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第100話 引率者ルシエル再び


 ご主人様と別れた私達は、一度宿に戻って来た。

 昨日はダンジョンまでは二時間掛かった。ゆっくり行ったとはいえ、急いでも一時間は掛かるでしょう。その時間が惜しいですね……。


「皆、聞いてください。ご主人様からお仕事を頂きました。転送魔法陣の各階への設置です。メキドナでもやりましたので、段取りは分かります。まずは五十階層までと言われておりますので、今日中には終わると思いますが、皆さんはどうしたいですか?」

「そら、ご主人様からの仕事やったらやるに決まってるやん」

「そうなのニャ」

「……そうね」

 皆、賛成だが、シルビアだけ答えるのに少し間があった。


「五十階層までですから全員で行く必要はありません。一人で行く事は止められましたので、ライリィに付いて来てもらえれば事は足ります。シルビアとパルとキューちゃんはどうしますか? 先に進みますか?」

「そやなぁ、悩むとこやなぁ」

キュキュ『ボクは先に進みたいー』

「私も先に進みたい。でも、今回は魔物を倒すのを目的としないで、フロア地図(マップ)を作ってみたい」

「ええやんそれ! うちもシルビアに賛成や!」

 どうするか悩んでたパルも、シルビアの案に便乗した。


 それを見たルシエルは一つ頷き締めに入った。

「では、六十階層以降の地図をお願いします。私達は昨日五十八階層まで行きました。そこから始めて、六十階層のフロアボスを倒すと現れる魔法陣で、私とライリィは地上に戻ります。それで、ライリィと一緒に一階層から進んで行って、出来る限り今日中に合流できるように頑張りたいと思います」

 そう言ってシルビアとライリィを交互に見る。

 シルビアとライリィも首肯で同意を示した。


「私もパルも地図作りは初めてだから、時間は掛かると思う。キューちゃんに魔物の事は頑張ってもらって、私とパルも早く地図作りに慣れるね」

 シルビアにそう言われるとルシエルも笑顔で答えた。

「期待してますね。忘れ物はありませんか? 紙はありますか? 料理はありますか? 筆記用具はありますか? 装備は大丈夫ですか? 回復薬は足りてますか?」

 なんかお母さんみたいになってる。


「全部収納してるよ。私は馬車さんと同じ【亜空間収納】を持ってるんだから大丈夫なの」

「むむ」

 馬車さんと同じという所に反応したルシエルだった。

「そっちにはキューちゃんもいるし、回復も大丈夫ですね。それでは行きましょう」


 全員で宿の馬車置き場に描いた転送魔法陣に入って行き、王都ダンジョンの五十八階層へと転移した。

 五十九階層と六十階層のセーフエリアを確認し、六十階層のフロアボスであるギュスターヴ。10メートルを超えるワニの魔物だ。

 一瞬の瞬発力と噛む攻撃に加え、ウォーターランスなど水魔法も使う魔物だ。


 ギュスターヴの相手はライリィだった。ライリィの装備するグラビティナックルの効果で重力を加えると、ギュスターヴは口を開くことが出来なくなった。

 口が開けなければ噛む事も魔法を出す事もできず、本来の力を発揮する前にライリィの前に敗れ去った。

 魔石とドロップ品を残し、ギュスターヴはダンジョンに吸収された。

 ドロップ品は皮だった。10メートルの鰐皮、ベルトやバッグが造れるのかもしれない。


 初めの打ち合わせ通り、ここからルシエルとライリィは魔法陣に入り地上へと戻って行く。残されたシルビア、パル、キューちゃんはマッピングをするシルビアとパル、魔物を排除するキューちゃんという役割で進んで行く。

 各階のセーフエリアには何度も足を運び、シルビアとパルで相談しながらフロア地図を完成させていく。


 一方、地上に戻ったルシエルとライリィも順調に転送魔法陣を描いて行く。

 一階層目は必要ないと思うが、部屋は用意されてたので一応描いてある。

 先に地上に用意されてる部屋に魔法陣を描き、ダンジョンに入る。ダンジョンのセーフエリアで魔法陣を描いて地上に戻って来る。次に隣の部屋に行って次の階層の為の魔法陣を描き、出て来た魔法陣に戻ってセーフエリアに戻る。セーフエリアから最短で下の階層に行き、またセーフエリアに魔法陣を描いて戻って来る。その繰り返しだ。


 昨日の攻略ルートとはセーフエリアがズレてる場合は最短距離にはならないが、それでも魔物無視の壁や天井を走る無重(フリー)力走(ラン)。遅い訳がない。

 十階層のボス部屋まで、昨日は三十分だったが、今日は四十分掛かった。やはり、少しの迂回と転送魔法陣を描く手間の分、遅いようだ。

 地上では昨日のちょっとした騒動のテンプレが発生する事も無く、スムーズに作業を行なえている。昨日で懲りたのか、兵も近寄っても来ない。作業は順調であった。


 三十階層が終わって三十一階層のセーフエリアで昼食を摂ると、五十階層まで休憩をせずに一気に作業を終わらせた。途中からペースも上がり、昨日と同じぐらいのペースにまで上がっていた。

 その秘密は二人になった事で、ライリィとルシエルの間にスキル【リンク】が付いた。

 二人はリンクする事で意思疎通を円滑にするだけでなく、体捌きもリンクさせた事でルシエルの体術が一時的に向上した。

 【リンク】が付いたのが二十階層を過ぎたあたり。そこからはライリィも更にスピードを上げ、五十階層にの到着するのに三時間も掛からなかった。

 初めの遅れと、最短距離でないルートを考えると、昨日より早く辿り着いたと言えよう。

 その分、ルシエルは少々筋肉痛になったようだが。


 そのままの勢いで六十階層も踏破し、先行していたシルビア達には六十九階層でようやく追いついた。シルビア達は意外と苦戦していたようだ。


「やっと追いついたのニャ」

「意外と行ってませんでしたね」

 追いついてきた二人に、シルビアとパルが明るい顔を見せる。


「早かったやんか、もうちょい掛かると思ってたわ」

「フフ、私の自信作」

 パルが労いの言葉を口にしたのに対して、シルビアは自分の地図を先に自慢したかったようだ。

 シルビアは横35センチ、縦50センチの大きめの紙に、フリーハンドだが綺麗に線を引いてフロア地図を描いていた。


 パルの方が地図師で、シルビアは結界師だったと思いますが……

 パルの説明によると、地形や通路、罠や宝箱などの位置を解析しているのはパルで、シルビアの探索範囲はまだまだ地図作成では使い物になる代物ではないそうだ。

 パルの方はというと、綺麗に描ける大きさは超小さい。大きく描くとパルにはサイズが大きすぎて線が真っすぐ引けない。

 シルビアの描いた地図は、監修パル、作者シルビアってところだろうか。二人の共同作業で出来上がった地図のようだ。


 地図を手渡されたルシエルは笑顔で褒めた。

「凄いです。これだけ描ければ、後は私が清書できます。五十階層以降は、キチンとした地図も無いようですし、冒険者ギルドに置いてもらったら売れるかもしれませんね」

「このままではダメ?」

 自信作をまだ清書しないと使い物にならないと言われたようで、シルビアとしては少し不満だった。


「そうですね、実際に売られていた地図はこれです」

 そう言ってルシエルはこのダンジョンの五十階層までの地図を出した。

 結構雑な線で描かれている地図で、これならシルビアの描いた地図の方が数倍綺麗に仕上がっている。


「私が描いた地図はこれです」

 と、出された地図は西の森のダンジョンの地図だった。

 すべての線が定規を使って真っすぐ描かれており、通路の距離はもちろん入っているし、罠の位置には番号を振ってあり、別欄に罠の種類や発動条件が書いてあった。

 宝箱にも番号が振ってあり、これも別欄に罠の有無や出た宝物を書いてあった。

 セーフゾーンも描いてあり、設置した魔法陣を魔石で起動させる時に、魔石を置く位置まで描いてあった。


「……負けた」

 あっさりと負けを認めたシルビアに、ルシエルが庇うように言葉をかける。

「初めてでこれだけの物が描けるって凄い事だと思います。才能があると思いますよ」

「……そう?」

「はい、もっと慣れてくればもっと上手に描けると思いますよ」

「ホントに?」

「はい」

 シルビアの言葉にニッコリ笑って答えるルシエル。


「うちももっと描いて上手(うま)なったんねん」

「あたしもなのニャ~」

 便乗してやる気になってる二人。


「ルシエルの線はどうしてそんなに真っすぐに描けてるの?」

「それはですね……これです」

 シルビアの質問に対してルシエルはある物を出した。


「それは何?」

「これは定規と分度器というものです。もちろんご主人様に頂きました」

 ルシエルが見せたのは物差しと三角定規と分度器だった。

「あなた、色々馬車さんに貰ってるよね」

「はい、朝は二人でお話をする時間がありますので、私だけ(・・・)が頂くこともありますね」


 ルシエルが自分の世界に入りそうになったので、地図の話は後にして、今日これからの話をする事にした。


「今日は何階層まで行くの?」

「そうですね、転送魔法陣を描くという仕事がありますから、出来る限り下の階層まで行きたいですね」

 そう言ってルシエルが懐中時計を出す。


「あと二時間は行けますから、八十階層を目標にしましょうか」

「わかったわ。地図はどうするの?」

「マッピングは手分けしましょう。パルは小さくてもいいのでシルビアとキューちゃんと組んで地図を描いてください。私はライリィと組んでマッピングをして行きます」


 皆の同意を得て、この階層の残りのマッピングを終わらすと、階段を下りる所で地図の付き合わせをし、ルシエルがOKを出すとパルとシルビアが喜んで次の階層へと進んで行く。

後はその繰り返しの途中に、セーフエリアでは転送魔法陣を描くために、ルシエルがその都度地上に一度戻る手間が入るだけだ。


魔物は倒してもスルーでもOK。宝箱は取る。罠はどんな罠なのかも解析する事。

 そのルールで探索を続けるキャリッジシスターズ(プラス)


 七十階層のフロアボスはアニソラビディダエ。難しい名前だが大きなハサミムシだった。

 討伐レベルはAランクかBランクパーティが三組以上。あくまでも冒険者ギルドが出す参考なのだが、戦いには相性というものもある。


 このアニソラビディダエは攻撃力が高い。近接戦だと不利だろうが、遠距離攻撃が得意な者がメンバーにいれば簡単に倒せる魔物である。

 火属性攻撃に非常に弱いのだ。ここも、キューちゃんの火魔法で簡単にけりを付けた。


 八十階層は地龍が出てきた。

 確かに実力的には八十階層で問題は無いのだろうが、キャリッジシスターズ(プラス)には物足りない相手だったかもしれない。


 八十六階層のセーフエリアで終わりとした。

 セーフエリアからは、ルシエルの描いた転送魔法陣で地上に戻って来て、隣の八十七階層用の部屋に魔法陣を描き、宿屋の転送魔法陣と繋げた。

 五十八階層のセーフエリアの転送魔法陣は、既にこの建物の五十八階層用の部屋の魔法陣と繋げるために書き換えられている。


 昨日より時間は長かったとはいえ、一日で八十六階層まで行ったルシエルとライリィは、このダンジョンの最高記録保持者かもしれない。


 キャリッジシスターズ(プラス)は宿に戻って来ると、ルシエルが冒険者ギルドまで報告に行くと言う。まだご主人様も帰って無いのでと、全員で冒険者ギルドに向かう事にした。



 冒険者ギルドに入ると、すぐにイーサン事務長から声を掛けられて、全員でマスタールームに連れていかれた。


 マスタールームに入ってみると、ご主人様がいた。



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