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第146話 晩餐会での交渉

誤字報告ありがとうございます。



 城に戻ると、ちょうど大臣さんがオレ達を探していた所に出くわした。

 もう晩餐会の用意が終わっていて、後はオレ達が行けば始まるとの事。


 早くない? もう食べるの? と思いながら、大臣さんに付いて行った。

 まだ、夕方の四時を過ぎた所だった。


 晩餐会の会場に入ると、もう王様は飲んでいた。

 何をって、もちろん酒だよ。

 ドワーフにとっては酒も水みたいなもんかもしれないけど、もう飲んでるのね。


 王様に挨拶をし用意された席に着くと、並べられた料理を見た。


 なんだこれ? アリか無しかで言うと全然無しだよ。

 焼いた肉のみ。ただ塩だけはふんだんに振ってあった。ここからもう少し山脈を行くと、岩塩が良く取れる場所があるそうで、この国では塩で困る事は無いそうだ。


 でも、これって塩を振り過ぎじゃない? 酒の肴にしても振り過ぎだよ。絶対うちの連中は残すよ。

 それでも、一応は頑張ってくれていた。

 ケチャップやソースやマヨネーズをかけていたけど、やっぱり食べられないみたいで、結局収納バッグから料理を出して食べてたよ。


 そりゃね、塩だけだもん、それも大量の。胡椒や香草も加えて、もっと塩を控えめにすれば普通に食べられそうなのにな、勿体ない。だって、肉は良さそうに見えるもん。


 流石にこんな料理とも言えぬ料理だからか、キュジャリング王国の時の様に料理長が出て来て文句を言われる事は無かった。


 ある程度、食事が終わると王様が大臣に何か指示していた。

 王妃様はいないんだね。周りを見ても、女性の姿が見えないね。

 じゃあ、あの王様の隣に座ってるのは誰なんだろう。弟かな? もしかして息子とか?


 ここにはオレ達の他には王様と、その隣の人と、後は貴族が何人かチラホラいるぐらい。

 全員、髭モジャだから女子率は0だね。


《ドワーフは全員カップルです》

 え? BLって事?


《違います。ドワーフの女も年を経ると髭を蓄えます。髭の無い若いドワーフの女は、男のドワーフから人気がありません》

 女ー⁉ あの髭モジャがー⁉ マジで?

 じゃあ、王様の隣に座ってるのは……


《王妃様です》

 マジか! オレの鑑定には性別は出ないし、これは分からなかったよ。生態は知らなかったけど、好みもそれぞれなんだな。髭モジャ女がもてるとは……ドワーフ恐るべし!


 一応、失礼があったら大変だから、皆にも伝えておくか。


『王様の隣に座ってるのは王妃様だからね。弟や息子じゃないから話し方に気を付けるんだよ』

 念話で皆に伝えると「え?」って顔をされた。

 何言ってるの? みたいな顔をされて、皆が【御者】をジト見。皆には分かってたみたいだ、分かって無かったのはオレだけ。ドワーフは女も髭モジャってのは常識だったみたい。

 そんな常識知らねーし。ラノベでも、そこまで書いて無かったと思う。俺の記憶には無いもん。



 仲間とそんなやり取りをしてたら大臣さんがやって来た。

「我が王国の料理はお口に合わなかったようですな。我々は主食が酒ですので、他の種族とは合わない事が多い事は分かっております。来客が来る事も少ないですし、他種族の好みは分からんのです」

「いえ、お気遣いありがとうございます。こちらこそ、折角の料理を残してしまって申し訳ありません」


「お口に合わなければ残すのも止むを得ませんな。無理に食べずとも結構。それよりも我が王より願いがあるのですが、聞いて頂けますかな」

「はい、私に出来る事ならなんなりと」

 客人扱いしてくれたしね、食事も部屋も用意してくれたんだから、それに見合うぐらいはさせてもらうよ。


「あなた方にしか出来ない事ですよ。一つはそのメイビー殿でしたかな。王様に火の精霊を見せて差し上げてくださらんか」

 バッカスも自分の妖精より上位だと驚いてたな。王様も興味があるんだね。


「メイビー、かまわない?」

「はい。ここで出してもいいのでしょうか」

 メイビーは、返事は【御者】にしたが、質問は大臣さんに向かって聞いた。


「はい、ここ王の御前でお願いします」

 では、とメイビーが火の精霊を出した。

 周囲からは「おおお」っと、どよめきが起こる。


「……け、結構です。メイビー様、ありがとうございました。今は偽装していると聞き及んでおります。本来の姿になったとしても、メイビー様なら問題無いでしょう」

 あれ? 大臣さんの態度が変わったぞ? メイビーの本来の姿ってエルフに戻ってもいいという事?


「エルフの姿でもいいって事ですか?」

 念のため聞いてみた。

「はい、今この国に滞在しているエルフはメイビー様だけです。というか、今までこのドワーフ王国を訪れたエルフはおりません。メイビー様が火の精霊持ちだという事は国民にも伝えますので問題ありません」

 という事は、ドワーフ達からメイビーが嫌な目で見られることが無い訳か。


「次に、パル様にお願いです。森に大量の妖精を呼び出したそうですね。バロメッツをもっと繁殖させることはできないでしょうか。もちろん報酬の事についても報告はされております。バロメッツ一株につき、金貨五枚で如何でしょうか」

 金貨五枚もくれるのか。でも高いのか安いのか分からないね。


「できるけど…それはちょっと安すぎひんか? バロメッツはすっごい希少なんやで。金貨五枚ぐらいではようせんわ」

「うぐっ、し、しかし、そのぐらいでなければ利益の方が……」

「そんな事無いやろ。バロメッツは毎年実である羊を付けるんや。金貨五枚やったら一年目で利益がでるんちゃうか?」

「むぐっ、これは手厳しい。それでは、金貨十枚で如何でしょうか」

「三十枚や」

「それでは大赤字になってしまいます。せめて金貨十五枚でなんとか」

「そんな事無いやろ。金貨十五枚やったらバロメッツの角だけでペイできるんちゃうか? バロメッツは肉もあるんやで。金貨二十五枚はもらわんとな」

「よくご存じでございますな。でも、それは毎年良い実を付ければという話です。金貨十七枚でお願いします」

「それはそっちの管理次第やろ。それにずっと妖精が見てくれるんやで。毎年良い実が生るに決まってるやん。金貨二十三枚や」

「わかりました。しかし、数の事もあります。百株増やして頂けるのでしたら金貨二十枚出しましょう」

「百株ってそんなに大丈夫なんか? 妖精は育てるのは得意やけど、魔物から守るのは苦手やで。そんな百株も管理できんのか?」

「国を上げて執り行いますので、百株程度でしたら問題ありません。しかし、できればある程度密集して頂けると助かります」

「注文が多いなぁ。よっしゃ分かったで、その条件を全部飲んだるから金貨二十五枚や! これ以上負けられへんで」

「……分かりました。一株金貨二十五枚で飲みましょう。ですが、それは実際に見てから判断という事で宜しいですかな?」

「当たり前や。明日の夜には出来てるで。明後日の朝に確認しよか」

「わかりました。では、またバッカスについて行かせましょう」


 凄いなパル! 金貨五枚を提示されたのに、金貨二十五枚で交渉しちゃったよ。

 百株だと金貨二千枚も得した事になるな。

 パルって意外な商才があったんだな、驚いたよ。


「では、パル殿の件は明後日という事で、後はダンジョンに行かれた方々に素材の提供をお願いしたいのです。もちろん相場より少しは色を付けさせて頂きます」

「あ、大臣さん。その前に一つ聞いて欲しいんです。今日、鍛冶屋で武器制作を頼んだんです。それで代金はこちらで支払うように言われたんです。金貨百枚という事だったんですが、ここで渡せばいいですか?」

「金貨百枚で武器制作ですと! リーダー殿は何の素材を持ち込んだのですか!」

 大興奮だな。もう持ち込んでるし本当の事を言うしか無いんだけど。


「リッチーキングの骨を出したんだけど」

「リッチーキングの骨ですとー! そんなレアな素材をどうして持ってるんですか!」

「ちょっと大臣さん、落ち着いて」

「落ち着いてなんかいられる訳がないでしょ! どこの鍛冶屋に頼んだんですか!」

 あ、名前を聞いて無いよ。

「名前を聞くのを忘れちゃった。場所はね……」

 大臣さんに鍛冶屋の場所を教えてあげた。


「こうしてはおれません。では、私は失礼して」

 え? どこ行くの?

「大臣さん?」

「おっと、そう言えば、何を注文したのですかな?」

「えー、刀とミニチュアソードですけど」

「わかりました。では、私が刀を打って来ましょう。では」

 そう言うと大臣さんは晩餐会場から出て行ってしまった。

 ……職場放棄? あと、オレ達はどうしたらいいの?


「許してやってくれ。彼奴はこの国でも五本の指に入るほどの鍛冶の腕を持っておっての、レア素材と聞けばじっとしておれぬのだろう。其方らの武器も彼奴に任せておれば安心だろう。して、其方らは他にも素材を持っているのではないのか? 沖合のダンジョンに行ったと聞いておるぞ」

 大臣さんの代わりに王様がオレ達の所に来た。

 王様が席を離れてもいいの? しかもオレ達と話すために来たみたいだ。王様だったら呼べばいいのにね。やっぱりこの王様って暇なんじゃない?


 王様は他のドワーフの倍ぐらい大きいとは言っても、一般的なドワーフの倍だから身長は180センチ程だ。横も倍だから凄く大きく見えるけどね。


 しかし、一国の大臣が鍛冶スキルを持ってるとは思わなかったな。しかもこの国の上位鍛冶職人って…これは流石ドワーフって事でいいのかな?


「素材ですか。そうですね、持ってると思います。シルビア、今日の分はシルビアが持ってるんだよね?」

「うん。でも、素材はそんなに大したものは無いよ。ブルードラゴンの牙とかレッドドラゴンの鱗とか地龍の牙ぐらいかな。あと、ファフニールの羽、イエロードラゴンの牙、グリーンドラゴンの爪、ラドンの鱗に……もうちょっとあったかも」


 シルビアが素材の名前を言う度に、周りからは「おおお!」というどよめきが大きくなって行く。


「それで大した物ではないのか……ならば全部売ってもらっても構わないかな?」

「馬車さん?」

「ええ、結構ですよ。シルビア、頼むよ」

「わかった」

「ちょ、ちょっと待つのだ。おい! 誰か!」

 素材の売却にOKを出したら、シルビアがこの場で全部出そうとして王様に止められた。

 もう地龍の牙とかグリーンドラゴンの爪とか出てる。

 ドラゴンって大きいから素材も大きいんだよ。流石にここで出すのはマズいよね。オレもここで出すんじゃなくて、言われたら出してあげてってつもりで言ったんだけど、ここで出しちゃったね。


 王様の声に反応した兵士がやって来て、シルビアを倉庫まで案内して行った。

 シルビアが出て行くのを見届けると、王様が問いかけて来た。


「あれで大した事がない素材だと言い切るのなら、まだ持っておるのだな」

「…はぁ、まぁ」

 確かに持ってるけど、さっきの驚きようを見ると、ウシュムガルなんて言ったらどうなるんだろう。

 どの程度まで言っていいものなのかな。


「ブラックドラゴンは持っておらぬか」

「いえ、持って無いですね」

「火龍は?」

「いえ、それも持ってません」

「なら、闇龍も持って無いか……」

「はい、持ってません」

 ドラゴン系が好きなのか? いや、今日行ったダンジョンがドラゴン系が多いダンジョンだからドラゴンの種類を並べたのか。ドラゴン系の素材は基本、攻撃力・守備力が高い装備ができるからね。

 でも王様に言われた素材は持って無いな。今日、シルビア達が取って来てないんなら無いよ。


「今日、ダンジョンに行った仲間は、明日も続きを行くと言ってますので、もし取れたら優先的に回すようにします」

「うむ、助かる。して、他には何を持ってるのだ? 見た者から聞いておるが、其方達の装備はかなり高ランクのものだと報告が入っておるぞ。その者達が着ておるレザーアーマーも相当のもののようだな」

 流石に今は武器を収納になおしているけど、レザーアーマーのまま来てるもんな。

 晩餐会だけど、今日はドレスじゃないんだ。防具の方がウケがいいって言われたからなんだけど。


「はぁ、ありがとうございます。素材ですか……」

 なんか言いにくいんだよな。

「言えぬのであれば言わなくても構わん。だが、今後も良い素材を手に入れたらこちらに送ってほしい。その為の魔道具を授けるので、頼めるかな?」

「はい、こちらに素材を優先的に届けるんですね。そのための魔道具ですか?」

「うむ、転送ボックスと言ってな、収納ボックスのような物で収納するとこちらの転送ボックスに転送される魔道具なのだ。作ってほしいものがあれば、その時に素材と一緒にメモを添えると作ってやる事もできる。売りたいだけでも結構だ」

「そんな便利なものがあるんですね」

 そんなものがあったんだ。転送魔法陣と収納ボックスを合わせたようなものなのかな?


「うむ、我が国独自で開発した逸品だ。だからこのような辺境であっても国として成り立っておるのだ。詳しい事はまた大臣から知らせるように伝えておく。其方らはいつまでいるのだ? できればダンジョンの最深部まで行ってほしいものだが」

「それは大丈夫だと思います。うちの連中は最下層まで行ってダンジョンマスターを倒すまでやると思います。ここのダンジョンって何階層まであるんですか?」


「知らぬ」

 王様は即答だった。

 確かに海の上のダンジョンだもんな。ドワーフは水嫌いだと言ってたし、行ったドワーフもいないんだろう。この国では沖合のダンジョンの情報は何も無いんだろうな。


 シルビアが戻って来たので、そのまま解散の流れとなった。

 明日も今日と同じでメンバー変更無しでの行動だな。

 大臣さんは戻って来て無いみたいだな。明日帰って来てからなら会えるかな? 買い取りの精算もあるし、明後日の朝には確認もあるしね。


 ダンジョンはボルト達に任せて、オレ達は森での作業だな。

 ダンジョン制覇に何日掛かるんだろうね。


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