔を真っ赤にして俯いて返事をしてくれた。
おっ、なんとか危機は回避できたか?
「なんやなんや、自分だけご主人様にええ事してもーて。羨ましいやんか!」
いや、【御者】だから。こいつはオレだけどオレじゃねーし。
そんな事より聞いてやらないとね。
「それでパル、そのユグドラシルがどうしたんだよ。お前の住んでたとこってどういう事なんだよ」
「そうやった、この葉はな、ユグドラシルの葉って言うて、世界樹の兄弟みたいな樹の葉やねん。凄っごい大きい樹やねんで」
世界樹ってゲームでよく聞くアレだよな。死んだ者を生き返らせたり、パーティ全員のHPを回復したり、回復系の最高峰的なやつだよな。
「世界樹は聞いた事があるかな。世界樹の葉って凄い効果があるとか」
「なんでやねん! ユグドラシルの方が有名やっちゅーねん!」
「ユグドラシルも聞いた事はあるかも。魔物じゃなかった?」
「魔物とちゃうわ。そらしゃべるけど、あんなええ奴おれへんで」
「しゃべるの?」
「当り前やん! ホンマになんも知らんねんなぁ」
そんな当たり前なんか知らないし。
あっ! ルシエル・・・・大丈夫そうだ、今度は上を見上げて「天国のお父様ー」とか呟いてるよ。パルの声も聞こえて無いみたいだ。
暴れないならこれでもいいか。
ルシエルは放置で、パルに続きを聞いた。
「知らないから教えて欲しいんだよ。パルが教えてくれなかったら知らないまんまじゃないか」
「それもそうやな、ほんなら教えたるわ。」
こういう所がイラっと来るんだよね。パルの事はさっきルシエルに任せたし、この場では我慢するか。
「まず、この葉っぱやけどな。ユグドラシルの葉って言うて、魔力回復の薬が造れるんや。マナドリンクってのが造れるんや。木の枝も杖を造ったら最高の物ができるし、皮からは徐々にMPが回復する効果『リ・マナのネックレス』が造れるんやで。どうや? 凄いやろ」
「それは凄いね。でも、葉しかないんだろ? それだけでマナドリンクが幾つ造れるの?」
「むむむ・・・1個も造られへん」
「じゃあ、ダメじゃないか。何枚あったら造れるの?」
「この大きさやったら5枚はいるな。でもな、ソフィアがユグドラシルの場所を知ってんねん」
「ソフィアさんだよ!」
「もう、そんな細かい事は今はええやん。それより・・・」
「ソフィアさん!」
「いいんですよ、妖精さんなんですから。妖精さんに名前を呼んでもらえるだけで嬉しいもんですよ」
「ほら、ソフィアもこう言うてるやん」
「ダ・メ・だ!」
ソフィアさんがパルのフォローをしてくれたけど、ここでオレが折れちゃダメだな。他の話し方の事もあるし、こういう所から教育しないとね。
「別にええやん」
「オレの仲間に礼儀知らずはいらないよ」
「そんなん言うても今さら変えられへんわ」
「変えられないんなら仕方が無いね。ルシエル、行くよ」
オレが怒ってるのが分かったのか、ルシエルもいつの間にか正気に戻っていた。
ルシエルを【御者】と共にオレの所まで戻らせようと、薬屋に背を向けた。
「ちょっちょっと。ちょっと待ってーや、これぐらいでそんなに怒らんでもええやん」
パルを薬屋に置いてハヤテといるオレの所までルシエルと【御者】を戻らせた。
途中、ルシエルが心配そうに一度振り返って、【御者】の顔色を窺ってたけど、【御者】には表情はないから分からないよね。
でも、ちょうどいいかもね、パルも強くなったし、もう奴隷商に捕まる事もないだろうし。ユグドラシルがあった所に住んでたみたいな事も言ってたから、ここから近い所に住んでたのかもしれないしな。
ずっと従者として置いておくつもりも無かったし、あとは元気でやってくれ。
パルにも収納バッグを渡してましたので、一部削除しました。




