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第170話 市長の仕事

誤字報告ありがとうございます。



 エリューマの町を出てからの旅程は正に順調。

 ボルトとキューちゃんも合流して、キャリッジ冒険団が勢揃いだ。

 もう、獣人国との諍いも無さそうだし、こっちも旅に集中できそうだな。


 センの家がある町に着くまでに、いくつかの町にも寄ったけど、町を一回りするとすぐに町から出て馬車ダンジョンに帰って寝てるから旅をしてるのかよく分からなくなって来る。

 旅の醍醐味はご当地料理や温泉だろって言われてもオレにはできないから別にいいんだけど、皆も帰って来たいって言うから別にいいんじゃない?


 町の料理なら帰って自分達で作って食べた方が美味しいって言うけど、旅で食べる料理ってそういうのじゃ無いんだけどね。

 風呂は馬車ダンジョンの露天風呂の方がいいって言うのは分かる。

 他所ではボルトもハヤテも入れないからね。最近のボルトは毎日入ってるんじゃないかな? あれだけ風呂嫌いだったのにね。


「十三年振りでゴザル~!」

 町に入った時に開口一番センが放った言葉がこれだった。


 おかしい、計算が合わない。ちゃんと覚えて無いけどシルビア達がまだ学校に行ってる時に出会ったはずだから、四~六年ぐらい前に出会ったと考えて、十三年振りって……お前、オレ達に出会うまで何年この大陸を彷徨ってたの?


 センの案内で真っすぐセンの家に向かった。が、辿り着けなかった。

 これはセンだけが悪い訳じゃ無くて、町並みも変わってたから分からなかったようだ。

 道行く人に聞きながら何とか辿り着いたセンの家はボロボロだった。半壊どころではない、ほぼ全壊と言っていいほどの壊れ方だった。


 まぁ、十三年も誰も住んで無かったんだもんね。仕方が無いよ。

 久々にセンが大泣きしてたな。皆で慰めてようやく落ち着いて、今は荷台で寝息をかいてるよ。


 どうする? 新しく建ててやるか? メイド達なら建ててくれそうだよな。そういや、まだ見に行って無いけど、アーランノットシティにはどんな屋敷を建てたんだろうな。それを見てから決めた方が良さそうな気がするんだけど。

 今日の所は馬車ダンジョンに帰るとして、もう落ち着いてるって聞いてるから明日はアーランノットシティに行って屋敷を見てみようか。


「ダンジョンに行くのでゴザル」

 急に起きたセンが変な事を言い出した。


「セン? 寝言か? ちゃんと起きてる?」

「むしゃくしゃするので、ダンジョンに行って暴れて来るのでゴザル。キューちゃんよろしくでゴザル」

『わかったー』キュキュキュー


 今日の所は仕方が無いか。どうせここにも転送魔法陣を描く予定だったし、センの家の敷地内に転送魔法陣を描いたら、早速キューちゃんに送られて行った。

 一郎がダンジョンに描いた転送魔法陣に転移して行ったんだろう。


 ダンジョン核を回収してないダンジョンが、まだいくつかあるそうで、そのダンジョンの入り口には一郎が転送魔法陣を作ってると聞いている。

 全部ブレインから教えてもらったって言うけど、ホント未開のダンジョンっていくつあるんだろうね。


 オレの描く転送魔法陣はルシエルのとは違って、どの転送魔法陣とも繋げられる。うちのメンバーも魔力を通す事によって転送魔法陣を使えるんだけど、初めに道を作ってあげないといけないんだ。

 一度転移すれば道はできるんだけど、初回に限りキューちゃんじゃないと上手く道を作れないようで、今は他のメンバーにも出来ないか色々試してもらってる。


 それなら先にキューちゃんだけ行って帰って来ればいいって事なんだけど、キューちゃんもダンジョン好きだから誘われたら絶対に断らないんだよ。


 これは一郎の描く転送魔法陣も同じだけど、一郎は自分で魔力を使って転送できるからオレより上かもしれない。

 これで、ルシエルがコツを掴んだらルシエルにも抜かれてしまう。オレの有利な部分がどんどん無くなって行く。そのうち見放されて納屋で一人寂しくなんて未来が見えて来そうだ。

 ただでさえ何もできないんだから、もっと便利な奴になるために頑張らないとな。



 オレ達も、今日の所は馬車ダンジョンに戻って明日に備える事にした。

 一郎も後任ができたから、もう獣人国にはいなくてもいいと馬車ダンジョンに戻って来ている。

 後任? 獣人でそんなに優秀な奴がいたんだな。

 メイド達も、料理長役としてローリィだけを残して、残りは戻って来ている。


「一郎、もうアーランノットシティに行ってもいいんだよな?」

「ええ、結構でございます。ようやく城をお披露目できるようで、私共も楽しみにしております」

 他のメイド達も嬉しそうに頷いている。


「城? 城って何? 屋敷を建ててとは言ったけど、城を建ててなんて言ってないけど」

「主様が住まわれる屋敷なのですから、市長などより立派なもので無くてはなりません。近隣の屋敷も買い取り、立派な城を建造いたしました」

 建造いたしましたって……城をお前達だけで建てたの?

 それはそれで凄いと思うけど、城なんていらないんだよ。オレが目立ちたくないって知ってるだろうに。


「現在アーランノットシティは、ブレイン様のお力により、以前の様相からかなり様変わりしております。その見学も兼ねて、明日は私が町の視察にご案内しましょう」

 なになに? またブレインが何かしてるの?


「様変わりって何したの? 市長を代えたとか言わないよね?」

「はい、市長は代わっておりません。町並みも主様の城以外は左程変わっておりませんし、出会いの酒場もそのままでございます」

「じゃあ、何が変わったの?」

「それは行ってからのお楽しみでございます。サプライズでございますね」

 サプライズが好きだね。本人に言うとサプライズじゃ無くなるって、まだ分かって無いのかな。

 ま、今回は内容そのものがサプライズのようだし、聞かないでおいてやるか。



 次の日、帰って来たセンとキューちゃんも一緒にアーランノットシティに転移して来た。

 転送された場所は建物の中だったので、周りの町並みがどう変わってるかは分からない。

 一郎に案内されるがまま、外に出てみて驚いた。


 近代建築のビルディングが建っていたのだ。


 今、オレ達が出て来た建物は、どこの大会社の本社ビルなんだというぐらい大きなビルだった。

 高さは三階に留めていたが、敷地が広いから無駄に横に大きい。たぶんドーム一個分ぐらいある。


 なんでファンタジーの世界に近代建築を建てるんだよ! 台無しじゃないか!


 オレのハイアングル画像で確認すると、上から見ると正方形になっていて、中央が正方形の中庭になってるようで、吹き抜けにしてあった。

 これで五角形だったら、どこぞの国の国防総省だよ。


 そのまま一郎にアーランノットシティの町を案内してもらった。

 メイド達が屋敷を…というかビルを建てている時に、一郎はアーランノットシティの全容を調べて把握していたそうだが、今回の獣人国の騒動でブレインが少々というか、結構な梃入てこいれをしたようで、アーランノットシティの町並みはそのままに、内政干渉をしたらしい。


 町並みを大事にするのなら、あのビルは無いよな。


 出会いの酒場はそのままだけど、市長は立ち入り禁止。博打も禁止。その代わりにカジノを一軒建てた。もちろんそっちのカジノにも市長は立ち入り禁止。

 市長相手にブレインがなんでそんな事を出来るのか聞きたい所だけど、聞くのが怖い。

 洗脳とか恐喝、買収という、オレの中ではNGワードしか思い当たらなかったから。

 そういや、この町の門前でも他の五大国と同様に、大穴を作って建国宣言したんだったよな。その辺りが原因なのかもな。


 アーランノットシティは今までも獣人は出入りしてたし、他の国に比べて差別はあまりされてなかったようだけど、改めて市長から獣人国を国と認め獣人の人権も認める宣言書を発行させた。


 もうブレインのやりたい放題だね。ブレインが影の支配者と言ってもいいんじゃない? すぐにでもこの大陸全土を制圧できそうだよ。

 そのブレインを倒したうちの連中って凄いんだね。あの時はイレブンだったからステータスも今ほどじゃなかったにしても、こっちもボルト達主力抜きだったんだよな。

 実はキャリッジ冒険団で無敵の帝国を作れちゃったりして。なーんてね。


 とりあえず、市長には先日の件もあったから、仲直りをするでも無いけど挨拶ぐらいはしておいた方がいいよね。遅くはなったけど、家も建てちゃってるしさ。ビルだけど。



 市長は自宅にいた。自宅と言っても豪勢なお屋敷だ、アーランノットシティの中では一番大きい。いや、大きかっただな。

 今はオレのビルの方が大きいからアーランノットシティで二番目に大きい屋敷になってる。

 公務もここで行なう事が多いとの事。だから外にいる事が多かったのかもしれないな。


 門を守る守衛に名前だけ告げると、許可も無くさっさと入って行く一郎。

 守衛は何も言わずお辞儀をするだけなので、【御者】も慌てて後を付いて行かせる。

 ここに来たのはオレと一郎だけ。他の連中は冒険者ギルドに行っている。この町でも依頼が出るようになったらしいので、どんな依頼があるのか確認に行ったのだ。面白いのがあれば受けると言っていたが、もう長い間依頼を受けていないような気がする。


 一郎の後を付いて行くと、豪華な扉でノックをした。

 中から「どうぞ」という声が聞こえたので、一郎が扉を開き【御者】に向かって一礼し、を先に入るように促してくれる。


 中に入ってみると書類の山に埋もれた市長と、同じように書類を積み上げている五人の文官がいた。

 文官達は一瞬だけ【御者】に目を向けたが、すぐに書類との格闘にもどった。

 あれ? こいつらって……。

 市長は訪問者が誰か分かると素早く席を立ち、足早に寄って来た。


「ようこそ、いらっしゃいました。いつお見えになるかと心待ちにしておりました」

 あれ? こんなキャラだっけ? イカサマエロジジイだよな?


「今日は……一郎様…だけでございますね。ブ、ブレイン様は……」

「ええ、今日はお見えになっていません。今日は私とブレイン様の主様とご一緒しました」

「お、お二人の…主様……ハハーっ!」


 い? なんでいきなり土下座? 文官達は……そのまま…でもないか。処理スピードが目に見えて上がってるよ。


「……一郎?」

 何したのお前達!


「はい、この者達は元勇者という事もあり、少々実力を自慢していましたので、ブレイン様が実力を少~しだけ見せて差し上げたのです。もちろん、私も微力ながら助力させて頂きました」

「……何したの」

「はい、ここに転送魔法陣を描き、ある中級ダンジョンと繋がるようにしました。そこに一緒に行った後、お話し合いをしただけでございます」

「あ、あれが、ちゅ中級ダンジョンなわけが無いでしょう! 何度私達が死にかけたと思ってるんですか! 地龍が雑魚として群れて来るダンジョンなど普通じゃない! しかもフロアボスがウシュムガル十体など、誰がどうやったって倒せるはずがない!」

 一郎の説明に納得行かなかったのか、市長が猛抗議をする。


「ふむ、中級だという私の言葉が信じられませんか。人間基準で測られたダンジョンのクラス分けなど意味が無いのですけど。それに私やブレイン様は軽く倒して差し上げましたよね? あ、その時はあなた達は気を失っておりましたものね。わかりました、では上級、いえ特上級に連れて行って差し上げましょう。さすがに、地獄級や天国級ですと、私も自分で手一杯で周りの保護には回れませんから」

「……あれをあんた……いえ、一郎様達が倒した? ……特上級? ……」


 市長が葛藤している。

 その間に一郎がコッソリ教えてくれたが、どうやら気を失ってる間に一郎やブレインが倒しては市長たちを回復させ、戦わせて瀕死になると助太刀し、また回復させを繰り返してたようだ。

 ブレインが回復薬を大量に欲しがってたから渡してやったけど、そんな事に使ってやがったのか。

 オレはてっきり獣人達の修行に使ったのかと思ってたよ。

 後で知ったが、獣人達にも同じ事を特上級ダンジョンで行なってたそうだ。


「ブレイン様の実力はあなたも見たはずですが?」

「そ、そうだな、いえ、そうですね。ブレイン様がダンジョンマスターのキングヒドラを一撃で倒したのは見ましたが、あれは幻術の類では無いのかと……」

「失礼な方ですね。やはり特上級ダンジョンに参りましょう。はい、そちらの皆さんも装備を整えてください。回復薬や食料類は私が用意しますから、武具の装備だけで構いませんよ」


 ガタンッ! ガタガタンッ!


 文官が一斉に立ち上がり直立不動で一郎に許しを請う。

「一郎様! 私は幻術などとは思っておりません! どうかご勘弁を!」

「一郎様! もうダンジョンはご勘弁ください! もう二度と行きたくありません!」

「一郎様! 疑っている市長だけをお連れください!」

「一郎様! 仕事を二倍に増やされても構いません! ダンジョンはコリゴリです!」

「一郎様! いっそ殺してください!」


 こいつらって市長と同じ元勇者達だよな。ステータスも市長と同じぐらいだし、勇者の子孫でここに来る前はそれぞれの国で勇者をしてたっていう奴らなのに、心がバッキバキに折られちゃってるじゃない。


「貴方達の気持ちはわかりました。では、市長だけ行きましょう」

「え? あ、いや。そ、そんな、私だけ?」

「はい、他の方々はお約束通り、お仕事をしてくださってますし、ダンジョンには行きたく無いとおっしゃっておられます。ブレイン様や私に対しても忠誠を誓って頂いてるようですので、無理に連れて行く訳にもいかないでしょう」


 ホッと胸を撫でおろす五人の文官元勇者達。

 市長はそんな一郎の言葉に猛反論する。


「いえ、決して疑ってる訳ではないんです! ただ、現実味が無かったというか……お前達! お前達もいつも私と同じ事を言ってたじゃないか! この裏切者共!」

 そんな市長の言葉は聞こえないとばかりに文官元勇者達は市長と目を合わさない。


「ほほぉ、そんな事をおっしゃってたのですね?」


 ガタン! バタン! ザッ


 一郎が視線を向けると、凄い勢いで仕事に取り掛かった文官の五人。

「まぁ、今日の所はいいでしょう。では市長、参りましょうか」

 そう言って一郎が市長の首を猫のように摘まんで抱えた。


「主様、先にこの者に少し教育をして参りますので、今日の所はカジノで遊んでくださいませ」

「いえ、ちょ、ちょっと待って! ダンジョンは遠慮します! 私だって言われた通り宣言書も出しましたし、カジノにも酒場にも行って無いんだ! 毎日、獣人国の資料整理もやってるし、役に立ってるはずだー! だから、だからダンジョンは嫌だ! 勘弁してくれー」


 悲痛な叫び声を残し、市長は一郎に連れられて転送魔法陣から消えた。


 ……一郎……なんか楽しそうだったね。

 呆然と見送る文官五人を見てたら【御者】に見張られてると思ったのか、再び猛然と仕事を始めた。

 初めの切っ掛けが何か分からないけど、直接手を下すより残酷な気がするよ。

 

 オレは言われた通りカジノでも行って来ようかな。

 がんばれよ、市長さん。と心の中で応援してやった。


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