第37話 再び尋問
ハヤテが捕えて来た魔人はボルトが【影操作】で拘束している。
魔人は目を回していて、まだ目覚めていない。
その間に倒した3人の魔人をハヤテがくわえて集めて来てくれた。
もちろん収納。
チャッチャカチャッチャチャッチャカチャッチャジャーーン!
《魔石(特大)を手に入れました。あと2個です》
え? なんで? 魔人は3人いたじゃん。5個集まったんじゃないの?
《2人分の魔石は壊れていて手に入れられませんでした》
キューちゃんの倒したのは確かにボロボロだったから分かるけど、ボルトとハヤテは大して傷付けて無かったぞ。
《ボルトの一撃は、ちょうど魔石を破壊していました》
あ、そうでしたか。でもほんとかなぁ、怪しいなぁ。
『主殿、そろそろ始めても宜しいでしょうか』
『もう? この魔人に仲間を呼び出させるんだよな』
『御意』
嫌なんだけどなぁ。
元々オレは好戦的じゃないんだよ、保守派なんだよ。前にオレが死んだときの記憶映像を見て思い出したけど、あれだってホントは逃げたかったんだよ。自分の身ぐらいは守れると思ってちょっと余裕を見せてたら、なんか逃げ遅れてた奴らから「早くやっつけろよ」とか「なにやってんだよ、主席の実力を早く見せろよ」とか言われてイライラしてるとこに、片想いだった遥香ちゃんも逃げ遅れてたから格好つけて前に飛び出しただけなんだよ。ホントはガタプルだったけど、誤魔化すためにポーズなんか取っちゃたりしてさ。
そしたら遥香ちゃんが目を煌かせてオレを見て来るし、1つミサイルを防いだら歓声が上がるし、気持ちが昂ぶって来ちゃってさぁ。『たかが荷馬車分際で!』なんて言っちゃってさ、調子に乗ってやり過ぎちゃっただけなんだよな。あんなのオレのキャラじゃねーっつーの。普段は学校が終わると、どこにも寄らずに真っすぐ帰って部屋に籠ってったよ。ネトゲもやったし、スマホゲーもやったし、SNSではオレは女だったもんな。もちろんファンタジー小説も読んだし、呪文の詠唱を部屋でやってポーズも決めてたよ。今思い出すと恥ずかしい過去だなぁ、顔があったら真っ赤になってただろうな、馬車で良かった。Orz
パソコンは3台あって、モニターは9台使ってたもんな。え? 今と一緒じゃん。まさかそれも原因の1つだったりする?
卒業後は軍関係希望だったけど、前線じゃなくて事務方の希望だったしね。だから主席を維持して行きたくも無い学校に行ってたんだよ。首席で卒業したら給料はいいし、配属先も選べたからね。あの事故が起こるまで実戦なんかやった事なかったしな。
あー、そうそう魔人だったな、長く考えすぎてボルトが尋問を始めようとしてるよ。どうすんだよ、誘き出すのは絶対イヤだぞ。あ、オレって主だから命令したらいいんだよな。
『その魔人で他の魔人を誘き出す作戦ってさ、辞めない?』
『何故でしょうか!』
『えー、なんでっすかー?』
キュキュ『なんでー、あるじ様ー』
皆、大反対なんだ。なんでそんなにやる気なんだ? 魔物ってこういうもんなの?
『だって、ここって町の近くじゃん。シルビアだってミランダリィさんだっているから危険だし、町に被害が出たらミランダリィさんにも迷惑が掛かるじゃないか』
『では場所を変えればよいのですな』
どうしてもやりたいのね。
『いや、そうじゃなくて・・・。じゃあさ、前みたいに尋問してさ、こいつらのアジトを聞き出すってのはどう? なんか敵のアジトを見つけて隠れながら1人ずつやっつければ安全じゃね?』
『おお! 流石は主殿。それは思いつきませんでした。敵陣に乗り込み壊滅させるのですな。想像するだけで胸が躍りますな』
いや、壊滅って。胸も躍りませんから。
『それいいっすねー、特攻隊長は自分っすよ。1番乗りは渡さねーっすからね』
ハヤテ、ちょっとキャラ変わって無い? そっちが地か、元々そんなキャラで丁寧に話すと変な感じになってたんだな。
キュキュ『ボクもボクもー』
キューちゃんはいつからそんなに好戦的になったんだ? あ、初めからそうかも。見た目は色違いだけどポメラニアンに似てては可愛いんだけどなぁ。顔はちょっとポメラニアンより丸めだけど。ポメラニアンの子犬って感じが似てるか、足も短いしね。
キューちゃんも不思議な存在なんだよなぁ、カーバンクルの【新種】って事だけど、こういう時ファンタジー小説ではよく【亜種】って出るんだけどな。【亜種】ってオレのいた世界では劣化版って意味もあるけど、どうなんだろ。出会った時の姿が本来のカーバンクルの姿なのかな? でも初めも【亜種】だったよなぁ、カワウソみたいで細長かったもんな。それなら今と全然違うから【新種】ってなったのかな。
町の近くでは辞めようという意見にはボルト達も賛成してくれて、今は移動している。
町に被害が出ると困るからでは無く、もし魔人の仲間を呼ばれたら町の方から人間の邪魔が入るかもしれないし、この周りの魔物は雑魚ばかりで暇潰しもできないからだって。うん、今は魔人に集中しようね。
来た道を少し戻って、街道から逸れて行く。港町ベイナンとは海岸続きだが、大分離れてるし周りには誰もいない事も確認できたし海岸に出た所で魔人を起こす事にした。
移動中の魔人はボルトの【影操作】により影ごと移動している。ボルトはオレの影の中。魔人自身の影を利用しているので、ボルトはオレの影に入ってても問題無いらしい。魔人はまだ目覚めて無い。
ハヤテには引っ張ってもらってるし、キューちゃんはシルビアとミランダリィさんと一緒に荷台で寛いでいた。シルビアとミランダリィさんの膝の上を行ったり来たりしている。2人でキューちゃんの奪い合いをしてるみたいになってるよ。キューちゃんは可愛いからね、わかるよその気持ち。
海岸の砂浜でハヤテの【バング】を解き、キューちゃんも御者台に上がりいつでも魔人に攻撃できる体制になる。シルビアとミランダリィさんはオレの荷台の上。
準備万端になり、ボルトに魔人を起こしてもらった。
魔人は前回同様、砂浜から顔だけが出ている状態だ。身体の殆どはは影の中で拘束されている。
「ギャ――!」
悲鳴を上げて魔人が起きた。
また刺したんだね、荒っぽいけど確実だし、この後の尋問にも有効だもんね。
こいつの名前はエイト・キューベックだった。さっき魔人の中心になってしゃべっていた奴だよな。さっき倒した魔人はエイティーン、サーティーン、シックスティーンだったな。魔人を5人倒して、こいつで6人目か。
初めての1桁だな。やっぱり数字が低い方が強いって法則になってるのかな? そのあたりも聞いてみたいな。
『おい魔人! もうお前は逃げられはせんから、我が主殿の質問に正直に答えるのだ』
質問はまたオレがするんだね。
「・・・・」
魔人はボルトを睨んだまま目を逸らさない。さすがに1桁の魔人は前の奴の様にベラベラしゃべりそうにないのかな。数字が低い方が格上って法則は合ってるのかも。
『エイト・キューベック、お前達のアジトを教えてくれない?』
前にナインティーンからある程度聞いてるし、ストレートに聞きたい事を聞いてみた。
「・・・・・。」
魔人は黙っている、話す気が無いんだろうか。
「ギャ――!」
『すぐに正直に話さぬか! 主殿が質問しているではないか』
また刺したんだな、痛いんだろうなぁ。
「アジトが何処かですってぇ~? そんな事を教えるはずがないわよねぇ」
魔人は余裕ぶって答えている。ただ、その余裕の顔が急に変わり始めた。
「クンクン、もしやここは」
魔人の顔色は元々緑色なので、変わってるかどうかはよく分からないけど、匂いを嗅いだ後の魔人は明らかに焦り始めているよな。
「クッ!」
『ほぉ、今のを耐えるとは、お主中々我慢強いの』
ボルトが刺したのに耐えたんだ、前の奴とは違うなぁ。でもさっきより狼狽えてるなぁ、何かあるのか?
『アジトが何処か教える気はないのか?』
「・・・場所を、場所を変えてくれたら教えぬわけでもない」
場所? こいつこの場所が嫌なんじゃ・・・
明らかに焦ってるよな。匂いを嗅いでたよなぁ・・・磯の香か? 海か、海が苦手なんじゃないの? でもそんな魔物っているの? まぁ、物は試しだ。
『ボルト、こいつをもう少し海に近づけられる?』
『御意』
「ななななに言ってんのぉ、私はここから動かないわよぉ」
そんな事はできないよね、影ごと捕まってんだから。ボルトが影ごと魔人を海に寄せて行く。
「なななにやってんの! 動かないって言ったじゃない! わ、わかったわよ、言う、言うから止まって! お願い~」
『ボルト、止まって』
『御意』
影が止まると魔人はフーっと息をついた。顔中汗だらけになっている。
『さ、言ってもらおうか。アジトは何処にあるんだ?』
「ワンワードの更に西のレジン山の中よ」
余裕ぶって話してるけど、初めの頃の話し方の様な余裕はないみたいだな。
でもどこそれ? 地名で言われても分かんないよ。あ、分かんなくていいんだ、分かんなかったら行かなくてもいいんだもんな。
『地名だけ聞いても分からないな』
『我が知っております。ワンワードというのは分かりませんが、レジン山は存じております』
なんで知ってんだよー、知らなくていいんだよ。
「私もワンワードなら分かるわ。メキドナの町から西へ行った国ね。レジン山って言ったら『彷徨いの森』の中じゃ無かったかしら」
ミランダリィさんも知ってるのかーい! それってそこまで付いて来るって事か?
「そうよ、『彷徨いの森』の中にある山だわ」
『そこに魔人は全員いるの?』
「だいたいは全員いるわねぇ」
『そいつらに念話で助けを求めないのか』
「こんな、うみ・・・いえ、私のプライドが許さないわ」
今『海』って言おうとしたよね。魔人は全員海が苦手なのかな?
『お前達の名前は数字みたいだけど、数字の小さい方が強いのか?』
「数字? わからないけど、魔王様が付けてくださったのよ。先に名付けられた方が魔王様に先に選ばれてるんだから、強くて格も上よ。あ、イレブンだけは別だったわね」
数字を知らないのか? この世界の数字の呼び方とは違うのかもな。イレブンが別格ね、これは覚えとこ。
『じゃあ、今まで見た魔人は全員キューベックって名前が付いてたけど、意味があるの?』
「それは魔王様のお名前よ。魔王様のお名前は・・・」
ギャ――――!!
魔王の名前を言おうとしたエイト・キューベックが悲鳴を上げて黙ってしまった。口と鼻から煙が出ている。
『主殿、申し訳ございません。どうやらこの魔人は死んだようです。魔王に魔石を破壊されたと思われます』
《ちっ》
え? ナビゲーターが舌打ちした? ホント人間みたいなとこがあるよな。
『死んじゃったのか。じゃあ、オレが収納しておくから影から出してよ』
『御意』
エイト・キューベックが影から出されたので収納&解体。この魔人ってオレの料理の素材で出されてるのかな?
《魔人は食べられません。武器・防具・薬・アイテム素材には全身余す事無く使えます》
なんかホッとしたよ。オレが食べる訳じゃ無いけど、食べたいとも思えないよね。
全身余す事無く使える素材って・・・また造ってみよ。