第47話 甘い食材探し
夕食も終わり、女性4人とキューちゃんと妖精のパルが宿に入るとハヤテとオレだけになった。
もちろんボルトは影の中にいるけどね。
『主殿、魔人の件は如何なりましたか』
『あーそれね、ミランダリィさんの話では軍がやっつけてくれるって言ってたよ。ボルトも聞いてだろ?』
『聞いておりましたが、我の獲物を横取りされるのが我慢なりませぬ』
『いいじゃないか、魔人のいる場所って遠いんだろ? シルビア達が学校に行く事になったから、しばらくはこの町を拠点にしてやらないとな』
『むー・・・』
ボルトとしては納得していないようだ。
いいじゃないか、危険な魔人を他の人が倒してくれるって言ってるんだから。
でも、ヘソを曲げられたままでも困るから、ちょっと機嫌を取っておくか。
『じゃあ、オレから2つほどお願いがあるんだけど聞いてもらえるかな』
『御意、なんでしょうか』
『ライリィとルシエルの防具を造りたいんだけどウシュムガルの皮がもうあまり残って無いんだ。ウシュムガルかそれ相当の皮が欲しいんだよね。あと、何か甘いものを獲ってほしいんだ。何か無い?』
『御意、分かりました。ウシュムガルで我の憂さ晴らしをさせてもらいましょう。甘い物は我は知りませぬ』
ボルトは甘い物なんて、あまり食べ無さそうだもんね。
『ハヤテは知らないか?』
『自分も知りませんね。ウシュムガルっすか、いいっすね~、早速行きますか?』
やっぱり甘いものを知らないのか。この世界に砂糖ってないのかな?
ファンタジー世界では砂糖と風呂と電気が無いのが定番だからな。この宿には風呂が付いてんのかな? 女ばっかりのところに入って行くのもなんだから宿にはまだ入って無いだよね。
今度のレベルアップで浴槽でも出せるようにならないかな。
キューちゃんやパルなんか詳しいかもな。
『キューちゃん、何か甘い材料を知らない? 蜜とか砂糖とか』
キュキュ『蜂蜜は知ってるけど砂糖は知らないよー』
『パルはどう? 知らない?』
『うちか? 砂糖って何やのん?』
『砂糖か、そうだなぁ、サトウキビやてん菜って大根に似た野菜から穫れるんだよ』
『サトウキビは知ってんで、南の海の方にあるはずや。てん菜は知らんなぁ、甘い小さい大根やったら知ってるけどなぁ』
それだろ! 今のはマジボケか?
『その甘い大根ってどこにあるの?』
『たしか、東の森やったらどこでもあるんとちゃうかったかなぁ』
『へ~パルは良く知ってるな、物知りなんだな』
『ご主人様、それはちゃいますよ。名前を付けてもろたら進化しましたやんか。そんなら森の事がよう分かるようになりましてん。森に入るともっと分かると思うます~?』
最後は聞かれた? なんで?
『じゃあ、パル。ちょっと付き合って』
『らじゃ!』
なんでそんな返事知ってんの? 無線なんか無いだろうに。
キュキュ『ボクも行くー』
パルに続いてキューちゃんも宿から出て来た。
えーっと、ライリィ? シルビア? ルシエル・・・ミランダリィさんまで?
パルとキューちゃんに続いて皆出て来た。
『皆、どうしたの?』
「私も行くー」
「面白そうな事するんでしょ? なに自分達だけで行こうとしてるのよ」
別に楽しい事をする訳じゃありません。ボルトのご機嫌取りのついでに砂糖の元を採りに行くだけです。
『別に楽しい事をする訳じゃないんだけど・・・』
「でも、町の外に行くんでしょ? じゃあ、私達も付いて行くわ」
『でも、明日も学校だろ? 大丈夫か? 今から出て行くから門も閉まるし、明日の朝まで帰って来れないよ』
「大丈夫よー、眠くなったら荷台で寝ればいいんだから。馬車さんの荷台って結構寝心地がいいのよ」
そうなの? でもミランダリィさんって教育ママじゃなかったのか? こっちの方がミランダリィさんらしいけど。
『皆が行くのはいいけど、武器も防具も無いんだから荷台から降りちゃダメだよ』
「「はい」」
「私は持ってるよ」
『シルビアもダメ。イヤなら宿で留守番』
「はーい」
『それと眠くなったら我慢せずに寝る事。布団は出してやるからね』
「「「はい」」」
《【馬車主】のレベルがMAXになり【馬車王】になりました》
おお! レベルが上がるとやっぱり嬉しいね。
で、何になったって? 【馬車王】? 【馬車主】から点が1個無くなっただけ?
絶対ダメなやつだよね。馬車って付いてる時点で誰からも無視されるやつだよ。
「ご主人様、進化おめでとうございます」
え? ルシエルか。【馬車主】から【馬車王】に変わったのが分かったのか?
よく見てたな。オレでも分からないぐらいの変わり方だったのに。
ちょっとスタイルが良くなって、帽子をかぶっただけなんだけどな。ゴッド○ァーザーに出てくるようなベイリーハット。ずっと見てれば気付くかもしれないけど・・・ずっと見てたのか? 今も見てるな。 ほんと一途なんだな、でもちょっと怖いかも。
『ありがとうルシエル。でも進化じゃないんだ、レベルアップだから上位スキルになったって感じかな? でもよく気付いてくれたね。ありがとう』
「い、いえ・・・」
ルシエルは顔を赤くして俯いてしまった。
何があったのか分からない皆が、ルシエルに何があったのか問いただしていた。
やっぱり他は気付いて無かったよ。
でも、1人味方ができた気分だ。なんか嬉しいんだけど。
前に行った東のダンジョン前に行く事にして街道を南に走らせた。
前回同様、ハヤテが【疾風】で飛んで行く。
「行くぜー!」
ハヤテの掛け声と共にオレも一緒に空を飛ぶ。
初めてハヤテの【疾風】で空を飛ぶ3人、ライリィとルシエルとパルが大はしゃぎ。
怖くないのか? お前らは。
もちろんミランダリィさんも大はしゃぎ、「やっぱり付いて来て良かったわー」だって。
シルビアがライリィとルシエルに自慢げに色々教えていた。仲良くやってるな。
パルも大はしゃぎで飛び回っている。
お前って飛べるじゃん。ってか飛んでるし。というツッコミは辞めておいてやろう。
前回と同じく【ズーム】で【サーチ】してもダンジョン前しか安全地帯が無さそうだ。
これって前より増えてる気がするんだけど、気のせいか? 増えて無いとしても、前より少ないって事は無さそうだな。
到着と同時にハヤテの【バング】を外す。すかさずボルトが影から出て来てダンジョンと逆方面に疾走していく。
「あ! 汚ねーぜ旦那! 今回は自分がそっちに行きたかったのによー」
『早いもの勝・・・いや、主殿の命令だ。ハヤテは右側を頼む、そっちにもう1体おるようだ。キュートは左側を頼む』
「お? こっちにもいるの・・・おーいるねー、いるじゃん! よーし、こっちは任せろー」
キュキュ『こっちはー。あ! こっちも何か強そうなのがいるよー。やったー』
うん、君達喜び過ぎー。しかもなんか基準が変。
しかしよく分かるよな。オレも5キロ以内なら分かるんだけど、それ以上になると分からないんだよ。
今もボルトが右側にもいるとか、キューちゃんが何か強いのがいるとか。オレの【ズーム】では出て無いよ。
『シルビアは一応ダンジョン方面を警戒しててね。他の皆は絶対に荷台から降りちゃダメだぞ』
「「「はい」」」
シルビアも荷台から降りて行った。
オレは念のため結界だ。どこから流れ弾が飛んでくるか分かったもんじゃねーもんな。
荷台に乗ってるライリィとルシエルとパルはボルト達の戦いを見てもの凄く興奮している。しかもミランダリィさんの解説付き。
ボルトの雷魔法での雷撃の説明、ハヤテの【疾風】での風攻撃の説明、キューちゃんの七色の魔法の説明。
ライリィはボルトに釘付け。ルシエルはキューちゃんから目を離さない。パルは落ち着きなく飛び回って全部を見てるが、一番気になるのはハヤテの風魔法のようだった。
なんか師匠は決まった感じだな。
ボルト達がオレの視界から消え、それから30分してハヤテが戻って来た。
次にキューちゃん、最後にボルトが戻って来た。
たった、1時間半程度の戦闘で、ライリィとルシエルとパルのレベルが40を超えてしまった。
ただ、ステータスは上がったが、熟練度は何も上がって無い。戦闘には参加してないからね、当たり前だ。
「ボルト様ー! さすがだニャ~」
ボルトが戻って来るとライリィが走って出迎えた。
ボルトを待ってる間にルシエルがキューちゃんに土下座をして弟子入りしてたよ。
パルは「その風魔法、格好ええやん! 教えてもらったってもええで」って上から目線でハヤテに言ってた。
分かってるのか分かって無いのか、ハヤテも満更でも無さそうだったからノータッチだ。
『じゃあ、ハヤテと魔物の回収に行って来るから、パルは皆と甘い大根を探しててよ。サトウキビがあったらそれも回収ね。あと野菜もあったら頼むよ』
「どこに集めたらええの?」
『皆収納ボックスを持ってるよ』
「よーし、うちに任せときー! みんな行くでー!」
オレがハヤテと回収を終えるまで2時間掛かった。
どんだけってぐらい倒してた。しかも範囲が前の時より広範囲に渡ってた。
ウシュムガルは計4体いたし、キューちゃんが言ってた強そうな奴ってケツァルコアトルの事かな? 【鑑定】には『魔物の死骸』としか出なかったけど、解体したら『ケツァルコアトルの爪』『ケツァルコアトルの牙』『ケツァルコアトルの皮』『ケツァルコアトルの眼』『ケツァルコアトルの血』って出たからケツァルコアトルなんだろう。
回収から戻って来たら、それぞれ鍛錬してた。
ボルトがライリィに教えてるのってネコパンチじゃねーの? それでいいのか格闘家!
シルビアはミランダリィさんと剣術の稽古してるし、キューちゃんのとこはルシエルとパルが魔法を教えてもらってるのか、ルシエルはうんうん言う割に何も出て無いよね。
前にボルトが言ってたけど、魔物は体内の魔力を使うが、人間は周囲の魔力を使うので詠唱が必要だって言ってたよな。
それならMPっていらないと思うんだけど。詠唱に魔力が使われるのかな?
パルの周りに人魂みたいな青いのが浮かんでるんだけど、あれって何なんだ?
おお? 青い人魂みたいなのから風魔法が出てるぞ。しかも結構な威力じゃないか。
次は人間サイズが出て来た。あれもパルが出したのかな? おお! 今度はかなりの威力の風魔法だったぞ!
『パル、それってお前が出したのか?』
「そうやで、精霊魔法って言うんや。今、ハヤテさんに手解きを受けてたんや」
凄いな、こんなにちっちゃいのに戦闘力は高そうだぞ。レベルが上がった事が大きいんだろうな。
『それで? 野菜はどうなったんだ?』
「そや! それな、ボルトさんがご主人様が帰って来てからだって言って中断したんや。結構な量は穫れてんけど、なんか蜂蜜がどうとか言うてたで」
『蜂蜜! あったんだ。分かった、後はボルトに聞くよ』
「野菜はシルビアとルシエルが持ってるで。あ、ちょっとやけどサトウキビもあったでー」
『分かった、ありがとう』
「全部うちが見つけたんやでー。ご主人様、感謝してやー」
なんでちょいちょい上から目線なんだよ。ちょっとウザくなって来たな。
こんな所でサトウキビって・・・気候条件は完全無視なんだな。
オレは手に入れば文句を言うつもりは無いけど、もうちょっとオレの常識を尊重してほしいもんだよ。
シルビアとルシエルに野菜を出してもらった。
この短時間にどれだけ採ったんだってぐらいあったよ。
1つ1つがデカいからね、短時間で済むわけだ。普通は採るのに苦労するけど、このメンバーなら誰でもスパっと斬るからね。回収は収納だからライリィでもルシエルでもできるしね。
確かに少しだけどサトウキビがあった。てん菜も大量にあった。ついでに大根、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモもあった。
ボルトが5回、土を掬っただけらしい。一掬いで直径2メートルのクレーターができたらしいけど。
あのデカさだからね、前足もデカいしパワーもあるから。
もう食材だけで、このメンバーでも10年は行けそうだ。
全部、パルが見つけたんだよなぁ、確かに凄いと思うよ。あの言い方だと感謝したく無くなるけどね。
寝るのは街道に戻ってからと言って、ハヤテの【疾風】で街道に戻った。
ボルトの食事の催促で皆腹が減ったのを思い出し、夕食を食べると全員すぐに寝てしまった。
ボルトも満足したのか、すぐに寝たみたいだ。
ミランダリィさんは起きてる・・・な。
『ミランダリィさん、魔人の件ってその後どうなってるの?』
『分からないわ、もうトーラス伯爵の全部任せたもの。気になる?』
皆を起こさないように、ミランダリィさんも念話で返してくれる。
『そりゃ気になるよ。ボルト達も張り切ってたし。もう討伐には向かったの?』
『それは無いわね。まず斥候が出て、その報告にもよるけどこの町から3000人ぐらいの兵士が先発するはずよ。斥候の報告次第だけど、報告の内容次第では王都の軍も動くと思うわ。それもレジン山のあるワンワード王国次第だけど』
『どういう事?』
『ワンワード王国に出兵要請を送ったはずだけど、ワンワード王国が魔人討伐に出向かなければキュジャリング王国から軍が出兵するはずよ。だけど、ワンワード王国の国内だから、戦争と間違えられ兼ねないでしょ? だから魔人討伐の許可がワンワード王国から降りなければキュジャリング王国からの兵は国境を越えられないのよ』
面倒くさいね、今回の件は越境になる訳か。
『じゃあ、いつ頃になりそうなの?』
『ワンワード王国が動かなければ1年は掛かるわね』
『そんなに?』
『そりゃそうよ。だってこの町からでもレジン山まで3か月は掛かるわよ。ワンワード王国が行ってくれれば早いんだけど、たぶん行かないだろうしね』
『なんで? 自国のピンチなんだよ?』
『あの国は腐ってるの。国民の命なんてなんとも思って無い国よ。税率も70%を超えてたんじゃないかしら』
『よく暴動が起きないね』
『城にだけ屈強な兵士を置いて固めてるからね。冒険者もあまりいないと思うわよ』
そんな国には行きたくないね。オレなんてすぐにバラバラにされそうだ。
ま、今回は軍が動いてくれるって事だから、時間が掛かるかもしれないけど任せてればいいよね。
今は、この子達の教育が先だ。魔人が来たとしても、ボルト達が何とかしれくれるよね。
頼んだぞボルト! オレには無理だから。
そういえば中断って言ってたような・・・




