第31話 魔人化
「皆下がれ!」
ギルマスのゲーリックが階段下の魔人化したゲルバから皆を守るように前に出る。
ゲーリックの手には大きな大剣が握られている。
あ、この人も収納を持ってるのか。
さっきまで人間だったのになんで魔物になったんだ?元に戻せないのかな?
『ボルト、人間が魔物になっちゃった、これってどうなってんだ?』
オレの【鑑定】では『魔物(人族)』ってなってた。
『なりかけの事でございますな、確かにそういう気配が致します。我が排除いたしましょう』
『これって元に戻せないの?』
『戻せなくはありませんが・・・』
『戻せるんだ。どうやって戻すの?』
『まずは大人しくさせて・・・』
あ、もう遅い、ギルマスが攻撃に入っちゃったよ。
ギルマスが大剣を振るう。ガリガガッ!
狭い階段だから上段切りで振るった大剣が天井に当たる。ギルマスはそんな事は気にせず上段から大剣を振り切る。
威力の落ちた大剣が魔人化したゲルバを襲う。大剣はゲルバの左肩口に食い込むが幅広の大剣の半分程度食い込んだだけだ。
『まずは気絶させればいいのね?』
さっきのオレとボルトの念話を聞いていたシルビアが尋ねてきた。
『ボルトそうなのか?』
『御意、ただ後が面倒なので、このまま排除した方がいいのではないかと』
『面倒でも助けられるんなら助ける』
ギルマスは更に魔人に詰め寄り膝蹴りを浴びせた。
魔人が後ろに蹴り飛ばされる事で大剣を肩口からはずす。
そこにシルビアが割って入り鞘から剣を抜かず、鞘の状態のまま魔人化したゲルバの鳩尾を突く。
ボスッ!
グウゥゥゥー
苦しむ魔人になったゲルバが前屈みになる。シルビアはその横を素早く抜けて、鞘のまま首の後ろに振り降ろす。
ズガーーン! ゴーン。
屈んだ所をシルビアに上から打ち降ろされたゲルバは、そのままの勢いで床に顔を打ち付けその体勢のまま動かなくなった。
そこにギルマスが大剣を振り降ろす。
ガッキーーン!
ギルマスの大剣をシルビアが鞘のままの剣で受け止めた。大剣が鞘に食い込むが中身は攻撃力1400の『ウシュムガルの剣』である、剣を折られる事無く受け止めた。そのままゲーリックとシルビアが睨み合う。
「何をする」
少し間をおき大剣を防がれたままのギルマスのゲーリックが尋ねる。そこには邪魔をされた怒りや大剣を防がれた悔しさや驚きも無く、ただ尋ねてきた。
「助けるの」
なんかこの2人似てるな。全然違うタイプだと思ってたんだけどな。
「わかった。そっちはどうする」
ゲーリックが気絶したゲルバの後ろで苦しんでいるゲルバ冒険団の方に目を向ける。
「こっちも助けたい」
「わかった」
納得した? 何その剣と剣で語り合った的な。どこに説得力があったんだ? 2人して口角を片っぽ上げてニヤついてんじゃねーよ。
「こいつらを縛り上げろ!」
ギルド内にいる冒険者や職員に向かってゲーリックが叫ぶ。
ギルド内にいる者は全員注目していたようで、ギルマスから声が掛かると慌ててやって来てゲルバ冒険団を縛りあげていく。
「それで嬢ちゃん、こいつらをどうやって助けるんだ?」
「知らない」
「アーサー! こいつらを助けろ」
必殺マルナゲ~!? &ムチャブリ~? アーサー事務長も大変だなぁ。普通はここでシルビアに「知らないのか!」とか突っ込みが入る流れなんじゃないの?
「はい、わかりました。それで、どうやって助けるんですか?」
「そんなもん私が知ってると思うか?」
「そうですね、調べてみます。拘束はきちんとお願いしますよ」
「ああ、ちゃんと見てる」
ここでもマルナゲ~? 見てるだけっすか。ま、こっちの事は任せとこうか、さっきボルトが何か知ってるみたいだったし聞いてみよ。
『ボルト、大人しくしたみたいだよ。後はどうするんだよ?』
『後は魔力を流した者を見つけ出し排除すれば元に戻るはずです』
『魔力を流した者?』
『普通、魔物になる動物は魔素の濃い場所で長い時を過ごすか、魔石を吸収することで魔物になります。魔人になるためには魔物が進化を何度も何度も重ねたり、大量の魔石を取り込んだり、通常とは大幅に異なる事が切っ掛けで進化をした者が魔人や魔獣になります』
ボルトも魔獣だもんな。切っ掛けはオレの名付けって事かな?
『じゃあ、こいつらは魔物なの? 魔人なの?』
『【なりかけ】でございますな、しばらく放っておくと魔人になるか、破裂するか。雑魚の4体は破裂するでしょうな』
『魔人になりかけ? だから【なりかけ】?』
『左様に』
『これも雷獣の知識?』
『御意、人間の場合の例は知りませんが、魔物の場合と今回のものは重なります』
『じゃあ、こいつらは魔石を大量に取り込んだとか?』
『此奴らの場合はどちらにも当てはまりません。此奴らは【魔人の種】となる魔石を植え付けられて、その種となる魔石に魔人が魔力を流し種が発芽したようです。魔人になれずに破裂する魔物を何度も見ている記憶があります』
こいつらは造られた魔人って事か。魔人になり切れなかったら破裂するって怖えーなぁ。
『その時も魔人がやったの?』
『御意』
ボルトのご先祖様は色んなもんと戦ってたのね
『あれ? じゃあ、その【魔人の種】になってる魔石を取ってやればいいんじゃないの?』
『発芽してしまっては取れなかったと思います』
『じゃあ、助けられないのか?』
『発芽の為に魔力を込めた者を倒せば魔人化が治まるでしょう。それから魔力が少なくなるまで待てば種となっている魔石も取りだせるでしょう』
なんか面倒くさいなぁ。またこいつらに面倒掛けられるの? もういいじゃん放っておけば。
『こんなのボルトが死なない程度にチョイチョイっと魔石を抜いてやってキューちゃんに治してもらえばいいんじゃないの?』
『おお! そんな手がありましたか!』
え? 行けるの?
『治せるの?』
シルビアも治せる方法がわかって念話に割り込んで来た。
『治せるが・・・むむぅ。しかし・・・』
『治せないの?』
『さっき主殿の言った方法で治せるのだが、それをやってしまうと町の外にいる魔人が逃げてしまうではないか。・・・勿体ない』
そっち? いや勿体なく無いって。ボルトはバトルをしたいだけだろ? でも治してしまったら目を付けられないか? 結局バトル? 戦えないオレなのに周りでバトルって多く無い?
『結局バトルなら先にやっとく? 今なら場所もわかるんだろ?』
『御意、それではお言葉に甘えまして』
『ずりぃーぞ、ボルトの旦那。次は自分の番じゃねーか』
キュキュ『あるじ様~、ボクも~』
『キュートは昨日やったではないか。次は我の番だ。今、主殿からの許可を貰ったのを聞いておったであろう』
『誰でもいいよ、じゃあ先に町の外の魔人からだね』
キューちゃんを肩に乗せたまま【馬車主】を冒険者ギルドから出した。
キューちゃんを荷台に乗せ門に向かって出発した。
『あれ? なんでシルビアもいんの?』
『私も行くの。仲間でしょ』
いつの間にかシルビアも荷台に乗っていた。
ま、いいか。
いつもの東門から出て南へ向かって走る事3分。え? こんな近いの?
『主殿、では行って参ります』
『魔人は何人いるの?』
『1体のようでございますな』
『わかった、気を付けてね』
ボルトは影から出ると東の森の中へ走って行った。
念のため、ハヤテも【バング】をはずして待機させる。
オレは緊急時なら【潜行】で隠れられるし、今は自走でも50キロで走れる。
【ズーム】で確認できる半径5キロ以内にはいないようだ。
ボルトがオレの【ズーム】の範囲から出たと思ったら光った。たぶんボルトの雷魔法かな。
チャラチャラチャーン
《戦闘経験値が上がりレベルが63になりました。地図を出すことができます。各ポイントがアップしました。》ゴトン!
《【フェロモン】が2強化されました。》
《火魔法【種火】を獲得しました。》
あ、レベルが上がった。ボルトが勝ったんだ。
フェロモンまだ増えるんだ。124/100って100超えてんだけど。【馬車主】が人には認識されないのにフェロモン出すと魔物がどんどん寄って来るってか、なんじゃそりゃ。種火って今更な気もするね、使う時も無いと思う。強すぎでも弱すぎでも無く封印って、役立たずの力を手に入れたってことだよな。
ボルトが魔人をくわえて戻って来た。
『こいつが魔人?』
『御意』
青い色した180ぐらいの奴で、両腕には鱗があった。指の間には水掻きがあって魚の下半身の様な尻尾も生えていた。
ま、いいや。収納っと。
《解体しますか?》
そうだなぁ、後で見せろって言われないか? あ、知ってる奴いないからいいのか。
『解体するよ』
チャッチャカチャッチャチャッチャカチャッチャジャーーン!
おお! ちょいファンファーレっぽい。
《魔石(特大)を手に入れました。あと4個です》
なにが? あと何まで魔石4個なの?
《5個溜まった時に分かります》
いや、教えてくれよ!
《5個溜まった時に分かります》
ええー、こいつ教えてくれる気無いわ。どうせ期待しても叩き落とされるだけだからいいんだけどねー。だから教えて?
《5個溜まった時に分かります》
ダメだこりゃ。




