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第171話 セイシャロン王国

誤字報告ありがとうございます。



 市長とは話せなかったけど、今のアーランノットシティの現状は理解できたような気がする。

 ブレインと一郎が、市長を始めとする首脳陣を虐めて言いなりにさせてるってとこだろう。もう、前回のイカサマ博打の事なんてどうでもよくなってるだろうな。


 だったら旅の続きを再開しようか。おっとその前にセンの家だったな。

 アーランノットシティのあんなビルを作らせるわけにも行かないから、町の建築屋にでも頼もうか。


 そう思って、センの町で建築屋を探したが、家を建てる程の建築屋がいなかった。せいぜい営繕程度の事しかやらない業者ばかりだった。

 王都の隣町だった事を思い出し、建築屋を王都で探す事にした。



 セイシャロン王国の王都【セーシャ】元々は聖者ではないかと思われるぐらい、町の中には”聖”という看板や文字が多く見られた。間違いなく漢字だった。

 昔にこの国で行なわれた勇者召喚の名残とも言われているが、漢字だから誰も読める者はいない。

 この国は勇者信奉者も非常に多い、王族がその最先端を走ってるようだが、神への信仰も同等数の信者を持っている。


 勇者は王家、神は教会と二大派閥にはなっているが、王家と教会は非常に仲がよく、王家の者は全て教会の洗礼を受けているし、教会にも勇者に憧れる者は多い。

 そんな仲のいい両者だが、一つだけ見解が分かれているものがある。


 冰龍ひりゅうの事だ。


 王家は冰龍ひりゅうは勇者が召喚した従者であると主張し、教会は神の使いであると主張する。

 実際に冰龍ひりゅうを目にした者は無く、想像上の幻の魔獣とも龍とも言われ敬われているが、実際に冰龍ひりゅうが現れたと思われるような豊作が何度もこの国では起こっているために、冰龍ひりゅう信仰は盛んであった。


 夏も過ぎ、明らかに凶作の年でも、一晩で豊作に早変わりした年が何度もあった。

 冰龍ひりゅう信仰が盛んな理由には十分な理由だ。

 今まで不作で困窮した年は数えるほどだ。それなのにここ十年程、大凶作までは行かずとも不作が続いている。それに追い打ちをかけての今回の獣人国騒動だ。

 セイシャロン王家が傾く程では無いにしても、国民からの不満は大きくなってきている。


 こういう情報は最近のものだからオレの”知識”には入って無かったけど、情報を集める意味で王都で一泊して良かったよ。

 冰龍ひりゅう信仰も知らなかったな。オレの”知識”の情報では王家と教会が仲がいいってぐらいだからね。

 でも、これってセンがいなかったから不作が続いたって事だろ? だったらセンがパパーっと【豊穣】で豊作にしてやれば国も上手く回るんじゃないの?

 ここ十年って言ったらセンがこの国にいなかったんだから。センって武器にも煩いけど料理にも意外と煩いから、自分が食うために豊作にしてただけだと思うんだよな。



「すいません、盗賊討伐の報告です」

 久し振りに冒険者ギルドに来た。先日のキャロライン姫が襲われてた時の盗賊を排除した件もそうなんだけど、この世界は実に盗賊が多い。

 合計十一件の盗賊討伐の報告だ。捕らえた者はいない、全件排除した。もうゴブリンと盗賊が同じ扱いになって来てるよ。


「討伐の証拠はありますか?」

「いえ、ありません。でも、全件被害者がいたので、それを助けるついでに討伐したので目撃情報はあると思います。別に達成にならなくてもいいんですけど、一応報告義務があるので報告してるだけです」

 もう今更なんだよね。全員Aランクだし、お金もあるし、たかが盗賊討伐だろ? って感じ。


「情報と照合しますので、少しお待ちください」

 席を立つ受付のお姉さんが「…キャリッジ冒険団」と小さく呟く声が聞こえた。

 知ってたんだろうか、それともただ心の中で復唱した声が口から出てしまっただけだろうか。たぶん前者のような気がする。これって、やっぱりいつも通りなんだろうな。


 受付のお姉さんが戻って来た。

「はい、全十一件の盗賊討伐が確認できました。達成料はこちらです」

 お姉さんは金貨を二枚だけ出した。十一件とはいえ、盗賊を討伐しただけだからこんなものか。

 確か、討伐だけなら一人に付き銀貨一枚程度だったような気がする。

 捕らえて奴隷にするならその分の歩合が入って来たり、盗賊の持ち物を私物化したりすると実入りも良くなるよな。アジトに宝を隠してたりとかさ。あとは依頼があったり、懸賞金が掛かってたりすると高くなるけど、ただの盗賊退治だからな。これでも多いぐらいかもしれないな。


「あの、なにか? 達成ポイントは付けてありますよ?」

「あ、いや、ありがとうございます。少し依頼ボードを見てきます」

「はい、ご苦労様でした。高ランク依頼はどんどん受けてくださいね」

「は、はい……」


 なんだ? 拍子抜けしたな。てっきりマスタールームに呼ばれるかと思ったんだけど、あからさまな作り笑顔で対応されちゃった。あれは知ってて手を出すなと上から命令されてる感じだ。

 ブレインのせいかな? でも、国と冒険者ギルドはある程度繋がりはあるけど、協力体制ってだけで、国の影響力は少ないはずなんだけどな。


 依頼ボードを見てても、ギルド職員からの視線は強く感じる。あちこちから見られてるのは凄く分かる。ここでは【御者】の視線だけだから一般人の視線と変わらないけど、それでも分かるって事は凄く見られてるんだと思う。でも、誰も何も言って来ない。気味が悪いな。



 あ、『聖天人民党』の残党狩りの依頼も出てるんだ。確か、現王の弟一派が中心になって反乱を起こしたはずなんだけど、町に緊張感は無かったな。もう終息してるんだろうか。

 その辺りの情報も欲しいな。

 ブレインに言ったらすぐに教えてくれそうだけど、なんかあいつに聞くのって負けた感があるんだよな。獣人がチラホラと潜伏してるのが確認できるから、それとなく聞いてみよう。いつもなら冒険者ギルドで聞くんだけど、凄く居心地が悪いから今日は辞めておこう。


 気になった依頼があったので、依頼ボードから剥がして受付に持って行く。一つは気になるどころか明らかにおかしな依頼だった。


「この二件の依頼を受けられるのですね?」

「はい」

「こ、こちらを受けて頂けるのですね、ありがとうございます。AランクとBランクの依頼を承りました。では、気を付けていってらっしゃいませ」

「はい、ありがとうございます」


 ホント、業務以外の事を言って来ないよ。何がどうなってるんだか。


 受けた依頼はセンの町【セーバイ】。これは聖杯が元じゃないのかな。

 【セーバイ】の町の少し北から広がる広大な畑に出る魔物を退治するのがBランクの依頼。

 もう一つのAランク依頼はシルビアの指名依頼。指名依頼にはなってないんだけど、シルビアを見つけて王城に連れて来いって依頼なんだから指名依頼と変わらないだろ。


 依頼人がキャロライン姫だったら放置したんだけど、ロータス・セイシャロンって国王の名前だったんで放っておけなかったんだ。

 普通に考えて、国王様が依頼ボードに出すような依頼をするのも可笑しな話だと思うのに、シルビアを名指しだからね、放置する訳にはいかないだろ。

 だいたい国王が冒険者ギルドに依頼なんかするのか?


 シルビアは嫌がるかもしれないけど、嫌ならキッパリと今後は付き纏わないように釘を刺しておいた方がいいだろうしね。

 オレ達にしかできない依頼だし、一人で来いとも書いて無い。連れて来いってぐらいだから皆でゾロゾロ行っても構わないじゃないかな。

 いくら個人名での依頼だったとしても、王命なら犯罪者扱いなら指名手配だし、招待なら貴族か騎士たちが動くはずだろ? 向こうの事情は知らないけど、名指しで来てるんだから少し頭には来てるんだ。ちょっと扱いがおかしいって。


 厄介事な感じはするけど、シルビアの名前が出てるから放ってはおけないだろ。

 今晩、情報収集して、明日城に乗り込むか。



 その夜、馬車ダンジョンに戻りたいと渋る皆を宿をとって泊まらせた。潜伏中の獣人達と話したかったからなんだ。

 獣人がいる事は分かってたから、どうやって呼ぼうかと思ってたけど、いらぬ心配だったよ。

 またピピットがオレの前にいた。例の如く、オレの前で拝んでるよ。しかも増えてるし、今回は六人だ。


「……ピピット?」


 ビクーッ!


 また飛び上がって驚いてるよ。

「ハハーっ! お呼びでございますか」

「呼びたかったんだけど、もういるからね。ちょっと聞きたいんだけど、ここの王様ってどうなってるの? 獣人国を認めたって聞いたけど、反乱もあったんだろ? その割には町が平和だから事情が分からなくてさ。何か知ってる?」

「もちろんでございます、かみ……じ様。この国の王は獣人国を認める決断をした後、各町で起こった反乱と、王弟ブラッドリー・セイシャロンの反乱を知り、その責任として王座を息子に譲り退位しました。今は一貴族です」

 まだ神様って言いかけてるよ。


 しかし退位って急だなぁ、オレ達がこの王都に来るまでにしたのかな? でも、今度は即位式なんかで町が盛り上がりそうなんだけど。

「いつ退位したの? 戴冠式なんかは無いの?」

「はい、か……るじ様。この度の騒動は王家でも恥じるべき事だという事で、国民には何も知らされず執り行われたようです」

「反乱の事も?」

「はい、かみ……じ様。王都の反乱はブレイン様が率いる手の物で押さえられ、各町はボクのような暗部が鎮めました」


 そういやボクっだったね。呼び方も葛藤してるのが伺えるね。

「ふーん、そうだったんだ、それはご苦労だったね。で、オレの呼び方は何だった?」

「はい神様! 主様です!」

 ……こいつはバカっなのか?


「……それで今はその退位した王様はどうしてるの? シルビアに会いたいみたいなんだけど、何か知ってる?」

「はい、か……るじ様。もう戴冠式は内々で恙無つつがなく終わらせたようで、後は一番西の海に隣接した【フォージー】という港町で領主をして余生を送ると決めているそうですが、息子達がそれを許してくれないようで、ずっと城に引き止められているようです」

 親想いの子達なんだな、きっと王様の育て方も良かったんだろう。そんな人の良さそうなイメージの人が何でシルビアを冒険者ギルドの依頼なんかで呼び出すような事をするんだ。個人になってるから王権は使えないとしても、やっぱり納得いかない。


「シルビア様を呼び出す理由は、こちらの調査でもわかりませんでした。申し訳ございません」

 分からないのか。だったらやっぱり行くしかないよな。


「うん、ありがとう。危険は無さそうだね。明日、皆で城に行ってみるよ」

 厄介事って感じも薄そうだしね。

「はい、ではボク達は城に潜入しておきます」

「いや、別に潜入しなくていいから。うちの連中は強いから大丈夫だよ。ピピット達が見つかってしまわないかの方が心配だよ」

「そんな恐れ多い。ボクたちの心配までしてくださるなんて……必ずや明日の朝までには情報を仕入れて参ります! では失礼します!」

「お、おい」

 何かやる気出しちゃった? ここまで分かれば後はこっちでやるのに。


 でも、凄いね。反乱を決起させる事無く終わらせちゃったんだ。

 しかも、王様が代替わりするって事は、それを正確に伝えたんだろうね。

 でも、獣人国を認めさせるためにそこまでやる? 

 そうか、もし『聖天人民党』の幹部である弟が王になったら獣人国なんか認めないか。

 しかも、力を見せつけられるし一石二鳥でもあった訳か。


 それもブレインが全部指揮してるんだろ? あいつ何でオレの従者なんかやってんだろ。


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