第26話 魔人
装備を整え宿を抜け出した。キューちゃんが先導してシルビアが走って付いて行く。首輪の丸い飾りが走りにくいかと思ったが案外邪魔になってない、後ろに回してるし揺れて無いから。
首輪の飾りが揺れて無いからキューちゃんが走りやすいようになっている。サンの腕が良いというのは評判通りだった。
町の中心部の大きな屋敷ばかりの区画に入り、宿から20分の距離にその屋敷はあった。
キューちゃんの案内でミランダリィ・サークルフォーがいると思われる屋敷に着き門の前に立った。
大きな屋敷だったので馬車でも通れる門があり門番もいた。
門の前に立ってると敷地内から門番が出て来て門の向こうから声を掛けて来た。
「おや? 可愛いお嬢ちゃんだねぇ、この屋敷に何か用かい?」
ガタイの良いおっさんだったがシルビアが小さいから特に警戒もせず優しく聞いて来た。
「うん、ミランダリィ・サークルフォーさんに会いに来たの。」
「あぁ、あの奥方様の知り合いかい? お嬢ちゃんのお名前は?」
「シルビア」
「シルビアちゃんね、聞いてきてあげるからちょっと待っててね」
門番はそう言って屋敷の中に入って行った。
少し待つとさっきの門番と一緒に執事の様な男が出て来た。
「あなたがシルビア様ですか、ミランダリィ様にお会いしたいと伺っております。旦那様からも入門の許可がでましたので、お屋敷までご案内いたします。どうぞお入りください」
シルビアを執事が先導してくれて屋敷に入れてもらった。キューちゃんはシルビアの頭の上に乗っている。どっちも可愛い。
「では武器はこちらでお預かりいたします。お帰りの時にはお返しいたします。」
屋敷に入ると執事が言って来た。
実はこの武器、『ウシュムガルの剣』だった。もう造っていたのだ。
今日町に入る前に既にシルビアの装備は剣も防具も全部ウシュムガル系に変えていた。地龍の装備はシルビアが収納している。
シルビアは執事に剣を渡し、部屋まで案内される。案内された部屋は20畳はあるだろうと思われる広い部屋で、調度品や装飾は見ただけで最高級の物だと分かるものばかり。
そんな部屋でミランダリィ・サークルフォーがシルビアを迎えてくれた。
その横にはこの屋敷の主であると思われる50ぐらいで白髪交じりの男と、同年代ぐらいの奥様と思われる上品そうな女性がいた。
「いらっしゃい、シルビアちゃん。遊びに来てくれたのね」
「こんばんは」
ミランダリィに挨拶をして屋敷の主人に向き直り挨拶をした。
「初めまして、冒険者のシルビア・ク・・・シルビアと申します。急な訪問をお許しいただきありがとうございます」
シルビアはクロスフォーの名前を言いかけて辞めた。
「ほぉ、その年でしっかりとした挨拶ができるんだな、大したもんだ。儂はこの屋敷の主、トーラス・バインド・メキドナだ。いい教育を受けてるようだな」
確かにしっかりした挨拶だったが頭にはキューちゃんが乗っている。可愛さ倍増で更に子供扱いされている。
「まぁまぁ、しっかりしたお嬢さんだ事。私は妻のフランソワーズよ、よろしくね」
「この子はこう見えてもAランクだそうですよ」
ミランダリィが説明してくれた。
「ほぉー、それは凄いな。私はゲーリックとも知り合いなんだ。彼からそんな事は聞かなかったなぁ」
「それは今朝昇格したからだと思いますわ。ちょうど私が依頼に行った時にその話が出ていましたから。それでシルビアちゃんに護衛の依頼をしましたの」
「それは大したもんだ。その年でAランク冒険者とはなぁ、これは将来が凄く楽しみだな」
「ええ、私もそう思ったから今のうちにお知り合いになっておかなくてはと思って依頼をしたんですの。それに可愛いでしょ? 道中にこんな可愛い子が一緒なら楽しそうですものね」
「確かにその通りだ。今度は儂の護衛も依頼することにするか」はっはっは
トーラスは上機嫌だ。
「それで今日は遊びに来てくれただけ? 何か打ち合わせでもあるの?」
ミランダリィがシルビアに尋ねる。
「ちょっと聞きたい事があるの」
「なぁに?」
「ミランダリィさんは私の事を覚えて無い?」
シルビアは朝からモヤモヤしてたから直球で質問をぶつけた。
「シルビアちゃんの事? 今朝初めて会ったわよね?」
「シルビアって名前も?」
「私の知り合いにはいなかったと思うわね」
「あなたは誰?」
「な、何を言ってるの? 私はミランダリィよ」
「うそ、サーシェリー・キューベックって名前は?」
「なーにあなた、【鑑定】したの?」
「私はしてない」
「ふーん、仲間がいるのね。じゃあ、殺すより捕まえて仲間をおびき寄せる方がいいかもねぇ」
「奥方様? 急にどうしたんだ。何を言ってるんだ?」
シルビアとミランダリィのやり取りを横で聞いていたトーラスがミランダリィに声を掛ける。
「お黙り! 今この子としゃべってんだよぉ、邪魔するとあんたも殺しちまうよぉ」
ミランダリィの肌の色が緑に変わって行く。肌にも鱗が出て来た、目も蛇のような目になっている。
「うおっ! なんだ!? 魔物か! 警護隊ー!」
主の叫び声に執事が飛んで来た。
部屋の中の様子を見た執事が玄関に向かって叫ぶと奥様のフランソワーズに向かって助けに走る。
「バレちまったらしょうがないねぇ、こいつらもあんまり強く掛けすぎると使い物にならなくなっちまうから弱い【誘惑】しか掛けてなかったのにショックで元に戻っちまったじゃないか。責任を取ってもらうよ」
「自分で勝手に変身するからでしょ。ミランダリィさんはどうしたの!」
シルビアは【収納】から地龍の剣を出した。
「なんだい、あたしとやり合おうってのかい。ほーほほほ、あたしも舐められたもんだねぇ。本物は馬車で眠ってるよぉ、あたしの【麻痺】と【誘惑】でねー!」
執事の声を聞きつけた警護隊が5人やって来た。
「ま、魔物だー! 行けー!」
「邪魔をするんじゃないよ!」
シルビアに攻撃をしようとしていた魔人は部屋に入って来た警護隊を水魔法で吹っ飛ばした。死ななかったようだが悶絶したり気絶したりして戦闘復帰は望めそうもない。
「さっきから魔物魔物って煩い奴らだね。あんな下等なものと一緒にすんじゃないよ、あたしは魔人だよ、魔人サーシェリー・キューベック様だー!」
更に続々と警護隊はやって来る。が、入って来る警護隊は次々に水魔法で吹っ飛ばされている。
キュキュ『ねーシルビアー、ぼわーんってやっていーい?』
『ぼわーんって火って事?』
キュキュ『うんー、だってこいつ火が苦手みたいだよー。』
『んー、ここで火はダメかなぁ、おうちが燃えちゃうもん。』
キュキュ『じゃー、なにならいいのー?』
『何がいいのかなぁ、燃えなければいいんじゃない?』
キュキュ『わかったー、じゃあやっていーい?』
『そうね、いいよー。周りの人に当てちゃダメだよー』
『やったー! じゃあ行くよー』キュキュキュー
警備隊が次々にやられている間、シルビアとキューちゃんで緊張感の無い会話をしている。
キューちゃんが魔法を放った。
森の中で見せた水を練り込んだ重い風の複合魔法を10個出し一斉攻撃。
ブシュッ! バシュッ! ブシッビシッバシバシバシ・・・・
「うおっ!」
間髪置かずに氷魔法で拳大の氷の礫が10個、氷の礫が魔人に襲い掛かると同時に手足が凍って行き魔人の動きが鈍る。
ゴンゴンゴゴンゴゴンゴン・・・・ピキピキピキ
「ぐおっ!」
更に間髪置かずに土の槍が10個出て魔人を襲う。
グサッドスッグサッグサッドシュッ・・・・
「ぐおああ!」
最後に四方八方から雷が魔人を囲み雷撃が魔人を襲った。
ピカッー! バリバリバリービリビリー
「ごおおおあああー」
キュキュ『これ以上やっちゃったら魔石が壊れちゃうねー』
『じゃあ、あとは私がやるね。』
シルビアが瀕死の魔人に突っ込んで行き、地龍の剣を一閃! 首をはねた。
シュバーッ! ゴトン。ドサッ
魔人の首が床に落ちた。身体の方も倒れた。
「す、凄い・・・・。」
「む、無詠唱・・・・。」
「ま、魔法・・・・。」
「た、たすかった・・・・。」
屋敷の主、奥様、執事、後続で入って来た警護隊の面々が呟く。
「これってどうすればいいのかなー。」
シルビアが魔人の死体を剣でツンツンしながら呟いている。
「「「・・・・」」」