第134話 パレードの準備とその後
もう少しパレード前の話しから続きます。
シルビアの件は何とかなりそうだ。
あそこまで、王様と王妃様の協力が得られたのは予想外だったけど、いい意味での予想外だ。
後は、シルビアが演説の時に台詞を間違えなければ上手く行くだろうな。ライリィじゃないんだから大丈夫だろ。
さて次はパレードに向けて準備するか。
今日も王様には衣装は大丈夫なのか、王妃様には馬車は大丈夫なのかと言われて来たから何か考えないとね。
とは言っても、衣装なんていつもの装備でいいと思うんだよ。
オレ達は大道芸のパレードをする訳じゃ無いんだから、ピエロの格好をする訳には行かないんだから、いつもの装備でいいだろ。その方がキャリッジ冒険団だって分かりやすいしね。
馬車だって、オレがバージョンチェンジでフォルムを変えるだけだから、幌馬車モードの幌無しでいいんじゃない? 荷馬車モードは流石に農馬車だからパレードには向かないかな。
ライリィがパレードで何かするって言ってたし、四人乗りの貴族風馬車だと、周りから何をやってるか見えないだろうからね。
そのライリィは、っと。
「ご主人様! 教えてくださいなのニャ」
「ライリィ、どうしたの。何を慌ててるの」
「パレードの出し物がジャグリングしか思いつかないのニャ。ボルト様に聞いたらご主人様に聞けって言われたのニャ」
ボルトに先に聞いたのか。そりゃ無理だろ。
で、オレにジャグリング以外の何かを考えろって事かな?
「ジャグリングだけじゃダメなの? ライリィは沢山の球でジャグリングできるじゃないか」
「ジャグリングだけじゃ奇術師の名折れなのニャ。もっとネタが欲しいのニャ」
奇術師の名折れって、ライリィはいつから奇術師になったの? 武闘家じゃなかったの?
「奇術師ね…ジャグリングって奇術師の技じゃないからね」
「そんな事無いのニャ。王都のダンスパーティでも奇術師がジャグリングしてたのニャ」
あー、確かにやってたねー。でも、あれはツカミだから。本ネタは別にあっただろ。
「でも、確かにパレードだし、ジャグリングを荷台でやればウケるだろうな。だったらジャグリングをもっと派手に見えるようにすればいいんだろ? それでライリィの師匠のボルトにも一役買ってもらえれば尚いいよな」
「おお! さすがはご主人様なのニャ。そんな夢の様なネタがあるのかニャ?」
「いや、まだ思いつかないけど、ボヤーっとは頭に浮かんでるよ」
「じゃあ、いつもの方向でお願いするのニャ」
そう言ってライリィはスタスタ去って行った。
いつもの方向って何? ……丸投げって事か!
それから一晩考え、タネを仕込み、翌朝ライリィに伝えた。
明日が本番だからね。練習は今日しかできないから、一晩中タネ造りを頑張ったよ。
馬車置き場だから邪魔する者もいないしね。グスン、ちょっと寂しい。
造った物は一メートル角の箱が五個と、おもちゃの様な弓と、先に吸盤の付いた矢。
弓はすぐにできたけど、箱はまぁまぁ時間が掛かった。一番時間が掛かったのが吸盤。この世界にゴムが無いんだよ。
そこで思い出したのが、先日海で獲ったテンタクルス。タコかイカか知らないけど吸盤はあったからね。
デカいけどそこは、もの造りに関してはチートなオレ。ナビゲーターに相談しながら造ったよ。
吸盤でも大小の大きさがあるから、小さい所を利用して造ったんだ。それを矢の先に落ちないように刺すんだけど、矢の威力がありすぎると、矢が吸盤を突き抜けてしまう。矢の先を潰して、吸盤の中央部分を硬い素材で固めて、それでも矢から抜けないようにしてと。結構苦労したんだ。
出来上がった物を、朝食が終わって皆に見せ、二時間程練習したら、それなりにできるようになってた。
あとは、明日まで各自練習だ。
それと気になったのは執事だ。
オレ達が練習中に出掛けたみたいなんだけど、まだ少しふらついていたんだ。
執事さんの事は好きじゃないけど、別に嫌いでも無い。あまり関わり合いになりたく無いだけだ。こっちから敵対する気も無いしね。
昼食も終わり、各自練習している間に、ボルトに頼んでネコを召喚してもらい、馬車を引く要領で荷車をネコに引かせる練習をしていると、執事さんが帰って来た。
もうこの世の終わりの様な顔をしてたよ。どこに言って来たんだろうね。
執事さんはそのまま部屋に籠って出て来なかったみたいだ。夕食の時にはメイド長が執事さんの代わりをしていたからね。
そして、パレード当日だ。
皆、練習もキチンとしたようで、ルシエルなんか、あの小さな弓で百発百中になってたもんな。しかもノータイム速射で。
シルビアとメイビーはオレが造った箱で、転送を楽しんでただけだったね。
ライリィは練習に余念が無かったね。このパレードに掛ける意気込みを感じたよ。
まずは、シルビアの演説。立派な演説だった。今後シルビアは、こういう社交的な担当でいいかもしれないな。会話はイマイチな感じはあるけど、今回の王様との交渉も上手くやったしな。
ライリィは練習の甲斐もあり、うまくやってたね。だって奇術師だから、それぐらいやってもらわないとね。で、いつ武闘家に戻るのかな? 地図を作ってた時はライリィ画伯って言ってた気もするな。
あいつ、何を目指してるんだろ。
ちょっとルシエルが暴走しかけたけど、皆うまくやったね。ただ、最後に気になったのがデブ猫。柄はトラネコ。
ボルトに聞いたらボルトが召喚した時に、ネコを纏めるボスを一匹呼んだんだけど、そのボスが奴らしいのだ。
召喚したネコの数が多かったからボス的存在がいれば纏めるのも楽だろうとは思うけど、あれで普通のネコだって言うからビックリしたよ。一メートルぐらいあるんだよ?
しかもそのまま居残ってるし。ボルトもそのうち還るでしょうって気にも留めてない。まぁ、所詮ネコだから人間を襲ったりしないだろうけど、王妃様が気に入ってしまって城に連れて帰ってしまったんだ。
晩餐会の時は王妃様と王様の間に席を用意してもらってたな。
名前は『大臣』と王妃様が名付けた。
デブ猫を呼ぶ度に本物の大臣が返事をする。王妃様は「大臣ちゃん」って言ってるのに大臣は反応してしまうようだ。
なんでそんな名前を付けたんだろうね。
あれ? 名前を付けちゃうと従者に……あれは魔物だけの話か。それも話せる魔物ね。
あれ? でもジョンボルバードはシルビア達の従魔になってたな。あれはシルビアのスキルだろ? 弱らせて仲間になるかって聞いて、同意を得ると従魔になるってやつ。
今ならシルビア達が少し本気を見せれば、賢い魔物ならすぐに仲間になるだろうな。
晩餐会が終わると、城の外では執事さんが待っていた。シルビアを乗せて帰りたいと行って来た。
昨夜、部屋に執事さんが訪ねて来て、「お嬢様の事をよろしくお願いします」とやつれた顔で元気なく一言だけ言うと、寂しげに帰って行った。
目にはいっぱい涙を浮かべていたな。
本当にシルビアの事を心配してるんだな。
その日はシルビアも執事さんと一緒に帰った。
教育方針とか、考え方とか、オレには受け入れられない部分もあるけど、本当にシルビアの事を親身になって考えてくれてたんだな。
あと、冒険者ギルドの件。これはオレの口が軽かった。
別に言うつもりはなかったんだけど、王妃様の所で、ついポロっと「この国の冒険者ギルドって他所とは違うんですね」って言ってしまったんだ。
本当に世間話のつもりだったんだ。冒険者ギルドやギルマスの事をチクってやろうとは全然思って無かったんだ。
だって、もうあいつらは仕掛けて来ないだろうし、仕掛けて来たとしても返り討ちにするぐらい余裕でできるからね。
そうしたら王妃様が食いついちゃって、根掘り葉掘り聞かれて、「シルビアのいるキャリッジ冒険団を危険な目に合わす訳にはいきませんね。任せておきなさい」と言ってたから何かするんだろうとは思ってたけど、ギルマスが更迭されてしまったようだ。後で知ったので詳細は分からないんだけど、王妃様の一声でギルマス交替が決まったそうだ。
ホント、密告なんてする気は無かったんだよ。でも、結果としてオレの言葉から始まった事だから反省はしてるよ。
だけど、そのお陰で他国からの冒険者も地元の者と同等の扱いになったみたいで喜んでる冒険者が多かった。
地元の者は今まで通りだし、余所者扱いが酷かっただけみたいだから、地元の者も不満は無いしね。一部の地元愛の強すぎる者を除いてね。
でも、それが普通の冒険者ギルドだと思うんだけどね。
パレードの二日後、シルビアの屋敷の者に見送られてオレ達はエイベーン王国を出た。
号泣してるのは執事さんとププさんだった。
王様と王妃様が隠れて見てたけど、オレには見えてたからね。




