第110話 下準備
誤字報告ありがとうございます。
王都に戻ったその日の夜、オレ達は町の外にいた。今後の方針を話し合いたかったからだ。
普通に王都から出るんだったら門で止められるかと思ったから、冒険者ギルドに戻って依頼を一つ受けた。素材採取だったが、もう持ってるもので受けたから依頼は達成してるんだけど、単なる外に出て行くための口実だった。
王都から少し離れたかったから、ミランダリィさんを蘇生させたあの浜辺に来ていた。
オレが話をすると言うと、ボルトも影から出て来たし、ハヤテも【バング】をはずしている。
「皆、もう知ってると思うけど、オレ達は王城に呼ばれた。行くメンバーとしては【御者】とシルビアとライリィとルシエルだ。なにやら表彰されるということみたいだけど、晩餐会まで呼ばれている。そこで、もし、もしだよ、もしライリィやルシエルに縁談の話が来たらどうするか、先に決めておきたい」
「炎弾ってどんな技なのニャ?」
「け、け、結婚ですか! わ、私が、け、結婚……」
ライリィは大ボケ、ルシエルはトリップしてしまった。こりゃ話にならないね。
「ライリィとルシエルは結婚するん? いつ? なぁ、いつするん?」
「披露宴では腹話術を……」
「某が剣舞をお披露目いたすでゴザル」
キュキュ『ボクは花火やるー』
『ほぉ、ライリィも、もうそんな歳になったか』
「自分は空の旅に連れてってやるっす」
お前達、食いつき過ぎ! まだなーんも決まって無いから。
「ちょっと待って。あくまでも予想だから。まだ話も来てないから」
「なーんや、まだやったんか。喜んで損したわ」
(ほんと、まだなのね)
「むっ、それが腹話術なるものか。シルビアも中々やるではないか。では某は剣舞を」
『じゃあ、ボク花火ー』キュキュー
どーーーん! ぱーーーん
『むむ、では我は影遊びをいたそう』
「自分は飛ぶっす! 【疾風】!」
いや、架空の縁談話でなぜそこまでグダグダになる! もしもの話だよ!
確かに浮いた話は誰もなかったけど! そんなにか? そんなに燥いじゃうのか?
それから三十分、まったく収拾がつかなくなった。
キューちゃんは花火を上げまくり、その隙間をぬってハヤテが飛ぶ、まるで花火の大輪の中を踊ってるように見える。センが剣舞を踊ればその周りにパルがスピリット体を作って盛り上げる。ボルトが影でカップルを作ればシルビアが腹話術でアフレコをする。
お前達、いいコンビネーションじゃないか。いつ練習したんだよ!
ライリィもセンの剣舞に混じって型をやりだしたし、ルシエルはまだ帰って来ないし。話ができないじゃないか。
ようやく落ち着いて、皆戻って来た。色んな意味で。
「もういいかな?」
皆、満足そうなにこやかな顔をしてるね。それだけ遊べばね、満足もするだろうさ。
「縁談話はまだあるかどうかも分からないんだよ。もしかしたらって話だからね。今回、城に行って表彰されるんだけど、そうなると騎士や貴族からのスカウトが来るかもしれないし、縁談話も来るかもしれないって話なんだ。わかった?」
皆、残念そうだけど、一頻り遊んだ後だからそう落ち込んでもいない。ルシエル以外はね。
ルシエルは「やっぱり私如きでは結婚など夢の夢なのですね、一生ご主人様から離れません」って極端すぎなんだよ。
「もう一度言うよ。王城に行くのは【御者】、シルビア、ライリィ、ルシエルね。まずは王様から表彰されて、その後に晩餐会がある。もしかしたらダンスパーティかもしれないけど、誰も踊れないよね?」
「私は踊れる」
あ、シルビアは踊れるんだ。元貴族だもんね。あれ? 今でも貴族じゃないの?
「シルビアって今でも貴族でいいの?」
「たぶんそうだと思う。でも国から何も言わずに出て来たからどうなってるか分からない」
「前に王様から貰った杖を持ってたよね? あれって今でも持ってるの?」
「持ってるわ」
シルビアが黒い杖を出して見せてくれた。
以前に見せてくれた金の縁取りの三十センチぐらいの黒い杖。中々渋みがある杖だ。
「じゃあ、シルビアはエイベーン王国の貴族って事でいいんだろうけど、ライリィもルシエルも庶民だし、オレは庶民と言えるかどうかも怪しいし。全員、冒険者という事でいいのかな?」
「それでいいんじゃない? なんでそんな確認をするの?」
「いや、着て行く服を悩んでるんだよ。いくら冒険者だからと言っても女の子ばっかりなんだから、やっぱりドレスだと思うんだよね。今いるのは王都だからメキドナよりも色んなドレスがあると思うんだ。十着ずつぐらい買えばいいかな? あ、パルにも買ってあげるからね」
「「「「……」」」」
あれ? 皆、何をそんなに驚いてるの? あ、照れてるのか?
ルシエルは俯いてるし、ライリィは鳴らない口笛を吹いてよそ見してるね。シルビアは【御者】を睨んでる? パルはなんでそんな泣きそうな顔になってるんだ?
「ドレスは王都に戻ってからだね。明日にでもイザベラさんに服屋を教えてもらってオーダーメイドで作ろうね。やっぱり王城に行くんだしさ。服の件は明日にするとして、今はダンスの練習をしよう。シルビアができるって言うし、先生になってもらってライリィとルシエルが教えてもらうといいよ。人数が合わないからセンも入ってあげてね。オレが音楽を流してあげるからさ」
この世界のダンスがどういうものかは映像では知らないけど、日本の社交ダンスは映像を持ってる。【投影】で日本のダンスの映像を映し出し、日本のクラシック音楽を流して皆でダンスの練習をした。
日本の社交ダンスとは少し違うらしいけど、大まかには合ってるとシルビアが言ってくれたので、違う所だけ指摘してもらって皆で社交ダンスを踊った。
初めは恥ずかしがってたけど、すぐに楽しそうに踊ってたよ。楽しく踊れると元々身体能力が高いから、すぐに上達したね。一夜漬けだけど、かなりのレベルになったんじゃないかな。
競技ダンスに出てもB級以上になれそうなぐらい上手くなってたよ。
そこまでする必要は無いと思うんだけど、楽しそうだからいいか。今後も偶にはこうやって踊る機会を作ってあげたいね。だって皆楽しそうだもん。
ボルトも影でカップルを作って躍らせてたね。ボルトにもそんなお茶目な一面があったんだね。
夕食まで踊り、夕食の後、また今後について話した。
「それで、今日から一週間、明日は王都に行って服屋に行くとして、後は特にする事が無いんだけど、何かやりたい事ある?」
「はい」
「はい、ルシエル」
「私は王都のダンジョンの地図を清書したいです」
「うん、わかった。紙はいくらでも出すし、描いて持って来てくれたら複写もいくらでもしてあげるからね」
「わたしも描くのニャ~」
「うちもー!」
ルシエルとライリィとパルは地図の作成ね。
「私は【結界】と【回復魔法】の練習がしたい」
「うん、わかった。場所はここでもできる?」
「問題ないよ」
シルビアはスキルの熟練度アップね。
『我は強きものとの戦闘が希望です』
キュキュ『ボクもー』
「自分もそれがいいっす!」
「某も同意にゴザル」
うーん、こいつらだけでバトルに行かすのか……やられる心配は無いけど、どれだけ取って来るかの方が心配だよ。一地方の魔物が滅んでしまう危険性があるんじゃない? それならそれでいいのかもしれないけど、生態系が崩れそうで心配だよ。
あっ! あそこならいいか。
「それならさ、ガンちゃんと出会った谷底のような所の洞窟はどう? あそこなら皆が暴れても問題無さそうだし、そこそこ強い魔物もいたんじゃない?」
ギラリ!
「ご主人様。そういえば私、ある程度地図は描き終えていまして、そんなに慌てる事はありませんでした」
「あー! ルシエル汚いのニャ! わたしも行くのニャ」
「そうね、そっちでも練習はできそうね」
「そんなん、うちが行かんでどうすんの! 地図なんかどうでもええわ」
はぁ、うちの子達はどうしてこうなんだ。育て方を間違ったか? オレは親じゃないけど、兄的立場としてここは強く言ってやろう。
「却下」
「「「「え――――」」」なのニャ」
そこまで行きたかったの? 別にいいんだけどさぁ……いや、ここは心を鬼にして言って聞かせないと。
「まずはさっき自分で言った事を終わらせてからだ。それからなら行ってもいいよ」
「はい、わかりました」
ちょっと甘いと思ったけど、ルシエルは即答だね。
他の三人も納得して、これからの一週間の予定が決まった。
次の日は朝から王都に戻り、冒険者ギルドへ。
依頼達成報告と薬草などの買い取りをして、イザベラさんに服屋を紹介してもらった。
服屋に行き、オーダーメイドでドレスを発注。四人共十着ずつだ。
採寸を終えると、いくつか試着をして、後は店の人にお任せした。登城の前日にでも取りにくればいいだろう。
全員で金貨五百枚になったけど、それだけの価値はありそうだ。服屋の人も凄く張り切ってたからね。今をときめくキャリッジシスターズのドレスを作るのは大変光栄ですと言ってくれたから。
金貨五百枚……メキドナの屋敷と同じ額。別にいいよね、お金はあるんだからさ。この子達には贅沢をさせたいじゃないか。もう兄というより親になってきてないか? いや、親のいないこの子達を見守る兄。間違って無いと思う。
後は、もう一度冒険者ギルドに戻って採取依頼を取って例の浜辺へ。
転送魔法陣を描き、一度全員で谷底の洞窟へ。
だってオレは発動できないから、キューちゃんがいないとルシエルにやってもらわないと転送できないからね。
ボルト、キューちゃん、ハヤテ、センを見送り、残りの者は浜辺で自分が言った予定を行なう事になった。
ボルト達にも料理は百人前ずつ持たせている。ヤバくなったら念話で連絡をくれるように言っておいたけど、あのメンバーでヤバい状況ってのが思い浮かばないから心配するだけ無駄か。
そろそろガンちゃんにも料理を持って行ってあげないといけないかな。
一番に自主課題を終えたのはルシエル。なんだこれは! と思うぐらい精密に描かれた地図。詳細も道が何メートル、罠や宝箱はここにあるよと※1や※2で書かれた記号。詳細も地図の下に詳しく記載されている。完璧な地図だ。この地図で迷うような奴はセンぐらいだろう。
先に終えたルシエルにはガンちゃんの所まで転送を手伝ってもらってガンちゃんに料理を渡しておいた。ひな鳥達も、もうすぐ巣立つらしい。確かに大きくなってるね。しかし成長が早くないか? 鳥だし魔物だからこんなもんなのかな。
この場所は魔素も多く快適でジョンボルバードの雛達も順調に育っている、偶に飛んでくる魔物からはガンちゃんが守ってくれているそうだ。
巣立ったら人間の敵になるのかな? オレって人間の敵みたいにならないだろうな。ちょっと心配だ。
次に自主課題を終えたのはパル。パルの地図はいたって普通。正確さだけで言うとまったく問題無いけど、ルシエルの地図を見たあとだから普通にしか見えない。今、出回っている地図より制度は格段に上だと思うんだけどね。
パルが時間が掛かったのには理由がある。まずはパルのサイズで地図を描く。それを元に大きく描き直すから二回か三回同じ地図を描くことになるから、どうしても時間がかかってしまう。
次がライリィとシルビアが同時に終えた。
シルビアは【結界】の熟練度を大幅にアップさせ、西の森のダンジョンならワンフロアを【空間把握】できるようになっていた。回復魔法の方は少し上達した程度だったみたいだけどね。
ライリィはルシエルの地図を見ながら自分なりの地図に仕上げて行っている。
通路の線も少し波打ってたりしてるけど、中々に味があっていい。そう思わせるのは罠や宝箱の絵が個性的なのだ。アニメチックというかリアルでは無いマンガキャラのような画風に仕上げている。ルシエルの地図を元にしているから通路も罠や宝箱も正確だし、これだけ個性的な地図だと人気が出るかもしれないね。
ライリィ画伯と言われるかもしれない。
登城まであと二日あるから一日はボルト達と合流できるね。前日はドレスの衣装合わせもあるし、翌日の登城に合わせて準備したいしね。
ダンスの方も毎晩踊ってるから、もうプロ級になってる。後は食事マナーなんだけど、ビデオ講習とシルビアの補助で大分できるようにはなったからそんなに心配はしてないんだけど、一つ気がかりな事があるんだよな。
こればっかりは料理が出て来ないとわからないからぶっつけ本番かな。
明日は、ボルト達と合流、明後日は王都で一日過ごして、三日後に登城だな。
何も起きない事を祈るよ。
あれ? これってフラグ? 振りじゃないからね!




