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第142話 森の違和感

 ガンちゃんの生まれ故郷でもある北の森。この森に名前は無い。

 人も住めないような魔物の楽園。


 北に向かって森を抜けると、すぐに海に出る。

 沖合一キロ程の所に小島があるが、そこにダンジョンがあるとガンちゃんが教えてくれた。


 いや、教えなくてもいいんですが。

 もう、シスターズの食いつきが半端ないんですけど。


 人間が来ない土地のしかも沖合の小島にあるダンジョンという事で、誰にも荒らされてないダンジョンだという。


 そんな未踏のダンジョンだから、ボスがどれぐらい強いのかも分からない。

 中が広いのか狭いのかも分からない。

 情報は皆無。一つだけ、ダンジョンから溢れた魔物をガンちゃんは何度か見たそうで、種類としてはドラゴン種がいるのではないかと言っていた。


 ドラゴンベビーやワイバーンが出て来て飛び立つ所を何度か見たそうだ。

 ドラゴンダンジョンっすか、ボルトが食い付きそうだな。でも、狭いダンジョンだったらボルトは行かないよな。


『主殿、誰を連れて行きましょうか』

 え? ボルトが引率するの? だってお前ダンジョン嫌いだったじゃん。


「ボルトは行くの?」

『勿論です。影移動を習得したので、狭い所も苦になりません』

 あっ、そうだった。ミランダリィさんの件で悔しくて覚えたんだった。


「そ、そうだったね。でも、誰を連れて行くって言われても、行きたい奴が行けばいいんじゃない? オレはガンちゃんとここに残るよ」

「殿、それは困るのぅ。儂も一度はダンジョンに入ってみたいと思っておった。ただ狭いと困るでのぅ、殿が行って儂を呼んでくれると入れるんじゃがのぅ」

 そんなの知らねぇよ! ジョンボルバードを行かせりゃいいじゃん! 誰かに『長寿の水』を持って行ってもらうとかさ。


「でも、全員で行く訳にはいかないだろ? ダンジョンって四~五人がベストって言うしさ。ダンジョンの通路を通るにしてもオレは邪魔だろ? メンバーからはずれた者と一緒に留守番するよ。ガンちゃんは『長寿の水』を誰かに持って行ってもらえばいいんじゃない?」

「殿はつれないのぅ。最近、一向に呼んでくれんのじゃのぅ」

 いや、呼ぼうと思ったら、お前が勝手に来てたんじゃないか!


「うちは残るで。ダンジョンよりこの森の方が気になるんや」

 皆がダンジョンって言う中、パルは森の探索をしたいと言いだした。


 オレはパルの言葉に乗る事にする。ま、当然の選択だね。

「ガンちゃんの故郷だし、オレもパルに同行しようかな。そうなるとボルトがダンジョンに行くって言うし、ハヤテとキューちゃんに残ってもらう事になるけどいいかな」

「自分はいいっすよ」

キュキュ『ボクもいいよー』


「それなら私ももちろん付いて行きます」

 ルシエルが慌てて残る事を主張した。


 そうなるとダンジョン組は、ボルト、シルビア、ライリィ、セン、メイビーか。

「メイビーはオレといた方がいいんじゃない?」

「わかりました。では、そう致します」


 メイビーは素直に聞いてくれた。ボルトとセンがいれば安心だと思うんだけど、未知のダンジョンだし、皆より少し力の劣るメイビーは心配だからね。

 シルビアとライリィは何度もダンジョンに入ってるし、大丈夫だよね。


 ダンジョンチームは、昼飯を食ったらさっさとダンジョンに行ってしまったよ。

 どうやって海を渡ったかって? センが海を凍らせたよ。


 残った森探索チームは、オレとハヤテとキューちゃんとパルとメイビー。ガンちゃんはこの場で待機だね。

 ガンちゃんの背中にはジョンボルバードが三体いるけどね。

 料理を多めに渡して、後で呼んであげるからと言ったらガンちゃんの機嫌も治ったようだ。



 パルが気になるって言うぐらいだから、この森には珍しい物でもあるんだろうか。


「パル、どっちに気になる物があるの?」

「あっちやねんけど、なんかはっきりわからへんねん」

 東の方を指差しパルがそんな事を言う。

 森のスペシャリストのパルが分からないって何があるんだろ。


「ガンちゃんはあっちに何があるか知らない?」

「あっちは……何かあったかのぅ」

 うん、覚えて無いんだね。


 ま、行ってみればわかるか。

 今日は先導のボルトがいないから、ハヤテの頭にキューちゃんが乗って、ハヤテとキューちゃんの風魔法で樹を切り倒してくれる。収納はもちろんオレ。もう相当な量の樹が収納されてると思うんだけど、大量の材木って何かに使える物ってあるの?


 今は探索が先だけど、収納の中で眠ってる物の使い道も考えて行かないとな。


 パルが言った東の方角には山があった。

 山ではあるが、山脈の始まりの山である。真っすぐ東へ伸びる山脈。

 そう、前回キュジャリング王国の勇者の子達が攫われて魔人セブンに囚われていたダンジョンのあった山に続いている山脈、その頂上には魔界への入り口があるとボルトが言ってた山へと続いている山脈だった。


 もちろんオレには分かってたけど、かなり離れているし、影響は無いと思っていた。

 あの時だって、山の麓にいたのに全く影響はなかったから。

 でも、森のスペシャリストのパルが分からない何かがあると言うのなら、魔界の入り口の影響がここまで及んでいるのかもしれない。うちの主力が抜けている今は、用心にこした事はないな。


「パル、その気になる物って、禍々しいものだったりする?」

「そんなんとちゃうねん。なんちゅーんかなぁ、森の中に人工的な何かが隠されてるみたいな感じやねん」

「それって魔人と関係あったりしない?」

「魔人? そんなんとちゃうちゃう。そんな物騒なもんや無いねん。なんか隠れとんねん」


 隠れてる? どういう事だろ。結界かな?

「ルシエルは分からない? 近くに結界があるとか」

「結界ですか……ございますね。しかも、大小たくさんございます。ご主人様、これは一体どういう事でございましょう」

 え? 結界がたくさんあるの?


「パル? そうなの?」

「うちは森の中しか分からんけど、隠れてる部分が何個かあるから、結界も何個かあるんやろな」

「いえ、森の中の結界はまだ少ないです。せいぜい十個ほどでしょうか。あの山の中腹から上、それと山脈に沿ってもう少し向こうの方にまで結界が点在していて、大小合わせて全部で五十以上はございますね」


 森の中は少ないのか。二人共、同じように感じるんならそうなんだろうな。

 問題は山の方だな。山の方というと、やっぱり魔人を警戒してしまうよな。

「ルシエル、その結界って、どんな感じのものなの?」

「はい、もう少し近づいてみないとハッキリとはしませんが、隠す意味合いが強そうで、侵入を防ぐ効果はかなり緩そうに感じます」


 得体の知れない相手みたいだな。魔人じゃ無いかもしれないけど、慎重に調べたい所だな。

「近づく前に、もう少し詳しく知りたいな」

 五キロまで近づくとオレの視認範囲に入るから、何か分かるかもしれないけど、まだちょっと遠いんだよな。しかも、森にあるっていう結界もオレには見えないし、オレの手には負えないか。


「それやったら、うちに任せといて」

 小さな胸を張ってパルが任せろと言う。

 何をするんだろ。


 パルはハヤテより前に降り立ち詠唱を始めた。


『豊かなる森の精霊達よ、我の声を聞け。大地の小人よ、風の少女よ、樹の乙女よ。精霊ディーディパルの名において命ずる、この森と山の異物を見つけ全てを無に帰せ』


 一斉に無数の妖精達が森の全体から現れた。

 土の妖精ノーム、風の妖精シルフ、樹の妖精ドライアドが森中から現れ、山へ向かって行った。

 一部の妖精は森に点在しているとルシエルが言ってた結界であろう場所に密集している。


 ……ハッ! つい見とれちまった。まさかパルが詠唱なんてすると思って無かったから意表をつかれたな。

 でも、格好良かったぞ、パル!

 詠唱の時には標準語なんだって野暮なツッコミはしないぞ。詠唱だもんな、パルも分かってるじゃないかな。


「ちょっと頑張りすぎたわ。もうあんまりMPも残ってへんし休ませてな」

 そりゃあれだけの妖精を召喚したんだ。当然だろう。


「おお! 今『回復地帯(ヒーリングゾーン)』をしてやるから早く荷台に上がれ」

「おおきに、そうさしてもらうわ」

 パルが荷台に上がると早速『回復地帯(ヒーリングゾーン)』を発動してやった。

 エリクサーも出してやり、料理も出した。おまけにケーキも出してやった。


 皆、なんでこんなに? って顔をしてたけど、ルシエルが「……詠唱?」と呟くと皆の顔がハッとなった。

 皆の頭の上にビックリマークが付いたように見えた。


 だってピーンって聞こえたんだから。いや、ホントに聞こえたんだから。


《私が言いました》

 お前が言ったんかーい!

《私もピーンと来ましたから》

 だからって言わなくてもいいんだよ!



 パルが回復すると、妖精達の一部が戻って来た。

 森の中で集まってた妖精達だ。

 妖精達は、パルになにやら告げると、再び山の方へ向かって出ていった。


「パル?」

「うーん、あのなご主人様。森の中にあったのは結界やってんけど、小さい結界でな。結界の中には樹があっただけやねん」

「樹?」

「ちょっと珍しい樹やとは思うんやけど、結界で守られてた理由が分からんねん」

「何ていう樹なんだ?」

「バロメッツって言うんやけど、まだ何も生って無いんやて。生ってたもんは収穫された後かもしれへんけどな」

「誰かが育ててるのか?」

「そら無理やと思うわ。野生のバロメッツを見つけて確保してるんちゃうかな」


 誰か人間の手が入ってるって事か? でも、このへんに住んでる人間なんかいないだろ?


 オレの中の知識をナビゲーターが画面に出してくれた。

 バロメッツという植物は希少な植物で、羊の魔物を実らせる。

 その実である羊の魔物は放っておくとそのまま動きだし年に一度種を蒔くが、角や毛皮や骨は武器や防具の素材として希少だし、肉も美味い。

 生ってる時は収穫も簡単ではあるが、魔素の多い所でしか育たない。

 実である羊も種を蒔くために生まれるため、攻撃力は高くない。

 弱い魔物で美味い肉とくれば、他の魔物の格好の標的で、滅多にお目にかかれない植物である。


 いたね~、羊の魔物。後で採っとこ。


 山に向かった妖精達も帰って来た。

 山に張っていた結界は鉱物を守っていたようだ。


 やっぱり誰かが意図的にやってるよな。結界という時点で、誰かがやってるんだけどね。

 でも、この結果の張り方だと、素材や食料の確保って感じだよな。誰なんだろ。


 それはすぐに分かった。

 山から軍隊が降りて来たんだ。斥候が来たのかもしれない。

 総勢二十人程だが、全員が同じ装備を着ていた。

 手には全員が斧を持ち、背は低いが幅は広い奴らで、全員が髭を蓄えている。鎧は鋼の鎧かな?


 ドワーフ? だよね。うん、ドワーフって文字が出てるよ。

 こんな所にドワーフ? もしかしなくても、この結界を張ってたのってドワーフだよねぇ。

 全部、パルの召喚した妖精が結界を壊しちゃったね。

 これって怒られるのかなぁ。怒られそうだなぁ。だって皆、怖い顔してるもん。


 話し合いでなんとかならないかなぁ。


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