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第3話 バーゲスト

まずやるのは自走だな。

歩くイメージって言ってたよな。

1歩前へ進む。ゴロ。続けて2歩目、ゴロ。

おおおおお! 動けてますよーオレ凄くない? 馬車が1人で動けるんだぜー!? これをファンタジーと言わずして何と言う。


少し動く練習をしたけど、人がゆっくり歩く程度では動けるみたいだな。

減るのはSP。SPは少ししか回復してなかったから大して練習できなかったよ。

ハーネスを動かすのもSPが減ったよな? ハーネスの為にもSPは温存したいのになぁ。

しかし動けた、少しなら方向転換もできた。方向転換の時に多めにSPを削られて練習終了となったけど、方向転換できるのは大きいよな。真っすぐしか動けないって落とし穴過ぎるだろ。そんな罠にはまらずに安心したよ。


もちろんその後も色々試したよ、時間だけはたっぷりあるんだから。

SPが上がるのは大体だけど1秒に1個上がるみたいな感じだったな。【鑑定】で確認している間は現在進行形で動くのでそんな感じだったよ。


今回の分は一晩でLP・MP・SPは全回復した。約11時間、ネコが去って夜明け前にフルメーターになったよ。

画面の右下に小さく日付と時間をナビ子さんに貰ったのもこの時だったな。


時間はわからないのか?って聞いたら

《初期オプションにあります。どれにしますか?》って画面のどの角に表示するかだけだったけど、時間に煩い日本人のオレとしては嬉しかったね。

しかも、時計を付けた時からLP・MP・SPのMAXまでの時間って表示がそれぞれのバーに足されたもんね。こういう時のナビ子さんはいい仕事してくれると思うよ、ホント助かります。


LP回復と共に、あっちこっちへこんでいたパーツも修復されていた。

もうパーツでいいです、馬車ですから。


その後にも自走はもちろん試したさ。【移動経験値】を稼ぎまくってやるぜーってSP満タンにしてから試したんだけど、SPが空になるまでやったのに全くレベルアップしねーの。

ナビ子さんに聞いてみたら


《【自走】の場合は時速10キロ以上から経験値が入ります。【牽引】の場合は時速1キロからでも経験値は入ります。》だってさ。


時速10キロ以上って無理ゲー過ぎるっしょ。だって、計測速度の1/10がもらえる事になってるみたいだから、100キロ以上出して初めてもらえる自走速度だぜ? ムリムリムーリー。100キロを出せる生き物っていると思う?


少し無茶もやったんだぜ? 坂道を上ったのさ。坂道を登っても、速度もSPの減り具合は変わらなかったから、そこは得したと思ったさ。登り切った所から駆け下りてやったんだ。SPも消費しないからいい手だと思ったんだよなー、上る時は。

すんごい怖かった、もうやんね。ブレーキが取れなかったのが悔やまれたな。

でも、このナビ子さんの説明なら少しは経験値が入ったって事なんだな。

でももうやんね。紐無しバンジ―やってる気分だったよ。


他ではフェロモンは戦闘経験値でしか上がらないみたいだから、どうやって魔物をおびき寄せるかが、今後の課題だよね。

またネコ系が来ないかな、遊んでやるのにな。今度は【ウィッシュ】をもっと試してやろう。カラクリが分かったからもっとできるはずだ。しかも熟練度もホーンタイガーの時より上がってるしな。


オレはやればできる子だったはずだ。覚えてないけど多分そうであってほしい。



魔法も試した、【クリーン】って魔法があったからね。


魔法が無い世界の人間にとっては、科学VS魔法って無いじゃん。やってみたいよねー、あ? こっちにはたぶん科学が無いのか。上手く行かないね。


魔法は簡単だった、『クリーン』って念じただけで発動された時には驚いたね。

科学の世界出身のオレには嬉しすぎるスキルだよ。

でも人間だったらこうは行かないんだろうな、馬車で良かったよ。いや良くないけど。

呪文を唱えたりするんだろ? そんなの覚えられる訳が無い! 絶対の自信を持って宣言してやるよ。

【クリーン】の効果も熟練度1にしては使える方だろうな。そこそこ綺麗になったから。


次の獲物(引いてくれる奴)が現れるまでヒマ過ぎー。


やる事も無いのでハーネス遊びとクリーンの魔法を使ってたら、どっちも熟練度がMAXになったよ。

クリーンは10でMAXになって終わったけど、ハーネスはMAXになると【(バン)()】が派生した。

【バング】は、ただの紐だったハーネスより引く者をしっかりとつなぐための馬具で、首輪の様になっており引く者の負担も少なくしてくれるものだったよ。

拘束力も強くて余程の事が無い限り振り解けないだろうな。

ハーネスの紐もレベルがMaxになったことにより、滑らかな皮の様に頑丈な手触りの良い紐になり、長さも5メートルまで伸縮できるようになって荷台の後方まで届くようになった。これで荷台のケアも万全だ、何も無いけどね。


収納も何度も出し入れしたよ。そりゃ暇だからね。【鑑定】と共にやってたよ。

出しては【鑑定】。【収納】してまた出しては【鑑定】。

こっちは【収納】から【亜空間収納】に進化したよ。進化した時は嬉しかったねー、これでオレも勇者の仲間入りだって思ったもんさ。だって召喚勇者の定番能力じゃん! って思ってた時はオレも若かった。どう足掻いても武器を持つことも攻撃することもできねーしーという思いに至ったのはすぐ後だったよ。

でも人間だったら便利だったのになぁと思うと切なくなって来たな。馬車のオレが持っててもなぁ、オレには荷台もあるしな。



準備はできた。さぁ魔物くん、いつでもいらっしゃ~い。この馬車を引かせてあげよーじゃないか。ホーンタイガーが逃げて行ってからもう1か月経つよー。

と思うと中々来ないんだよね、あ! いたー! 犬だ、犬なら引けるんじゃない?

こっちへ来いこーっちこっち。カモ~ン。

フェロモンフェロモン出ーろ出ろフェロモーン!

そんな事を言ってもフェロモンが出る量は変わんないけど気分だよ、よーわ気分なの。


犬が近付いてくる毎にシルエットも大きくなってくる。

途中で現れた魔物が一撃で倒されている。


うん、君はもうそれ以上来なくていいよ。帰って、帰ってくれー、こっちへ来るんじゃなーい。フェロモン出るなー!


めっちゃデカかった。ホーンタイガーの倍以上あった。

初めの日の夜に出会った犬なんか目じゃない。真っ黒い毛をして額に一筋の白い毛が生えており、より精悍な顔つきに見える、見えるから余計に怖い。口から血を垂らしてるし。怖ぇ~よ。


種族:バーゲスト(魔獣)LV41

【鑑定】レベルが上がってるからすぐに出た。


レベル41っていきなりハードルが高すぎませんか? そんな設定、普通のRPGではありませんよ! ここは死んだふりだ。でも【鑑定】だけでもしとこ。


【鑑定】

名前: なし

分類: バーゲスト(魔獣)LV41

HP:30/2540 MP:240/2511 ATT2774  DFE2423 SPD2977

スキル:【鑑定】5/10【魔法】6/10【変身】4/10【念話】6/10

魔法:【火】1/10【水】4/10【木】5/10【土】7/10【雷】4/10【氷】4/10【闇】5/10【眷属召喚】

ユニークスキル:

称号:



4ケタってやっぱ強ぇーじゃねーか。パスパス、パス1ー! パス3までOKだろ? 普通そうだよな? 頼むよー、スルーしてくれー。


でもこいつ傷だらけじゃね? 口から出てる血は自分の血か。弱ってんのか? よーしそれならって無理無理無理。

オレの魔法ってクリーンしかねーし、攻撃方法なんかねーし。あ、防御方法も無いよー。

レベルアップの時、結界取っときゃよかったぜ。あーあ、これでオレも死ぬんだな。あ、死なねーって言ってたな、振り出しに戻る的な? ならいいじゃねーか、どんと来い! いや、無理です、やっぱ怖いっす。


犬の魔獣バーゲストはオレのとこまで来たら車輪にもたれかかって休んでいた。

魔獣の方が大きいのにと思ったら、1メートルぐらいまで縮んでいた。

あ、【変身】ね。小さくなれるんだ。


『お主、なぜ黙っておる。』

『え?』

話せるの? なんで? 魔獣と馬車がしゃべるって意味わかりません。


『やはり話せるのだな、なぜ馬車の振りをしておる。』

あ、『え?』って言っちゃったね、バレたみたい。この世界に来てナビ子さん以外と話すのが初めてだから、つい強めに出ちゃったよ。

馬車のフリじゃなくてマジ馬車なんですけど。


『どうした、何か話さぬか。』

『あ、あんた、怪我してるのか?』

『ようやく話したか。そうだな、怪我をしたな。死ぬかと思ったわい。』ガッハッハッハー


いえ、笑いの要素はまったくありませんでしたよ。


『一体何があったんだよ?』

『地龍の縄張りに誤って入ってしまってな、普段ならそんなミスはせんのだが今日は慌てていたんでな。』

『ち、地龍!? 龍ですかー?』

『流石に逃げるのが精一杯だった、この子を抱えていたからな。』


そう言って小さな女の子を見せた。人間の女の子のように見えた。

ストレートのプラチナブロンドのロングヘアでブルーの瞳に透き通るような白い肌。身長だけを見ると5~6歳かな? と思ったが大人びて見える子供だった。将来は凄い美人になりそうだ。

でもなんで魔獣が人間の女の子を連れてるんだ?

しかも龍って。龍ってラスボスか弱くても中ボスぐらいは強いんじゃねーの?


『その子は人間の子供か?』

『この子は武人の子だ。誰の子かは言えぬが(われ)が従者として仕えていた方の子だ。(あるじ)に頼まれ逃がして連れて来た。今から群れに連れて行くところだ。』

『そ、それで、群れに連れ帰って、ど、どうするつもりなんだよ?』

まさか食うとか言わないでくれよー。


『育ててやろうかと思ったのだが我には無理のようだ、後の事を頼んでもよいか。』

『ん? どういうこと?』

『この子を育ててやってくれ。』


はいー? どういうことでしょう。馬車に子供を育てろと? できる訳ねーだろ! 絶対にお断りします。


『そんなもん無理に決まってるだろ! オレは馬車なんだぞ。』

強気で言っちゃったよ。でも、そんな事無理に決まってるじゃん。


『そうは言っても、お主にしか頼めるものがおらん。』

『そんなこと言っても出来ないもんは出来ないって。それよりその傷は治らないのか?』

『このままだと時間は掛かるな。しかしどうしようもあるまい、回復できる薬も魔法も無い。自然に治るのを待つしかあるまい。』


この世界での初会話の奴が困ってるんなら助けたいな。

今、思い浮かんだ方法は【回復(ヒーリング)地帯(ゾーン)】だな。ただ、これは今使えないからレベルアップして取らないといけない。こいつに引っ張れる体力があるのかどうか。


『あんた、オレを少し引っ張って移動させられないか?その傷じゃ無理か・・・。』

『なんだ移動したいのか、簡単な事だ。』

『簡単って…あんた怪我をしてるだろ? だから治せる方法を考えたんだ。』

『移動すれば治してくれるのか?』

『ああ、たぶん出来ると思うよ。』

『じゃあ、こいつを使え。』


バーゲストが【眷属召喚】でウォーグを出した。

召喚されたウォーグも2メートルを超える黒い大きな犬の魔獣だった。

すげーな、そんな事もできるんだ。それでも龍には負けるんだ。絶対龍には出会わないようにしよう。


『もうこれで何も出ないぞ。後は勝手にやってくれ。』

『わかったよ、じゃああんたはオレの荷台に乗っててくれ。乗れるかい?』


バーゲストは【眷属召喚】でMPを使い切ったようだった。なんとか荷台に乗ったバーゲストと子供を確認して、ウォーグにオレの手の間に来るように命令してみた。

話せはしないがバーゲストを通して分かるようで、尻尾をブンブン振ってオレの思い通りに手の間に来てくれた。バーゲストが中継をしてくれているんだろうな。


【バング】をウォーグに付けたあと、引っ張るように命じる。尻尾を振り過ぎて1回で【バング】を付けられなかったよ。

ウォーグは軽快に走り出した。ホーンタイガーにも劣らない速さで広い場所をひたすら走って行く。


荷台を映している画面に映っているバーゲストが気になって話しかけてみる。

さっきから全然動いて無いんだ。気を失ってる奴を見た事も無いし、全然動いて無いからまさかと思って声を掛けた。


『お、おい。大丈夫か? さっきの話しなんだけど、なんで武人の子を育てる気になったんだ?』

『・・・・・・。』

『おい、聞こえてるのか? 気を失ってるだけか? おい! 返事をしろよ。』

『・・・・・・。』


【鑑定】結果、『バーゲストの死骸』と出た。ステータスは出なかった。


『おい! そんなのって無いよ、今走り出したところじゃないか。もうすぐレベルアップするから、そしたら回復できるようになるから。この子はどうするんだよ! 起きろよー!』


もうバーゲストからの返事は無かった。そのことを知らずに横にいる武人の子供がバーゲストにもたれて眠っている。

この子はどうするんだよー、馬車のオレにどうしろって言うんだよー。


それからウォーグをいつまでも走らせた。


早さはホーンタイガーに少し負けていたが、いくらでも走れる感じだった。さすが犬。

途中に出会う魔物もウォーグが簡単に倒していく。

ウォーグは昼頃まで走り続けた。


「お腹がすいた。」っていう武人の子供の声でウォーグを止めた。


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