第126話 エイベーン王国
誤字報告ありがとうございます。
バーゲストの敵討ちも終え、エイベーン王国の王都に到着した。
実際にどの地龍にやられたのか分からないからオレ達の自己満足でしか無いんだけど、そんなのが無くてもボルトは倒しに行ってたからね。
結果、自己満足になったって事かな。
このエイベーン王国の王都エイベインにシルビアが住んでいたのは分かってるから、少し情報を集めるために冒険者ギルドにやって来た。
シルビアは幌馬車モードのオレの荷台で待機している。
当時八歳だったから、バレる事は少ないだろうけど、シルビアは見た目も綺麗だから目立つし、髪の色で気づく人が出ないとも限らない。
プラチナブロンドのストレートロングヘア。
大きくなったとはいえ、まだ十三歳。分かる人には分かるだろう。
冒険者ギルドに来てはみたものの、ストレートに受付で聞くわけにも行かず、依頼ボードを先に確認した。あ、別にいいんだ。オレの事は忘れるんだから。
皆を依頼ボードに残し、オレは受付へ。
「あの、すいません」
「はい、今日はどのようなご用件でしょうか」
受付のお姉さんが対応してくれる。
「この国の勇者がどうなってるか知りたくて」
「はい、情報収集の依頼ですね?」
あ、その方が都合がいいね。冒険者カードを出すとキャリッジ冒険団って分かってしまうもんな。
「はい」
「それではお名前と依頼内容をお伺いしてもよろしいですか」
「はい、名前は……」
冒険者カードをチラ見して。
「名前はレインです。依頼内容は現在の勇者の家族の状況が知りたい。特に娘の現状が知りたいんですが」
名前はレインね。最近はリーダーって名乗ってるから、毎回変わるカードに出る名前を使うのも久し振りだな。
「かしこまりました。勇者様のご家族の情報ですね。それならすぐに分かると思います。依頼の代金として金貨一枚頂きますが、よろしいでしょうか?」
「はい、結構です」
と、先に金貨一枚を出した。
受付のお姉さんは、怪しむそぶりも見せず金貨を受け取ると、「別室へ案内いたします」と男性職員を呼んで対応してくれた。
男性職員は受付のお姉さんに呼ばれると、【御者】を別室へ案内し、部屋に入ると席に座るように勧めてくれた。
そこは個室で四人掛けのテーブルがあるだけの狭い空間だったが、密談をするには丁度いい部屋に思えた。
「で? あんたはどの国の手先なんだ? もうこの対応には飽き飽きしてるんだ。早く吐いてくれるくれると俺も面倒が無くて助かるんだが」
自己紹介も無く、男性職員からいきなりそんな言葉が飛び出した。
これって今までもこの男性職員が勇者の事情を知ろうとするものを対処して来たって事?
「黙ってないでさっさと言ってくれないか?」
「どういう事なのか分からないんだけど。オレは六年前に出て行った勇者の娘の現状が知りたいだけなんだけど。六年前に出て行って、今はキュジャリング王国で冒険者やってんだろ。その間のこの国での立場がどうなったのか知りたいんだ」
「ほー、そこまでは調べが付いているのか。今までの奴らよりはそれなりの事を言うようだが…それでお前の目的は何なんだ?」
この男性職員の態度を見る限り、誤解があるようだけど、なんて説明したらいいんだろうな。
ん? この男、職員にしたらステータスが高いな。歳は三十過ぎぐらいに見えるけど、Bランクか、もしかしたらAランクぐらいの実力がありそうだけど。
【御者】は消せばいいだけだし、【御者】を対応した記憶も曖昧になるようだから、ある程度本当の事を言った方が向こうも情報をくれるかもしれないな。
「オレはこの国の勇者マクヴェル・クロスフォーの娘シルビアと知り合いなんだ。彼女がこの国に安全に戻って来れるかの調査をしている所で、まずは冒険者ギルドに聞きに来た所なんだ」
「なに! お前がシルビア様の知り合いだと!? では、キャリッジ冒険団とも関わりがあるという事か」
その情報は伝わってるんだ。シスターズはキュジャリング王国では、もう有名になってしまったもんね。隣の国なら伝わってても不思議じゃないか。でも、今まで接触して来なかったから、こっちには何も伝わって無いのかと思ってたよ。
それなら、もうストレートに言ってもいいかな。隠す事も無さそうだし、危険になれば【御者】を消すか帽子を被らせればいいんだからね。
「実は、オレはキャリッジ冒険団のリーダーだ。だからシルビアとはずっと一緒にいたし、シルビアの安全も第一に考えている。騙したのは悪かったけど、これが依頼の目的なんだ。そちらは金貨一枚分の情報を出してくれるのかな?」
「キャリッジ冒険団のリーダー? 噂通りのようだが証拠はあるのか」
オレは冒険者カードを出した。
噂通りって?
冒険者カードを確認した男性職員は、納得したようで、溜息を一つ吐き事情を説明してくれた。
「ふっ、あんたがキャリッジ冒険団のリーダーね。噂通りすぎて逆に疑ってしまったよ。俺はこの冒険者ギルドの専属のAランク冒険者でバートンと言うんだ。シルビア様の情報を聞きに来る奴らが後を絶たなくてな、それも怪しい稼業の奴が多くて毎回俺が対応していたんだ。疑って悪かった」
これってシルビアのために動いてくれてるって思っていいよね? でもオレが噂通りってどんな噂なんだろ。そっちの方が気になるんだけど。
「オレの噂って?」
「あんたの噂か? この辺の酒場で飯でも食えばすぐに分かる事だから教えてやろう。平凡、影が薄い、弱そう、金を湯水のように使う浪費家、シスターズの紐、シスターズにたかる害虫、ハーレム小僧、俺が知ってるのはこれぐらいだが、まだあるようだぞ」
うぉい! なんだその負の噂は! オレの存在の事は忘れても噂は消えないのか!
最後の方はシスターズのファンが流した噂だろ! 嫉妬か、嫉妬なんだろ!
こいつも本人を目の前にして遠慮が無いよな。もっとオブラートに包めよ!
ま、今はオレの事はいい。まずはシルビアの事だからな。グスン
「……それで、シルビアの事なんだけど」
ダメージが大きいな。
「もしかしてシルビア様がこの国に戻って来られるのか! そうだよな、そうでなきゃリーダーのあんたが来るはずないよな。シルビア様が戻って来られるのなら、国を上げての歓迎になるぜ」
そんな感じなの? それにしちゃ門では何事も無く普通に入れたけど。
あ、名前かな? シルビアはシルビアで登録してるからな。シルビア・クロスフォーじゃないからバレなかったのかな?
それを言うとミランダリィさんもそうなるけど、あの人は有名人みたいだからね。
でもキャリッジ冒険団とはバレてると思うんだけど。
「シルビアは派手に歓迎されるのは嫌がると思うけどなぁ」
「そんなわけには行かないな。シルビア様のキャリッジ冒険団でのご活躍はこっちでも耳に入っている。キュジャリング王国との盟約が無ければ、すぐにでもお迎えに出向いていたんだ。シルビア様がキャリッジ冒険団としてご活躍されている事が分かってから何年経ったと思ってるんだ。行方不明になられて、この王国の国民がどれだけ心配していた事か。それを六年も辛抱したんだ、大歓迎ムードになるのは仕方が無い事だろう」
へぇ、シルビアはこの国では歓迎されてるんだ。
シルビアがというより、親父の勇者がなんだろうけど、それでもこれだけの歓迎ムードならシルビアに危険は無さそうだね。
ただ、面倒くさそうだけど。
盟約が無ければ迎えに来たって言ってたね。
「盟約って何?」
「このエイベーン王国とキュジャリング王国で交わされた永遠なる約束だ。『勇者には一切の手出しならず』項目はこの一項目だけ。ただ、色んな意味が含まれている。住む国は勇者が選ぶ。選ばれなかった国はその勇者に関して勧誘は一切してはならない。それは勇者の家族も含まれている」
「でも、シルビアの場合、家はここにあるんじゃないの?」
「そうなんだが、国境を越えるとその国が勇者様やその家族を支援する事になっていて、こちらからは手出し出来なくなるんだ。勇者様も不在のため連れ戻す事も出来ず、この国の者は我慢するしか無かったのだ」
そうなんだ。父親がいれば父親が連れ戻したよね。というか、国から出る事も無かったよな。
王都キュジャーグでは、あまり騒がれなかったけど、気を使ってくれてたのかな? シルビアの性格を知っていれば、あまり構わない方が得策だと思ったのかもしれないね。
他の勇者の子と仲が悪い情報なんかミランダリィさんが入れてくれてたのかもしれないし、機嫌がいい間は滞在してくれると思ったのかもね。
勇者とはそれほどのもんなんだね。
勇者を巡って戦争なんかしたら、それこそ何のための勇者か分からなくなるもんな。
さすが勇者様だな。オレもいつか伝説の馬車様とは……ならないか。なりたくもねーよ。
でもこれはシルビアと相談だな。
シルビアも家には帰りたいと思ってるだろうけど、大歓迎は面倒だと思うだろうな。
「ありがとう、参考になったよ。後は皆で相談する事にするよ」
「何言ってるんだ。あんた、このまま帰れると思ってるのか?」
え? 帰れないの?
「何かあるの?」
「あんたをこのまま捕まえておきたいが、勇者様に関係する事で周りの関係者も含め、強引な事をすると罰せられるが、あんたはパーティのリーダーなんだろ? 俺と勝負しようぜ」
何の勝負? オレは戦えませんけど。
「何の勝負をするの? オレは戦う事はできないんだけど」
「ああ? 戦えない? あんた冒険者だろ。キャリッジ冒険団はAランクだって聞いてるぞ。今見せてもらった冒険者カードもAランクってなってたじゃないか。戦えないAランクって聞いた事ねーぞ。それとも俺じゃ役不足だってのか」
いやいや、ホントに戦えないんですけど……なんで戦う事が決定みたいになってんの。
お! ホントにAランクになってるよ。レインAって。
今まで一番高くてDだったのに、なんでこんなときだけAになってるんだよ。
でも、相手しないと帰らせてもらえそうにないな。
どうする? 【御者】を消す?
でも、色々教えてもらったしなぁ。センならチョイチョイっとあしらってくれるか。
「じゃあ、仲間がいるから、仲間に相手してもらうよ。オレって後方支援専門なんで、戦うのは専門外なんだ」
「ふん! 怖気づいたのか。それでもいいさ。地下に修練場があるからそこでやろうぜ」
「わかった。仲間を呼んで行くよ。地下だね」
これで情報料が金貨一枚なら、結構聞きたい事が聞けたんじゃないかな。
センに相手してもらってる間に、シルビアと相談だな。
【訂正】
五年前⇒六年前




