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第138話 不可侵の町

 

 エルフの里の中央部からの帰りは、語り部の村を避けて、エルフの結界を出た。

 来る時にルシエルに結界外の転送魔法陣まで付いて来てもらって、今回のメンバーが通れるように結界に細工をしてもらってたんだ。

 ルシエルはそのまま帰ったけど、帰りの時にオレ達だけで出る時もルシエルのお陰で問題無く結界から出る事ができた。


 そのまま転送魔法陣で馬車ダンジョンに帰って来た。


 ……王妃様、まだいたんだ。


 確かに、王妃様には城での業務は無いかもしれないけど、王妃様って貴族の晩餐会への出席や、ご婦人方の纏め役など、社交的な交流面で忙しかったりするんじゃないの?


「あらリーダーさん、お帰り。早かったのね」

「そ、そうですか? 王妃様はずっとこちらに?」

 早くないと思うんだよね。二泊三日の飲んだくれツアーだったし。メイビーとパルは精も根も尽き果てて、今日はもう寝ると言って自室に戻って行った。


「ええ、ここは素晴らしい所ですね。見晴らしはいいし、お風呂も最高。料理も美味しいし、ジョンボルバードの空の遊覧は最高に気持ちがいいですわね。なにより、シルビアと一緒に楽しく過ごしていますわ」

「それはそれは、喜んで頂けてこちらとしても嬉しいです。でも、城には戻らなくてもいいんですか?」

「ええ、あなた達は明日立つのでしょ? わたくしもそれに合わせて戻る事にします」


 結構自由なのな。本当にいいのかどうかは知らないけど、オレがそこまで口を挟む事も無いしね。

 王妃様の面倒を見るのは一郎達だし、シルビアも王妃様の相手をするのは楽しそうだし、部屋も余ってるしね。食材は一郎達が何とかしてくれてるみたいだから、王妃様一人分ぐらい何とでもなるしね。


「あと、ここの場所は分かってますか?」

「ええ、王都キュジャーグのお城が見えますから分かってますよ」

「一応、国外なので、ご内密にした方がいいでしょうね」

「ええ、誰にも言いませんわ。でも、また呼んでくださいね」

「はい」


 また来るの? 別にいいけどね。

 しかし、一郎にも困ったもんだ。何がサプライズだよ。「喜んで頂けて何よりです」って、喜んでねーっての! 驚いた意味が違うわ!

 ここにはボルトやハヤテやキューちゃんもいるし、ガンちゃんだっているから内緒の方がいいのに。しかも何! 『執事の嗜み』って何! オレの描いた転送魔法陣と繋げられるなんて聞いて無かったよ。そんなユニークスキルが付いた事も知らなかったよ。


 シルビアと王妃様は、前回王妃様の部屋で渡した通信水晶でやり取りしてたみたいだけど、何でそんなに親密な付き合いなんだよ。

 エイベーン王国で、良い付き合いをしてるんだなぁとは思ったけど、泊まりに来るほどの仲だとは思わなかったよ。



 翌朝、馬車ダンジョンでの宿泊を満喫された王妃様は、一郎に送られて行った。


 オレ達は続きだな。エイベーン王国の国境を出た所からだ。

 森の中に描いた転送魔法陣まで転移して、旅の再開だ。


 もう少しこの街道を東へ行くと分かれ道になる。

 左の南へ向かうとワンワード王国、真っすぐ東へ進むとセンの縄張りのセイシャロン王国。

 今回の目的地は北のガンちゃんがいた所だから右へ曲がって北上する事になる。


 その分かれ道には大きな町があり、オレ達も立ち寄る事にした。

 エイベーン王国、ワンワード王国、セイシャロン王国のそれぞれの通貨が出回っている珍しい町のようだ。

 どの国の属国ともなっていないようで、それぞれの国も不可侵を決めているようだ。


 街道の中心地、アーランノットシティの歴史は古く、五大国にも引けを取らない武勇もある。決して無抵抗主義では無い。

 それならもっと国として発展するとか、もっと領地を広げるとかしそうなものだけど、それも無い。ずっと町としてどの国にも属さず、しかも各国からの侵略も無い町として栄えて来た。


 もちろんそれには理由がある。

 アーランノットシティの別名がその理由を如実に表している。

 アーランノットシティ、別名『勇者の終焉の地』。またの名を『出会いの町』

 このどちらかで呼ばれる事が多い町である。


 その理由は、昔この地を巡ってよく戦争が起きていた。

 それを嘆いた召喚勇者が、魔王討伐後にこの地をどの国にも属さない『市』にすると宣言し、初代市長となった。そして、この『市』は領地拡大はしないし、戦争を仕掛ける事もしない。但し、仕掛けて来るならば容赦はしないと各国に宣言した。

 その考えに賛同した、別の国の引退した召喚勇者も次々とこの町の市民となって行った。


 引退したとはいえ、勇者相手に戦争を仕掛ける国も無く、まして自国の為に魔王討伐をしてくれた勇者に対して各国はこぞって援助をした。

 そうして発展して来た歴史の中で、勇者に憧れる冒険者達もこの町を訪れる者が多かった。

 多くの冒険者はこの地でパーティを再結成する事が多かった。この町には勇者の武勇伝が多く伝わっており、心に火が点く者が多かったようだ。より上を目指すためにパーティの再編をする冒険者が多かったようなのだ。


 酒場で勇者の武勇伝を話すうちに意気投合してそのままパーティの再結成が多くみられるようになり、そのうちパーティを組んでいない冒険者達でもパーティが組めるという噂が流れるようになり、ピンの冒険者が集まるようになる。そして更にパーティが組まれる。

 『市』という呼び名はこの世界では馴染みが無いので『出会いの”町”』と呼ばれる事になった由縁である。


 今ではあまり勇者召喚をする国は無いようだが、その子孫達は今でも勇者として活躍している者が多い。

 これがオレの知るこの世界の”知識”の一つだけど、シルビアの父ちゃんもここの勇者の子孫なのかもな。それならシルビアもって事になるけど、どうなんだろ?



 オレ達はアーランノットシティの町に入った。

 皆、冒険者カードを持ってるから問題無い。あれ? メイビーは持ってた? 関所で出してたカードは冒険者カードじゃなかったような……


「メイビー。メイビーって冒険者なの?」

「いいえ、私はどのギルドにも入っていません」

「じゃあ、さっきのカードは?」

「あれはニルベレ準男爵から頂いた市民カードです。町の出入りをするには問題ありません」


 メイビーは冒険者じゃなかったんだ。冒険者ギルドにも一緒にいたからてっきり冒険者だと思ってたよ。そりゃオレ達が行くから一緒には付いて来るよな。


「どうする? 冒険者に登録する?」

「どうしたらいいですか? 登録した方がいいのなら登録しますが」


 そんなもんオレに聞かれたって分からないよ。そんな事はパーティリーダーに聞いてくれよ。……あ、リーダーはオレだ。


「うーん、もう仲間なんだし、同じキャリッジ冒険団にしてた方がいいんじゃないかな。ここにも冒険者ギルドはあるだろうし、登録だけでもしておこうか。ランクは別に上げる必要はないけどね」

「かしこまりました」



 冒険者ギルドに来てみると、有り得ないぐらい大きな建物だった。

 三階建てなんだけど、敷地面積が広いんだ。メキドナの冒険者ギルドの三倍ぐらいあるよ。


 中は相当活気づいているんだろうなぁと想像しながら【御者】で入ってみると、ガラーンとしていて、誰も受付に並んでいない。

 時間帯なのかもしれないな。でも、空いてる方が待たなくていいし、ちょうど良かったよね。

 でも、外から見た感じより中は狭いな。メキドナの冒険者ギルドとそんなに変わらないよ。

 建物は三倍ぐらいあるのに、中身は同じぐらいってなんでだろ。


 メイビーには受付で登録をするので【御者】を付いて行かせ、他のメンバーは依頼ボードの確認に行った。


「すいません、登録をお願いします」

「え? 登録ですか?」

「はい、このの登録をお願いします」

「え……は、はい、登録ですね。少しお待ちください」


 受付のお姉さんが慌てて資料を出したり、隣の受付に聞いたりしている。

 このお姉さんは新人なのかな?


 時間は掛かってるが、後ろで誰も待ってる訳でも無いし、オレ達も急いでいる訳でもない。この人の新人教育のためにも待ってやるか。


 ようやく登録も終わったので、受付のお姉さんに少し話してみた。

 たぶん新人だろうから緊張してるだろうし、少しでもほぐしてあげようかな。

 オレもベテラン冒険者になって来たか?


「お姉さんって受付になって何か月なの?」

「……三年です」

「えっ⁉ 三年?」

「はい……大変時間が掛かってしまい申し訳ありませんでした」

「……」

 新人じゃなかったんだ。失礼な事を聞いちゃったな。オレもまだまだベテランじゃ無かったって事か。調子に乗り過ぎちゃったかな?


「こちらこそすみません。失礼な事を言っちゃったね」

「いえ、登録は基本業務ですから。できなかったこちらが悪いのです。申し訳ありませんでした」

 しっかり受け答えは出来てるよね。なんでこんなに登録に時間が掛かったんだろ?


「何か理由でもあったのかな? あ、ゴメン。言いたく無ければいいんだよ」

「いえ、私の言い訳にもなりますし、聞いてください。このギルドでは新規登録は滅多にされないのです。パーティ登録はよくやるのですが、新規登録などこの冒険者ギルドでする冒険者はいないのです。私も受付に座って初めてしましたから」


「新規登録をしない? なんで?」

「この町が『出会いの町』と呼ばれている事はご存知ですか?」

「はい」

「この町には新たなパーティメンバーを見つけるために来る者や、どこかのパーティに入れてもらおうとする者しか来ないのです。碌な依頼もありませんし、冒険者として活動を始める者などこの町にはいないものですから新規登録をする事は無いのです」


 確かに新人だったら誰も相手にしてくれないか。碌な依頼も無いって……

 あれ? 皆の姿が見えない。どこに行ったんだ?


 依頼ボードに視線を向けると、うちのメンバーの姿が見えない。


「この冒険者ギルドで出される依頼は薬草採取ぐらいなものです。何かあれば勇者様達が対処してくれますから。だから、この町を訪れる冒険者の目当てはこの冒険者ギルドに隣接されている『出会いの酒場』であって、この冒険者ギルドでは無いのです」


 勇者がいるの? しかも『出会いの酒場』? まるっきりGAMEじゃん!


「『出会いの酒場』でメンバーを見つけ、こちらでパーティ登録する。それぐらいがここでやる業務なのです」

「でも、パーティ登録はするんだよね? 新規登録とそんなに違う物なの?」

「そうですね、まず新規登録の場合には聞かなければいけない項目がありますが、パーティ登録はメンバー登録だけです。その新規登録の記入用紙も、使ったことがありませんでしたので、どこに置いてあるか分からなかったのです」


 そうなんだ。全く新規登録が無ければそうなるのかもな。このお姉さんで三年目にして初めての新規登録の業務か。


 新規登録をしない元勇者の治める町か。

 なんか初めての体験が待ってそうだな。

 でも、皆どこに行っちゃったんだろうね。



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