第41話 宿にて
天魔人の子と妖精を連れて宿に入ったシルビアとミランダリィさんは、受付はいつものようにシルビアが行って部屋の鍵を貰って来る。
「今日は3人とキューちゃんと妖精さんがいて、ハヤテに厩を貸してほしいの」
「そうかい。じゃあ、部屋の方は1人銀貨5枚で従魔は小型だから銀貨3枚と。あ、獣魔はお風呂はダメだからね。あと厩舎の方は1頭で銀貨3枚だよ」
大部屋でいいね、と言って女将さんが部屋の鍵を出す。
「・・・・じゃあ、・・・6人だから6枚ね」
シルビアは受付で金貨6枚を渡す。
「ちょ、ちょっとシルビアさん、宿代は1人銀貨5枚なんだよ? これ1枚で足りるんだよ」
受け付けにいた女将さんが金貨を1枚持って見せる。
「足りるの?」
「そうだよぉ」
「よかった」
「部屋の鍵を貰って行くねー」と言って金貨を6枚渡したままシルビアは走り去る。
「え? ちょ、ちょっとー。いつもいつも、いいのかねぇ」
銀貨100枚で金貨1枚だから6人分だとしても銀貨30枚。小型従魔の料金や厩の料金は銀貨3枚なので、凄く払い過ぎている。
シルビアは剣技や魔法の詠唱は得意だが計算は大の苦手、お金も銀貨100枚で金貨1枚分になるとか意味がわからない。大人とも話をあまりしたくないので、お金を置いたら鍵を取ってすぐに去っていく。
実は他の町でも同じことをしていた。
ミランダリィはというと、魔人に攫われてから一文無しなので支払いはすべてシルビアに任せて受付には行かず、入り口で待っている。
鍵を持って来たシルビアと合流して部屋に入る。部屋は大部屋でシルビア、ミランダリィ、天魔人の子、キューちゃん、妖精が同じ部屋で泊まる事になった。
先に食堂に行って食事を済ませ、部屋に戻って来る。
宿には大浴場があったので、女3人で入る事にした。妖精とキューちゃんは部屋で留守番だ。
天魔人の子が「私はお風呂は結構です」と言っていたが、「ここにはあなたのご主人様はいないわよ。遠慮すること無いから一緒に行きましょ」とミランダリィに言われ、天魔人の子も渋々だがお風呂に入る事になった。
天魔人の子は胸にある奴隷紋を見られたく無かったのだが、ミランダリィもシルビアもそんな事は気にしていない。逆にシルビアからは「格好良いね」と言われていた。
大浴場だという事で、他の客がいないかと天魔人の子も心配したが、3人以外には誰もいない事を確認し、ホッとした。
この宿は冒険者が良く使う宿なので、一般客は少なかった。女冒険者自体、数が少ないので今日はこの宿にいる女冒険者がいなかったのだろう。いても違う時間帯に入ったのか大浴場は3人で貸し切り状態となっていた。
3人が風呂に行ってる間、部屋にはキューちゃんと妖精が残っていた。
妖精が奴隷の首輪をどうやったら外れるんだろうかと触っているとキューちゃんから声を掛けられた。
キュキュ『その首輪も可愛いねー、あるじ様からもらったのー?』
「なんや、あんたしゃべれんの?」
『しゃべれるよー。ボクはアンタじゃなくてキュートだよー』キュキュー
「キュートなんや、可愛らしい名前やな。うちは・・・妖精や」
妖精は名前を思い出せなかったので、仕方なく妖精と名乗った。
キュキュ『あるじ様に名付けてもらったんだー。妖精さんかー、この首輪もあるじ様にもらったんだよー』
「あんたも奴隷か? うちの首輪とちょっとちゃうな、いや大分ちゃうやんか! それメッチャええ首輪やんか! うちのはアカン、これ早よぅ外したいねん」
キュキュ『はずしたいのー?』
「そやねん、はずしたいねん」
『じゃあ、はずしてあげるねー』キュキュキュー
キューちゃんが闇魔法と光魔法の複合魔法で、妖精の首輪に向かって集中する。
妖精の首輪が黒く怪しく輝いた後、眩しい程白く光輝いた。
パッキーン! 妖精がしていた奴隷の首輪が真っ二つに割れた。
キュキュ『しっぱいー、壊しちゃったー』
「え? ええ? えええ? 取れたやん、首輪が外れたやん。マジか! やったー! うっひょー」
妖精は嬉しくて、キューちゃんに抱きついて部屋中を飛び回って喜びまくっている。キューちゃんにも何度も何度もキスをしている。
「キュートおおきに。ほな、うち行くわ」
キュキュ『どこに行くのー?』
「どこにて・・・・・どこやろ?」
妖精は考え込んでしまった。どこに行ったらいいのか分からないのだ。
それを見たキューちゃんは、首輪が壊れて悩んでいると勘違いした。
キュキュ『首輪はあるじ様に言えばもらえるよー』
「ん? えっホンマに? そんな可愛いもんが貰えんの? ほんならここにおってやってもええかなぁ」
キュキュ『ここにいるのー?』
「そ、そやな、そんなんが貰えるんやったら、おってやってもええで」
『やったー、ボクより小さい仲間ができたー』キュキュキュー
「ち、小さいて。キュートもそんなに変わらへんやん」
『ボクの方が大きいよー』キュキュ
「ちょっとだけやんか」
キューちゃんが体長25センチ程度、妖精が体長15センチ程度。確かに少しキューちゃんの方が大きい。キューちゃんの大きさでも妖精は跨って乗れそうな大きさだ。
『でも、ボクの方が大きいモーン』キュキュキュ
「ぐぬぬぬ、そや、さっき名付けてもろたって言うてたなぁ」
妖精はこれ以上大きさの話をされたくないので話題を変えた。
『そうだよー、あるじ様に付けてもらったんだー』キュキュキュー
「ええ名前やな。うちにも付けてくれへんかな」
『付けてくれるよー、あるじ様なら絶対付けてくれるよー』キュキュー
「ホンマに!?」
『うん!』キュキュ
「ホンマか~」
2人の間で妖精の名付けが決定してしまった。
3人が風呂から上がり部屋に戻って来るとミランダリィが収納バッグから部屋着を出して天魔人の子に貸してあげた。
「少し大きいみたいだけど宿にいる間だけだから、それを着てるといいわ」
「ありがとうございます」
この収納バッグはトーラス伯爵から貰い受けてたもので、中には着替えが入っていた。冒険者ギルドで待っていた時に貰っていたようだ。
ミランダリィが天魔人の子と話をするようなので、シルビアはキューちゃんと妖精と遊び始めた。リアルお人形遊びになってる。
「あなたこれからどうするの?」
ミランダリィから天魔人の子に話を切り出した。
「もちろんご主人様の奴隷として・・・」
「そんな事は馬車さんは望んで無いわよ」
天魔人の子が言い終わらないうちにミランダリィが口を挟んだ。
「では、どうすれば・・・私には帰る所もありません。このまま放り出されても生きていけません」
天魔人の子は少し涙目になっていた。
「そうね、馬車さんはあなた達のレベルを上げて解放してあげるつもりでいるようだけど、そうじゃないわよね・・・。そうだわ、いい事思い付いた。あなた達学校に行けば? 馬車さんの所に残してきた子も同じぐらいの年頃みたいだし、シルビアちゃんと一緒に学校に行けばいいのよ」
「学校・・・・・」
今まで学校なんか自分には縁が無いと思っていた天魔人の子は、自分が学校に行けるのかもしれないと想像すると自然と笑顔になってくる。しかし、そんな筈は無いと首を振ってそんな妄想を打ち消した。
学校と聞いてシルビアがピクッと反応する。
「学校はイヤ」
シルビアがボソッと呟いた。
その言葉が聞こえたミランダリィが今度はシルビアに説教を始める。
「シルビアちゃん、あなたエイベーン王国では飛び級で王立上級学校に行ってたみたいだけど、お友達はいなかったって聞いてるわよ。5歳から王立上級学校に行けばそうなると思うけど、そのせいで今でも大人とも上手く会話できないじゃない」
ミランダリィは見抜いていた。勇者の子で素質も高いシルビアを周りがチヤホヤするのは仕方が無いとして、明ら様なお弁茶羅を使って来る貴族には、大人も子供もいた。
そんな貴族相手にあの正義感と責任感の塊のようなマクヴェルの子が上手くやって行けるとは思って無かった。
シルビアの大人への受け答えや冒険者ギルドでの対応を見てミランダリィはそう確信していた。
「シルビアちゃん、あなたは1人でよく頑張って来たと思うわよ。でもね、やっぱりお友達は必要よ。この町なら上級学校は無いみたいだけど、中級学校は立派な物があるみたいよ。せっかく馬車さんが2人のお友達を連れて来てくれたんだから、一緒に行けばいいじゃない」
子供を持つミランダリィは学校の事にも詳しく、メキドナの学校についてもある程度知っていた。
エイベーン王国の王都エイベランにもキュジャリング王国の王都キュジャーグにも王立学校があった。王立学校は5歳~9歳の下級学校と10歳~15歳の上級学校に分かれていた。
地方の町では上級下級といった分け方はせずに8歳~15歳までの子が纏めて通う中級学校だけになっていた。クラス分けは年齢より能力によって分けるので、同じ年代という訳にはいかないが、だいたい同年代のクラスになる。
それ以外にも王都なら更に上級の魔法学校や剣士学校と、他にも騎士が入隊する前に1年だけ通う予科練校があった。
地方都市にはそこまでの魔法や剣術の専門学校は無く、中級学校の1クラスとして用意されていた。
普通科、魔法科、冒険科の3クラスに分けられていた。
このメキドナの町では領主のトーラス伯爵が育成に力を入れており、中級学校には農業や酪農を教える教科もある。
授業は午前中の4時限だけ、教科を選べる専攻制になっており好きな教科を選んで授業を受ける事が出来るが、月末には試験がある。専攻した分だけ試験もあるので、大半の子はメインとなるクラスの他は3つまでに抑えていた。試験に落ちると単位が取れないので、魔法科や冒険科のクラスの子は専攻を1つもしない子もいた。
「どう? シルビアちゃん」
「学校はイヤよ」
「でもね、シルビアちゃん。この町ならあなたの事を知ってる人もいないし、変な事にはならないと思うのよね。それにこの子達も学校に行かせたいと思わない? あなたが学校に行くって言えばこの子達も一緒に学校に行けると思うんだけどなぁ。お友達も沢山できると思うわよ~」
ミランダリィはシルビアの正義感の強さを揺さぶってみた。
シルビアが天魔人の子に目をやると、天魔人の子はニヤ~っと笑ったかと思うと首を振り俯いてどんより暗くなってるかと思うと、またニヤ~っとして笑ってまた首を振っての繰り返しをしていた。
見てはいけないものを見た気がしたので、視線をキューちゃんと妖精に移す。
シルビアは天魔人の子に話し掛けるのを辞めて、キューちゃんと妖精を見ながらミランダリィに答えた。
「・・・・お、お友達はいるもん」
「そやで、うちとシルビアはもう友達になってんでー」
キュキュ『ボクもシルビアの仲間だよー』
シルビアに見られた妖精とキューちゃんが主張してきた。
「あなた達は人間じゃないでしょ。人間の友達の事を言ってるの。それにね、シルビアちゃん。馬車さんも賛成してくれると思うんだけどなぁ」
ミランダリィは更にシルビアに追い打ちをかける。シルビアが懐いている事をよく知ってたから馬車さんという名前を出した。
「馬車さんも? 馬車さんも賛成してくれるかなぁ」
「そんなの当り前よー、絶対賛成するに決まってるわよ」
ミランダリィが、シルビアに言った馬車さんというフレーズが止めとなった。シルビアも学校に行く気になったようだ。大人びてはいるが所詮は子供、大人のミランダリィの口車に乗せられてしまった。
「あとはこっちの子ね」
ミランダリィがそう言って天魔人の子を見た。
「この子も学校に行く気にはなってるみたいだけど名前が無いと学校に行けないわよね」
「うっ・・・」
天魔人の子は一気にどん底に叩き落されたように落ち込んでしまった。
「それなら馬車さんに頼めばいいと思う」
「そうやそうや、うちも明日名付けてもらう事になってんねん。一緒に名付けてもらったらええやん」
もう名付けは完全に決定事項になってるようだ。シルビアの提案に妖精が乗っかってきた。
キュキュー。横でキューちゃんもうんうんと頷いている。
「それなら明日トーラス伯爵の所に行って頼んでくるわね。服も足らないわね、明日みんなで買いに行きましょう」
ミランダリィは自分が無一文だという事も忘れて買い物の提案をした。
「さ、それで話は終わりね。寝る前にシルビアちゃんは私と稽古よ」
「はーい」
シルビアとミランダリィは宿に泊まると寝る前に必ず剣の稽古をしていた。
シルビアの方がステータスは遥かに高かったが、技のバリエーションはミランダリィの方が豊富で、基礎しか習って無いシルビアには得る所が多かった。
その日は天魔人の子も加わり1時間程稽古をした後、もう一度3人で風呂に入って就寝した。
少し捕捉しました。




