第11話 冒険者ギルド
無事、入門もできて馬車で町に入った。
予定通りでは無かったけど、1番目の案で入れて良かった。今後は別の町でももっとうまくやれそうだ。
反省点はあったけど、先にやることをやって後で反省会だ。
『シルビアのうまい機転で助かったよ。』
『そうね、上手く行ったね。』
『オレもこんなにうまく行くとは思わなかったよ。町にも入れたし、このまま冒険者ギルドに行ってボルトの従魔証を発行してもらおうと思うんだけど、また手伝ってもらえる?』
『いいわよ、私も冒険者ギルドに登録するつもりだから。』
『え? シルビアは冒険者になるの?』
『ええ、そうよ。』
いいのかな? 勇者の子が冒険者ってどうなの? 実力的にはたぶん大丈夫そうだよな。ボルトも手助けできるだろうし、その方がいいかも。でも年齢制限とかって無いのか?
『わかったよ、登録できるかはわかんないけど行ってみようか。』
教えてもらった冒険者ギルドは、すぐに見つかった。
門から入って大きな通りを真っすぐ来て、同じぐらい大きな道と交わった所を1度右に曲がって真っすぐ来た大通り沿いにあった。
3階建てで幅も30メートルぐらいある大きな煉瓦造りの建物だった。
ここに来るまでも木造や煉瓦造りばかりで中世の洋風といった感じの建物ばかりだった。色んな店もあったが、まずは冒険者ギルドでボルトの従魔登録をしないと落ち着いて町を探索できないからな。
入り口は建物の中央に大きな扉があった。他には運搬用みたいな凄く大きな入り口が右端の方にあった。『大型魔物用』と書いてあり、今は閉まっている。
話す言葉もそうだけど、文字もわかった。
元の世界の物とは違うようだけど、普通に読めた。
入り口の上には大きな横看板に『冒険者ギルド』と書いてあった。
シルビアは幌馬車モードのオレの中でさっきまでの服からパンツルックの仕様に着替え、青銅の装備を装着していた。やる気満々だ。着替えはいくつか収納で持ってたみたいだ。
『シルビア、冒険者ギルドって何をする所なの?』
だいたいは記憶がある程度戻ってるんで、ラノベ知識が蘇ったから予想は付くが聞いてみた。
『魔物退治を請け負う人達が集まる所って事は話で聞いたことがあるんだけど、それ以上は知らないわ。』
だろうね。お嬢様だから知識では知ってても行ったことは無いんだろうね。
『オレはこのカードがあるからいいんだけど、ボルトをオレの従魔に登録をしないといけないから、また頼むよ。』
『わかったわ、さっきも上手く行ったから今度も大丈夫よ。』
『さっきは運も良かったみたいだから安心はできないぞ。さっきのおっさんは良い人だったからな、深く追及されなかったし。』
『冒険者ギルドはもっと追求しないって聞いたことがあるわ。何とかなるわよ。』
その世間知らず的な楽観さが怖いんだよ。もう少し慎重に行こうぜ。
『ここからならボルトを通じてシルビアにも『念話』が通じると思うんだ。【馬車役】を通じて見る事もできるから少しはオレもサポートできると思うよ。』
『大丈夫、私に任せて。』
8歳の子に任せるのも怖いんだけど、シルビアはしっかりしてるしオレもこれ以上何もできないし。サポート役なのにサポートされてるってのもなぁ。役立たずの馬車って普通の馬車じゃん。
シルビアが【馬車役】と一緒に冒険者ギルドの扉に入った。
オレとボルトは入口から少しだけ離れた所で待つことにする。
中に入ると冒険者なのか、しっかり装備をした者達がたくさんいた。
正面には窓口が3つあって、それぞれ受付と書いてある。
更に右に大きな台のある買い取り受付があった。そこから右に続く通路も見えた。恐らくさっきの「大型魔物用」の所に繋がってるんだろう。さっき閉まっていた大きな扉を開ける様子が見えた。
受付は5組ずつ並んでたので、1番左の窓口に並んだ。
この窓口より左側には扉があって、扉の上には「ミーティングルーム」と書いてあった。
木の扉だったので中は見えなかったけど、何人か出入りしてたので中の様子はわかった。食事などもできるようだった。
前の方が受付を終えて順番も近づいて来たが、その分オレ達の後ろにも何組か並んでいた。
やっとオレ達の番になったら後ろには5組並んでいた。
【馬車役】に【冒険者カード】を受付に渡させる。
人間の女性で30前ぐらいに見えた。優しそうな感じの人だった。
「Eランクのベスターさんですね、今日は依頼の受付ですか?」
「・・・。」
ベスター? 名前が変わってるじゃん。シルビアに言った方がいいよな。
「こちらのベスターさんには従魔がいまして、その登録と私の登録をお願いします。」
さすがしっかりしてるね。シルビアさんナイスっす。
「従魔ですか? なんという魔物ですか?」
「それは・・・。」
『シルビア、雷獣だ。』
「雷獣です!」
「えっ!! 雷獣!? 雷獣ですか!」
「はい、雷獣です。」
「その雷獣はどこにいるんですか?」
「表に馬車さんといます。馬車さんを引っ張ってます。」
「ええ!! 雷獣が馬車を引いている!? 本当に?」
「はい。」
受付の女性はすぐに席を立ち、後ろで事務作業をしていた男の所に向かった。
男も声が聞こえていたようなので、すぐに理解してこちらにやって来た。
「話しは聞きました。雷獣の従魔登録ですね、雷獣を見せてもらってもいいですか?」
「はい、入口の横で馬車さんといます。」
オレ達はその男と一緒に外に出た。
男は外に出てすぐにボルトを見ると腰を抜かして立てなくなった。声も出せてない。
「大丈夫?」
シルビアに声を掛けられて少し落ち着いたのか、壁にすがって何とか立ち上がった。
「じゅ従魔という事でしたね、雷獣と言ってもまだ若いようですね。暴れたりしませんか?」
「はい、言うことはよく聞きます。」
「わかりました。従魔登録と従魔証の発行をしましょう。付いて来てください。」
男と一緒に中に戻った。
受付はもう次の冒険者の相手をしていて窓口は空いてない。
オレとシルビアはさっきまで男が座ってた席まで連れて行かれた。男は席に座ると尋ねて来た。
「私はこの冒険者ギルドで事務長をしているアーサーと言います。今後とも宜しくお願いします。」
オレ達は会釈をした。
「あの雷獣ですが、名前はなんというんですか?」
「ボルトです。」
すべてシルビアが答えてくれる。
「登録はこのお嬢さんがするのですか?」
「いえ、登録はこちらの、えーとベスターさんで、私はここのギルドの登録をお願いします。」
「え? あなたが冒険者? 年齢制限はありませんが・・・本当に?」
「はい。」
「ではこちらで一緒に手続きします。こちらのベスターさんのカードにボルトっと。お嬢さんの名前は?」
「シルビアです。」
「シルビアっと、こちらの水晶に手を翳してください。」
シルビアが水晶に手を翳す。
「はい、問題ありませんね。ベスターさんがいるので、説明はいりませんね?」
「いえ、この人は口下手なので説明してください。」
アーサー事務長は【馬車役】のオレを見て、なるほどとウンウン頷き説明してくれた。
登録はGランクからしかできない。最低ランクである。
上のランクに上がりたければ、依頼を達成していく。依頼にはポイントがあり、必要なポイントが溜まると上のランクに上がれる。
因みに、GからFに上がるには50ポイントが必要。
基本はどの依頼を受けてもいいが、自分のランクに見あった依頼を勧めている。上のランクの依頼を受けてもいいが、命の保証もできないし、依頼失敗の時にはその依頼のポイント分自分のポイントから引かれる事になる。
上のランクの依頼はポイントが高いから下手をすると2ランク落ちる場合もある。
地道にポイントを稼ぐ事を勧めると言われた。ポイントについては依頼書に書いてるそうだ。
依頼達成したら受付で確認するが、魔物の討伐依頼では買い取り窓口で魔物の確認をする事もある。大型の魔物だと奥の大型専用窓口に行く事もあるが、今の所その心配はしなくてもいいと言われた。Gランクですからね。
買い取り窓口では、依頼以外でも魔物を買い取ってくれるそうで、素材や毛皮でも買い取るし魔物の解体だけでも受け付けてくれるそうだ。
一般からも受け付けているが、冒険者ギルドに登録したら者なら優先的にいい条件でしてくれるそうだ。買い取りは高く解体は安くなどだ。
依頼については依頼ボードに貼り出されるので、1枚しか貼り出されない依頼は早い者勝ちだが、同じ依頼を複数貼り出されているものは、依頼達成が早いものが優先される。
「説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
「ありません。」
「では、これがベスターさんの従魔登録をした冒険者カードで、こちらがシルビアさんのGランクカードです。従魔については何か印をしてもらわないといけないんですが、どんな印にしますか? 例えば首輪や腕輪を付ける人が多いですが。」
「それは今決めるんですか?」
「はい、今決めてください。」
『シルビア、腕輪にしてくれ。町にいる間だけでいいかも聞いて欲しい。』
「腕輪にします。腕輪は町にいる間だけでいいんですか?」
「はい、町にいる間だけで結構です。飼われてると分かればいいんです。雷獣は危険度Bクラスの魔物です。あの雷獣はまだ小さいようですが、大きくなると5メートル以上になり危険度はAにもなります。」
うん、確かに大きいよね。危険度Aだったんだね、ボルトって。
でもボルトはオレの恩恵もあって普通より強いはずだよな? じゃあ危険度いくつなんだ? ホント味方で良かったよ。
カードを受け取り、依頼にはどんなものがあるのか確認に来た。
勿論Gランクから見たが、薬草など調合に必要な素材の依頼ばかりで討伐依頼は無い。Fにも無かった。Eランクでゴブリン討伐をやっと見つけた。更に討伐依頼を探して見ていると、後ろから声がかかった。
「よぉ、そこはお前達が見る所じゃねえ、退きやがれ!」
そう怒鳴ってオレというか【馬車役】を突飛ばした。
「なにするの?」
シルビアはオレを突飛ばした冒険者に特に声を荒げずに言った。
『主殿、座っても宜しいか。』
ボルトが念話で言ってくる。ちょちょっと今ヤバいんだけど。
座りたいなら座ればいいじゃないか。
『あ、【バング】を繋いだままだと座れないか、今はずすよ。』
【バング】を外すとレベルアップが始まった。
集中できないよ。
この町に来るまでにも魔物を倒してたから、戦闘経験値と移動経験値でレベルが上がる。毎回上がる時にはチャイムのようなメロディというか音楽というか。その後にアナウンスが入るから、何も聞こえないんだよ。
戦闘で2、移動で3レベルが上がった。
【馬車役】に意識を移すとさっきの冒険者が伸びていた。