第130話 シルビア王城へ行く
誤字報告ありがとうございます。
「お嬢様、到着いたしました。ここからは私達は入れませんので、お一人で行く事となりますが大丈夫でございますか?」
「大丈夫…です」
執事のセザールは満足気に一つ頷いた。
「はい、結構です。言葉使いも思い出して頂けたようでなによりです。冒険者はガサツな者が多くて言葉使いもなってない者ばかりです。そんな環境で今まで過ごされていたのです、徐々に思い出して行きましょう。そうは言いいましても今日は王様との謁見です、粗相のないようにお願い致します」
「はい、わかりました」
今日は、純白のドレスで着飾ったシルビアが王様へ帰国の報告の為、王城に来ている。
執事のセザールは、付き添いとして一緒に謁見をする事ができないため、城門の詰所までとなっている。シルビアが戻って来るまで、ここで待機するのだ。
騎士の案内で城の中の待機室へ案内されるシルビアを心配そうに見送る執事。
王様には可愛がって頂いてた事は覚えているが、それは六年前の話。今でも同じかどうかは会ってみない事には分からない。小さい時はおかしな言葉使いが可愛いらしく思える事も、大きくなると逆に相手を怒らせる結果になる事もある。
シルビアの言葉使いで王様を怒らせはしないかと、執事は心配していたのだ。
そんな執事の心配など、今のシルビアには関係ない。シルビアはどうやって馬車さんからの任務を達成するかをずっと考えていたのだ。
王妃様と会うのってどうすればいいのかな?
シルビアは昨夜からずっと考えてるがいい作戦を思いつかない。
元々馬車さんに丸投げするつもりだったのに、なぜ自分がやらないといけなくなったのかと思っていた。
でも、馬車さんにはいつも助けてもらってるし、今回は自分の事でもあると分かっているから頑張ろうとは思ってるのだが、中々いい作戦を思いつかない。
出たとこ勝負ね。
そう思うシルビアだが、それはいつも通り何も考えたく無いだけ。
それでも、今回のシルビアは頑張って考えたのだ、ただ思いつかなかったから諦めただけ。そう、今回は頑張ったのだ。
何も思いつかなかったが、謁見の時間はやって来る。
通常、王様への謁見をする場合、広大な謁見の間に通され、玉座に座る王様と遠い位置から謁見する訳だが、今回のシルビアは違った。
王様の執務室に通され、王様と王妃様に会う事となった。
謁見の間では形式ばった話しか出来ないと、王様からの提案だった。
王様の執務室の通されたシルビアは、キチンと挨拶をした。
王様の取り計らいで、この場には王様と王妃様とシルビアの三人しかいない。
「王様、王妃様。お久しぶりでございます。王様も、王妃様もお変わりなくお元気そうで、このシルビアも大変嬉しく存じ上げます。本日は、帰国の報告に上がりました。また今後とも宜しくお願い致します」
シルビアの挨拶を目を細めながら、孫でも見るようにニコやかな表情で見つめる王様と王妃様。
「うんうん、よう帰った。大きくなったのぉ、六年振りか。今、いくつのなったのだ?」
「十四歳でございます」
「もうそんなになるのか。しかし、あの子によぉ似て来たのぉ」
そう言ってさらに目を細める王様。その言葉に「本当に……」と相槌を打つ王妃様。
二人の目には、いつ零れ落ちてもおかしくないぐらい、涙が溢れていた。
「今日は予定を全て空けておる。今日は夕食まで付き合ってもらうぞ。キュジャーグではダンスも披露したそうではないか、今日は余のパートナーでも務めてもらうとしようか」
「はい、仰せのままに」
「シルビア……この場ではそんなに畏まらなくてもよい。昔のように話せばよいのだ。それと……」
「陛下……それ以上は……」
「構わぬではないか。ここには余と其方とシルビアしかおらぬのだ。こんな時ぐらいお祖父ちゃんと呼んでもらってもよかろう」
今、明かされた新事実。
止める王妃様の言葉を遮るように王様がシルビアにお祖父ちゃんと呼ぶようにせがんだ。そして、その王様の言葉に王妃様も乗った。
「それは私も我慢しているのです。陛下がそんな事をおっしゃるのでしたら、私もお祖母ちゃんと……」
「よいよい、それでよいではないか。どうじゃシルビア。昔のようにお祖父ちゃんと呼んでくれぬか」
「シルビア、私もお祖母ちゃんと……」
二人の熱い視線がシルビアに注がれる。
「うん、いいよ。お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ただいま」
何度も頷き、泣いている王様と王妃様。
「しかし、この事を誰にも明かせぬのが辛い。シルビア、お前は辛くないか? 不自由はしておらぬか?」
「うん、大丈夫。今は強い仲間と何でもできる馬車…リーダーと一緒だから何も不自由じゃないよ」
「そうかそうか、それは良かった。余が渡した杖は無くしてはおらぬか?」
「うん、これだね。持ってるよ」
そう言ってシルビアは以前王様から頂いた黒い杖を出した。
「それだそれだ、困った事があったらその杖を出すのだぞ。どの国の王家でも、その杖を見せれば協力をしてくれるはずだ」
「うん、困って無いからいい。あ、一つ困ってる」
「何か困っておるのか、それは余にできる事か?」
「うん、王様と王妃様にリーダーが会いたいって」
「シルビアのリーダーとはキャリッジ冒険団だな。シルビアが世話になっておるようだから、会ってもよいぞ。明日にでも来るか?」
「うん、ありがとう。リーダーにはそう言うね」
行き当たりばったりのはずが、難なく謁見が決定した。
「その者はシルビアが余の娘の子だと知っておるのか?」
「ううん、何も言ってない。誰にも言っちゃいけないってお父様から言われてるから」
「そうだの、そうだったの。言えぬのだったの」
「陛下……それはあの子達が生まれた時に決めた事です。でも私も辛ろうございます」
「ソフィア……あの子には申し訳ない事をした。選んだフローレンスも十六歳で亡くなったというに、連れ戻す事もできなかった」
「はい、王子が十歳になり、王太子になった後の事でしたから。王室の乱れの元となると、大臣からも大反対されましたから」
「その大臣ももう亡くなって、この秘密を知る者は余と其方とマクヴェルとシルビアとププの五人だけだな。もう今更この事を公表はできぬの。あの時に大臣の反対を押し切ってでも…いや、その前に双子の忌児だからと言うて、ソフィアを放逐せねば良かったのだ」
この国の王家では、長子の双子は跡目争いで国を乱す忌児だと言われ、昔から一人を残し、もう一人は放逐されるか殺されるかしていた。
シルビアの母ソフィアも例に漏れず、放逐された双子の片割れだった。
その時赤ん坊のソフィアを連れて出たのが、今のシルビアの魔法の師ププであった。
時が経ち、勇者と結婚をしたとププから報告を受けた時、マクヴェル共々城に呼び、今日のように密室で事情を話し、時折登城させ密会を重ねた。幸い、その時にはすでに亡くなっていたフローレンスと、シルビアの母ソフィアは髪の色が違ったため、そっくりではあったが、偶々似ているのだろうと思われていた。
その後、シルビアが生まれると、公然とシルビアにはお祖父ちゃん、お祖母ちゃんと呼ばせていた。
周囲の者もシルビアは勇者の子であるし、まだ小さな子だという事で微笑ましく見守っていた。
「お祖父ちゃん、お母様は幸せだったと言ってたってププから聞いてるよ」
「そうね、あの子の葬儀にお忍びで行った時に見たあの子の顔は、とても安らかだったわね」
「そうであったな。確かにそうであった」
王様と王妃様は目を閉じ、その時のシルビアの母ソフィアの顔を思い出してるようだ。
「それで、シルビアはもうこの国に留まるのか?」
「ううん、仲間と世界を旅するの」
「そうかそうか、それがいいかもしれぬの。この国におれば不自由はせんと思うが、シルビアには窮屈かもしれぬの」
「次はいつ帰って来れるの?」
シルビアの旅に納得する王様。次に会えるのはいつか気になる王妃様。
この二人はシルビアが旅をする事には反対では無いようだ。
「いつでも帰って来れるよ。でも、一つ問題があるの。お祖父ちゃんにお願いしてもいい?」
「おお、何でも言いなさい。それより、いつでも帰って来れるとはどういう事だ?」
「リーダーに転送魔法陣を描いてもらうの。そうすればいつでも帰って来れるの」
「ほぉ、転送魔法陣か。中々優秀な者がいるのだな。それはどこに描くのだ?」
「ププの部屋か、私の部屋に描こうと思ってる」
「ふ~む…余の寝室などどうじゃ?」
「陛下! それは私の寝室にして頂きます」
「王妃よ、それはないだろ。余が考えたのだぞ」
「いいえ、これだけは譲れません!」
「むぅ……」
王様が自分で提案したのに、王妃様に持って行かれてへこむ王様。
王様を立ててはいるが、やっぱり王妃様の方が強いようだ。
「それでは頼み事とは何なのだ? それは余にしか出来ぬ事であろう」
頼み事の事を思い出し、次こそは自分だと主張するお祖父ちゃん。もう王様の威厳は無くなっている。
「うん、この国から出るのをセザールが反対すると思うから何とかしてほしい」
「おお、あの執事の事だな。よしよし、それは余の出番だな」
ニンマリと横目で王妃様に胸を張る王様。
「その程度の事で宜しいのでしたら私でもできますわよ」
「いいや、余が言うてやらねばあの者も納得せぬであろう」
「いえいえ。陛下、私であれば、あの屋敷の者全てに言って聞かせられますわ」
「ならば余は王である。国中に言ってやれるぞ」
もうジジバカとバババカだ。
シルビアのために自分こそが役に立つという事を見せたいのだ。
「相分かった、国中に触れを出す事としよう。それとは別に執事にも言って聞かせてやる。シルビア、これでどうじゃ」
「うん、十分。ありがとう、お祖父ちゃん」
「そうであろうそうであろう。余なればこそであるな」
シルビアの「ありがとうお祖父ちゃん」のフレーズに超ご満悦の王様である。
それを見た王妃様は悔しくて仕方が無い。
「シルビア、私にも何かしてほしい事はありませんか?」
「お祖母ちゃんには転送魔法陣を置かせてもらうから十分。あ、リーダーが王妃様の好きなものを教えてほしいって言ってた」
「好きな物ですか? 特にはありませんが、お願いならありますよ」
「なに?」
「シルビアが頻繁に戻って来てくれると嬉しいですよ」
「わかった、そう言ってみる。ありがとう、お祖母ちゃん」
何かした訳ではないが、「ありがとうお祖母ちゃん」のフレーズをもらえたので王妃様も満足だ。
「それで、いつ立つのだ。パレードまではおれるのだろう?」
「うん、仲間は皆パレードに出たいみたい」
「では、仲間の分もパレード用の衣装を誂えてやろう」
「……服はいい」
「な!……」
衣装を断られガックリと項垂れる王様。
それを見た王妃様はこれで一歩リードできるとシルビアに別の提案をした。
「それでは私はパレード用の馬車を用意しましょう」
「……馬車もいい」
「な!……」
馬車を断られた王妃様もガックリ。
その後も、シルビアがこの国を出てからの話を聞いたりと、王様と王妃様は至福の時を過ごした。
シルビアも、ここまでトントン拍子に話が決まるとは思って無かった。
自分が、王様と王妃様の孫である事は極秘である。こんな密会ができるとは思って無かったので、色々と作戦を考えていたのだ。
何も思いつかなかったけど。
結果オーライ、やっぱり出たとこ勝負は最強。
そう心に刻むシルビアであった。
その頃、城門の詰所では執事のセザールが一人やきもきしていた。
ただの帰国報告のはずなのに、いつまで経ってもシルビアが戻って来ない。
何か粗相をして王様の怒りに触れ捕えられているのではないか。王妃様の事を小さい頃のようにお祖母ちゃんと呼んでお叱りを受けているのではないかと気が気ではない。
詰所にいるセザールの所には何も連絡が入っていなかったのだから。
シルビアは王様とダンスの真っ最中。そんなセザールの気持ちなど全く知らなかった。
その日、セザールは三キロ瘦せたそうだ。
更に王様から直接シルビアの旅立ちは勅命だと言い渡され、更に三キロ痩せるのはパレードの前日だった。
【訂正報告】
シルビアは十四歳になってました。
126話と128話の五年を六年に訂正しています。
確認ミスです。大変申し訳ありません。




