第29話 伝言
ミランダリィがシルビアを椅子に座らせ話し始める。
事の始まりはミランダリィの旦那である勇者の1人、テルイン・サークルフォーの従魔ズラトロクが持って来たメッセージで事態が動き始めた。
「今から魔王を倒すため異空間に入る」「魔王の配下の魔人達が放たれた」「勇者の子供が狙われている」
3人の勇者達の従魔が持って来たメッセージだ。勇者達の従魔に長いメッセージを話させる事は出来なかったから短いメッセージをそれぞれに覚えさせた。従魔に少しだけ人語を話させる【伝言】というスキルをテルイン・サークルフォーが持っていたのだ。
初めにミランダリィの夫テルイン・サークルフォーの従魔ズラトロクが来た、雷系で羊を大きくして少し細くしたような魔物だ。次にホワイト・スクエアフォーの従魔ペリュトン、鹿の様な魔物で翼が生えている。最後にブルーラン・デルタフォーの従魔マフートがやって来た。虎の魔物だが虎なのに異様に首が長い魔物だった。
その3人の勇者の家族は王都キュジャーグに住んでいたが、それぞれの従魔登録はしてあるので、従魔は王都キュジャーグに入り勇者の家族の元までメッセージを届けた。
メッセージを届けた従魔達は勇者の家族の安全を確認するとすぐに勇者の元に戻って行った。
メッセージを受け取った勇者達の家族は城に行き、王へ報告に上がった。
メッセージは3つ。「今から魔王を倒すため異空間に入る」「魔王の配下の魔人達が放たれた」「勇者の子供が狙われている」
このメッセージを城の文官が解析し、『今から魔王討伐の為に異空間へ入るため、戻って来れない恐れがあるのでメッセージを送った。魔王から命令を受けた魔人達が人間界に放たれた。魔人達への命令は勇者の子供達を排除若しくは誘拐する事』と読み解いた。
あともう1人の勇者マクヴェル・クロスフォーの従魔もメッセージを持っていると思われるが、それは勇者の子供を狙っている目的を持たされているのだろうと判断された。
テルイン、ホワイト、ブルーランの家族は王都キュジャーグにいるが、マクヴェルの子シルビアだけはエイベーン王国にいる。そちらにもメッセージは届いているだろうが、マクヴェルの妻でありシルビアの母はもう亡くなっていていない。誰かをシルビア保護のため向かわせる事になった。
王都キュジャーグなら城にも魔物対策の強力な結界が施してあるし、魔人が来たとしても破られるものでは無い。
そこで腕に覚えのあるミランダリィが先走り、シルビア保護の為にこちらにやって来たという訳だった。
勇者に王に魔王に魔人ですかい、オレには付いて行けねーわ。
んー、でもちょっとおかしいな。この町から見て王都キュジャーグは東だ。オレ達が来たエイベーン王国は北だろ? なんでミランダリィは南の港町の方向から来たんだ?
『シルビア、ミランダリィは何で南から来たの? しかも王都キュジャーグに向かうために北へ向かって来たんだろ? 進行方向が無茶苦茶だ。シルビア保護の為に北へ向かうのはわかるけど、王都キュジャーグから来たのなら東から来るはずだし、途中で魔人に捕まったとして何で南からなんだ? そもそも王都から来て王都に向かうってのも変な話だ』
シルビアが指と身体を右や左に向け考えている。あ、投げた。放棄しやがった。
女性はこういうのが苦手な人が多いとは言うけど、そんなあからさまに投げるなよー。
「シルビアちゃん何をしてるの?」
「北が南が・・・よくわかんない。ミランダリィさんはどうして南から来たの?」
「あーそういう事。王都キュジャーグからエイベーン王国に向かうには南の港町ベイナンを迂回して来るのよ。東の森の魔物はレベルが高すぎて普通は通らないわよ」
「でも、今回の依頼は南の港町ベイナンから王都キュジャーグに向かうミランダリィさんの護衛だったよ」
「それはおかしいわね、東の森を通れるルートなんてあったかしら」
コンコン
「もういいかな? 儂もシルビアさんとは話がしたくてね。」
しびれを切らしたトーラスが入って来た。
「はい、もう結構です。話は終わりました」
「さっきの話で気付いたんだが、シルビアさんは勇者様のご息女だったのかい?」
「ええ、この子は勇者マクヴェル・クロスフォーの娘ですわ」
「やはりそうだったか。それならあの強さにも頷けるというものだ。それを早く確かめたくてね、そっちの話しが終わったらすぐに聞きたかったのだよ」
「その事は内緒にしてくださいね。それよりもトーラス伯爵、私が港町ベイナンから王都キュジャーグに向かっていたって聞いたんですが」
「うむ、内密の件は承知した。ルートに関しては確かに儂もそのように聞いている。だから儂の所に寄越したのだと思っていたんだが」
「どういう事でしょう」
「そうでしたな、儂の所に来たのは貴方に偽装した魔人でしたな、初めから説明しましょう。儂の治める東の森には王都キュジャーグに続く秘密のルートがあるのですよ、冒険者のAランク以上の者には教えるようにゲーリックにも言ってある。あ、ゲーリックというのは冒険者ギルドのギルドマスターの事です。有事の際には王都キュジャーグへスムーズな連絡ができるようにするためですが、特殊なルートのため極少数の者にしか教えていません」
「魔人はそれを知っていたのでしょうか?」
「そうかもしれませんし、東の森を抜けて行く気だったのかもしれません。魔人ですからな」
「確かに魔人なら東の森の魔物ぐらい簡単に倒すでしょうね」
それなら護衛なんかいらねーじゃん。なんで護衛を付けたんだろう、しかも低いランクの冒険者ばかりだったはずだけど、しかも1日交代とか。
「護衛に意味があったのでしょうか、シルビアちゃんが護衛を受けたと聞きましたが」
「護衛としては意味は無いでしょうな。何か別の理由があったのでは無いでしょうかな、例えば何かをカモフラージュするためと考えると意味はありますな」
「カモフラージュ・・・・」
! ミランダリィが何か閃いたようだ。
「王都キュジャーグに入るため・・・・」
「むう、それならミランダリィ様に偽装した事も、護衛を付けた事も頷けますな。東の森を抜けて行くにはミランダリィ様だけだと力不足で疑われますからな。王都に入るためにもミランダリィ様に偽装していれば入門もできるでしょうしな。」
「私の冒険者カードも無くなっているので魔人に取られたのでしょうね。やはり目的は王都に入るためだったのでしょう。でも、いつから見張られていたんでしょうね」
冒険者カードを持ってるんだ、勇者に剣を教えたって言ってたしな、はっちゃけた奥さんだなぁ。
確かにミランダリィの正体を知った上での拉致だったみたいだよな。王都を出たとこから見張られてたんじゃないの?
でも魔人はなんで南に戻らなかったんだろ? まさか海が嫌いとか言わないだろ? そんな事は無いよなぁ。
トーラスの提案で冒険者ギルドのギルマスと相談しようという事になった。
本来は領主のトーラスの元にギルマスを呼び出すのだが、詳しい話し合いをしたい時は秘書か事務長でないと話にならないので依頼の取り消しの説明もあるし皆で冒険者ギルドに行くことになった。




