第188話 裏技の話
誤字報告ありがとうございます。
「私にも用意しなさい」
オレが用意した浴場に満足している三神を見て羨ましくなったのか、諦め切れない神様がそんな事を言い出した。
また、オレの思考を読んだんだな。
お前のなんかねぇ! って思ったもんな。
で? こいつの分を用意するメリットはオレにあるの? 今までの事もあるけど、馬車に転生させられた恨みもあるのに用意するわけねーだろ!
「あなたの名前を教えてあげたでしょ。それであなたが超進化したのは私のおかげではありませんか?」
超進化? さっきも言ってたよな。何も変わってないと思うんだけど、どこが変わったんだ?
「すぐにでも分かると思いますが、それを教えてあげれば私にも用意してくれますか?」
やっぱりこいつオレの思考を読んでるよ。
無理だわ~、勝手に人の思考を読んでるような失礼な奴だろ? しかも馬車に転生させた張本人。敵対する事はあっても味方になれるわけ無いって。
「分かりました。今後、あなたの思考を読んだりはしません」
え? あっさり解決? いやいや、そんなの言うだけだって。思考を読んでたって言わなければ分からないわけだしな。何の保証にもならないよ。
「……」
うん、黙ってるけど絶対オレの考えてることが分かってるよね? そんなんで何を信用しろって言うんだろ。
「……」
一応耐えてるのか? オレの心を読んでるけど、口に出さないように耐えてるのか?
だったら言ってやろう。
この神って見れば見るほど綺麗だよなぁ。他の神達も美しい事には変わりないんだけど、その中でも一番綺麗なんじゃないか? うん、オレ的には一番綺麗だと思うよ。
「……」
「……」
顔を赤らめてんじゃねーよ! やっぱり読んでるじゃねーか! なーに簡単に引っ掛かってやがんだよ! バッカじゃねーの? 口説かれた事なんてねーのか? そんな奴がSEXとか言ったってどこまで分かってんのか信用ならねーよ。
「ぐっ……」
今度は青い顔しちゃって、怒ってんの? 怒ってんのはオレの方なんだよ! いつまでも人の心を読んでんじゃねーよ!
絶対にこいつは信用できない。交渉するには保険をいっぱい作っておかないとな。
「で? 何をするから風呂を用意しろと言ってましたっけ?」
「……卑怯者め」
な! どっちがだよ!
転生を盾に色んな要望をして来る奴に言われたくねーよ! こんなの交渉じゃなくて脅迫だ!
「……分かりました、悔しいですが認めましょう。ずっと共にいたのが原因かもしれませんが、あなたの思考をカットする事が今はできないようです。そこで再度提案です。これが最後です。人間に転生させてあげますので私にも浴場や食べ物を用意しなさい」
お? 自分から折れたよ。でも、転生先ってこの世界じゃないんだったよな。
折角できた仲間と別れるのはちょっとな…。
でも、このままだったら馬車のままだし…凄く悩むなぁ。
だって転生前って言ったら仲間なんていなかったんだぞ? それをシルビア以外は従者とはいえ、これだけ仲間ができたんだ。
転生先がどんな所かも決めてないし、仲間ができるかどうかも分かんないのに、人族以外が多いとはいえ、これだけの仲間と別れたくない。
ここで、人間としてやって行くというのが理想なんだけどな。
なんでダメなんだ?
「この世界での人間への転生は絶対にできないのか?」
「はい、できません」
本当かなぁ。ずっと騙されてたから信用できないんだよね。
そう思って三神を見ると、我関せずとばかりに、それぞれが楽しんでいた。
いいんだけどね。これだけ人がいるのによく寛げるよな。別の意味でも神だよ。
それでも、黙ってられなかったのか、口を出したいだけだったのか、精霊女王が説明してくれた。
さっきダイブしたから髪の毛はビチョビチョだけどね。
「そらホンマやで。転生っちゅーのは魂の入れ替えみたいなもんやからな。あんたの魂はこの世界やと馬車に定着してもうてるからな。しかも、あんた死なれへんねやろ? 死んだら赤ちゃんにでも転生できるけど、死なれへんねやったら無理やわ。あんた、人間になりたいみたいやから転生には賛成したってんけどな」
そうか、そこは本当だったんだ。嘘じゃなかったのか。
「ほんで? あんたは何を悩んでるんや? 人間になりたいんやったら転生したらええんちゃうん?」
「そ、それは、そうなんだけど……そうなると、皆ともお別れになるのが寂しいというか…また一人になるというか…」
「そんなん、また戻ってきたらええやん」
「はい?」
戻ってくる? 何言ってんの? そんな事できるの?
「戻ってくるって、どういう事?」
「精霊女王!」
俺の質問に答えた精霊女王に対して、神様が咆えた。
それでも精霊女王は飄々と続ける。
「まあ、ええがな。この子も馬車として苦労したんや。それにこれだけのもんを用意してくれたんやで? それぐらい教えたっても罰当たれへんわ」
どうせ、すぐにどうこうできひんし。と続けながら神様を宥める精霊女王。
「それでも、それは本来やってはいけない方法です」
「やったらアカンのは勇者だけや。この子は勇者ちゃうで? だからええと思うけど?」
「あ……」
不意を突かれたように驚く神様。女だから女神様じゃないのか? という疑問は今は伏せておく。
美しいとは思うが慈悲深く無さそうなので貧乏神って呼んでも良さそうな奴だしな。
そんな神様を放っておいて精霊女王が続ける。
「ようは一回転生して別世界に行ってまうんや。能力は今のままか、それ以上になるからチートな勇者として転生する事になるんやけどな。そしたら、その世界の魔王を倒して望みを叶えてもらったらええねん。この世界に戻って来たいって望めばええねんや。あ、ただし名前は変えなアカンで。今の名前やったらこの世界に戻って来られへんからな。向こうに行ったら名前を付けてもらうんやで」
……確かに裏技っぽいこと言ってるけど、それって何年掛かるんだ? 勇者として魔王を倒せ?
確かにステータスは上がったさ。ボルトやハヤテ達のお陰で、この世界の上級冒険者なんか目じゃないぐらいHPやMPは上だけど、武器も防具も持った事の無いオレが魔王を倒す? 魔物退治すらした事ないんだよ? あ、この世界に生まれた当初にゴブリンを轢いたか。でも、あれはオレの力で倒したんじゃないからノーカンだろ。
勝手に自爆したんだから。
この提案は無理ゲーじゃね?
「精霊女王様。提案は嬉しいんですけど、オレは魔王を倒せるほど強くは無いと思うんですよ。そんなの何年掛かるか分からないですよね? というより、魔王に負けてしまうと思うんですが」
「無い無い。あんたがそこらの魔王に負けるわけないやろ! この世界の魔王にも負けへんわ」
オレのどこを見たらそんな答えが返ってくるんだ? ただのじゃないけど、馬車なんだぞ? 【御者】だって武器すら持てないのに。魔法だって荷台で以外で使った事ないし。
温泉のお礼かもしれないけど、それは盛りすぎだろ。
「神が言うてた超進化な、あれはホンマやで。今、分かってへんねやったら、当分分からんかもな」
超進化……精霊女王も言うって事は、神の奴が適当な事を言ったんじゃないんだ。
でも、何も変わってないんだけどなぁ。視線にちょっと違和感を感じただけなんだよな。
「分かりました、認めましょう。但し! 転生は今、この場で決めなさい!」
「あー、確かに五神が揃った今が都合ええわ」
神の言葉を精霊女王が補足したので、ふふんと勝ち誇った顔をしてる神をぶん殴りてぇ。
手は無いけど【ハーネス】があるから、これで鞭のように叩いてやれねーかな。全部の事を含めて一発ぐらい殴っても許されると思うんだよね。
そう思って神を見てみると、『あなたに何ができるというのです?』みたいに、顎を上げ、見下げるように薄めでオレを見ている。
このアマァー! と思い、【ハーネス】をグルグル回すとヒュンヒュン音を立てている。当たると非常に痛そうだ。
もちろんオレの思考を読んでいる神は怯んで後ずさる。
神って弱いのか? これぐらいの攻撃なら軽く往なすとかオレに攻撃するとかありそうだけど。
魔神なんてブレインを一蹴するぐらい強いんだろ? 他の神も強そうだけど、こいつってもしかして弱い?
ま、弱いからって倒そうなんて思ってないけど、一発ぐらいは殴ってやりたいんだよね。
「アカンで」
精霊女王がオレを諌める。
「あんたは馬車やからよう分からんけど、この子の態度から一目瞭然や。手ぇ出したらアカンで」
神の正体を見破ってからずっと気持ちは昂ぶっているが、この世界に来て六~七年、ずっと超後方支援をやってただけあって、頭に来てても周りを見る余裕はある。今は精霊女王の言葉をオレの冷静な部分が受け止めた。
「この子は確かに弱い。大掛かりな天災級の術には一番長けとるけど、近接の戦闘能力はたいした事あらへん。でも、手ぇ出したらアカン。うちら全員に敵になるで」
はっ、今さら別に全員が敵でも構わないよ。元々味方だと思ってないし。
しかも、予想したとおり神は弱かったのか。偉そうなのに弱いって、よくいる嫌味な貴族みたいだな。
どっから見てもオレからすれば好印象な部分は無いよ。ん? 偉そうにはしてなかったか。
「別にこちらから喧嘩を売ろうとは思ってないですけどね。あっちが売ってきてるだけだと思いますけど? それなのに、皆さんと同じ風呂を用意しろとはずうずうしいと思いませんか?」
【ハーネス】を振り回すのを辞め、精霊女王に言うと共に、龍王と海王にも意識を向ける。
精霊女王は思い当たる節があるのか、少し考える素振りを見せた。龍王と海王は変わらずだ。さっき同意を見せた後は、こちらには興味が無いみたいだな。勝手にやってくれ、こっちは楽しんでるんだから邪魔するなってところかな?
「あんたの言いたい事は分かる。でもな? うちらはそれぞれの分野を統べる神やねん。ちょっとぐらいはわがままな方がええんや。あんたにしたら風呂を作るなんて簡単な事やろ? 作ったって恩を売る方がええと思うで」
精霊女王と書いて『わがまま』と呼ばせるぐらいのあんたが言うのなら説得力もあるな。神は皆わがままなんだな。
確かに龍神も海神も我が道を行くって感じだな。魔神にしてもブレインとバトってるんだろ? ブレインからの挑戦だったようだけど、阿吽の呼吸で出て行ったもんな。バトルが好きな神様なんだろうな。
それはそうと、この神に恩を売るためとはいえ風呂を用意するのか? 本能で拒否しちゃうレベルだよ。頭ではそうする事がいいかもと分かってても、こいつが喜ぶかと思うと細胞レベルで忌避感を感じてしまう。おー、イヤだイヤだ。
ブルブルッ
あれ? 今オレ身震いした? そんな気がしただけ?
今まで感じたことの無い感覚があるよな。視界の違和感とか、今の悪寒とか。超進化した影響なのか?
何がどう変わったかも分かんないけどさ。
やっぱり一時的とはいえ、何年掛かるか分からない賭けのような話に乗るより、このまま馬車でいてもいいよな。
こいつの役に立ったって思う方がイヤだよ。皆とも別れたくなしさ。
そう思って浴槽に沿って並んでいる従者たちを見渡すと、一番前にいるキャリッジ冒険団の姿が目に入った。
皆、ちょっと俯き加減だけど心配してくれてんのかな? だったら安心させるためにも、早く神の奴に断りを宣言してやるか。
参りました。
ゴールデンウィーク。
世間では九日間とも十日間とも言われていますが、私は四連休でした。
私にとってはかなり長い連休に喜んでました。盆、正月も含め、中々無い連休でした。
この間に缶詰になって書きまくってやろうと思ってましたが、実際は一話も仕上がりませんでした。
「まぁ一日ぐらいは。これだけ連休があるんだから」「明日がんばろう」
色々自分に言い訳をして、気付けば連休が終わってました。
「このままではイカン!」とダラけた自分を叱咤しますが、一度だらけてしまった気分は中々上がりません。
そこで、執筆活動(まぁ、趣味ですが)開始一周年記念企画を何か考えてモチベーションを上げてみようと思っています。
出来る事は多くないですが、出来上がったら報告します。
更新が遅くて申し訳ありませんでした。




