第45話 朝の話し合い
翌朝早くにルシエルがやって来た。視界に出ている時間ではまだ5時だった。
手には桶と雑巾を持っていた。
ルシエルはオレの傍に来ると桶を置いて一礼すると雑巾でオレを磨きだした。洗車してくれるようだ。
オレは別に汚れている訳では無い、毎日クリーンで綺麗にしている。
『おはようルシエル、磨いてくれるのかい?』
ルシエルは手を止め、姿勢を正して挨拶をしてくれた。
「おはようございます、ご主人様。差し出がましいとは思いましたが、他にお礼が出来る事もございませんので、毎日磨かせていただくことに致しました」
『別にお礼なんていいんだよ、オレの気まぐれだったんだから』
「そうはいきません。何から何までお世話になりっぱなしで、このまま役立たずでしたら何時見捨てられるとも限りません。少しでもお役に立てる事をお見せしないと」
ルシエルはそう言って洗車を再開した。
気持ちは嬉しいんだけどな、なんか勘違いしてるよな。
『ルシエル、話をしよう。荷台に上がって来れるか?』
ルシエルは手を止め、雑巾を桶に入れて荷台に上がって来た。
『あのさ、ルシエル。キチンと話をしてなかったから勘違いしてるようだけど、オレはお前を見捨てないし、奴隷として扱う事も無いよ。磨いてくれるその気持ちは嬉しいけど、何もしないからといって見捨てる事は無いよ』
「それでは私はどうしたらいいんでしょうか」
『何もしなくてもいいんだよ。将来、独り立ちできるようには育ててやるからさ、自分の思った通りにやってくれたらいいよ。今日から学校に行くんだろ? 学校に行けばやりたい事も見つかるはずさ』
「では、どうやってこのご恩をお返しすればいいのでしょうか」
『ご恩って・・・別に恩に感じなくてもいいよ。住むとこと飯と服は用意してやるからさ、やりたいようにやってくれた方がオレも楽だし』
「やりたい事はご主人様にご奉仕することでございます」
『・・・・・』
困ったね、もっと気楽にできないのかなぁ。
『そうだ、じゃあさ、シルビアの友達になってあげてくれよ。あいつオレと一緒で友達が少なそうだし、ライリィとルシエルでシルビアの友達になってあげてくれると嬉しいな』
「シルビア様とお友達でございますか?」
『シルビア様じゃなくてシルビアね』
「それは無理でございます。そんな事をすれば・・・」
『だから見捨てないって言っただろ? はい、シルビアって言ってみ』
「シルビア・・様・・・」
『言えてない。よし、初めての命令だ。シルビアって言え』
「シルビア・・・・」
ルシエルは目に涙を浮かべながら何とか「様」を付けずにシルビアと言った。
そんなに辛いのか? 呼び捨てにするだけだぞ?
『シルビアは別に主人でも無いんだからいいじゃないか』
「でも・・・」
『いいの。それにシルビアは8歳だぞ、ルシエルは何歳なんだ? 年下を呼び捨てにしてもいいじゃないか』
「私は12歳でございます。確かにシルビア・・・・は、年下でございますが、奴隷の私が呼び捨ては・・・」
『だから奴隷じゃないって。あ、奴隷紋か。それがあるから自分を奴隷って思っちゃうのか。何とか消す方法を探してみるよ』
「いえ、奴隷紋は消えました。ライリィの奴隷紋も消えてました。昨日、お風呂で確認しましたから」
ライリィは呼び捨てにできるんだ、同じ奴隷だからか。でも奴隷紋が消えたってどういう事なんだ?
『奴隷紋が消えてたの? なんで? いつ無くなったの?』
「わかりません。進化して目覚めてから無くなっている事に気付きました」
進化で消えるもんなの? 確かに進化の時にバチバチってなるから強力な何かが働いてるんだろうけど、奴隷紋って進化で消えるんだ。
ミランダリィさんも言ってくれたらいいのに、服を買う時にだってわかっただろうに。
そんなの気にしてないか、ミランダリィさんだもんな。
『じゃあ、尚更シルビアって呼び捨てにすればいいじゃないか。でもいきなりは難しいか。じゃあ、今日、全員揃ったらその辺の話をしようか。食事の前に皆を呼んできてくれる?』
「かしこまりました」
『・・・・・』
わかったよー、とかでいいんだけどな。おいおい慣れてくれたらいいか。
「それで・・・磨かせて頂いてもよろしいでしょうか」
・・・その奴隷根性を何とかしないといけないな。
『わかったよ。でも、後でちゃんと皆を呼んできてよ』
「かしこまりました!」
ルシエルは喜んで荷台から降りると洗車を再開した。
ここでクリーンなんか使っちゃったら泣いちゃうんだろうな。今度からルシエルがいない時にしようか。
ルシエルは1時間かけて隅々まで磨いてくれた。
磨いてくれるのは嬉しいんだよ、嬉しいんだけど何かオレの思ってるのと違うんだよな。
洗車を終えたルシエルが皆を呼んで来てくれた。
全員が荷台に上がったので話を始めた。
『皆おはよう。朝早くから悪いとは思ったけど、集まってもらったのは話があるんだ』
皆、上を向いてるよね。シルビアが上を向くから皆が上を向くのかな? オレは下なんだけどね。「神の声」的な感じなのかな? 確かにどこを見て話せばいいかわからないもんね。
『ライリィとルシエルとパルが仲間になってからキチンと話してなかったけど、3人は仲間だから主従関係とかは無しにしたいんだ。そりゃ『馬車の従者』って称号は消えないけど、オレの奴隷って訳じゃ無いって事だけわかって欲しいんだ』
「私はそう思ってたけど、なにかしたかしら?」
「私もー」
ミランダリィさんもシルビアもオレの考えと同じことを思っててくれたようだ。
ただ、朝早くからの呼び出しに、何か失敗したかと思ったみたいだ。
『ミランダリィさんもシルビアも問題は無いんだ。問題があるのはこっちの3人なんだ。どうも奴隷って考えが抜けないようでね、だから今日からシルビアって呼び捨てにしてもらう事にしたんだ。シルビアもそれでいいよな?』
「うん、大丈夫」
「それなら私もミランダリィって呼び捨てでも構わないわよ」
『そこは目上の人だから、せめてミランダリィさんにしようよ。敬意を払えないような子にはしたくないから』
「わかったわ、じゃあ今日からミランダリィさんって呼んでね」
ミランダリィがライリィとルシエルに向かって笑顔でウィンクをした。
「「はい」」
ライリィとルシエルも笑顔で返事をした。
『じゃあ、ライリィとルシエルもシルビアもお互いに呼び捨てで呼ぶように。もう仲間なんだからね』
「「「はい」」」
3人共嬉しそうに返事をしてくれた。ルシエルはまだ遠慮がちだけど、そのうち慣れてくれるだろう。
この世界に馬車として生まれてまだ1年も経って無いから0歳だけど、オレ自身は17歳だから年下に偉そうにしてもいいだろ?
『あと、ライリィがボルトの事をボルト様って言ってるよな。これも辞めるか?』
「そ・・・それは・・・」
今度はライリィが困って俯いてしまった。
『ボルトはどうなんだ? ボルト様じゃないとダメなのか?』
『いえ、我はどう呼ばれても構いませぬ』
影の中で聞いていたボルトが念話で返事をした。
『ライリィ、どうする?』
「それは無理なのニャ。小さい頃から雷獣様と言われて育ったのニャ。雷獣様を呼び捨てにはできないのニャ」
これは奴隷だからって訳じゃないか。それならいいかもな。
『わかった、ライリィとボルトの関係は2人に任せるよ。でも、仲間内で『様』付けは辞めような』
「「「はい」」」
皆、同意してくれた。
「じゃあ、馬車さんは何て呼ばれるの? ご主人様は『様』が付いているよ」
『好きなように呼んでくれたらいいよ。馬車さんでいいんじゃない?』
「ご主人様! それだけは許してください。ご主人様と呼ばせてください」
「そうなのニャ~、ご主人様はご主人様なのニャ」
「そやそや、そこだけは譲られへんわ」
シルビアの疑問に答えたオレが3人に責められた。
最後に偉そうなのが入ってたけど、オレはご主人様なのか。皆、従者だし、ボルトやハヤテやキューちゃんも主様とか主殿って言ってるしな。
『わかった、オレの事はご主人様でいいよ。でも、オレに対して遜る事は無いからな。オレもお願いはする事はあっても命令はしないようにするから。仲間だからね。そうだなぁ、リーダーって感じで思ってもらうのがいいかもな』
「そうだね、馬車さんってお兄さんみたいだもんね」
「確かにリーダーって感じね。うまい事言うじゃない」
シルビアとミランダリィさんが同意してくれた。
『オレからの話はこれで終わりだけど、折角だし皆から何かある?』
「はいだニャ」
『ん? ライリィ、なんだい?』
「武器と防具が欲しいのニャ」
「それはうちも欲しいー!」
「・・・私も欲しいです・・・」
『武器と防具がいるの? そうか、別に冒険者じゃなくてもあったほうがいいか。町を出ると魔物もいるしな。わかった、造っておくよ。どんなのがいいんだ?』
「わたしはナックルかニャ」
「うちは剣や! ほんで森の王者になったるんやー」
「私はなんでも構いません」
ちょいちょい出て来る森の王者って何なんだよ。ルシエルは謙虚だね、ライリィは拳系か、何があるんだろうね、武器屋に見に行ってみようかな。
『わかった、何かいい物を造ってみるよ。他は?』
無さそうだな。
『じゃあ、朝早くから悪かったね、朝食を摂って学校に行く用意をしようか』
「馬車さんのご飯がいい」
「そうね、ここの朝食が不味いとは言わないけど、馬車さんの料理は美味しいものね」
「ほんまやな、ご主人様の料理ってメッチャ美味しいもんな」
ライリィとルシエルも頷いている。シルビアの言葉に全員が賛同してしまった。
『仕方ないな、料理ぐらいは出してやるけど、ボルトも一緒の方がいいな。ハヤテに引いてもらって町の端に行って食べようか。学校にはそのまま送ってやるから、用意をしておいでよ』
「もう部屋は空ですよ。でも、朝食は断って来ましょうか」
「では、私が行って参ります」
ミランダリィさんの言葉にルシエルがすかさず動いた。
・・・ま、いいか。それぐらいなら気が利く子で済むか。
念話でハヤテを呼んで、ルシエルが戻って来るまでには出発の準備は整っていた。
幌馬車モードになって、朝食の為に町の端に向かって行った。
少し修正しました。




