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第57話 酔っ払い女2人

イレブン達の事は後で考えるとして、今は宿営地に戻って報告だな。


 迷いの森と抜けるともう辺りが暗くなってきていた。

 今から宿営地に入ると、宿営地の中で泊まる事になるな。それだとハヤテはいいけどボルトが可哀相だな。この辺りで寝て、朝になったら宿営地に行けばいいか。


『ミランダリィさん、今日はこの辺りで夜営しようか』

『宿営地に入らないの?』

『ボルトがいるからね、宿営地の中だと影から出て来れないから可哀相なんだ』

『そうね、分かったわ。あとね馬車さん、さっきの宝部屋で見つけた武具を造れない?』

『どうだろう、素材さえあれば造れそうだけど・・・・うん、造れそうだよ』

 【錬金】で項目を確認すると今まで文字が暗かったのが明るく光ってて赤文字で『new』って付いてるよ。なんだ、このシステム。今までこんなの付いてたっけ?


『じゃあ、造ってくれる? さっき、この女兵士が欲しそうに見てたのよ』

 この役立たず女兵士にやるの? ちょっと嫌だけど、タダだからいいか・・・。うちの連中もいるだろうし、ついでに造ってやるか。

『じゃあ、今から造っていくけど、出来上がりは荷台に出るんだ。シルビア達に言って壁を作って女兵士から見えないようにしててね』

『わかったわ』


 魔法剣がいくつかあるな。槍も弓も魔法槍に魔法弓だよ、凄い物を隠し持ってたんだな。

 鎧やブーツも、盾も小手もだ。全部魔法付加やら魔法効果が付いてるよ。鎧はうちの連中には向いてないかもしれないけど、小手やブーツやマントなんか、使えそうなものも沢山あるな。

 炎と風と雷と氷の属性は、剣と槍と弓とナックルに同じ属性のものがあるな。『ブレイズソード』『ガストソード』『ライトニングソード』『アイシクルソード』。

 剣から先に造って行ったらミランダリィさんが始めに出来た『ブレイズソード』と『ガストソード』と、自分が使っていた『ウシュムガルの剣』を女兵士に渡してしまった。「ついでにこれもあげるわ」と言って、さっき海水が入ってた収納バッグもライリィから受け取って渡してしまった。

 ちょっとサービス良すぎない? まだまだ素材があるから造れるけどさ、そいつはそこまでしてやるほどの仕事はしてないぞ。

 口裏合わせの交渉はしてたみたいけど、報酬にしては過剰過ぎない?


 もうその女兵士の嬉しそうな顔を見たら返せとも言えないからいいけど、オレが造れるからって気前が良すぎるよ。


 今回の収穫で魔法武器があったのは凄く嬉しかった。特に珍しいんじゃないかと思えたのが、重力を操る『グラビティナックル』と、攻撃、回復、補助など、どんな魔法にも属性にも影響力のある『賢者の杖』。

 『グラビティナックル』は前衛のライリィに丁度いいと思ったし、『賢者の杖』はルシエルが持てば最高の相棒になるんじゃないか?

 どっちも素材は無かったので造れなかったが、素材さえ入手できれば同じものが造れるので、ライリィとルシエルにそれぞれ渡しておいた。


 夕食が終わると珍しく女兵士が見張りを買って出た。しかも夜通し1人ですると言う。

 珍しい事もあるもんだ、やっぱり剣を貰って何も活躍してない事が心苦しくなったか? 明日の朝には宿営地に入れるんだから、必要ないけど今晩ぐらいは頑張ってもらおうか。



 夜、女兵士が見張りをしている所にミランダリィさんがやって来た。女兵士もすぐに気づいた。


「奥方様、どうされましたか?」

「ちょっと夜風に当たりたくてね。少し話もしたいし付き合ってくれない?」

「私は今見張りをしておりますから、申し訳ございません」

「あら、硬いのね。大丈夫よ、このパーティに見張りなんて必要ないんだから」

 それを言ったらダメでしょ、そいつには仕事をさせてよ。まだ、なんも役に立って無いんだから。


「そうはおっしゃいましても、私から志願して引き受けましたから」

「いいのいいの、あなたもこっちに座って少し付き合いなさ~い」

「・・は・・はい・・・」

 ミランダリィさんの強引な誘いを断れず、女兵士はミランダリィさんが収納から出した椅子に座った。ミランダリィさんは机も出していて、机の上にはワインも乗っていた。

 どこで仕入れて来たんだよ。机と椅子はいつも東の森で出してるから知ってるけど、ワインは知らなかったよ。メキドナの町で仕入れてたのか?


 ワインを一口飲むとミランダリィさんから話し始めた。

「このパーティって子供ばかりでしょ? お酒を飲ます訳にも行かないし、晩酌の相手がいないのよね。折角大人の女性がいるのに一緒に飲まないのって勿体ないじゃない」

「は・・はぁ・・・」

「あなた、名前はアンジーだったわね。アンジー、あなた堅苦しいわよ。もう少し楽にしなさい」

「そうおっしゃられても、見張りもありますし・・・」

「大丈夫って言ったでしょ、見張りはボルトや馬車・・・バブルスさんだったわね。が、やってくれるんだから、アンジーは私に付き合ってくれればいいの。さ、グッと飲み干してー」

 勇者様の奥様に勧められたワインだから、アンジーも断り切れずにワインを一息で飲み干した。

 空になったグラスには、すぐにミランダリィさんがワインのお替わりを並々と注いだ。


「さ、もう1杯」

「いえ、私はもう・・・」

「まだ堅苦しいわね。お酒が足りて無いみたいね、もう1杯飲めば堅さも取れるわよ。はい、飲んで」

 アンジーは渋々ながら2杯目も一気に飲み干した。


「ふぅ~」

「中々行ける口じゃない、あとは自分のペースで飲んでいいわよ」

 ミランダリィさんは更にアンジーのグラスに並々とワインを注いだ。

 アンジーの顔がちょっと赤くなってない?


 「ヒック・・・」

 もう酔った? 早く無い? あ、3杯目も一気? 負けじとミランダリィさんも一気?


 もう2本目が出て来たよ。なんかヤバそうな予感しかしないんだけど・・・

 1時間もしないうちに空瓶が5本転がっていた。机の下にはワイン樽が出ている。

 樽まで仕入れてたの? 用意周到だなぁ。



「おい! 馬車! お前はあの子達の気持ちが分かって無い!」

「そうだそうだ! 分かって無い!」

 おいおい、絡んで来たよ。しかもアンジーまで合いの手を入れてるよ。


「あの子達はあんたから離れたくないんだ! なーにが一人前になったら出て行ってもいいだ。そんな事をあの子達は望んで無いっつーの!」

「そうだそうだ! あんな可愛い子達を泣かすんじゃない!」

 いや、別に泣かせてなんかいないし。ここは無視だな。


「シルビアだってあんたと離れたくないんだぞー! あんたの事が好きなんだぞー!」

「そうだそうだ! 私なんか会いたくても、もう弟とは会えないんだ。勝手に別れるんじゃないぞ!」

 いや、別れて無いし。酷い絡み酒だなー、皆が起きちゃうよ。


「ん? アンジーは弟とは会えないのかい?」

「そうなの、弟は・・・グスン」

 え、今度は泣き上戸? おいおい、勘弁してくれよ。


「なに? 死んじゃったの?」

「うぐっ、そう、弟は死んだの。グスン、私の身代わりに死んじゃったの」ズズー

 矛先が変わったのはいいんだけど、周りは静かなんだから泣くと響くんだよ。


「でも、こんな世の中だから、みんな死とは隣り合わせよ。私だって魔人に攫われてから、まだ1年も経って無いもん。よく死ななかったと今でも思うわ」

「そんな事言ったって、やっぱり生きててほしかった。だから私は弟の分まで頑張るの! グスン」

「それはいい事だと思うわ。あなた偉いのねー」

「そう、私は偉いの! もっと偉くなって爵位をもらうの! そして弟の夢を叶えるの! うぷっ」

「爵位? 爵位なんかでいいの? もっと上を目指しなさいよー」

「ヒック。爵位なのー。それが弟の願いだったから」

「よーし、私に任せなさい! 私がその願いを叶えてあげちゃう。だからまだまだ飲むわよー、ほらアンジー。グラスにワインが入って無いわよ、どんどん飲みなさい」

「はい! アンジー・ローウェル副長は、まだまだ飲みまーす!」うーっぷ


 おいおい、見張りはどうなったんだよ。もう無理なのは見れば分かるけど、明日は大丈夫なのか? 報告もあるだろ。



 翌朝、ミランダリィさんはケロっとしてるけど、アンジーはどんよりしてるな。間違いなく宿酔いだな。


 報告の時に、そのままじゃマズいだろうと思ったから、仕方なく移動中に【回復(ヒーリング)地帯(ゾーン)】をしてやったよ。

 宿営地に到着する頃には治ってたようだ。


 宿営地に到着すると、そのままヘンリー・アンダーソン大将の天幕を訪ね、ミランダリィさんとアンジーから報告がされた。

 オレも進化した【御者】を付いて行かせたけど、最後にミランダリィさんがヘンリー・アンダーソン大将と小声で話していた内容は聞こえなかった。

 昨夜のアンジーの戯言の事かな? 爵位がってやつ。

 なんか嫌な予感はするんだけどねー。だって、ミランダリィさんが偶に【御者】の事をチラチラ見るんだもん。


 報告の内容は、魔人の棲み処の殲滅が完了した事と、13人の魔人の内10人を倒した事。3人の魔人には逃げられた事を伝えた。逃げた3人の魔人が進化種である事は伏せておいた。

 だってあんなに強い魔人の事を言っても、どうにも出来ないだろ?

 アンジーも同じ内容の報告をして、軍もこの宿営地も近々撤収する事になった。

 オレ達は一足先に戻る事にして、昼食を断って宿営地を後にした。


 だってうちの子達はオレの料理しか食わないんだもん。宿営地の食事って大した事無さそうだし、ミランダリィさんが丁重にお断りしてたよ。横でアンジーが恨めしそうな顔をしてたけどね。宿酔いで朝食は食えなかったから余計に残念そうだよ。


 結局、アンジーは役立たずだったんだから3本の剣だけで我慢しとけ。



 宿営地を後にしたオレ達は、まだ昼だし街道を走っていた。

「馬車さん? ちょっといい?」

『なに?』

「帰りは時間を掛けて帰ってほしいのよ」

『なんで?』

「だっておかしいでしょ? 普通はどれだけ急いでも片道2か月は掛かるのよ。それを4~5日で戻って来たら変だと思われるわよ」

『それならいつもの東の森に直行でいいかな?』

「それでもいいんだけど、さっきヘンリーにいい事教えてもらったの。この先にダンジョンがあるんだって、ちょっと寄ってみない?」

『却下!』

 さっきの内緒話はダンジョンの事だったのか。それで声を潜めてたんだな。


「馬車さん、私も行きたい」

「賛成なのニャー」

「ダンジョンですか・・・私も・・・」

 なんだよ、3人共行きたいのか?


「ほら、(みんな)行きたがってるじゃないの。どうせ時間を潰さないといけないんだし、ちょっと寄りましょうよ」

『・・・・・』


「馬車さん」「ご主人様」「ご主人様・・・」「ご主人様ー!」

 あれ? 1人増えた? あ、パル、お前もか。


『わかったよ。でも、オレもボルトもダンジョンには入らないからな。行きたい奴だけで行くんならいいよ』


 荷台の上では全員で拍手をして喜んでいる。

 そんなにダンジョンって行きたいもんなの? (みんな)強くなったから腕試しがしたいのかもな。でもオレは行かないからね。


《行く事になるでしょう》

 また暗示をかけてきやがった。それで前回入ったよな、もう行きたくないんだよ。

 なんで馬車なのにダンジョンに行かないといけないんだよ。おかしいだろ。


「それでね、さっきヘンリーが言ってたんだけど、そこのダンジョンは広くて馬車でも入れるって聞いたの」

 それ、いらない情報だね。


「ご主人様も一緒なのですか!」

「一緒なのニャー!」

「ほんまに行けんの!」

「前も行ったよねー」

 そこ喜ぶとこじゃないから。オレは絶対行かないから。


《行く事になるでしょう》

 ならねーよ!


『オレとボルトは留守番だよ。な、ボルト』

『否、我も広いのなら行こうと思ってます』

『えー! なんで? お前ダンジョン嫌いだったじゃん』

『今回逃げた魔人の強さを考えると、我ももっと強くならなければいけませんので』


 確かにそうかも。そんな事言われたら・・・いやいや、オレは行かないぞ!

 ボルトの裏切者ー!


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