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グランドワールドへようこそ

 { 俺は今どうしてこんな所にいるんだ!? }


 獣の群に追われ森の中を必死に駆け回る青年ことプレイヤーの1人【もやし】、彼は突然置かれた理不尽な状況に頭の中はぐるぐると混乱していた。目が覚めると見知らぬ森の中、わけも分からずさまよっていたらこの今の追われる事態に発展したのである。


 { ――そうだ!俺、今ゲームしてるんだ! }


 ゲームだ!とは思うものの身体に当たる風、地面を踏みしめる感触、五感を刺激する全てがゲームとは思えないほどリアルに感じさせる。そしてそのリアルな感覚が不安を煽り後ろから迫る獣達をより一層恐ろしく感じさせるのだ。獣の牙に引き裂かれる痛みの恐怖、果たして無事に済むのだろうか・・・これははたして本当にゲームなのだろうか。





 ――――そもそもこんな目に遭った始まりは、


『たくやー 今日の外は気持ちいいわよー 部屋掃除するからゲームやめて出てきなさーい!』


と日曜日の朝から母親に半ば強制的に部屋から追い出された【もやし】こと【たくや】はしぶしぶ近所の喫茶店へ避難したのが全ての始まりであった。


「ホットサンド1つ・・・とコーヒーもお願いします」


 注文をさっさと済ませ、棚に置かれた雑誌を物色する。週刊誌やらファッション誌やらグルメやら様々なジャンルの雑誌が乱雑に置かれている中、ゲーム雑誌を手に取り席へ戻る。フリーターなので本当はこんな時こそ就職情報誌でも見ればいいのだがそんな気にはならなかった。


 ぺらぺらとめくれるページ、載っている発売情報や攻略方法は既にネットに出回っている情報であった。 こうゆう場合は仕方ないのでコラムや読者投稿で時間を潰すしかない。コラムの方へページを飛ばして開くと、そこは今月都内で開かれるゲームショウの事前紹介の特別ページとなっていた。


「・・・あれ?これってもしかして今日じゃないか?」


 発売日を明日に控える低価格化と大量生産の実現に成功し期待を集める次世代型VRゲーム機【ヴァーチャルダイバー】がゲームショウの目玉として紹介されており、さらにこのイベントを盛り上げるためゲーム好きの人気タレントと声優がゲストとして招かれるとあり、そのゲスト一覧に・・・


「お、俺の好きな花沢涼子さんがくるのか!?マジかあああああ!?」


 大ファンの声優参加に心躍るたくやはテンションMAX!善は急げとスマホを取り出しイベントスケジュールに会場アクセスを確認、注文した熱々のチーズトラップが潜むホットサンドを湯気上がるコーヒーでガガッと根性で胃袋に流し込むと会計を早々と済ませ駅へと向かって駆け出した。

 ゆったりとした朝の時間(と口内)を犠牲にしたおかげで無事イベント会場へ入場、しかもおまけになんとゲーム機と同時発売されるVRMMORPGソフト【グランドワールド・ネクスト】の発売直前特別企画【16名抽選先行プレイ】のイベントで見事当選、これが世にいう“早起きは三文の徳”ということなのだろうか!スタッフから注意事項や操作の説明を聞きながらキャラメイクし1時間ほど前にゲームへログイン・・・


 ――――そして、今に至る。





{ くそッ!このままじゃダメだ!何とかしないと・・・ }


 だが振り返り反撃しようにも選んだ初期ジョブは≪アーチャー≫、1体であればごり押しで倒せたかもしれないが(そもそも立ち向かう勇気のないヘタ*野郎だが)今もやしを追いかけてくる獣は6体、敵との距離がまだあれば何とかなったのだろうがこの現状では構えるのが難しく初心者にとって逃げる選択が一番無難であった。


「!?」


 走るもやしの前方に3体の獣の姿が・・・なんと獣たちは二手に分かれ逃げてくる獲物を手ぐすね引いて待っていたのだ。・・・なんて頭のいいヤツらなんだ、俺よりも頭良いぞ!!もやしの頭の中が真っ白になった。


「お、俺なんか食べても美味しくないぞー!もやしだからカロリーはないぞおおおおおおお!!(?)」


 おわかりいただけただろうか、この哀れなプレイヤーの叫び声を、悲鳴を・・・これが恐怖で追い詰められた人間の行動とでも言うのだろうか?そんな本人は至って真面目で何か叫んでいれば獣たちが退くと思っていた。まぁそんな簡単に退くわけがなくじわりじわりと迫る獣に恐怖のゲージがぐんぐんと上がり・・・


「こっちくんあああああああああああくぁwせdrftgyふじこlpppppp!!」


 これが最期の言葉とは情けない限りで意味不明な叫びを上げながらあまりの恐怖で失神してしまった・・・





 ――――生きている?


 気が付くと銀色のシルエットに黒いマントが風になびく姿が目に映り込む。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


 そこにはファンタジー系ではお馴染みの甲冑姿(フルプレートアーマー)の男が立っていた。

 周りに獣たちの姿はなく、どうやら彼に助けられたようである。

 青いポニーテールの様な装飾が目を引くフルフェイスの兜、その表情は窺い知ることは出来ないが彼の柔らかな物腰と甲冑を纏う頼もしい姿はもやしの緊張をほぐし安堵させた。


「悲鳴が聞えたので駆けつけたのですが・・・良かった、元気そうで何よりです」

「ありがとう、君はいったい・・・?(悲鳴って・・・どこまで聞いてたんだろ、この人?)」

「・・・おや?もやしさん、私の頭上をみて下さい」

「え?」


 甲冑の男が茶目っ気たっぷりに頭上を指で指す、

 そこには【ウルクハート】の文字が浮かぶ・・・、そう彼はもやしと同じプレイヤーの1人であった。


「ウルクハート・・・さん?」

「ハイ、そうです!はじめまして【もやし】さん!!」

「は・・・は、ははじめましてぇ・・・!?」


 ぎこちない反応である。だが、右も左もわからない心細い中、出会えた喜びは2人とも一緒であった。


 ゲームでもリアルでもまともな人間関係を築けなかったプロぼっち【もやし】

 そんな彼の命を救い優しく迎え入れた頼れる甲冑の男【ウルクハート】

 


 1時間以上も経過しているのにイベント会場から一向に連絡がない不可解な状況に不安が募る。

 残り14人のプレイヤーたちは今どうしているのだろうか・・・

 はたしてこのリアルな世界は本当にゲームの中の世界なのだろうか・・・


 何もわからない、だが進まないと何も答えが見えてこない。



 その答えの糸口を探すため2人は森の中をゆっくりと歩み始めた・・・ 

                              ≪ グランドワールドへようこそ ≫

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