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第123話 精霊女王

 

 女王様の部屋からメイドも退出させて、今は女王様、メイビー、メイビーのお祖母さん、【御者】、シルビア、パルの六人がいる。

 今から世界樹の所に案内してくれる手はずになっている。

 ただ、オレが行けないんだよね、【御者】でいいのかな。


 ライリィやルシエルはセンとキューちゃんと別室で控えてもらっている。

 世界樹の所へは連れて行ってもらえないみたいだから、待っていてもらうしかない。


「ラン、そろそろいいんじゃないかい?」

「はい、わかりました。皆さん準備はいいですか?」

 お祖母さんに促された女王が、皆に準備の確認をした。


 準備も何も、どうしていればいいかも分からないので、返事もできない。


「今から世界樹の所へ繋ぎます。そのままジッとしていてください」


 女王が皆に注意をすると、ユニークスキルを発動。

「【樹門道エルフゲートロード】!」


 部屋の中に樹のゲートが現れた。

 ゲートの向こうには森に繋がってるようだ。


 いや、見えてたよ、ユニークスキルの技名は。

 でも、まさか世界樹の所に行くためにユニークスキルを使うとは予想外だったよ。

 スキルの詳細は更にスキルを鑑定しないと分からないからね。【樹門道エルフゲートロード】ですか。普通に樹で道を造る、土木系のスキルだと思ってたよ。振り仮名なんてうってないしね。



「さあ、行きましょう」と言って、女王が一番目に門を通って行く。

 お祖母さんとメイビーも後に続く。

 続いて【御者】、シルビア、パルの順で門を通った。


 ピシッ!


 ん? なんか嫌な音がしたな。

 


 あっ!


 真っ暗だ! さっきまで森の景色が見えてたのに。


「シルビア? ……パル?」

 あれ? (みんな)どこ行ったの?

「メイビー! お祖母さん!」


 返事が無い。皆どこ行ったんだよー


 周りは真っ暗で何も見えない。こんなの初めて……じゃないよ。二度目だ! ユグドラシルの試練で一度あったよ。

 それなら、これも試練? でも、入口とか光とか見当たらないよ。ユグドラシルの時って、先の方に光が見えて、それを目指したら部屋に出たんだったよな。

 これもそうなの?


 周囲を見渡すが、辺り一面闇。何も見えない。

 九つある画面が全部真っ暗だ。

 オレ自身は馬車置き場にいるはずだろ? さっきまでは【御者】だけが部屋にいて、オレは馬車置き場にいたもん。

 どうなってるんだ?


 歩こうにもどっちに向かっていいかも分からず、ジッと待っていた。

 何か変化が無いと動きようも無い。


 しばらく待ってると、ようやく変化が現れた。遠くに光の点が見えたんだ。

 見えたと思ったら一気に光の点が大きくなってきて、あっという間に大きな光に巻き込まれた。


 普通なら眩しくて目を開けてられないんだろうけど、オレは目を閉じれないし、眩しいからといって目が眩むこともない。

 でも光量が多過ぎて何も見えないのは事実だ。


 光の中から声が聞こえた。周りは眩しすぎて、何も見えないけど、声だけがした。

「やーーーっと来たか! 遅すぎんねん! 何年掛かっとんねん! ほんまやったら一年も掛からんと来れたはずや! ちょっとボンクラすぎひんか?」


 だれ? 大阪弁? 女の大阪弁の知り合いはパルしかいないけど、どうもオレの事を知ってるみたいだね。誰なの?


「いつまで黙っとんねん! うち一人でしゃべっとるやないか。お前も何かしゃべれや」


 しゃべれって言われても何を喋るの?


「あの~」

「なんや!」

「あなたは誰ですか?」

「そんなんも知らんのか! ほんならあんたはここに何しに来てん! アホちゃうか」


 来たくて来たんじゃないんだけど。大体ここがどこかも分からないんですけど。


「いや、ホントに分からなくて」

「えっ!? あんたなんも聞いてへんのか? あいつはなんも教えてくれてへんのか?」

「あいつって誰の事?」


「マジか! それマジで言うてる? あいつの事も知らんの」

「は、はぁ」

「マジか! あいつは何考えとんねん! ちょっと待っとき」



「あーちょっともしもし? ああ、うちや。これはどういうこっちゃねん! あんたこいつになんも言うてへんのか。……ああ……うん……ほう……へー……そらおもろいな。ほんで……ふんふん……うわっ! マジか。……なるほどな……うん分かったわ。ほな切るで」


 電話? 誰と話してるんだ?



「待たしたな」

「あ、いえ」

「ちゅーこっちゃから」

 なにが?


「え~と……なにが?」

「勘の鈍いやっちゃな! しかもノリが悪すぎるわ。そこは分からんでも、そないでっかっちゅーとこやないか! ほんならうちが、なんでやねん! って言えるんや! ノリが悪すぎんで」


 何これ、漫才? そして誰? そして見えないんだけど。

 そんなので何をわかれと言うんだよ!


「あの~、まず何も見えないんですが」

「おっ、こりゃすまんすまん、忘れとったわ。あんたらにゃ眩しすぎるわな」


 光がようやく落ち着いてきて、周りの景色が見えるようになった。

 次第に見えてくると、部屋はユグドラシルの試練の時のような真っ白な部屋で、目の前には美しい女性が立っていた。


 あっ! この人って昨日メッセージをくれた精霊女王じゃん! マジで?

 そういえば、パルやパルのお爺さんは精霊女王と同じ言葉って言ってたのはこの事だったの?

 精霊女王が大阪弁……ありえねーって。


「精霊女王?」

「そうや。でも、様って付けてくれてもええねんで」ヒヒヒヒ

 怖ぇ~。目が全然笑ってねーよ。


「す、すみません、精霊女王様。それでさっきの話ですが、ちゅーこっちゃからと言われても何の事か分からないんですが」

「やっぱり分からんか。」

「はぁ」

 当たり前だっつーの。


「ここへ来たのも偶然みたいやな。しゃーない、ちょっとだけ説明したるわ」

 ちょっとって……全部説明してくれよ!


「うちの担当はエルフも含めた妖精やからなぁ。詳しい事は教えられへんねや。でも、あんた面白いやっちゃな。せっかく人間になる機会もろたのに、馬車選んだんやって? 今までの奴らは、全員人間を選んでよその世界に行ったで。あんたって変わってんなぁ」

 え? どういう事? 今の中に聞き捨てならない事がいっぱいあったんだけど、どれを聞いたらいいの? 聞いたらこの精霊女王は教えてくれるのかな。


「ちょ、ちょっと、精霊女王様。今の話の中の他の奴らって、どういう事ですか?」

「他の奴は他の奴や。あんた以外の転生者の事や」

「そいつらは別世界に行ったってどういう事ですか? オレ以外にも馬車がいたって事?」

「言葉どおりやで。他の転生者は、全員別の世界に行きよったわ。あ、全員人間とか獣人とかエルフとかやで、珍しいとこやと魔物もおったな。龍とかゴブリンとか。馬車はあんただけや。当り前やろ、なんで馬車なんかに転生せなアカンねん」


 うぼぉーい!! オレだって好きで馬車やってんじゃねーよ!


「オレだって選んだわけじゃないよ! 気が付いたら馬車になってたんだ。名前だって未だに思い出せて無いんだから」

「なに? 名前も思い出せんてか。そら、意地悪すぎるな。ホンマ、あいつは何考えてんねやろ」

 さっきから出て来る”あいつ”って誰なのさ。


「あいつって誰?」

「あいつはあいつやん。もう長い付き合いやけどな、お互いに名前は知らんな」

「精霊女王様は、精霊女王様って名前があるじゃん」

「アホか! これは名前とちゃうわ。なにがじゃんや。精霊女王っちゅーのは称号や。名前はちゃんと別にあるわ」

 あ、そうだよね、確かに精霊女王っていうのは名前じゃないね。


「じゃあ、名前はなんていうの?」

「うちの名前は……って言うわけないやろ! なに罠かけとんねん!」

 別に罠なんかかけてないし。普通に聞きたかっただけだし。


「じゃあ、その”あいつ”は何て呼ばれてるの?」

「あいつか? あいつは神や」

「神?」

「そうや。うちは精霊女王やから、妖精の神や。あいつは人間の神やから、神って呼ばれとるな」

「オレを馬車にしたのは人間の神なの!? 馬車の神じゃなくって」


「馬車の神ってなんやねん。そんな奴おれへんから」

 だったら何で馬車なんだよ!


「じゃあ、なんでオレは馬車になったんだよ! こんなのって、あんまりだ!」

「そうやな、うちもそう思うわ。あんた、可哀想やな」

「そう思うなら何とかしてよ!」

「そら無理やわ。あんたはあいつの管轄の人間やからなぁ」

 だから人間じゃねーんだよ。馬車なんだよ!


「そやな、あんたがあまりにも可哀想やから、一つええもんあげるわ」

「いい物?」

「そや! めっちゃええもんやで~。これ見たら吃驚しすぎて、おしっこチビるかもしれへんで」

 そんな下品ネタ言ってていいのかよ。精霊女王なんだろ?


「これや!」

 精霊女王が見せてくれた物は一本の鍵だった。


「これは……」

「どや、びっくりしたやろ。これは妖精キーっちゅーてな、すべての妖精の主になれる鍵や」

 モンスターキーにソックリだから、そうじゃないかと思ったよ。


「別にいりません」

「えー! 嘘やろ? あんたマジで言うてる? 妖精の主になれるんやで? 妖精って結構便利な奴が多いんやで。その主なったら妖精が何でも言う事を聞いてくれるんやで? 絶対欲しいと思うやろ! やっぱあんたはおかしいわ」


 そんな事言われても、本当に欲しいと思わないんだよね。

 ゴブリンキーでゴブリンが服従してくれるのはわかったけど、だからって妖精を服従させても、してほしい事もないし、何よりうちの連中ってチートな奴が多いから、特に不自由はしてないんだよね。

 馬車って事以外はね。


「よーし分かってわ。そんならこれでどうや!」

 精霊女王がまた別の鍵を出した。


「これは妖精王の鍵や! これやったら欲しいやろ!」

「いや、別に欲しくは……」

 だから鍵なんかいらないんだって。


「ムキー! マジか、これもいらんのか! ほんならこれならどうや!」

 精霊女王がまた別の鍵を出した。

 今まで出した鍵より明らかに別物だと分かる豪華な造りの鍵だった。装飾も宝石が散りばめてあるし、色も金色だからベースには金を使っているんだろう。

 付いてるアルファベットはB? もし、ランクの事だったらゴブリンがZだったし、凄く上じゃないの?

 でも、いる?


「すみません、オレには必要無いですね」

「なんでやねん! うちがここまで出したってんのに、なんで断んねん! アカン、アカンで。これは絶対にもろてもらうで。これは決定事項や!」

 いや、ホントにいらないんだけど。


「そんな事を言われても……」

「そこまで断るかぁ、こうなったらうちも意地や! あんたの名前も教えるようにあいつに言うたる! これでどうや!」

 えっ? マジで? それは嬉しいよ。自分の名前を思い出すのは嬉しいよ。


「本当ですか?」

「ああ! ホンマや! 女に二言は無い!」

 それ、男に二言は無いだと思うんだけど、そんな事はどうでもいいや。それより名前は嬉しい。

 でも、なんでこんな話になってんだろ?


「じゃあ、名前の件、お願いします」

「分かったで! もう泥船に乗ったつもりで安心しとき!」

 それは、大船じゃ……横目で見てるね。ツッコめって事かな?


「それは大船だよ」

「あんた、中々分かって来たやないか。気に入ったで、もう、この鍵も全部持って行き。世界樹の葉とかも世界樹グッズを全部付けたるわ!」

 別にいらないんだけど、名前のためにも機嫌を取っておかないとね。

 世界樹の葉だけじゃなく、樹液や枝や樹皮なんかも大量にあるね。もらわないと、また怒り出すんだろうね。


「では、有りがたく頂きます」

「そやろそやろ」

 うんうんと精霊女王は満足している。


「それで、皆はどこに?」

「他の連中は世界樹に行っとるわ。あんたは世界樹に行こうとしたら、試練を与えるように設定してたから、こっちに来たんや」

「試練ってユグドラシルの時みたいな?」

「そうや」

「という事は、今から試練?」

「そら、もうええねん。あんたの人となりが分かったからな。もう、せんでええわ」


 オレの人となりが今ので分かったの? オレの何が分かったんだろ?

 納得してるみたいだし、蒸し返したらまた怒り出すかもしれないしね。



 それから世界樹の所に送ってもらうと、全員揃っていた。

 ほぼタイムラグ無しだったようで、怪しまれる事もなかった。精霊女王も目の前にいるしね。


 ここでは精霊女王も標準語で話してるよ。さっき大阪弁を見てるから、普通なんだけど、今度はその標準語が違和感になって、まともに話が聞けなかったね。


 お祖母さんの手前、精霊女王からは「世界中を旅して知識を得なさい」と言われ、オレも「わかりました」と答える事で体裁は整えられたようだ。


 メイビーの事も分かっていたようで、オレと一緒に旅するように言われていた。


 最後の別れ際に「ほな!」って言ったのはパルにつられたんだろうね。

 あれが妖精達の神ですか。残念感が大きすぎるよ。

 でも、オレの名前について頼んでくれるって言ってくれたし、力はあるんだろうね。


 早く名前を思い出したいよ。


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