第122話 エルフの女王
メイビーとお祖母さんの道案内で中央部にはすぐに辿り着いた。
ハヤテに引いてもらうオレは、通常の馬車の倍は早いからね。三十分も掛からず着いたよ。
中央部には柵も門も無く、家が見え始めると、次々と沢山の家並み現れる。全部木の家だ。
時折、大樹の穴に暮らしているような所もあった。
ただ、いたねぇ。
まぁまぁレベルの高いエルフが、家並みが始まる五キロ手前からチラホラ出始めた。
隠れているようだったからこっちの監視をしていたんだろう。
一キロ手前ぐらいになると、姿を見せるエルフも出だした。皆、武装していたから、中央部を守っている者達なのだろう。
ま、隠れててもボルトやハヤテやキューちゃん相手には無駄だったみたいだけどね。オレにも確認できた奴は多かったもん。
お祖母さんからは、「あたし達が乗ってると分かるように幌を外しとくれ」と言われ、幌馬車モードの幌を無くして走っている。
荷馬車モードでも良かったんだけど、チェンジしないといけないし、幌馬車モードのまま幌をはずした仕様にした。
中央部。人間で言うと町とか王都とか城下町とかになるんだろうけど、町とは言わないらしい。
中央部の更に中心地に城があり、そこに女王がいる。オレ達は真っすぐに城を目指した。
城は大きな池の真ん中にあり、浮島のように建っていた。
塀は無いが、城に繋がる道は、橋が一本渡っているだけだった。天然の堀で囲まれた城って感じだけど綺麗だなぁ。幻想的なものを感じるよ。
でも、城だけ見ると人間っぽいね。エルフだからもっとこう、大きな樹の中で全員が住んでるみたいに思ってたけど違ったね。
パルの村でもユグドラシルを守るように普通に家が建ってたもんね。
橋の入り口には誰もいなかったが、城側には門があり、門番がいるようだ。
どうするのかと思っていたら、お祖母さんがそのまま渡れと言うので、橋を渡る事にした。
橋を渡り切ると、門番が寄って来て止まるように指示された。
門番の前で止まると、お祖母さんが門番に一言。
「通るよ」
出発するように指示されたので発進したが、いいの? って感じだ。
門番も「はっ! 遠路はるばるお疲れ様です!」って言ってたからいいんだろうね。遠路って程でも無いけどね。
お祖母さんって偉い人だったの?
そのまま道なりに城の前まで来ると、今度は十人の兵士がオレ達の前に出て来て警戒をしている。
お祖母さんとメイビーを確認しても、兵士は警戒を解かない。
一列に並んだ兵士は姿勢を正したまま動かない。
皆にはいつでも動けるように『念話』で伝えて、オレは荷台に【結界】を張る。
一人の兵士が列から前に出て口上を述べた。
「フェリーチェマ様、お久しぶりです。いつまでもお元気そうで……」
「そういうのはいいんだよ、あの子に会わせてもらえるかい。急ぎの用なんだよ」
お祖母さんの名前ってフェリーチェマって言うんだ。今知ったよ。そう言えばメイビーの家族の名前も聞いて無いし、オレ達も言ってないな。
でも、別段困らなかったな。エルフってあんまり名前を呼ばなくても困らないんだね。
「相変わらずでございますね。女王様でしたら、今はお加減が優れずお休みになっておられます。今日はお会いになれないかと」
「じゃあ、お見舞いにでも行こうかね。勝手に行くから案内はいらないよ。この人達はあたしの知り合いだ」
お祖母さんはそれだけ言うと、荷台から降りてさっさと歩いて城に入って行った。
「ちょ、フェリーチェーマ様…」
兵士の脇を抜けていくお祖母さんを誰も止められない。
さっき話しかけてきた人が頭を抱えて首を振ってる所を見ると、何とかしてお祖母さんを止めたかったのかな。
え? そんなんでいいの?
皆も慌ててお祖母さんの後を追う。オレも【使い】のネズミを出し、ルシエルに抱いて行ってもらった。
兵士の誘導で馬車置き場に行き、【御者】を消して皆の所に【御者】を出し直して【使い】のネズミを消した。
なんか、そうじゃないかとは感じてたけど、かなり男前なお祖母さんだね。
お祖母さんを先頭に、メイビーがすぐ後に付いて、うちの連中が後に続く。
綺麗な大きな扉の前に着くと、お祖母さんが足を止めた。
コンコン
「いるかい、入るよ」
中の返事も待たずにドアを開けるお祖母さん。
ここまで来ると男前というより、無法者とか礼儀知らずって感じてしまうのはオレだけだろうか。
お祖母さんが中に入って、特に問題無さそうだと分かってから、一拍おいてオレ達も入った。
それでも問題はありそうだけど、もうお祖母さんが入ってるからね。
中には女性のエルフが三人いた。
一人、ティアラをしてる女性がいたから、もしかするとあの人が女王かもしれない。
「ラン、久し振りだね……寝込んでは…いないようだね」
「……はい、先生……」
既に連絡が入っていたようで、メイドと思われる二人は慌てず、伏し目がちに姿勢を正している。
先生って言ったね。お祖母さんは女王の先生だったの?
「今はウィザーランリット女王陛下様だったね、つい昔の癖でね」
「いえ、今まで通りランと呼んでください。……先生」
何か言いかける女王を制してお祖母さんが話しを続ける。
「そうかい、そういう気持ちは残ってたんだね。あ、いや、今日は嫌味を言いに来たんじゃ無いんだよ。あんたに報告とお願いがあってね」
「……先生」
お祖母さん。平気な顔してるけど、なんか虚勢を張ってるように見えるよ。女王の顔を見てないし、声と違ってちょっと辛そうな顔が時折出てるよ。
女王も今にも泣きそうな顔になってるし。
この二人の間には何か事情があるんだろうな。
「先にお願いを言うよ。説明が報告になるから、最後まで聞いとくれ」
女王は静かに頷く。
「世界樹の所に連れて行ってほしいのさ」
女王はある程度予想していたのか、然程驚いた様子では無いが、二人のメイドは伏せていた顔をバッと上げて抗議の姿勢を見せた。今にも飛びかかりそうな勢いだ。
女王はメイドを制して「続きをお願いします」と穏やかにお祖母さんに話しかけた。
ひとつ頷きお祖母さんが続ける。
「まず、封印の洞窟の女王はこの方達が解いたよ。ハーベレイ・インダスタンス様は、まだ生きてらっしゃったようだ。でもね、永い時間を封印されて身体はもう限界だったらしいのさ」
封印を解いたと聞いて驚くメイド二人。洞窟の封印の事は知っていたようだ。
女王も驚いてはいるが、【御者】に向かって軽く一礼して、お祖母さんの続きの言葉を待っている。
「ハーベレイ・インダスタンス様は、伝承通り焔鳥様を宿してらっしゃった。経緯は言えないが、その焔鳥様は、今うちの孫に入ってるんだよ。ハーベレイ・インダスタンス様と共にね」
その言葉を聞いた女王は、驚きで見開いた目でメイビーを見つめたまま、しばらく立ち尽くしていた。
静寂が辺りを包む。誰も声を出さない。皆が女王の反応を待っている。
女王の目が潤んで来るのがわかった。いつまでもメイビーを見つめている女王の目から涙が溢れてきた。口元を押さえ嗚咽のような声を出すが、視線はメイビーから離さない。
女王は溢れる涙を拭おうともせず、メイビーに歩み寄る。
「……ありがとうございます」
メイビーの手を握った女王が絞り出すように、小さな声で一言お礼を言った。
「ラン…あんたやっぱり……」
と言うお祖母さんも優しい顔で涙を流していた。
二人の間には何かあるんだろうけど、全く付いて行けない。
「あの~」
邪魔しちゃ悪いとは思ったけど、説明がほしかったのでお祖母さんに声をかけた。KYと言われても仕方がないとは思ったけど、このままじゃ何の事か分かんないしね。いつもは結構、空気を読める奴だとは自分では思ってるんだよ。
「あぁ、あんた達にゃ何の事か分からないね。でも、あたしゃこの子が心の優しいままでいてくれた事が分かって満足だよ」
だから、それが分かんないんだって。
「……先生。今まで申し訳ありませんでした」
「さっきのあんたの言葉で全部納得だよ。優しいあんたにゃ堪えられなかったんだね」
「……はい。そのせいで先生にもご迷惑をお掛けしてしまいました」
「あの~」
またお祖母さんに声をかけた。
二人だけで納得されてもねぇ。
「そうだったね、つい嬉しくなっちゃってね。それでラン、どうなんだい? 世界樹の所に連れて行ってくれないかい」
説明じゃなくて、お願いの方を言ってくれって思っちゃった?
「はい、先生とハーベレイ・インダスタンス様の所縁のお孫様は構わないでしょう。ですが、他の方達は……」
そうなんだろうね。でも、オレが用事があるからお祖母さん達も来たんだよね。
「そりゃ困ったねぇ。昨日、こちらの方がお告げを聞いたって言うんでね。それで態々あんたに会いに来たって言うのに、この方が行けないんじゃ意味がないねぇ」
そのとーり!
「お告げですか⁉ なんとお告げがあったのでしょう」
皆の視線が【御者】に集まる。
「はい、『中央部へ向かえ』と」
「中央部へ…ですか……」
「はい」
女王は暫し考え込む。
女王はいつまでも考えている。決心が着かないようだ。やはりオレが部外者だからだろうね。
「女王様」
メイビーが女王様に呼びかける。
呼びかけられた女王もメイビーに目を向ける。
女王が見た事を確認するとメイビーが光り輝きだす。
光が落ち着いて来ると、メイビーの姿が変わっていた。
ダークエルフの姿に変わったメイビーが女王に語り掛ける。
「なにやら苦労を掛けたようじゃの。でも、もういいのじゃ、妾はここにいる主と共に旅をする事に決めたのじゃ。だが、最後に世界樹を見たい。もちろん、妾の主と共にの。現女王ウィザーランリットよ、叶えてくれぬか」
「あ、あ、あなた様は、もしや……」
あーそうですよ。女王の予想通りハーベレイ・インダスタンス様ですよ。でも、中身は焔鳥まんまじゃないか! 詐欺だろ! それは!
「そうじゃ、妾はハーベレイ・インダスタンスじゃ。どうじゃ、願いを叶えてくれぬか」
「ははーっ! 畏まりました」
あ~あ、女王だけじゃなくお祖母さんまで平伏しちゃったよ。オレは知らねーよ。
すぐにメイビーは元の姿に戻り、女王がオレ達の為に部屋を一つ用意してくれた。
流石に全員は連れて行けないということで、オレとメイビーとお祖母さんとシルビアとパルが行く事になった。
落ち着いた後、紹介の時にシルビアが勇者の子である事を伝えると、許可をしてくれた。
勇者が昔この地の危機を救った事で人間との交流が始まった事もあり、代々勇者はこの地を訪れ世界樹で祈願をした後、魔王討伐に向かう事になっていた。
シルビアの父マクヴェルも当然この地を訪れている。
マクヴェルの子であるシルビアならいいでしょうと許可をくれたのだ。
パルもユグドラシルを守る『妖精の森パルパ』の次期長であると言ったら許可をくれた。
後の連中は申し訳ないが部屋で留守番だ。ルシエルぐらいは連れて行ってやりたかったんだけどね。こっそり転送魔法陣を描いて後で皆で来ようかな。
さっきのお祖母さんと女王の会話についても、お祖母さんが教えてくれた。
女王はお祖母さんから歴代の女王が教わる歴史をお祖母さんから学んでいたのだが、ハーベレイ・インダスタンスの真相を聞くと謝意の気持ちしかなく、年々懺悔の気持ちが大きくなってきた。
女王になると、ハーベレイ・インダスタンスの封印を解くために奔走するが、長老達からの圧力でそれも叶わず、それを女王に教えたとか女王を洗脳して封印を解くように仕向けたとか、お祖母さん達に危険が及びそうになったから、語り部の村の者を城に寄せ付けないようにしたのだと真相を明かしてくれた。
もうここにいるからね、外身だけだけど。
さて、ようやく精霊女王に会えるのか。楽しみだね。
すみません、次回更新は三日後になりそうです。
できる限り、努力はしますが、無理なような気がします。




