第54話 護衛の仕事(女兵士編)
アンジー・ローウェルの実家は爵位を持たない貴族で、アンジーが活躍して爵位を持てるようになることを熱望していた。アンジーの剣の実力を知っているからこそ、活躍の場は王国軍だと前々からアンジーにしつこく入隊を迫っていた。
アンジーの実家は金より名誉を重んじる一族だった。しかし、爵位は次男である父親の長男が引き継いだためアンジーの両親には爵位が回って来なかった。アンジーの両親はどうしても爵位が欲しい。そこで跡継ぎの長男を貶めようと画策をした事もあった。未遂に終わり何事も起きなかったのだが、その事を知ったアンジーと両親はギスギスした関係になり、アンジーは家出同然に家を出た。
家を出た私は冒険者になった。
薬草の見分けなど付かない私は魔物退治に明け暮れた。
Dランクになった頃、色んなパーティから誘われた。攻撃手として周りに認められたのだ。
それからはダンジョンに嵌まってしまい、外にいるよりダンジョンに入っている方が長いぐらい、ダンジョンによく入った。
普通は一度ダンジョンから出て来ると、1週間は充電期間に当てる冒険者が多かった。
そんなに待ってられない私は別のパーティと行動したり、単独でダンジョンに入ったりしていた。
レベルも上がった。お金も大分稼げた。装備も良くなった。
そんな時、弟の訃報を聞いた。
私の身代わりとなって両親の期待を背負って入隊した弟が、軍の作戦行動中に命を落としたのだ。
私は泣いた。1か月泣き明かした。そして軍に入る決意をした。
自分の代わりに入隊した弟が死んだ事で私は悲しみ、そして苦しんだ。両親は嫌いだが、大好きだった弟の代わりに入隊を決め、5年で中隊の副官まで登りつめた。尊敬する隊長に認められ副官に抜擢されたのだ。
私は魔法の方はからっきし使えない。女だし身体も大きい方じゃないから盾役にも向いて無い。冒険者であれば盾役のすぐ後ろの2列目で攻撃手として引っ張りだこだった私も、軍では遊撃隊でそこそこ活躍する程度。
しかし、中隊長のハイラック・ワッセル中将に取り上げてもらった。
ワッセル中将に言わせると、私ほど皆から慕われている者はいなかったそうだ。
私って慕われてたのか?
確かに世話を焼いてもらった覚えはある。
冒険者時代から食事を作れないから誰かに作ってもらったし、方向音痴だからよくこっちだと連れて行かれた覚えもある。そのせいで単独行動の時に飲まず食わずで3日過ごした事もある。
魔法も使えないから、水をよく要求した事もある。
魔物を倒すのは得意だが、解体をした事が無いので後処理は全部任せた覚えもある。
口下手だから、近くに通訳的な者がいてくれる事もよくある。
どこを見て慕われてると思ってくれたのだろう・・・
しかし私も中隊の副官になり大尉にまでなった。中隊長以上の将官は全員爵位持ちだ。
あと1つ大きな手柄を立てると、もしかしたら爵位を貰えるかもしれない所まで来ている。爵位には興味は無いが両親は大喜びするだろう。そして今は亡き弟も喜んでくれるだろう。
今回、アンダーソン大将から指名を受けた時、これはチャンスだと思った。
護衛とはいえ、魔人の本拠地と思われる所まで行けるのだ。
ここで、魔人の1人でも倒せば勲章ものだろう。そしてそれは爵位に大いに近づくことになるだろう。
失敗は許されない。
今回のミッションは奥方様の警護。その上で魔人を倒すチャンスが訪れれば、命の限り戦ってやろう。
奥方様の事は知っている。知っていると言っても話した事は無い。勇者様の奥様、王都に住んでいる者なら知らぬ者などいないだろう。
なぜ、こんな弱そうな男と魔人の調査に行くのか分からないが、だからこそ自分にチャンスが巡って来たのだ。この男には感謝しないといけないな。
自分の役目は奥方様の警護。奥方様の傍から離れる訳にはいかない。
周りを見ると、女の子供ばかりじゃないか。
申し訳ないが、こんなパーティに奥方様を任せる訳にはいかない、奥方様を守り切らなければ少しでも怪我をさせればこのミッションは失敗だ。魔物が現れても奥方様の傍を離れないようにしないと警護できない。この女の子達には悪いと思うが、パーティが全滅したとしても奥方様だけは守り切って見せる。
そんな私の心配は従魔が現れた事によって無残にも砕かれた。
なんなんだ、あのデカい虎の魔物は。あれが従魔? どうやって従魔契約をしたんだ。どうやってあんな強そうな魔物を従えたんだ。
さっきの弱そうな奴か? 実は相当な実力者だったのか?
その従魔が黒い大きな魔弾を放った。
何に対して放ったんだ! 自爆するつもりか!? 爆風がこちらまで来るぞ!
果たして、爆風は来なかった。いや、来たんだが、もの凄い爆風が見えたんだが、馬車に対して影響は皆無。荷台に乗っている私にはそよ風さえ感じなかった。
何がどうなってるんだ、私は夢を見てるのか?
誰も何も説明してくれない。「あ~あ、またやり過ぎ~」「それってオーバーキルって言うんだニャ~、ご主人様に教えてもらったのニャ」などという声が聞こえるのみ。
その後も従魔が先導して木を踏み倒して行く。草じゃないんだ木を踏み倒すんだ。だから馬車でも通って行ける。まったく規格外れだ。
この馬車もおかしい、まったく揺れないんだ。快適な乗り心地はいいんだが、どういう仕組みになっているんだ。
森が深い。だからずっと周囲は薄暗かった。いつの間にか夜だと言われたが、なぜ夜だとわかったんだろう。しかも、今日はここで夜営をするから食事をしてもう寝ると言う。
昼もそうだったが、なんだこの料理の美味さは! 王都の高級料理店なんか目じゃないぐらい美味しいではないか。
収納バッグに入れて持って来ていると説明されたが、収納バッグにはそういう使い方もあったのか。盲点だった。私の持ってる収納バッグには武具と道具が少々と回復薬しか入って無い。まだもう少し余裕があるし、今度からは料理も入れておこう。
明けて朝、最高に美味しい朝食を摂っていると、魔人の本拠地が分かったと奥方様から皆に報告をしていた。
いつ斥候を出したんだ? 召喚? 感知? ズーム? 一体何の事だ。そんなもので正確に探れる訳が無いだろう。しかもズームとは・・・聞いた事が無い言葉だ。
これから討伐に向かう? 何を言ってるんだこいつらは。馬車では山は登れないだろ。
デカい虎の魔物と今まで馬車を引いていた馬と小犬の様な魔物。それと虎の獣人の子が虎の魔物に跨って行くようだ。何やら収納バッグだと思われる物を奥方様から手渡されていたな。あれは何かの秘策なんだろうか。
魔人討伐の折角のチャンスだが、奥方様が馬車から降りないので私もここを離れる事ができない。いや、待て。いくらデカい従魔が強いと言ってもあんな少数で魔人に敵う訳がない。すぐにでも逃げ戻って来るだろう。その時こそがチャンスだ、私の力を見せる時がようやく来るようだな。フフフフ
30分ぐらい待っただろうか、凄い勢いで山の上から水が流れて来た。
山の中腹や、他の所からも水が噴水の様に噴き出しているのが見える。
一体何をしたんだ。山頂に火山湖でもあったのか。それにしても見る見るうちに周りが水に囲まれていくぞ。このままではここも池の様になってしまうぞ。
バリバリバリバリー! ドゴオォォォン!! グラグラグラグラー
雷鳴が鳴り響き山が揺れている。
馬車に乗ってる私には揺れを感じる事が出来なかったが、目の前の山が揺れているのが見ていて分かった。
水が引いて行く。どういう事なんだ、どうなってるんだ。このパーティはなんなんだ。誰も慌てて無いじゃないか。
「もう大丈夫よー」と奥方様が女の子達に説明していた。
思ったより海水が多かったらしい。海水って海の水の事じゃないのか? こんな山の麓の森の中のどこに海水があるのだ。
もうどうやっても辻褄を合わせる事ができない。
ワッセル中将に何と報告すればいいのだろう・・・・
むっ! なんだ! 力が漲って来る。え? レベルが上がった!? なぜだ、なぜレベルが上がったのだ。
【ステータス確認】
おおお! レベルが10も上がってるぞ! どういう事だ、説明できない事が多すぎる。
奥方様に聞いてもいいものだろうか。否、これだけ説明できない事が起こってるのだ、このパーティに何か秘密があるのだろう。ここは詮索はすべきでは無いだろう。
討伐に向かった従魔達が戻って来た。どうやら魔人共はほぼ壊滅できたらしい。
壊滅・・・もう魔人は残って無いのか・・・私の活躍の場は・・・
いや、言うまい。奥方様は無事、これはミッション成功と言えるだろう。活躍したとは言えないが、最低限の仕事は出来た。
これから魔人の巣窟の確認に行くと言う、これには奥方様も出向かれるようだ。まだ活躍のチャンスは残っているようだ。ありがとう神様、このチャンスを生かして見せます。
馬を馬車に残し、あの弱そうな男もここに残るようだ。残りの全員で魔人の棲み処に向かうようだ。もちろん私も付いて行く。
山の8合目あたりにあった魔人の棲み処の入り口まで30分で辿り着いた。皆、鍛えられているようで、ここまで一気に走り抜けて来た。もちろん私も付いて来れた。
この洞穴を入るとアリの巣の様に張り巡らせた通路があるので、逸れないように注意された。
この入り口には魔人が1人と多数の配下達がいたと奥方様が説明していたが、誰から聞いたのだろう。奥方様には誰もそんな報告を話してなかったと思うが・・・
入り口の見張りは一掃したが、残党が残っているかもしれないので周囲には気を付けるように注意していた。それこそ私の出番では無いか、奥方様から離れないように気を付けよう。
この巣窟には魔人の死骸があるから、その数の確認と回収が目的だと説明している。
さっきから奥方様ばかりが話しているな、御者をしていた男もいないし、このパーティのリーダーは奥方様だったか。
魔人の巣窟の探索には2時間も掛かった。相当に広かった。広いと言うよりは長いと言った方がいいか。無数にも思える通路が張り巡らされていたのだ。
魔人は13人いると作戦内容にはあったが、10人しか見つけられなかった。配下と思われる魔物は多数、多すぎて途中で数えるのを諦めた。種類も魔人に近い姿をした者から下等な犬や鼠の魔物まで多種に渡っていた。すべて女の子達が収納していた。
宝部屋もあった。沢山の武具やアイテムがあり、奥方様が私も貰う権利があるので選べと言われたが丁重にお断りした。確かに喉から手が出そうになるぐらい興味をそそる剣があったが、私は殲滅には加担してない。全く活躍もしていない私が頂く訳にはいかない。
しかし根こそぎ取るんだなぁ、容赦がない。収納バッグも性能が良い物を持ってるようで、全部収納できたようだ。
入り口に戻って来ると大き過ぎて入れなかった虎の従魔が見当たらない。何やら考え込んでいる奥方様達。急いで馬車の所まで戻る事になり、全員が登りの時には考えられないぐらいのスピードで山を下って行く。
奥方様が遅れ気味なので、私は奥方様の傍を離れないようにしていたが、あの女の子達のスピードには付いて行けそうも無かった。しかし驚いている場合では無い、今の奥方様の周りには私しかいないのだ。そう思うと急に緊張して来た。
緊張して周囲を警戒しながら戻って来たが、何事も無く無事馬車まで辿り着いた。
誰1人欠ける事無く全員集合していた。
どうやら、魔人の棲み処で見つけられなかった魔人の残り3人が現れたようだ。しかし何事も無く警告をされただけで3人の魔人はどこかへ去って行ったと言う。
この者達で対処できなかったのなら、私でも敵うまい。もうそれぐらいはわかる、このパーティは強い。規格外に強い。その者達で対処できなかったのだ、私がいてもどうしようも無かっただろう。
このパーティの行動は早い。もう宿営地の近くまで戻って来ていた。
夜になったので、朝になったら宿営地に入る事に決めたようだ。
なぜ、宿営地の近くまで来ているのに入らないのか理解できなかったが、今更何も言うまい。このパーティにしたら、宿営地でも迷いの森の中でも安全なんだろう。
私ももう一度、あの美味しい料理が食べられるのだ、反対する理由は無い。
夕食を終えると、今回の報酬として奥方様から剣を3本とその剣を入れるために収納バッグを頂いた。過剰な報酬だ。
もちろん即座にお断りしたが、「いっぱいあるから遠慮しないでいいのよ」と言われ同じ剣を見せて頂いた。同じ剣が何本もあるのだ、それなら1本ずつなら頂いてもいいか・・・
魔人の棲み処で見た魔法剣が2本、炎を出す事もできる火の特性がある『ブレイズソード』、突風を出せる風属性の『ガストソード』、それとこのパーティが持っている最強の剣『ウシュムガルの剣』。攻撃力は1400だそうだ。
攻撃力1400・・・・そんな剣、聞いた事も見た事も無い。私の3倍の攻撃力が剣を持つだけで手に入る。もちろん単純計算ができない事は剣士である私には分かっている。今の私の実力では、この剣の攻撃力に振り回されるか、性能を存分に発揮させてやる事ができないだろう。それを差し引いても、この剣を持つだけで、私の力は倍以上になるだろう。
『魔法剣』は、魔法は使えなくても魔力があれば剣の特性を引き出す事が出来る事は知っている。実際、私が持っている剣も火属性の魔法剣だ。冒険者時代から愛用している剣だが、『ブレイズソード』とは比べるのも烏滸がましい程、大した剣では無い。『ガストソード』も属性違いなだけで『ブレイズソード』に劣らぬ大業物だ。
その2本の剣が霞むほどの攻撃力の『ウシュムガルの剣』。本当にこんな凄い物を頂いてもいいものか・・・今回の私は、何も活躍できなかったというのに・・・
「その剣をあげるから魔人は粉々になって回収できなかったって話を合わせてね」と奥方様に言われた。
そういう事なら有り難く頂こう。これは買収されたのでは無い、交換条件なのだ。このパーティには魔人は必要なのだろう、そして私はこの剣が欲しい。そう、これは契約だ。決して買収された訳では無いのだ。
付録の様に付けてくれた収納バッグも、私が持っている収納バッグとは比べ物にならないぐらい収納容量が多いようだ。山で水が溢れたあの水が全部この収納バッグに入ってたらしい。もう使わないからと言われて付けてもらったが、本当にいいのだろうか。これだけの性能の収納バッグなら王都でもお目に掛かれない程のレアアイテムだと思うのだが・・・
このパーティはすべてにおいて規格外だ、私は必要だったのだろうか。
ただ付いて行っただけで大業物の剣やレアアイテムを頂いた。しかも非常に美味しい食事付き、お替わり無制限。
私は何もしてない。明日の朝まで時間はあるが、私の仕事は無いだろう。
せめて今日ぐらいは寝ずに警備をしよう。
必要ないかもしれないかもしれないが、それぐらいはさせてもらおう。




