第201話 ゲートの扱い
誤字報告ありがとうございます。
勇者様たちが全員目覚めるのを待って説明を始めた。
全員、馬車人の『回復地帯』でダメージは回復している。
『魔王を倒してはいけない事情』『魔王自体は外の世界に対しては何もできない事』『魔人が脅威で無くなっている事』
馬車人が説明する中、途中マクヴェルさんやテルインさんから質問が入るが、まずは最後まで説明する事ができた。
納得できたかどうかは別問題だが、説明だけは全部した。
まず『魔王を倒してはいけない事情』については、魔王が入る事によってその魔王の統率力などにより魔物の力は上がってしまうが、そのお陰で魔素が人間界にも流出し、その魔素を使う事によって魔物も生まれてしまうが魔物の体内にも魔石ができる。
魔物という危険は生じるが、その恩恵は魔物の肉や素材や魔石でプラス材料の方が多くなると説いた。
何より、魔王が倒されると、魔素が薄くなり、魔法自体も使えなくなる恐れもある事を説明した。
今の人間界で魔法が使えなくなる、魔道具が使えなくなるという危機感を勇者様達は理解をしてくれた。
『魔王自体は外の世界に対しては何もできない事』については以前ブレインから説明された事を伝えた。
魔王になると『魔王の玉座』と契約をする。
そうする事で力は1.3倍になると説明すると「おおお」っと勇者様たちがどよめいたけど……1.3倍ってそんなに凄い?
その代わりに玉座から離れられなくなるので魔王が人間界に来る事は無いのだと伝えた。
『魔人が脅威で無くなっている事』については、もう討伐済みである事だけを伝えた。
魔人のトップはブレインで、そのブレインがオレの従者である事を言うと話がややこしくなりそうだったから。
魔王の側近にも魔人はいる。最高幹部と呼ばれる五人もいるが、そいつらも玉座との契約で魔界から出られない事も付け加えて説明した。
後は、この世界が人間界とは時間軸が違う事も伝えた。
勇者様達は、この魔界に入ってまだ一年も経ってないそうだが、人間界では既に十年以上経っている。
その説明した時が一番ショックが大きかったようだ。特にマクヴェルさんなんか『シルビアがもう十六歳!? 娘の成長を見逃してしまった……』と、ガックリと項垂れていた。『すぐに帰るぞ!』とも言ってたからね。
シルビアが五歳の時に別れたっきりだから気持ちは分かるけど、こうなると勇者様も普通の人間なんだなぁと感じてしまう。
そして、オレの説明に納得が出来た人も出来なかった人もいるが、全員で帰る事に決定した。
マクヴェルさんは帰る派。当然シルビアに会いたいのが最大の理由だ。
ブルーランさんは残る派だったが、さっき敗れてしまったので、戻って修行のやり直しだ。と反省していた。
修行しても魔王を倒しちゃダメですよ。
テルインさんとホワイトさんは中立派で、戻る事は賛成だが、家に帰るかどうかは決め兼ねているようだ。
マクヴェルさん以外、キュジャリング王国の王都キュジャーグに家族がいたはずなんだけどな。
何人か会った事はあるけど、バカ貴族みたいな横柄な息子達だったな。シルビアの件もあって会う前から嫌いだったけど、会ってもっと嫌いになったよな。
でも、なんで家に帰るか迷う事があるんだろ。と思っていると、勇者とはいえ冒険者みたいな生活である今の気楽さをもう少し味わいたいとテルインさんとホワイトさんが話してるのが聞こえた。
あんたらは単身赴任の旦那か! 絶対ミランダリィさんに言いつけてやろ。
説得の結果、全員で人間界に戻る事になった。
それで、魔神様が作ってくれたゲートの前に揃っていたのだが、これってどこに転移するんだろ。というのが全員の疑問だ。
魔神様はどこに繋がってるのか教えてくれなかったから、どこに飛ばされるのか分からない。
全員同じ場所に行くのか、それとも各自バラバラなのか。入り口に戻されるだけなのか、家まで飛ばされるのか。全く予想がつかなかった。
それは勇者様達も同じで、「こんなゲートは見た事が無い。凄い魔法陣である事は分かるがどんな効果のあるものかすら分からぬ。本当に転送ゲートなのか? 罠ではないのか」とも疑っていた。
罠に掛けるぐらいなら、さっき殺られていただろうとの結論から罠ではないと結論付けたが、本当に転送ゲートであったとしても、どこに飛ばされるのかは勇者様達も分からず仕舞いだった。
「さて、誰から行くか……」
俯き呟くマクヴェルさん。
全員が勇者なのだから、自己犠牲も厭わない四人だったが、やはり一番目はイヤなようだ。
マクヴェルさんも誰を指名する事なく、自分で立候補するわけでもなく呟いていた。
だったら、オレが……
「やはり、私が行くか」
オレが言い出す前にマクヴェルさんが一番宣言をした。やはり勇者、男前である。
「何言ってんだ! お前はシルビアが待ってんだろ。だったら俺が行くさ」
「テルインだってミランダリィが……それに息子だって二人いるじゃないか」
マクヴェルさんの一番宣言を消すようにテルインさんが出てくる。が、その二人の合間を縫ってホワイトさんが出て来た。
「やはり、ここは私の出番だねぇ」
「お前だって娘と息子がいるじゃないか」
「……」
無言で三人の間を抜けて行くブルーランさん。
「おいブルーラン! お前、息子はどうするんだ!」
マクヴェルさんとテルインさんに腕を掴まれ止められるブルーランさん。
あー……これオレ知ってる。
どーぞどーぞってやつだ。
なんか言いたくないけど言わないといけない雰囲気にもなってきてるし。テルインさんとホワイトさんは俺が俺がと言ってる割には偶にこっちをチラ見してるし、ブルーランさんなんかさっきからゲート前に背中を向けて、仁王立ちして馬車人をガン見してるし。
意地でも言いたくなくなってきたけど、そうも行かないんだろうなぁ。オレ芸人じゃないんだけど……
「あのー……」
「そうか!」
「さすがは盾役!」
「俺が行ってもいいんだけどさぁ」
「……任せた」
素早い返しが勇者様ご一行から返ってきた。
まだ『あのー』しか言ってないんだけど。
途中からなーんとなく分かってたけど、そんなに押さないでいいと思うんだよな。
四人の勇者に両サイドと後ろをガッチリ固められ、ゲートの前に立つ馬車人。
もしかしてここは『押すな押すな』って言わないといけない? それで勇者達が押さないから『押せよ!』って言うくだりは……いらなかったー! もう押されたよ!
口では「すまんな」とか「本当は私が行く役なんだがな」とか「今からなら辞めてもいいぞ」とか「なんなら代わろうか」とか言ってたけど、あんたら口と行動が合ってないんだよ! 勇者全員でゲートに押されたよ!
息ピッタリだね! さすがは勇者パーティ、連携も抜群だよ!
そうやって押し込められたゲートだったが、オレの転送魔法陣の上位版みたいなものだった。
転移は何度も経験してたから戸惑う事も無く転送先でも慌てる事は無かった。転移だけなら。
後の勇者達がどこに転送されたかは知らないが、予想では各家に転送されたはずだ。
だって、馬車人はオレのいるボス部屋に転送されて来たのだから。
!!!!!!!
「【御者】?」
「オレ!?」
オレから見た馬車人はもちろん【御者】だったが、馬車人から見たオレはオレだった。
あの、交流合同体育大会で死んだ『車崎幽馬』だったのだ。
確かにこの一年、【御者】である自分を認めたくなくて鏡は一切見なかったが、オレは【御者】ではなく元のオレだったのか。
「「マジかー!」」
魔神様のゲートで送られ、いきなり遭遇した二人のオレ。
そんな二人のオレは、磁石で引き寄せられるようにお互いに引き寄せられる。
「「お、おい!」」
「「こっちに寄って来るな! なんかヤバイ気がする!」」
「「おい! 何とかしろよ!」」
『並列思考』は使えても、どっちもオレなので言う台詞は同じだ。話すタイミングも同じなので絶賛ステレオ放送中だ。
二人のオレはドンドン引き寄せられ、とうとう二人のオレは真正面からぶつかった。
ピカ―――――――ッ!
ドゴオオォォォォォォォォォォォン!!
眩い閃光と共に大爆発が起こった!
場所は、今では五階層となっている本拠地ダンジョン最下層のボス部屋。
普通なら他の階層へは震度一の弱震程度も伝わらないはずなのに、全階層も大きく揺らされた。
そのただならぬ事態に本拠地ダンジョンに残っていた従者達がボス部屋に殺到した。
集合は早かった。
いつも、転移で帰って来てもなぜか目の前にいるメイド達よりも早く、初期メンバーが入って来た。
『主殿!』「「「ご主人様ー!」」」「馬車さん!」
その後にイチロウやメイド達も続く。今日はブレインもいたようだ。
「「「主様!」」」
全員、入って来たボス部屋の酷い有様に呆然と立ち尽くしている。
ボルトが、ハヤテが、キューちゃんが、センが、シルビアが、ルシエルが、ライリィが、パルが、メイビーが、そして後続組も部屋の様子を確認すると何も考えられなくなり立ち尽くすことしか出来なかった。
ボス部屋はそれほどの惨状だったのだ。
部屋の中央で大爆発が起こった跡があり、直系一〇メートル以上の大穴が開いていた。
その爆発跡は壁や天井にも爪痕を残していた。明らかに爆心地で生き残れる猛者はいないと思われた。
ボルトでさえ、自分でも生き残れる自信が無いほどの惨状が目の前に広がっているので言葉を発する事ができなかった。
『主殿――――!!』GHAOOOOoooooNNN!!
大穴の底に向かって、念話で叫ぶと共に咆哮を上げるボルトだった。