第165話 旅、再開
誤字報告ありがとうございます。
「で? オレ達はもう旅を続けていいんだね?」
「はい、そうだね。もう後は僕がやるからいいんだけど、明日だけはボルトさんに手伝ってほしいかな。ボルトさんなら後からでも合流できるんだろ?」
「明日だけ? そりゃ合流はできるけど、ボルトが出ると獣人だけじゃないって思われない? それに、メキドナの町ではボルトを見られてるから、キャリッジ冒険団が関係してるってバレる可能性もあるぞ」
「そこはボルトさんに影から出ないようにしてもらえれば大丈夫だよ」
やっとブレインを捕まえて、首都ダンジョンの一室でブレインと明日からの予定を話し合ってる所だ。
こいつって頼りになるかと思えば、勝手にいなくなる事が多いからあてにできない部分もあるんだよな。
ボルトは影から出ないようにするのか。確かに影から出なかったら姿を見られる事も無いけど、ボルトを連れて行くって事は戦いになるって事か?
「できるだけ穏便にね。戦わないで済むに越した事は無いんだから」
「わかってるよー。そうならないためにボルトさんに手伝ってもらうんだよ。もう時間も無いって報告もあったからさ、明日である程度決めちゃうよ。後はゆっくりやっても問題無さそうだから。逆にゆっくりやった方がいいとこもあるんだよね」
すべてブレインと一郎に任せてあるから、信用するしか無いんだけど、戦争にはしないでくれよ。
「あと、キューちゃんも連れて行きたい所だけど、ベンケイとコウメイがいるから大丈夫かな?」
「それは問題だろ。あいつらはこの首都ダンジョンの守りと国政の補佐をやらせるんだろ? それに見た目絶対に獣人じゃ無いからバレるって。魔人が絡んでると思われると後々面倒だぞ」
大丈夫か? こんな簡単な事が分からないなんて、実はブレインってバカだった?
「それは大丈夫なんだけどねぇ、ほら見て」
見てと言うブレインの背中からコウモリのような羽が一対出ていた。
「魔人はさぁ、上位になるとこうやって羽を出して飛ぶ事もできるんだよ。もちろん消す事もできる。収納じゃないよ、体内に消せるんだ。だから普段の見た目からは分からないんだけどね。主様も分からなかった?」
当たり前だよ! そんなの分かる訳無いじゃん!
確かに、ドワーフのとこの森では飛んで来たけど、速かったしスキルとか魔法で飛んで来たと思うじゃん。それが羽? 普段の見た目からも思いつくわけ無いって。
「だったら、その服って」
こいつら魔人って、一郎とはデザインが違うんだけど、執事のような服を着てるんだ。一郎みたいにネクタイはしてないけど、優雅な感じの服なんだよね。それが羽を出しても破れないって、獣人の服みたいなもんか?
「これは能力で出してるんだよ。センの変身に近いかな? 主様もそうじゃないの?」
「ほっとけ」
【御者】のも服じゃないけど、この地味な服から変える事なんてできないんだよ。一点ものなんだよ!
「この羽で飛んでれば飛べる獣人に混ざってれば分からないだろ? でも、それだと様子を見る事しか出来ないし、折角だからキューちゃんにも手伝ってもらおうかな」
「ああ、一日ぐらいならいいんじゃないか。キューちゃんも手伝ってくれると思うよ」
「じゃあ、僕はボルトさんに話して来るよ。主様は他のメンバーともう行ってもいいよ」
「わかった。ありがとう」
「あ! それからね」
行こうとしたブレインが振り返って注意をする事を付け加えた。
「各国の王都とアーランノットシティは後にしてね、もう少しかかるから」
「わ、わかった」
アーランノットシティから行こうと思ってたのに予定が狂うね。
でも、ここは素直に従っておくか。
皆を呼んで、今から旅の続きに行く事を告げた。
ボルトとキューちゃんは明後日からの合流になるから、ハヤテ、セン、シルビア、ルシエル、ライリィ、メイビーのメンバーだ。ナナには黙って行こう。
ハヤテとセンは同行する事になったけど、シスターズには今行ってるダンジョンがもう少しで終わるから、一日だけ待ってほしいと言われた。
逆にダンジョンに同行してもらえないかとも頼まれてしまった。
オレが行くとゴールドモンスターに出会えるかもしれないからだと言う。
モンスターキーももう当分いらないから別に行く必要は無し。
使いたくないけど、まだ精霊女王に貰った鍵が二本余ってるし、ダンジョンなんかもう作らないだろうしね。
で、なぜかダンジョン内にいるBASHAです。
だって、あいつら卑怯なんだ。全員でグルになって「獣人の面倒は見るのに私達の面倒は見ない」だとか「ジョンボルバードと最近会ってないなぁ」とか「ご主人様とは久し振りだから強くなったことろを見てほしい」とか「食わず嫌いは治しましょう」とか「新技披露するのニャ」とか、最後は「もうキャリッジ冒険団は解散なのですか?」とか「今まで我慢してたのにお願いを聞いてもらえないのですか?」とか、涙浮かべて泣き落としに来るんだよ。
断れなかったよ。で、ダンジョン内にいる訳なんだけど、オレがダンジョンにいるメリットって何も無いからね。
攻撃・防御はできないし、収納はもう皆持ってるし、料理も収納に入れてるみたいだし、もう誰も荷台になんか乗らないし。
いる意味ある? 逆にオレがいる事で、進捗のペースが落ちると思うんだよ。君らにもデメリットじゃないのか?
なんでそんなにオレを誘いたがる。意味が分かんねーよ。
ここはどこかの山中のダンジョンみたいなんだけど、転送魔法陣で一気にダンジョン内に来たから場所なんて分からない。
ただ、スライム系が多いダンジョンだなぁって印象。
ダンジョンを作るためにダンジョン核を貰ってから、さらに十個のダンジョン核をゲットしたそうだ。
ダンジョンっていくつあるの? 未管理ダンジョンって希少だという話じゃ無かった?
しかも、全部制覇してダンジョン核を持ち帰るって、お前達はアラシか!
人間が管理してるダンジョンではしてないからいいようなもんの、そんなにダンジョンばっかり行ってて楽しいの?
確かにレベルは上がってるけど、シスターズまでドンドン人外化していってない? 頼むよ、ルシエルとライリィ、それとシルビアとメイビーもお嫁に行ってほしいんだからね。
シルビアとメイビーには親がいるけど、ルシエルとライリィはオレが親代わりみたいなとこもあるんだから。
で、オレが来てから五階層で最下層のボス部屋に辿り着いた。
キングスライムどころかスーパービッグスライムや、無色透明なスライムや歪な形のスライムなどを倒し、辿り着いたボス部屋にはゴールドスライムがいた。
大きさはいたって普通の二十センチ程度。ただ数がバカほどいた。百体ではきかないだろう。
皆、嬉しいのは分かったから前を向いて、前前。
ホント余裕だよ、うちの連中は。
ここまで倒したスライムも、斬撃系はあまり効かなかった。その分、魔法には異常なくらい弱い。
このボス部屋でもそれぞれが違う属性の魔法を一斉に放ち、終了~。
無数に散らばる魔石を回収していると、宝箱が現れ、予想通りモンスターキーが入っていた。
『スライムキー(Y)』
ゴブリンより上なんだね。でも、そう大差無いかも。僅差でブービーって感じなんじゃないかな。
モンスターキーと魔石とドロップ品を回収したら、全員が収納バッグをオレに渡してくれた。
今までのダンジョンで回収した物が全部入ってるからどうぞってくれた。
別に自分達で持ってればいいのに、と思ったけど、使い道が無いからと強制的にオレのものにされた。
オレならモノづくりで使うでしょって言われたから有り難く貰っておく事にした。
皆、お金も沢山持ってるしね。
ルシエルとライリィは転送魔法陣とシャンプー&リンスや地図などのロイヤリティが入ってるはずだから今後お金で困る事は無いだろうし、シルビアは家が超お金持ちだし、メイビーはそんなにお金は渡してないけど、必要な時は余裕を持って渡してるし、家に帰れば相当上の地位が約束されてるようなもんだしな。
後は人外だし、お金を使う必要は無いから皆が持ってる収納バッグの中身はオレが貰う事にした。
素材と魔石だけね、他は個人の持ち物や武器が入ってるから、それはそのまま収納バッグから移さずに返してあげた。
獣人国のために少しお金を回してあげた方がいいのかな?
でも、自給自足できてるし、必要ならブレインが言って来るだろ。
一郎ならオレに負担を掛けまいと言わないかもしれないけど、ブレインならしれーっと言って来そうだよな。
その日は久し振りに山頂にある本拠地の馬車ダンジョンで、仲間だけで寝る事にした。
もちろんボルトもキューちゃんも一緒。二人がブレインに呼ばれてるのは明日だから。
キャリッジ冒険団が久々に全員揃い、夕食を摂り、遅くまで談笑した。
一郎達はまだ獣人国だから、オレが夕食を担当。
やっぱり皆が揃うとしっくり来るね。
この二か月ほど、一人にされる事が多かったから余計に思うよ。
翌朝は、全員で獣人国へ移動し、ボルトとキューちゃんを連れたブレインを見送り旅を再始動した。
行き先はセンの故郷セイシャロン王国に向けて進む事にした。
王都にはまだ近づくなと言われたけど、ゆっくり行けば時間も掛かるだろうし、途中にも小国や村はある。
獣人国の事を任せっきりにするのは少し心苦しいけど、国の運営なんて面倒だし、そのボスってのも柄じゃない。ボスというより崇拝対象にされつつあるし、獣人国から出られなくなっても大変だから、皆が付いて来てくれるって言うんなら、こうやって旅を続けたいな。
昨夜の談笑中には、ゴールドモンスターの為にもまたダンジョンに行きましょうって何度も言われて全て却下したけど、偶になら付き合ってやってもいいかな。
偶にだよ、十回に一回ぐらいならね。
今日の所は街道を進むだけだからボルトの先導役も不要だし、のんびり行きましょうか。
さて、次の村はどんな所だろうね。




