第198話 飛ばされてからの初会話
誤字報告ありがとうございます。
一つ目蝙蝠をダッシュで追う馬車人。
珍しく一つ目蝙蝠も隠れずに逃走している。馬車人との距離は徐々に詰まっているが、蝙蝠特有の変な軌道の飛び方ではなく、一直線に飛んでいたので馬車人の高い(たぶん)ステータスを持ってしても意外と追いつけなかった。
それが余計にイラつかせ、ムキになって一つ目蝙蝠を追いかけた。
あと少しで追いつけそうになった時、一つ目蝙蝠は城のような建物に飛び込んで行った。
「ちくしょう! もうちょっとだと思ったのに!」
一つ目蝙蝠が入って行った建物の窓を睨みながらブーたれる馬車人。
「やっぱり盾は仕舞ってた方がよかったか」
盾を二枚とも持ったままだった事に気付き、反省する馬車人。それほどムキになって追いかけていた。
どっちもオレなんだけどね。『並列思考』できるんだから、片方は冷静なままでいないとダメだな。そんな事ができるかどうかも分かんないけどね。同一人物なんだから。
でも、やれれば非常に有効な能力にはなりそうだけど、二重人格を疑われそうだな。
落ち着いてきたので、改めて建物を確認した。
大きな建物ではある。が、城と呼べるかと言われれば微妙なところだ。
長方形のビルのようなものが三本並んで建っていた。塔と呼べなくも無いかもしれないが、ビルって言った方がオレにはスムーズに入って来る。それが三本。
両サイドに比べて真ん中のビルは一際高く聳え立っている。漢字の『山』みたいだ。
で、このビルをなぜ城と呼ぶかと、ここにも書いてあるんだ。『キューベック城』って。壁にデカデカとね。
じゃあ、門に書いてあったのって何なのかって話になるよな。このドーム全体で『キューベック城』なのか、この建物だけで『キューベック城』なのかって。そう思っちゃうのはオレだけか? こんな超巨大なドームも、こんな形の建物も転生後だと初めて見たから何とも分からないな。逆に前世では、こういう形のビルは多かったけどね。
でも、城と書いてある割には誰もいないんだよな。
さっき攻撃されたけど、結局どんな奴だったのか、何人いるのか、本当に誰かいたのか。実際のところ、何も分からなかったしね。
一つ目蝙蝠が飛び込んだのは中央の建物だったな。
じゃあ、オレも追っかけて入るとしましょうか。
『キューベック城』と書かれた建物の扉は、念のため盾を片手で持ったまま扉を引いた。
鍵は掛かって無かった。少し違和感はあったがスムーズに入れたし、中に入っても人の気配もしない。
一応は声を掛けたが、やはり誰からも返事は無かった。
建物の中は暗いと思うんだが馬車人の視界を阻害するには至らない。何のスキルかは未だに分からないが、視界は良好である。
周囲を見渡し二階への階段を探す。一つ目蝙蝠は二階の窓から侵入したのを確認しているから、まずは二階へ向かおうと思っていた。
そこで、ふと思い至る。
ここってどういうとこなんだ、と。
いや、城の中という事は分かっている。
そうじゃなくて、洞窟から出たこの土地一体の事を言ってるんだ。
オレは洞窟から出た時に、もしかしたらダンジョンではないかと思ってたけど、ダンジョンにしちゃ広すぎる。
いくらダンジョンは常識はずれだと言っても、洞窟型や塔型や巨大生物内の移動型があるぐらいで、真っ直ぐ歩いて五日ってレベルはダンジョンにしちゃ広すぎじゃないか。しかも、そこに城|(城かどうかも怪しいが)があるって、それはもうダンジョンじゃ有り得ないと思う。
早まった神に送られた世界だったけど、あそこは森だったし洞窟を抜けたこことじゃ違いすぎる。もう別世界と言っても過言では無い。
なぜ、今そう思ってるかというと、この城ってダンジョンなんじゃね? って思ったからだ。
ダンジョンの中にダンジョンって有り得ないと思ったことと、さっきからの違和感で思いついたんだけど、もっと早く気付くべきだったな。
馬車時代から何度か経験したダンジョン特有の雰囲気というか、隔離された空間のような感じだ。
本当にダンジョンに入るのは嫌だったけど、何度か強引にダンジョンには入れられている。そのお陰で感じてるこの感覚はダンジョンではないかと思ってるんだ。
ダンジョンは各階層がそれぞれ独立している。ダンジョンの各階層は、一応続きにはなっているが、石壁ダンジョンの下は草原階層などと各階層は完全に隔離されている。オレもやろうと思えば同じような事ができるから。
オレもダンジョンを作った事があるから分かるが、完全に各階層は独立している。
だからダンジョンを作った後でも1階層目を4階層目に変更したり、ボス部屋を1階層目にしたりもできる。追加した階層を途中に組み込んだりね。
洞窟の時にも感じなかったこの感覚が、この城ではハッキリと感じ取れた。周囲検知が苦手な馬車人でも分かるほど、ハッキリとした感覚だ。オレがダンジョンマスターである事も関係してるのかもしれない。馬車人だって外郭とはいえオレだしね。
じゃあ、今までの洞窟や岩場だらけの荒野はどうだったんだと思うんだけど、答えてくれる者がいないので分からない。いい加減そろそろ誰かと話したいものだ。
洞窟は本当に長ーい通路のある本物の洞窟だったとして、荒野の方はどういう事なのか全く想像できない。地下世界? 雲があるのに? 答えが得られないものを考えてても仕方が無いので、今はこの城内ダンジョン(たぶん)に集中しよう。
二階への階段はすぐに見つかった。ただ、罠も無いし魔物にも出会わない。
ダンジョンではなかったのか? とも思ったが、この感覚はダンジョンで間違いないと思うし、なぜ魔物が出て来ないのか不思議には思ってた。最上階に纏めて配置しているのか。
オレの作ったダンジョンだと、罠は設定で作らずにいれたけど、魔物は最低でも数体は設定しなければならなかった。
このダンジョンは違う設定で作られているのだろうか。
二階に上がっても誰もいなかった。窓から侵入したはずの一つ目蝙蝠も見当たらない。
周囲に注意しながら三階、四階と上がって行くが、どの階層でも誰とも出会わない。
階段の場所が同じところにあるわけではないので、階段を探す手間だけで時間が掛かるが、障害となるものは無いので、そんなに時間は掛からない。
馬車人は身体能力も高いようなので、疲れてもいなかった。
変化があったのは十階の辿り着いた時だった。
魔物の咆哮が聞こえたのだ。
やっぱり魔物がいるのか。と思いながら咆哮の聞こえた方に向かって歩いていると、気合を発する男の声や怒声も聞こえて来た。魔法だろうか、爆発音なども聞こえてくる。
どうやら誰かが戦ってるようだ。
魔物がいる場所で走る事はしない。一人なので、そっちばかりに気を取られると、別の方向から来た魔物に対して無防備になる恐れがあるからだ。
オレなら色んな視界があるから一人でも周囲を警戒できるが、馬車人はそうもいかない。実際に初めの森ではそういう事が多々あった。
目の前の魔物を倒していると横や後ろから魔物が現れるとか。慌てて四方に風魔法を発射して周囲を竜巻に囲まれてしばらく身動きが取れなくなった時もあったほどだ。
そういった体験から今は走らず早足程度で馬車人は音のする方に向かっている。
そして、ようやく戦闘シーンが視界に入って来た。
戦ってるのは四人パーティとフロアボスのような大きな蟷螂みたいな魔物だった。キラーマンティスとかだろうか。いつもはよく忘れる鑑定だが、鑑定ができないないのがこんなに不便だとは。
四人の冒険者? は、非常に見事な連携で魔物を削っていた。全員が同じ白い鎧に身を包んでいる。一気に倒すのではなくて、少しずつ削って徐々に魔物を弱らせているようだ。それとも大技を繰り出すための時間稼ぎをしているのかもしれない。
そんな戦闘の中、一人の剣士がこちらに振り返った。
「むっ!? 新手か!」
「い、い、いや、ち、ち、ちが…」
両手を前に出して首と手で違うと軽く振った。
二人に分離されてから馬車人としては初めての対話だった。いきなり敵認定を受けかけてしどろもどろになってしまって上手く話せなかった。なんせ、この世界での初会話だったから。
その声で他の三人もこっちをチラっと見たし。
戦闘中だからか、馬車人が脅威では無いと感じたか、それとも敵認定されなかったか。
初めに声を上げた男以外はすぐに蟷螂の魔物に視線を戻した。もう大分削ってるようだし、決着も後僅かに見える。人間側が圧倒してるように見えるな。
だったら今度はキチンと話さないとな。
こちらを見ていた男がこっちに向かって歩いてくる。
え? もう戦局は見えたとはいえ、今はまだ戦闘中だろ?
剣は手にしたままこちらに向かって歩いてくる。
まだ敵認定は解かれてないんだろうな。
そりゃダンジョンに見知らぬ奴がいたら油断はできないだろうから気持ちは分からなくはないんだけど、疑われてるオレとしてはどう対応していいか分からない。
逃げる? いや、折角人間に会ったし話はしたい。
オレから見ても、この人達が味方かどうかも分からないんだけど、魔物と戦ってるんだからダンジョン攻略中の冒険者じゃないのかなぁ。
そんな軽い気持ちでこちらに向かってくる男を待ち構えてたんだけど、オレの考えは少し甘かったみたいだ。
チャキッ
「お前は人間か!」
剣先を馬車人の喉元に突き付け、そう聞いてくる男。
うおっ! マジか! 半分以上、敵認定中じゃん!
「そ、そう、あ、いや……たぶん」
「なんだ! どっちなんだ!」
そんな事言われても、オレ自身は人間を卓越した存在だって神の奴が言ってたし、その『操縦者』とリンクしてる馬車人だから人間かって聞かれると怪しい部分があるんだよ。
でも、見た目は【御者】なんだから人間って言っときゃ説明する面倒が無くていいかな?
「に、人間です……」
「怪しいな。しかし……人間にしか見えないし、魔物が化けてるわけでも無さそうだな。名はなんだ」
おぅふ、設定するのを忘れてたぞ。
本名の『車崎幽馬』でいいかな。御者って言うのも変だし、車崎はやめて名前だけ言っておこうか。
「ユ、ユウマです」
「ふむ、名前も人間のようだな。ユウマ殿か。それで、あなたはなぜこんな所にいる」
そう話しながらも、まだ剣は収めてくれない。警戒を解かれてないんだろう。
「その、えーと、なぜなんでしょう……そうだ! 魔物を追って来たんです! 一つ目の蝙蝠の魔物を追って来たらこの城に入って来たんで、それを追ってオレも入ってきたんです!」
オレは、何か目的があってここにいるんじゃない。目的も無く、いや、人を求めて彷徨った挙句、それがいつの間にか一つ目蝙蝠を追いかけるという目的に変わっててここまで来ただけなのだから。
だから、なぜここにいるって言われても一つ目蝙蝠を追いかけて来たからとしか言えない。
「一つ目の蝙蝠? モリーの事か?」
モリー? って誰?
剣先はオレに向けたままだったが、男はふと横を見やる。
オレもそれに倣って男が向けた視線の方に目をやった。
一つ目蝙蝠いたー! また絶妙な距離にいたよ!
そこで戦っている戦闘の影響が及ばずに、オレとの距離も取っていて、しかも曲がり角に近い場所に位置取っている。まさに絶妙な位置取りだ。
「モリーがやけに警戒しているな。お前の事を警戒していると見たが、やはりお前は敵か?」
敵認定は困るのでブンブンと首を振る馬車人。
剣先が喉元にあるのでオーバーアクションはできないが、それでもできる限り無罪を主張する馬車人。
「モリーを追い掛けて来たと言ったな。私はモリーの主でマク……」
「マクヴェル、こっちは終わったぜ。それで? そいつは何もんだ?」
蟷螂の魔物を倒したようで、三人の戦士? 冒険者? が、こちらに寄って来た。
魔物は無残にも縦割り横割りで四等分にされていた。やはり、最後に何か大技を繰り出したんだろう。
この人達、全員が白の装備で合わせていて、冒険者というよりはどこかの騎士に見えなくも無い。
「テルイン、それが今いちハッキリしない。モリーを追って来たと言うんだが…」
「モリーを?」
そう言ってテルインと呼ばれた男も蝙蝠に目をやる。
モリー……コウモリのモリを取ってモリーか! 安易なネーミングだな!
しかしマクヴェルにテルイン……どこかで聞いたような……
いや、そんなのは後だ。先に誤解を解いて剣を収めてもらわないと。
「あ、すまぬ。名乗りの途中だったな。私はマクヴェル・クロスフォー。彼はテルイン・サークルフォー。我らは魔王討伐に来ている勇者だ。それであなたはなぜここにいる。あなたも魔王討伐隊なのか? それにしては若くは無さそうだが……」
そりゃ馬車人は【御者】ですからね。どうせ老けてますよ。
でも、あれ? んん? 勇者?
……マクヴェル・クロスフォー?
これって……おおおおおお!? キター! キタよこれ。
この人シルビアの父ちゃんだ! シルビアの父ちゃん勇者だ!
という事は、テルインって呼ばれた人はミランダリィさんの旦那さん?
この人達、中々帰って来ない勇者ご一行様だ! やっぱり無事だったんだね。
本物の勇者に感激して目を輝かせる馬車人。
そんな馬車人の変化に勇者一行は警戒を強めた。
「! な、なんだ急に。ユウマ殿と言ったな。急に目の色が変わったようだが、何かする気ではないだろうな」
油断無く剣に力を込めなおすマクヴェルさん。
いやいや、オレにそんな気は元々ないし、正体を知ったのに戦おうなんて思ってないって。
でも、どうやって誤解を解こうか。
「あの……オレ……いや、私はシルビアの仲間なんです」
チャキッ!
「貴様! 魔人の仲間か! シルビアに何かしたのか!」
バーゲストでは力不足だったか。と嘆くマクヴェルさんの剣を持つ力が上がっていく。
あれ? 余計に誤解が深まった?
後ろからは三人の勇者達も抜剣していた。
「お前みたいなのがシルビアの仲間な訳がないだろ! 年を考えろ、年を!」
テルインさんが馬車人に毒を吐く。
年は関係ないんじゃない? でも、パーティを組むんだったら年は近いもの同士で組む事が多いかも。
だったら、どうやって誤解を解けばいいんだ? 何か方法は無いか?
オレ、いい出会いを果たしたはずなのに、大ピンチになってない?




