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第145話 ドワーフ王国

 ドワーフの国は山を一つ越えた裏側の中腹辺りに入り口があった。

 森側からは見えない位置にあった。森の様子は替わりで見張りを立て、様子を見ているようだ。

 来る途中にいたから、たぶんそうだと思う。

 見張りだからバレないようにいるんだろうし、バッカスから説明は無かったが、オレには見えてた。ルシエルもハヤテやキューちゃんも気付いてたようだ。


 入り口の大きさは意外と大きく、縦五メートル、横十メートルぐらいあった。こんなに大きくてもいいの? って思ったが、重厚な門が閉められるようになっていたし、中から討って出る時にはこれぐらい無いとダメなんだろう。


 門にはもちろん門兵がいて、入出門のチェックをしている。だけど、こんなとこに来る人間なんかいないだろうから、身内の出入りのチェックをしてるだけなんだろう。里帰りする者もいるだろうしね。

 案の定、オレ達は何十年振りかの人間の訪問者だったみたいだ。オレ達の中までヒューマンって言ったらシルビアしかいないんだけどね。

 そのシルビアも今はいないからノーヒューマンだな。


 ドワーフも一部では外交も行なっているらしい。

 だが、そのほとんどは転送魔法陣を使うとバッカスが教えてくれた。

 さっき火の精霊を見てから、かなり口が軽くなっている。元々口の軽そうな口調の奴だとは思ってたけど、実際軽かった。


 ドワーフって寡黙な職人ってイメージだったのに、結構話すんだよ。ドワーフって話好きだったの?


 門を潜ると、凄く天井の高い大空洞になっていた。

 その中にひしめき合うように建物が建っている。

 しっかりと区画整理されてるようで、ドワーフの定番の鍛冶屋も固まっているみたいだ。


 中央の奥に天井まで高くそびえる建物があった。

 案内をしてくれているバッカスが「あれが王城だ」と教えてくれた。

 オレ達はその王城に連れて行かれるようだ。

 いきなり王様と会う事は無いだろうけど、行政機関も一緒に入っているだろうから、まずは取り調べみたいな事が行なわれるのかもしれないな。



 そして―――


「お前達の中に火の精霊と契約しているエルフがいるそうであるな」

 今、謁見の間で王様と対峙している。

 バッカスに城に案内されると、どこにも寄り道をせずに真っすぐ謁見の間に通された。

 今までの経験から、まずは控室の様な所に通されたんだけど、ここの王様は暇なんだろうか。

 王様にこんなに簡単に会えるって……

 警戒心も薄そうだな。


「はい、今はダークエルフに擬装していますが、こちらのメイビーがそうです」

 そう言ってメイビーを紹介した。

「ほぅ、その者か。それと妖精を大勢召喚した者もいると聞く、それもその者か」

「いいえ、こちらのパルが召喚しました」

 次はパルを紹介した。

「ほぅ、其方の仲間は有能な物が多いのだな。では、要望通り、客人としてもてなそう。大臣、後は任せる」

「ははっ、それでは後の事は私が引き継ぎ致します。今夜は晩餐会という事で宜しいでしょうか」

「うむ、それでよい。例の用意も忘れるでないぞ」

「ははっ、ぬかりなく」


 別に客人は希望して無いんだけど、バッカスがそう言ってくれたのかな? いつ報告したんだろ。種族間で念話でも使えるのかな? エルフもそうだったし、同じ妖精だと言ってたからできるのかもな。


 優しそうな王様では無かったけど、怖くは無かったな。

 見た目はやっぱり髭モジャだったけど、他のドワーフの倍ぐらい大きかった。他のドワーフをそのまんま大きくした感じだったよ。あれなら王様だとすぐに分かるね。


 でも、泊まりはマズいな。ボルト達が帰って来ちゃうよ。念話で連絡があったら説明すればいいだろうけど、ボルト達も入れるのかな?


 部屋には大臣さんが自ら連れて行ってくれるみたいだけど、それには理由があった。

 この大臣さん【鑑定】持ちなんだ。

 それで、俺たちの事を【鑑定】してるみたいなんだけど、誰も鑑定できなかったみたいだ。


 オレはいつも通り馬車置き場にいて【御者】を出してる訳だから、鑑定はできないよな。

 ハヤテは厩舎にいるから関係ない。

 メイビーは鑑定できるけど、クレオはオレでも鑑定できない。今は、ある理由からメイビーも鑑定できないんだけどね。

 キューちゃんはペットだと思われてるかもしれないけど、【鑑定遮断】を持ってるし、パルは精霊だから精霊の下位である妖精のドワーフには鑑定できないみたい。

 残りはルシエルだけど、ルシエルもメイビー同様【鑑定】できなくなってるんだ。


 今回の道中で、精霊女王の髪を加えたレザーアーマーを造ったんだよね。

 項目に出てたからね。夜は暇だから目新しい物があったら造るだろ?


 そのレザーアーマー、流石は精霊女王の身体の一部だけあって、色んな効果が足された。

 防御力アップだけは大した事は無かったんだけど、【状態異常無効】【魔法防御(特大)】【鑑定妨害】【HP回復】【MP消費減】が付加効果として付いた。


 元々うちの連中は、相手の攻撃なんか当たらないような戦闘をする。ま、当たる前に倒してしまうって感じが多いけど。

 それでも、MP消費が減るのは助かる。しかも鑑定妨害付き。

 精霊女王の髪を加えただけで、上級の装備が伝説レジェンド級になってしまったんだからね。さすが精霊女王だな。

 これなら【伝説の箒】がゴッドクラスってのも頷けるな。いい物を貰ったよ。


 結局、部屋に着くまで誰の鑑定もできず、大汗を流している大臣さんは、注意事項をいくつか言って立ち去ろうとした。

 それをオレが引き止めた。


「すみません。まだ連れがいまして、後で合流するんですが、そいつらも呼んで構いませんか?」

「お仲間ですかな? 何人いるのだ?」

「えーと……三人です」

 ボルトは数に入れなくていいだろ。


「了解した。部屋は用意しておこう」

 門にも伝えておくのでと、名前を聞かれ、三人の名前を伝えておいた。あとは連絡が来たら場所を教えるだけだな。


「この様な危険地帯で別行動とは、貴殿達は中々剛の者のようだな。それで、お仲間はどこへ行ってるのだ?」

 何か警戒された? 間者スパイと間違われても嫌だし、ここは正直に言った方が良さそうだな。


「今は沖合のダンジョンに行ってます。たぶん、日が暮れる前には戻って来ると思うので、それから合流しようかと思ってたんです」

「な、なんと! あの沖合のダンジョンに行っているのか!」

 なんでそんなに驚いてるの? 近いんだから、ドワーフも行った事があるんじゃないの?


「もしかして、この国が管理するダンジョンでしたか?」

「いや、それは無い。ドワーフ族は水を嫌う。海に近づく者などおらんわ」

 そういや、バッカスも水の精霊を持つドワーフはいないって言ってたっけ。


「そのお仲間も晩餐会に出席するよう願いますぞ!」

「は、はぁ」

 大臣さんの目が急に変わったから空返事になってしまった。

 お金だったら『$』か『¥』なんだろうけど、今の大臣さんの目は左目が『素』、右目が『材』って文字が浮き出てるように見えたよ。

 素材が欲しいのか? ドワーフだから鍛冶屋が多いんだろうから素材はいくらあってもあり過ぎるって事は無いのかも。さっき見た町並みも鍛冶屋が多そうだったもんな。でも、どこに向けて売ってるんだろうね? 転送魔法陣がどうとか言ってたけど。


 でも、そんなに素材を期待されてもダンジョンって魔物はダンジョンに吸収されてしまって素材は残らなかったんじゃ……

 あ、ドロップ品や宝箱があるか。


 間に合うかどうかは分からないけど、間に合えば晩餐会に出席させることを伝えた。

 あと、晩餐会の時間までは自由だと言うので、町の散策に出掛ける許可をもらった。

 城にいるよりドワーフ国の、特に鍛冶屋で武具を見てみたいね。アイテムなんかも掘り出しもんがあるかもしれないしね。



 町に出てみると、意外と店は少なかった。店は飯屋と少々の服屋だけ。あとは工房ばかりが目立った。

 八百屋も偶に見かける程度で、同じぐらいのアクセサリー屋があるぐらい。こんなんで生活ができるのかと、こっちがいらぬ心配してしまう程だった。


 何人の人口がいるのかは知らないけど、町を行く人影も疎らで、すれ違った人はまだ三人。巡回の兵士だけ。店番や飯屋には人がいるみたいだけど、全員ドワーフ。今の所、ドワーフ率100%だ。


 やっぱりこんな辺鄙な所に来る物好きなんていないんだろうね。オレ達はボルトの先導があるし楽に来れたけど、普通なら来るだけでも命懸けなんだろうからな。


 一応、数少ない武器屋・防具屋にも寄ってみた。ホント少ないんだよ。鍛冶屋や工房は多いんだけど、武器屋も防具屋も少ないんだ。

 この国で売れるとも思えないから少ないんだろうけどね。

 だってこの国の住民は、ほとんどドワーフだから買う必要が無いんだろう。欲しけりゃ自分で作るなり、身内や知り合いに頼めばいいし、町の外に出る事も無いだろうから頻繁に買う事も無いだろうからね。


 武器・防具屋には、鉄や鋼の装備が大半を占めていて、ミスリルソードが一本だけ飾られているだけだった。そのミスリルソードも売り物では無く、飾ってあるだけ。


 武器屋の主人に聞いてみたら、欲しい武器があれば鍛冶屋に素材を持ち込んで作ってもらえと言われた。

 それなら自分で造れるし、と思ったけど、物は試しで一軒の鍛冶屋で作ってもらう事にした。

 だって、センとパルの目が輝き過ぎなんだよ。

 センは武器だったら何でもいいみたいだし、パルは「うちは剣やー! ほんで森の王者になるんやー!」って言ってるけど、お前が剣を使ってるとこを一回も見た事が無いんだけど。


 今回はパルの剣を作ってもらう事にした。パルのサイズは一度作ってもらわないとオレの項目に出て来ないんだよ。逆に、パルのものを作ってもらって収納すれば通常サイズならオレが造れるようになるからね。

 そう思って、ハーベレイ・インダスタンスが封印されてた洞窟の番人をしてたリッチーキングの骨を出して剣を作ってくれと頼んでみた。


 鍛冶屋のオヤジの喜びようは凄かった。

 リッチーキングの骨を見た親父は「久々の大仕事だぜー!」と張り切っていたが、作る剣がパルのものだと知ると、あからさまにガッカリしていた。

 仕方が無いので、刀を作れるかと聞いたら作れると言うので、刀も作ってもらう事にした。


 工賃は金貨百枚だと言われ、支払おうとしたら「お金は城に納めてくれ」って言われた。

 なんでも、この国は完全なる社会主義国家で、すべて王族が管理しているとの事。

 この国のドワーフはお金を持たないそうだ。どうしてるかというと、国からの依頼で武具を作る。その仕事の報酬として、食料や酒など必要な物を国から貰う仕組みになっている。

 今回の様に、イレギュラーで発生した仕事は、代金を国に治める代わりに、良い食材や良い酒が貰えるようになっている。

 但し、ノルマを達成できなくても、食料は供給されるそうで、食うのに困る事は無いそうだ。でも、ノルマを達成しないと酒は貰えないらしいので、皆頑張るのだと説明してくれた。


 お金の管理に疎いドワーフならではだと思うが、それが嫌で出て行った者達が各国で鍛冶屋を出し活躍しているようだ。

 この国にいれば生活で困る事は無いが、ありふれた素材の物しか作れないそうだから、それが嫌で出て行く者もいるのだとか。


 でも、この国から出て行くドワーフの理由として一番多いのが、色んな素材で武具を作りたいというのを抑えて、色んな美味い酒が飲みたいが第一位だそうだ。

 この国の酒の銘柄は一種類だけ。あとはファンタジーでお馴染みのエールだけど、エールはアルコール度数が低いのでドワーフには人気が無い。

 鍛冶屋のオヤジも、今回はいつも飲んでる『地底人ドワーフの誉』じゃなく、王族御用達の高級ブランド『地底人ドワーフ殺し』が飲めると喜んでたよ。


 ドワーフ相手には料理より酒の方が商談には効きそうだな。と、心のメモに書き留めておいた。


 鍛冶屋から出ると、ちょうどボルトから念話が来た。

 こっちに来るように伝えると、十分もせずにボルト達と門で合流できた。

 ボルトが三人を背に乗せ走って来たようだけど、ドワーフの見張りは驚かなかったのかな?


 今日は三十階層までしか行けなかったから、明日は続きに挑むと報告された。

 まだ行くのね。


 オレも、今日の晩餐会に招待されてる事を伝え、寝るのは城になったと言ったら『それでは我はガンキの所にいます』と言ってボルトは出て行った。


 ボルトはその方がいいだろうね。

 今日のドロップ品はシルビアが持ってるみたいだし、ボルトには朝迎えに来てもらうように言って、オレ達は城に向かった。


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