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第120話 メイビーファルルの決意

誤字報告ありがとうございます。



 

 メイビーが家に入ってから三十分ぐらい待っただろうか、真っ赤な目をした五人のエルフが家から出て来た。

 メイビーが紹介してくれたそのエルフは、両親と妹、それにお祖母さんだった。

 見た目、全員同い年で通用するね。やっぱりエルフって見た目年齢は歳を取らないんだね。

 しかも皆ペッタンコ。男はお父さんだけなんだけど、お父さんと変わらないんじゃないかと思う程ペッタンコ。

 しかも、お父さんも美しいから、どれが男でどれが女なのかも分からないぐらいだよ。凄いね、エルフって、想像してた以上だよ。


 それからボルトとハヤテを外に残し、皆でメイビーのお宅にお邪魔して歓迎を受けた。


「皆さん、ありがとうございました。うちの娘を救ってくれたそうで、本当にありがとうございました」

 他の家族も頭を下げて感謝してくれた。


「いえ、そんな感謝される事は何もしてませんから。それより……」

 メイビーのお父さんに返事をした後、メイビーに視線を向けるが、メイビーは首を振る。

 どこまでのノーなんだろ。どこまで報告したんだろ。ちょっと、打ち合わせがしたいな。


「ちょっとメイビー、一緒に外に来てくれない? お土産があっただろ。一緒に手伝ってくれないか?」

 お土産なんて持って来てないけどね。忘れてたよ。

「はい、わかりました」

 メイビーも了承してくれ、一緒に外に出た。

 それなら私が。というルシエルには、メイビーと話があるから待っててって念話で伝えた。


 外に出ると、何が喜ばれるかも分からないし、収納バッグを家族分で四つ出した。

 それをメイビーに渡し、話しかける。


「さっきのいいえって合図だけど、どこまで話したの?」

 できる限り小さな声で話す。

「バウアー準男爵に拘束されていた事は話しました。それを助けて頂いた事も伝えてあります」

「それだけ?」

「それで、王都キュジャーグでは少し騒ぎになりかけた事と、それを全部解決して頂いた事も話しました」


「いや、そうじゃないだろ。もっと重要な事があるじゃないか。封印を解いた事と、焔鳥ホムラドリの事は言って無いの?」

「……はい」

「なんで。それを言わなきゃダメじゃないか」

「……言えません。そんな大それた事を言えるわけが無いです」

「それでも言わなきゃダメだよ。これからの方が大変なんだから、家族にも言って協力してもらわないと。事実なんだから」


「……やはり言えません。そんな事を言ったら両親が倒れてしまいます。このまま一緒に連れて行ってくれませんか」

「ダメだって。ちゃんと言って、許可をもらえばオレも考えなくも無いけど、このままじゃダメだよ。後で他の所から耳に入ったらどうなるんだよ、それこそ心配しすぎて寝込んじまうかもしれないぞ。まずはちゃんと報告してあげなきゃ」

「……」


「じゃあ、オレが言うよ」

「待って! 待ってください……私から言います。私から言いますから、もう少し時間をください。お願いします」

「こういうのは遅くなるほど言いにくくなるもんなんだよ……やっぱり、今だ。今言うんだ」

「……」


「あんまり長く外にもいられないから中に入るけど、メイビーが言わないんならオレが言うからね。少しだけ待つよ」

「……」


 メイビーを説得できないまま家の中に戻った。

 なんかニヤニヤしたご両親とお祖母さん。その前には少し拗ねているルシエル。なんかイジられてたのかな?


「お土産は何がいいのか分かりませんでしたので、メイビーに…あ、メイビーファルルさんに渡しました。気に入ってもらえるといいんですけど」

「そんな気を使って頂かなくても結構ですのに。それとうちではファルと呼んでいますが、メイビーと呼んで頂いても結構ですよ」

 お父さんが気を使って答えてくれた。

 更にお母さんが乗っかって来た。


「それでうちの娘はどうでしょう。なにか不足があれば直させますよ」

 ん? なんの話?

「そうそう、この子はちょっと人見知りする所があるからねぇ。気心が知れると良さも分かって来るんだろうけど、まだそこまでは行ってないのかい?」

 お祖母さん? 何の話ですか?


 ルシエルだけじゃなくシスターズも少しイラついて無い? メイビーは顔が真っ赤だよ。


「お父さん! お母さん! それにお祖母ちゃんも! そんなんじゃないですから。はいこれ! こちらのリーダーさんからのお土産です」

 メイビーがさっき渡した収納バッグを四個出した。

 そんなに大声を出さなくても大したもんじゃないから。うちの連中は全員持ってるし。


「ほぉ~、中々お洒落な鞄だね。有難く頂くよ。これは四つあるって事はリンの分もあるのかい? リンにはちょっと渋すぎないかい?」

 リンって妹さんかな? 女の子にしたら地味なのかもしれないね。シスターズが何も言わずに使ってるから、何も考えて無かったよ。シスターズは冒険者だし、可愛いものってあんまり付けて無いからね。これからはその辺も考えてやらないといけないな。


「すみません。じゃあ、別のを出しますね」

 今出してるのはウシュムガルの皮で造ったやつだから、もっと明るい色の魔物の皮ならいいか。でも、明るい色の魔物ってあんまりいないんだよね。

 ジョンボルバードの皮なんて白だからいいんじゃない? 今いる奴らの親の皮だけどね。あ、羽は白だけど、皮は白じゃないか。クラーケンなんて白っぽかったよな、じゃあ、クラーケンを素材として造ってみよう。


「お父さん! それは普通の鞄じゃないのよ! 収納バッグなの!」

 メイビーが大きな声でお父さんに注意している。

 メイビーがこんなに大きな声で話すとこは見た事無いよ。やっぱり家だと違うんだな。なんか新鮮だよ。


「え? 収納バッグだったのかい? それならそうと先に言ってほしいな。これは失礼しました」

「いえ、もう少し待ってくださいね。もう少し色のいいのを出しますから」


 三分後、少し青味を帯びた白い鞄が出来た。

 それを一つ出し、さっき出した物と交換した。妹さんは大喜びだ。どうやら収納バッグなら、さっきの色でも良かったみたいだけど、後に出した方が好みだって凄く気にいってくれた。


 シスターズも羨ましそうな顔をしてるね。君達は後でね。


 そんな流れがあったからか、少し緊張感が薄れたメイビーが意を決したように見えたが、やはり踏ん切りが付かないようだ。


 何か話そうとするが、口が開けず【御者】を見る。もう何回も繰返している。

 両親はそんなメイビーの行動に気付いてるみたいだけど、気づかない振りをしている。メイビーから言い出すのをニヤニヤして待っている。


 もういいかな。これ以上待っても言い出せそうに無いね。オレが言い出せばキッカケになってメイビーから言うかもしれないしね。



「メイビーのお父さんとお母さんにお話があります」

 メイビーは俯いてしまった。自分からは言い出せないと思ったのか、どうやら観念したようだ。

 メイビーのお父さんとお母さんは真剣ながらもニコやかな表情で【御者】に向かって姿勢を正す。


 なんでニコやかなんだろね、シスターズ達はその分機嫌が悪くなってる気もするけど。


「はい、なんでしょうか?」

 凄くニコやかに声をかけてくれる。確かにこれは言い出しにくいね。


「驚かないで最後まで聞いてください」

 と、前置きをし、うんうんとニコやかなご両親に向かって説明した。


「まず、オレ達は冒険者でキャリッジ冒険団というチームなんです。従魔もいます。そのオレ達キャリッジ冒険団が、エルフの封印を守っていたリッチーキングを倒しました」


 えっ! と驚くメイビーの家族。想定していた言葉と違って戸惑った事で、封印の事、それを解いたという言葉が耳に入って来ないようだ。

 なんかシスターズの機嫌が直って来てるからよしとしよう。

 オレはそのまま話しを続けた。


「そして、オレ達は封印を解きました。そこにはダークエルフのハーベレイ・インダスタンスが静かに寝ていました」

 名前が出た事で信憑性が増し、メイビーの家族は【御者】から目が離せなくなる。


「オレ達は封印をそのままにしておこうと考えましたが、そこにいたダークエルフを連れ帰りました。でも、それは正解だったようです。ハーベレイ・インダスタンスの身体は限界だったのです」


 皆にツッこまれたからね。オレとしては仕方なしだよ。


 メイビーの家族はもう言葉を発しない。真剣な顔で【御者】の次の言葉を待っている。


「その限界を迎えたハーベレイ・インダスタンスの身体の中には伝説の四獣である焔鳥ホムラドリが入っていたのですが、焔鳥は媒体が無いと次の生を繋げられなかったようで、代わりになる媒体を求めました」


 ここまで来るとメイビーも覚悟を決めて、姿勢を正し凛とした表情で両親と対峙している。


「そこで、このメイビーファルルが手を上げてくれました」

 メイビーの家族の視線がメイビーに移る。


焔鳥ホムラドリは、今、メイビーの中にいます。オレも賛成しました。すみません!」

 【御者】に土下座をさせたが、それがオレの本当の気持ちだった。


 メイビーの家族は、しばらくメイビーの顔や胸のあたりを眺めまわし、ようやくお祖母さんが一言発した。


「ファルや……よくやった。あなたが私の孫であることを誇りに思うよ」

「お祖母ちゃん……」

 細い目をして涙を浮かべながらのお祖母さんの言葉にメイビーも涙を浮かべる。


 その言葉を切っ掛けに、お父さん、お母さんもメイビーを褒め称える。

「そうだな、本当によく決心してくれた。ファル、ありがとう」

「ファル……辛かっ……」

 お父さんも涙を浮かべていたが、お母さんは最後の方は言葉になっていなかった。

「お姉ちゃん!」

 メイビーの妹もメイビーに抱きつく。

 

 しばらくはメイビーを中心に、メイビーの家族が泣きじゃくっていた。

 もちろん、シスターズも泣いていたよ。パルなんて大泣きだ。

 ライリィもルシエルも両親はいない。シルビアだっていないも同然だ。パルも祖父はいるが、両親はいない。

 皆、思う所があるんだろうね。このメイビーの家族のやり取り以上に思う所はあるんだろうね。


 時間が経ち、落ち着いた所でメイビーが両親ではなく、【御者】に向かって姿勢を正した。


「ご主人様。どうか私もあなたの旅に同行させてください」

 え? ご主人様? いや、俺はメイビーを従者にはしてないよ。


「え? ご主人様ってなに? メイビー、何言ってんの?」

「私をパウワー準男爵から解放してくださり、エルフの封印を解きハーベレイ・インダスタンス様に引き合わせてくださり、焔鳥ホムラドリ様をこの身に宿してくださいました方を、主として仰がない訳にはいきません。語り部の村の者としても感謝しかございません。どうか、私をあなたの従者として末席にお加えください」


 そう言ってメイビーが土下座する。

 その言葉を聞き、メイビーの土下座を見て、両親とお祖母さんと妹も同じように【御者】に土下座をして「お願いします」と声を揃えた。


 重い! 重いって! そんなの馬車のオレにどうしろって言うの! 無理無理!


「ちょっと待ってよメイビー。焔鳥ホムラドリはどう言ってるの。君の中にはハーベレイ・インダスタンスもいるんだよ。この村のっていうか、エルフの里の許可も無いのに勝手に決めちゃダメだろ。エルフとダークエルフの問題もあるんだ。オレ達だけの問題じゃないだろ」


 慌てて弁解するオレに、メイビーが落ち着いた口調で話しかけて来る。

焔鳥ホムラドリ様からは、早くあなたの従者になれとせがまれています。どうやら風呂が非常にお気に召したようで、その後の料理が決め手になったようです。あとお酒も」


 おい! そんなのでいいのか! 伝説の四獣だろ?

 うちのボルトを見てみろ! オレの従者になった切っ掛けは……名付け? センは……ボルトにやられて武器と料理? ガンちゃんは……やっぱり料理と洞窟の底から解放した事?


 おい! お前達! なんか基準がおかしいぞ!


 その後、メイビーの家族にも懇願され、オレには断る事が出来なかった。

 最後にメイビーが一言付け加えた。


「私はダンスパーティで、あなたのものになるのだと分かっていました。でも、中々言い出せなかった私が悪いのですが、その後焔鳥ホムラドリ様に言われて従者になるのは、しゃくじゃないですか。今日、私から言える切っ掛けを頂いて本当に嬉しいです」


 その言葉を聞いた家族からは

「うちのファルをよろしくお願いします」だった。


「……」


 伝説の四獣コンプリートっすか。なーんとなく分かってましたけどね。


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