第131話 対ギルマス
ギルマスをライリィが吊り上げた状態でマスタールームに入ってきた。
ライリィに言ってギルマスを下してもらい、オレが話を切り出した。
入り口にはセンに立ってもらってるから、誰も入って来る事は無いだろう。
部屋の中には【御者】、ライリィ、ルシエル、メイビーがいる。
パルとキューちゃんは荷台で待機している。
「ここのやり方に合わせてオレ達もやらせてもらう事にするよ。ここは力尽くで相手をねじ伏せてもいい所のようだからね」
「そ、そんな事はしておらんぞ! 私はお前が受付嬢を虐めていたから摘み出そうとしただけだ!」
相変わらず、自分が正しいと主張するギルマス。
でも、それが力尽くって事だと思うんだけど。
「確かに虐めてたね」
「そ、そうだろう」
「でも、その理由はなぜなのか知らないの?」
「そんなの知る必要もない!」
あ、そうなのね。やっぱりここはそんなとこなんだ。
「ここのギルドはあんたがルールなのか? 冒険者ギルドのルールって無いのか?」
「私が冒険者ギルドのルールに則って管理しているんだ。余所者にとやかく言われる筋合いはない」
「冒険者って余所者ばかりだと思うんだけど、地元以外の者にはこういう扱いになるんだね」
「当たり前だ! 余所者に大きな顔をされてたまるか!」
え? なにこの雑魚発言は。ギルマスがそんなんでいいの?
「もう話にならないね。ルシエル、何かいい方法はある?」
「この者はご主人様に手を出そうとしました。万死に値します」
毎回思うんだけど、【御者】だからね。【御者】はどうやっても傷つく事も無ければ死ぬ事も無いからね。一旦消えるだけだから。すぐに出し直せるし。
「殺すのは流石にマズいかな。ライリィは?」
「やっぱり殺すのニャ?」
いや、オレが聞いてるんだけど。
「メイビーは?」
「一日に一度なら殺してもいいのじゃ。妾が蘇らせてやるぞえ」
クレオが出てる。こういう時はクレオが出て来るんだね。
「殺さない案は無いの?」
「ございません」「無いのニャ」「無いのぅ」
流石にそれはマズいって。
確かに殺したいほど頭に来たけど、本当に殺しちゃマズいって。
「それはやっぱりやり過ぎだと思うんだ。この人だって殺されるほどの事はしてないからね。ギルマスがこんな感じで管理してるんなら、そのうち冒険者ギルドから抹殺はされるかもしれないけど、それでも死にはしないからね。ちょっと懲らしめる感じでいいと思うんだ」
「それでは昨日のように修練場で懲らしめますか?」
「それはいいのニャ、賛成なのニャ」
「妾はまた回復係なのじゃな、つまらん」
またやるの? 絶対やり過ぎちゃうでしょ、あなた達。
「クックックック、何をバカな事を言っているんだ! よくもこのマックスバーグ準男爵を甘く見てくれたもんだ。私は元Aランク冒険者だ! Sランクに昇格するかギルドマスターになるかの選択を許されギルマスになったんだぞ。お前達程度で私に勝てるものか!」
やっぱり貴族だったのか。この嫌味な感じはそうじゃないかと思ってたんだよ。しかも準男爵って……レベル2男爵と一緒だな。
しかし、さっき腕を切り飛ばされて、それを治してもらった事も忘れちゃったのかね?
「あんたが強いか弱いかなんて、まったく興味は無いけど、あんたさっき腕を切り落とされたんだよ? しかも、治したのもオレの仲間だ。そのお礼はないの?」
「そんなのはお前達が勝手にやった事だ。私が頼んだわけではない」
あくまでもオレ達とは敵対するのね。
じゃあ、聞きたい事だけ聞いて、さっさと退散しましょう。
「さっきも言ったけど、あんたが強いとか弱いとかにはオレは興味がない。バートンの居所を教えてほしいんだけど、素直に言ってくれない? 流石に昨日は先に嗾けられたとはいえオレ達もやり過ぎたと思ったんだ。それで、お詫びも兼ねてお見舞いに行こうかと思ってね」
「うちの冒険者の情報を私が話すはずが無いだろう」
そこだけはまともなんだな、他はおかしいのに。
いや、ここもおかしいかもね、お見舞いって言ってるのに、教えてもくれないんだ。
やっぱりオレ達が余所者だから?
「ふーん。でもね、もうあんたとは真面目に話す気は無いんだ。うちの連中はやる気になっちゃったけど、修練場に行く?」
昨日と逆だね。オレから提案しちゃったよ。
「クァーッハッハッハァ、面白い! 私に敵うと本気で思っているようだな。少し痛い目を見て目を覚ますがいい」
自信満々だね。
その自信はどっから来るのかね。ステータスで一番高いのがHPの1050だろ? 後は1000を切ってるね。
人間にしたら凄いか。Sランクになりそうというのも嘘じゃないだろうけど、うちのメンバーの誰にも勝てないよ。
そういうのって、鑑定が無いと分からないものなのかな? 達人になると相手の気で強さが分かるとか言うけど、この人は分からないんだろうね。
『主殿、今日は我も少し暴れたいと思いますが』
『ボルト? 暴れたいって言っても、ボルトは修練場に入れないじゃないか』
『我の影の中なら広いので、そちらでどうでしょう』
ボルトの影の中ってそんなに広くなってたんだ。
でも、ボルトが出て来ると、見ただけで逃げられちゃうかもね。
『うーん、無理じゃないかな。こういう奴らって、こっちの提案は飲まないだろうし、飲んでも負けた時の言い訳にされそうだろ?』
『そうですな』
『一応、言ってはみるよ』
『御意。でも、もうその必要は無くなったようですな』
『ん? あ、ホントだね。そのバカ達はボルトに任せるよ』
たぶん、ギルマスの関係者だと思うけど、荷台に残しているパルとキューちゃんを攫いに来たのか、それとも、ただ単にオレかハヤテに何かの嫌がらせの為に来たのかもしれないバカが五人、ボルトの影に飲まれた。
外での事は言う必要も無いので、「オレ達は先に行ってるから、最強装備で来た方がいいぞ」と言い残して修練場へ降りて行く。
ドアではセンが見張ってたから誰も入って来なかったけど、入ろうと努力はしてたみたいだ。
「峰打ちじゃ」とセンは言ってたけど、階段の脇に並べられたそこそこ強い冒険者達が、また瀕死になってるから。やられた奴らって昨日のセンの戦いを見てたはずなのにね。
もしかしたら見えなかったのかもしれないか。センの動きを見切れる奴なんて、そうそういないだろうからな。
また勝手にやったって言われて頭に来るのも嫌だったから、この瀕死の奴らはそのまま放置。地元の奴らなんだろうから冒険者ギルドで何とかするだろ。
瀕死と言っても、毒状態にはなって無いから徐々に回復してるみたいだ。血も出てないしね、死ぬことはないだろ。
修練場で待っているとギルマスが七人の冒険者を連れて降りて来た。
周りは昨日以上のギャラリーで埋め尽くされている。
今日は、来た早々やっちゃったからね。目立っただろうし、あれからマスタールームに行って時間も経ってるから野次馬が増えるには十分な時間だったみたいだね。冒険者じゃない人もいるみたいだから。
ただ、今日はオレ達の応援もいるようだ。どうも、相手がギルマスだと知って、オレ達の応援をしてくれてるみたいだ。
「ギルマスなんてやっつけちまえー!」「殺したっていいぞー!」「地元贔屓もいい加減にしろー!」「他国の者からでも普通の代金で買い取れー!」「これでも冒険者ギルドかー!」
という、明らかに他国から来ている冒険者の野次。
「ライリィちゃーん! 俺達が付いてるぞー!」「ルシエルちゃん! いつものポーズやって~!」「今日はシルビアちゃんはいないのかー!」「セン様~! その着流し、素敵で~す!」「メイビーちゃん! エルフ最高!」[[キャリッジシスターズ!]]
とまぁ、シスターズの応援もいつの間にか増えてるし。
「何! シルビア様のキャリッジシスターズだったのか! こりゃギルマスの応援なんかしてる場合じゃねーぞ! みんな! 向こうを応援するぞ!」
と、誰かが号令をかけて、シスターズの応援が増えてるし。
一応言っておくけど、オレ達は『キャリッジ冒険団』というパーティ名で、自分達だけでは使ってるけど『キャリッジシスターズ』ってパーティは何処にも無いからね。
もしかして知名度はキャリッジシスターズの方が上なのかな? それって地味にオレがダメージを受けるんだけど。
「待たせたな。うちのエースパーティのSランクパーティの二組だ。私が出るまでも無いと、こいつらが言ってくれてねぇ。私の代わりにお前達を教育してくれるそうだ」
「ま、いつもマックスバーグさんにか世話になってるからそういう事にしときましょうか。お前らも大変な人に目を付けられたねぇ」
ギルマスのマックスバーグから紹介されたパーティの一人がそう言った。
こいつが一番レベルも高いし、ステータスも平均で2000を少し超えてるな。どちらかのパーティリーダーだろうか。
確かにSランクと言うだけあって、他のメンバーもそれぞれが強いな。ステータスの平均が1500を超えてる者ばかりだ。魔人相手でも、勝てるかもしれないな。イレブン達、別格は除いてだけど。
まぁ、キャリッジ冒険団の敵では無いけどね。
それにしても、ギルマスの装備……趣味が悪いな。キンキラキンじゃないか。性能より派手さで選んだんだろうな。
「こっちからはセンが出ればいいか」
「ご主人様! まずは私が…」
「ルシエルにはここに結界を張って欲しいんだよ。ギャラリーが多いから、ルシエルが出ると被害が出そうで。今日は、相手もそこそこみたいだから、ルシエルの使う魔法だと被害が出るかもしれないだろ? 刀が得意なセンに任せておこうよ」
「そういう事であれば我慢いたします。それでは結界を張っておきます」
「あたしも出ないのかニャ?」
「え? 出たいの?」
「当たり前なのニャ」
「じゃあ、ライリィにはギルマスを任せるよ」
「わかったのニャ!」
ギルマスはSランクパーティがやられるのを見たら出て来ないかもしれないから、ライリィを残して実力を見せなければ出て来ると思うんだよね。バカだから。
対決は一対一の試合形式で行われた。
こっちはセンだけしか出ないから、センの勝ち抜き戦みたいになってしまったけど、一度も相手に掠らせる事無く、余裕で七人の冒険者を倒した。
相手もまぁまぁ強かったよ。センにはハンデを与えたから見せ場も出せたようだしね。
まずは相手に先制攻撃を与えてから、センが攻撃する事。そして殺さない事。
この二つを守らせての圧勝。実力的には当たり前の結果だけどね。
そして最後のギルマスの番になると尻込みをして出て来ない。予想通りだけど、情けない奴だよ。
センに変わってライリィが対戦者として前に出ると、打って変わってやる気をみせるギルマス。
「わっはっはっは、やはり私には切り札を持って来るんだな」と心にもないセリフを吐いて出て来てくれたからね。作戦通りだよ。
センよりライリィの方が弱いと思って強気になったんだろうからね。
確かに今じゃセンの方が強いけど、あんたの何倍も強いから。
結果はもちろんフルボッコ。
ライリィも、このギルマスには頭に来てたようだから容赦がなかった。
だって一度殺しちゃったからね。
クレオによって生き返ったけど、ワンパンで殺されちゃったから倒された事も分からなかったようで、生き返った後も偉そうに話すから、次は殺しちゃダメだよとライリィに念を押してフルボッコで留めてもらった。
最後は号泣して漏らしてたね。
七人の冒険者は、クレオに回復してもらったけど、ギルマスは放置。また勝手にって言われるもんね。
バートンの居場所はギャラリーの一人が教えてくれた。
対戦が終わった時には、大半がキャリッジシスターズの応援に変わってたし、昨日の事でお詫びをしたいと説明すると、バートンのパーティのメンバーが、ギャラリーの中から押し出されるように出て来て、滞在している宿を教えてくれた。
この人は、初めからシスターズを応援してくれてたらしい。
ルシエルのサインと交換という条件ですぐに教えてくれたから。
昨日はどっちを応援してたんだろうね。
教えてもらったバートンのいる宿に行き、バートンを呼び出してもらった。
ビク付きながら出て来たバートンに謝罪をし、お詫びに『ブレイズソード』を渡した。
このバートンは火魔法も得意にしてるみたいだから相性がいいだろうと思って『ブレイズソード』にしたんだ。
大喜びのバートンは昨日の事を水に流してくれた。逆に謝罪にしたら貰いすぎだと言っていたが、『ブレイズソード』を手放す気は無かったみたいだ。
後日談になるが、バートンはこの『ブレイズソード』のお陰でSクラスまで昇格し、『炎獅子』と呼ばれる程の冒険者になったという。
バートンと別れると、シルビアの宮殿に戻った。
シルビアも執事もまだ帰って来て無かった。
忘れてたけど、シルビアはうまくやったかな。もしうまく行ったとして、王妃様に会ってどうすればいいんだろ。
今日、王妃様の好きな物が何か、情報を集める予定だったのに、何もできなかったバカであった。
すみません、次回の投稿は明後日になりそうです。




