第168話 ようやくエリューマの町から出発
誤字報告ありがとうございます。
侵入者は朝を待つ事無く発見された。
そりゃ、入り口の前で縛られてるんだからすぐに見つかるよね。
騒ぎになる前に【御者】もディナー会場へ戻している。
獣人達も上手く隠れてるようで、見つかる事はなかった。
門兵が全滅している事も発見され、手厚く埋葬されるため遺体は丁寧に保管されたようだ。
侵入者達は意識を取り戻すと、鼯鼠人族に掛けられた暗示ですぐに自白をし、そのままお縄となったが、矛盾点が解決できなかったため事件解決までの時間が長引いた。
門にいた兵士は侵入者が屠った事は裏取りも出来たので問題無いのだが、この侵入者達を誰が捕らえたのかという事が分からない。
侵入者達に尋問しても白状しないため、この侵入者を捕えた義賊が敵なのか味方なのかで議論を呼ぶ事になった。
それと並行して侵入者の尋問も引き続き行われた。
御者をやってた奴がやはりリーダーで、名をレパードといい『聖天人民党』の幹部だと分かった。
『聖天人民党』とは人間以外は全て劣等種だと主張する、極度の人類至上主義の集団だという。
今回はセイシャロン王国の貴族からの命令で姫君の御者として紛れ込み、このエリューマ領に到着後、姫君の誘拐、場合によっては命を奪う計画だったらしい。
アーランノットシティへは、このエリューマの町に立ち寄ると日程的にも都合がいいため、必ず立ち寄ると踏んで、このエリューマの町で作戦決行するべく、元々計画が立てられていた。
この領主の屋敷で獣人が捕らえられていた情報も掴んでいたので、囚われている獣人を全て抹殺し、その犯人を姫様一行の仕業と見せかける計画だった。
なぜこの屋敷に獣人が囚われてたかというと、保険だった。
獣人が攻めて来た時に人質として使うために捕らえたそうだ。その情報が王都にまで届き、今回の陰謀の的になってしまった。
陰謀の首謀者はブラットリー・セイシャロン公爵、現王の三番目の弟だった。
叔父にあたるブラットリー公爵から紹介された御者だから何の疑いも無く採用されたようだ。
キャロライン姫側からすると、叔父がそんな企てをしていることなんて予期せぬ事だっただろう。
ブラッドリー・セイシャロン公爵は、囚われてる獣人を始末した後、『聖天人民党』の犯行声明を出し、一気に政権を奪取しようと計画していた。
奴隷解放の動きを見せる長男の国王と、どっちつかずの次男に取って代わり、人類至上主義の旗を掲げ、国を乗っ取る計画が進められていたようだ。
ただ、ブラッドリー・セイシャロン公爵も『聖天人民党』の頂点では無く上級幹部だったようで、頂点は別にいるようだ。
ドロドロだー。
だから嫌なんだよ、貴族って。オレが王だったらどんな奴だろうがすぐに王座を譲ってあげるけどね。むしろ、自分から次の奴を指名して次代へと世代交代したい。
しかし、そんな大事にたった七人で仕掛けるって『聖天人民党』は人手不足なのか? いや、こっちは陽動で、本体は王都でもう決起してるかもしれないぞ。そりゃそうだよな、政権奪取を狙ってるんなら王都でやるのが効果的だしな。
この町も獣人を処刑したとなったら対獣人側に付くしか無くなるから一石二鳥でもあった訳か。
他の町でもこういう事が起こってるのかもな。
ブレインに聞けば教えてくれるのかもしれないけど、久し振りの旅なんだし成り行きも含めて第三者の目線で楽しみたい。
王都に近づかなければ危険度は今までと変わらないだろうし、貴族にはできれば近づきたくない。でも、ライリィとルシエルは貴族のお嫁さんになってほしいと思ってる。矛盾してるけど、権力に無欲な貴族だっているんじゃないのかな? お金ならライリィやルシエルはたくさん持ってるんだから。
侵入者が囚われてから三日後、吉報が届いた。
オレ達はさっさと町から出て行きたかったんだけど、容疑者として軟禁されてたんだよね。
無理やり出て行けない事も無かったけど、今後の旅の事を考えるとあまり得策ではないと思って大人しくしてたんだよ。
シルビアはキャロライン姫に纏わりつかれて早く出て行きたかったみたいだけどね。
シルビアとキャロライン姫は、昔一度会ってたそうだ。
もう、七~八年前の事らしいんだけど、エイベーン王国の建国祭に招かれた時に出会ったらしいけど、シルビアは特に興味も無かったからよく覚えてないけど、キャロライン姫からすると勇者の子っていうのは憧憬の対象としては十分だったみたい。
パレードもあったぐらいだからエンダーク王国ってお祭り好きな国なのかもね。
このキャロライン姫、実はセイシャロン王国の第一王女で王位継承権第七位だった。王様の実子だった。
王様の実子では男兄弟が上に二人、長男に一人男の子が生まれ、王様に弟が二人いる。姉妹の中では長女。
魔法が盛んなこの世界では、回復魔法があるから死に辛いと思われがちだが、実は死亡率は非常に高い。冒険者は自分から危険に飛び込んで行くから自業自得な部分はあるが、貴族は跡目争いや権力争いで命を落とす事も少なくない。
七番目の継承権であれば、女性と言えども王位が巡って来る可能性も0では無い。その時には今以上のドロドロ劇場が待ってるのかもしれないけどね。
話は戻ってこの町にやって来た吉報だけど、この国は獣人国を国として認め、国としての交流を行なうと発表したのだ。
これは五大国の中でも三番目の発表だそうだ。
一番目はキュジャリング王国。キュジャリング王国には少し遅れたがエンダーク王国が同日の夜に発表し、一日遅れてセイシャロン王国が発表した。
二日の内に三大国が発表した裏にはワンワード王国が関係してるらしいけど、ワンワード王国からの正式発表はまだらしい。
国交樹立の発表はいずれも同じ内容で、獣人国を認め獣人の解放を約束すると発表している。
詳細は詰めて行かないといけないだろうけど、大きな問題はクリアできたんじゃないかな。
ブレインが頑張ってるんだろうね、でも九割は力技のような気がするのはオレだけか?
残るは中央のワンワード王国と南の端のランバルダル公国とアーランノットシティ。
なぜ、アーランノットシティを入れてるのかは分からないけど、ブレインはアーランノットシティも五大国扱いしている。
この領主の屋敷で囚われてた獣人達も解放された。
もう、話はできてたみたいで、解放された獣人達は四人ユニットのピピット達に守られて町を出て行った。この足で獣人国へ行くそうだ。
ついでにピピットから、ブレイン様からの伝言で「もう王都に立ち寄っても結構です」と教えてくれた。
それなら偶に寄り道をしながら街道に沿っていけばいいね。
もうシルビアもセンも我慢の限界だったから出掛けようか。
シルビアはキャロライン姫から早く逃げたいみたいだし、センは自分の家までもう近くまで来ているので我慢ができなくなったようだ。
元々、王都には近づかない予定だったから、王都の隣町にセンの家があると聞いてたけど、今回は寄れないかなと思ってた所に予定変更だったから、センももうウズウズして早く出発したくてジッとしてられないようだ。
ハヤテの所とオレの所を何度も往復して「飛んで行くのでゴザル」って言ってくるから、その度に「却下」って答えてる。ハヤテの所でも同じ事を言ってるみたいだ。
何度も来るので「先に行って待ってれば?」って言ったら大人しくなってくれた。
でも、久し振りなんだろうから仕方が無いか、少しは急いでやるかな。一人で行かせるとどうせ迷子になるだろうからね。
旅の再開の初めから躓いてしまったけど、気を取り直して出発だ。
先日、キャロライン姫達が盗賊に襲われていた地点はすぐに過ぎ、ようやくここでボルトとキューちゃんが合流した。
一日だけの約束だったのに何日も手伝ってたんだね。こっちは軟禁されてたからちょうど良かったんだけどね。
念話でこちらの居場所を伝えるとすぐにやって来た。獣人国が今どうなってるかも教えてくれた。
ワンワード王国とは戦争になったと聞いた時は、全員驚いていた。というか、早くそっちに参戦しなければってなってた。
いや、君達が行くと獣人国の戦争じゃ無くなっちゃうんじゃない? 人間の国が相手だから顔バレすると立場も悪くなるよ。
その点ボルトは影に隠れられるし、キューちゃんは誰が見たって強い魔物には見えないからね。体長三十センチ程度のポメラニアンみたいな魔物だし、可愛いとしか思えないよね。
額の宝石のような魔石さえ無ければ犬と言っても誰も疑わないだろうね。
ボルトの話では、すでに決着は付いており、ワンワード王国の代替わりが行なわれるそうだ。
それで、ワンワード王国からの発表が遅れてるらしいのだが……代替わりって何やったのお前ら!
一国の、それも各国から一番戦力が高いと目されてるワンワード王国の王様をどうやったら代替わりさせる事ができるんだよ! 穏便にってオレは言ったよね!
何をやったか怖くて聞けない……でも、ボルトとキューちゃんの満足そうな態度を見てたら、まぁまぁ暴れて来たんじゃないかと予想できるよ。
負傷者は多数出たが、死者は僅かで済んだらしい。
でも、これから膿を出すため処刑が行なわれる事になってるから、何人死ぬかはこれから決まるということだった。
だから処刑って何! あー! 聞きたいけど聞きたくない!
ブレインー! お前何やったのー!




