第178話 センの屋敷
誤字報告ありがとうございます。
町並みにはそぐわないかもしれないが、これなら許せると思える武家屋敷のような立派な日本家屋だった。
センの為にメイド達が建ててくれた屋敷だけど、母屋も離れも平屋で瓦屋根。
武士が出て来そうな雰囲気の屋敷だった。
離れは道場になってるようで、神棚まで作ってあった。
細かい所まで凄く凝ってるみたいだな。
屋敷の説明のために、メイドの中からナナを呼んだ。誰でも良かったんだけど、メイドの中ではよく付いて来てる方だし、名前も憶えてるからナナにした。
だってメイド達って本名じゃ無いから分かり辛いんだよ。
今からセンを連れて屋敷の説明をするみたいだけど、シスターズも初めて見る本格的武家屋敷に興味津々で、一緒に説明を聞くために付いて行くようだ。
じゃあ、オレも【御者】で後ろから聞いてみよう。どうせ、材料は何を使っていて、この辺りに苦労しました。みたいな話をするだけだと思うんだけどね。
説明を聞いてるうちに、途中で屋敷をぶち壊したくなって来た。
こいつら日本をなめ過ぎだ!
なんだよ、畳返しの間って! どんでん返しの間とか、至る所に武器が隠してあるとか、部屋に入ると井戸からお化けが出て来る部屋まであったぞ。
部屋の奥に行くほど大きく見える部屋とか、ミラーハウスとか、机と椅子が壁に付いてる部屋とか。
こんなの武家屋敷って言わねーから! 忍者屋敷ですらねーわ! ただのビックリハウスだよ。それも言い過ぎだ、おもしろ屋敷だ!
どこで寝る気だよ、落ち着ける部屋が一つも無かったぞ。脱出路なんて、いつ使うんだよ!
一部屋覗くたびにセンの目が輝いて行くのは見たく無かったよ。
凄く感動してたみたいだけど、仮にもお前って剣聖だったよな。武士の意地とかねーのかよ。
アトラクションじゃねーんだぞ! こんなとこで誰が住めるんだよ!
なんちゅーアホな家を建てるんじゃ。日本をバカにしすぎだよ、まったく。
センは非常に気に入ったようで、寝泊まりだけは今日からここするそうだ。
だからどこで寝るんだって!
シルビアも一緒に寝るそうだ。
お前も気に入ったのか! だからどこで寝るの? 剣の修行もあるかもしれないけど、オレは知らないよ。
ライリィもだって。
からくり屋敷だからね、ライリィは気に入ると思ってたよ。どこで寝るかは知らないけどね。
転送魔法陣は庭に描いておいたから、飽きたら馬車ダンジョンに戻って来るでしょ。
センが忍者装束に変身したので、シルビアとライリィに同じものを作ってくれと強請られたけど、そんなのどこに売ってるかなんて知らねーし。
ナナが「お任せください」って言ってたから作ってくれるのかもね。
アホな奴らは置いといて、オレ達は馬車ダンジョンに戻った。
翌朝、センの屋敷にいる三人と合流してワンワード王国経由で東に向かうために迎えに来たんだけど、お前らやっぱり日本を舐めてるだろ。
センの赤い忍者装束はギリ認めてやろう。オレの中の忍者装束にも無くは無い。青い髪の毛に真っ赤っかの装束でハデハデだけど、色だけで見たらギリオレの中でも無くも無い。
一般的な黒、グレー、あと少数派で白、テレビ向けの赤までは認めてやろう。
シルビアのは牛か? ホルスタインみたいな柄って見た事ねーけど。
ライリィに至ってはストライプ? 黄色地に黒の縦縞で、どこぞの球団ユニフォームみたいになってんぞ。
センとシルビアの背中には大きく『忍』って書いてあるのに、ライリィのは『虎』って書いてあるし。
もう忍者じゃ無くて、応援衣装になってるわ。
【メイドのお仕事】のスキルのおかげです、だって? そんなのスキルの無駄遣いだよ。
そのままの格好で行こうとするから、流石にそれは勘弁してもらった。
ルシエルはそこでナナに何を交渉してんの? まさかお前もか。
パジャマとしてなら可愛いと思うけど、外に行く時は勘弁してもらった。
それならばと、メイビーもパルもナナにお願いしていた。キューちゃんまで?
建物の中で人目に付かなければいいかな。
オレとしては日本をバカにされてるようでいい気はしなかったけど、アニメキャラのコスプレと思えば可愛いとは思うよ。
バカな獣人達の間で流行らない事を祈ってるよ。
気を取り直して、いつもの通常装備に着替えてもらって、ワンワード王国を目指す。
途中、いくつか町はあったけど、少し立ち寄る程度にして街道を進んだ。
全然急いではいないんだけど、特筆するものも無いので町に長居する事も無かった。
ワンワード王国はブレインと獣人達が処刑とか無茶やったとだけは聞いてるけど、元のワンワード王国を知らないから、どう変わったなんて分からない。
オレとしては初めての国だからね。ボルトとキューちゃんはブレインに何やら手伝わされて行ったけど、オレも含めて他のメンバーは初めてだね。
ボルトとキューちゃんにしても、一回行っただけでどんな国かも分かって無いだろうし、元々そういうのに興味無さそうだしな。
で、ワンワード王国の門で並んでたんだけど、すぐに兵士が迎えに来て、列に並ばず門での検査もスルー。
……ここでもか。もう、ブレインの息のかかって無い場所はこの大陸には無いのか……。
「で、コウメイ? お前こんなとこで何やってんの?」
「はい、主様がこの国にお見えになったと連絡が入りましたので、この門の受付詰所で待機しておりました」
「ここってワンワード王国だったよね?」
「はい、お間違いございません。私は今、この国で宰相のアドバイス係をしておりますから」
コウメイの姿は人間と変わらないが、ベンケイと同時にブレインのユニークスキル【魔返り】で魔人として生まれ変わった二人だったけど、目だけは人間の白と黒が逆だったはずなんだけど……今は人間と同じ目をしてるよ?
服装もネクタイはしてないけど、スーツみたいな黒の上下。元が優男風の男前だから似合ってるんだけど、この世界でそんな格好はあんまり見ないね。
「その目って変えれたんだ。という事は内緒なのか?」
「あ、これですか。そうですね、あまり表に出る事はありませんが、誰に見られてるとも限りませんから、この国の中ではこの姿で通しています」
「獣人国……」
あまり獣人国の名前は出さない方がいいか。コウメイ達の立場が悪くなって、オレのせいにされても嫌だしね。
「あの国の事はいいのかい? 元々あの国の為に配置されてたと思うんだけど」
オレが獣人国の首都ダンジョンのために用意した魔物から生み出されたんだよな。ベンケイは門番として、コウメイは運営や外交のために【交渉人】を持ってたよな。
「はい、獣人国は他の者で十分です。今は他国の足固めが先決ですから。特にこの国は変革期で、今キチンと方向性を決めておかないと後が大変になりますから」
こっちが獣人国の名前を出さないように気を使ってんのに、さらっと言うんだね。
コウメイ自身が獣人じゃ無いから気にしてないのか?
「この国の中では何をされてもお金は支払わなくても結構でございます。宿泊場所も用意しておりますし、どこにでも入れるようにしておりますから、ご存分に楽しんでください」
オレの心配をよそに、説明をしてくれるコウメイ。
普通ならラッキー! って思うかもしれないけど、今は煩わしくて仕方が無いよ。
「案内は私とベンケイがしますので、御用の際は何でもお申し付けください」
受付詰所の裏口からベンケイが出て来て一礼した。
お前もいたのね。
今日はオレが用意した全身鎧じゃなくて、コウメイと同じ黒のスーツみたいな上下なんだね。で、そのサングラスは外してくれないかなぁ。
どこの怖い人かと思ってしまうって。
オレの名付けた奴らって、ダンジョン産の奴ほど日本かぶれになってない? メイド達がいい例だよね。
「あのさ、ブレインから聞いて無い? オレ達にあまり関わるなって言ってるんだけど」
「はい、ブレイン様から伺っておりますのは、主様の邪魔になるようなものは全て排除せよと厳命されております。健やかな旅を所望されていらっしゃると聞き及んでおりますので、何の憂いも無いよう手配させて頂いております」
なんか微妙に違う。
オレは邪魔をするなとは言ったけど、邪魔を取り除けとは言ってない。
どこをどう捻じ曲げて解釈したらそうなるんだ? 一番の邪魔が自分達だって考えには至らないのか?
「それは大きく間違ってる。オレ達が旅をしていても、一切かかわって来るなと言ったんだ。見張りもいらないし、何の手配もしなくていいって意味だったんだけど」
「それは、指令の変更ですか? それなら私にも密書が頂けるのでしょうか」
密書? 密書ってなんだ? 私にもって誰かにそんなもの渡したっけ?
「密書ってなに?」
「先日、獣人の娘が頂いた密書でございます。主様からの勅命の指令書を頂いたとか。そのお陰で、その娘は中隊長に昇進したという事でございます」
あー! この前の手紙か! 勅命の指令書って…オレは王か天皇か! ただの手紙じゃん!
「あれはただの手紙で密書じゃないよ。あの娘達がブレインに怒られないように手紙を書いてやっただけだよ」
「しかし、あの獣人娘は直接の命令を受けたと喜んでおりましたが」
「確かにブレインに手紙を渡してとは言ったけど、お願いしただけで命令なんてしてないぞ」
「…やはり事実でございましたか、羨ましい……」
ダメだ、こいつらに何を言っても無駄みたいだ。
でも、このワンワード王国には少し用があるんだよな。
大陸の中央の国だから情報も多いだろうし、寄りたい所もあるんだ。
こいつらが付いて来るのは鬱陶しいけど、出来る限り早く用を済ませて、この国も出る事にしよう。




