第23話 阿鼻叫喚
迅「はぁはぁ。先生・・・。先生・・・・・・・・・。」
迅の目はまだゲームが始まったばかりなのに対して、もうすっかり死んだ魚の目になっていた。生気が失っており、電車に轢かれようとした時と全く同じ目。勿論電車自殺未遂については市香は全く知らなかった。少し怖くなった市香は、迅の肩を掴み揺さぶった。
市香「迅さん!どうしたんですか!?さっきから先生先生って。」
迅「え?」
迅は目を覚ました。ドアノブに手を掛けゆっくり下に動かし、ゆっくりとドアを開けた。
「何だ?あっついな。」
迅「何度あんだよ。汗が止まらねぇ・・・。」
横からガチャと音が何度も鳴ったその度「暑!!」という声が聞こえた。明かりが点いた・・・いや。壁が開かれていくと共に、下から赤い光が出てきた。暑さもより一層増した。壁が全て収まると皆その光景に大驚失色してしまった。
迅「何だ?これ・・・マグマじゃねぇか・・・。」
前を見ると細い道があった。人1人渡れるか渡れないかぐらいの道であった。
迅「なるほど今度は落ちない様に渡れってか。」
1人「今までと比べりゃ簡単じゃねぇか!」と言い道を渡って行った。だが・・・
「何だ?道が・・・勝手に揺れてる!」
まだ足を踏み入れてなかった迅が不思議そうな顔で
迅「何言ってんだ?」
「道が揺れてんだよ!ユラユラと!あぁ!足のバランスが!」
男の足はバランスを崩し、体が大きく揺れていた。
市香「落ち着いて下さい!!道なんて揺れてません!真っ直ぐです!!」
男は叫んで道を走った。どいう訳か大きく道から逸れて、落ちていった。
「あがぁぁ!!!体が!!あづい!誰がだずげでぇぇ!!!」
男の手はあっという間に骨になり、骨が溶けていった。顔も溶け目もポタッとマグマに落ち、最後は何も残っていなかった。今回死んだ時は死体は残らない。それが今回のゲーム。マグマに気を取られ気が付かなかったが、周りをよく見るとタイマーがあった。残り15分。
迅「時間が・・・。時間切れになるとどうなるんだ?」
市香「まさかこの部屋にマグマを入れられて、全員死ぬんじゃ・・・。」
皆が一斉に道を走った。迅と市香も後に続き道を歩いた。その時あの男の言っていた事がわかった。確かに簡単だと思ったこのゲーム。だが簡単ではなかった。
迅「道が確かに揺れている!」
市香「ちょっと!どうなってるんですか!?」
迅「・・・・・・。熱い・・・マグマ・・・火?ちょっと待てよ!まさか!そうだ!これは陽炎だ!」
市香「陽炎?」
陽炎とは皆知っているであろうが、キャンプファイヤー等、熱がとても高い所で空間が歪む様に見える気象現象の事である。つまりこの道が揺れているのは陽炎が見せる幻覚で、実際は一切揺れていないのだ。
迅「お前等!これは決して揺れている訳じゃない!陽炎だ!!つまりこれは幻覚実際は動いていないんだ!!だからゆっくり!ゆっくりと進むんだわかったな!!」
皆頷き深呼吸して道に手を付けた。迅も道に手を付けた。だがそんなこんなしてる間に5分経っていた。
迅「これじゃあ間に合わない!少しスピードを上げるぞ!」
と言うと皆焦ってしまった。
「そんな事無理に決まってるだろ!!このスピードが限界だ!」
皆はゆっくりと進んだ。先頭が目と鼻の先にゴールがあった。
「っしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男は狂喜乱舞し、ダッシュした。迅は「危ない!」と言おうとしたが間に合わず。
「あれ?」
男は足を滑らせた。この一瞬男は自分に何が起こったかわからなかった。そのままマグマに落ちていき、溶けていった。最後の最後まで男は自分に何が起こったかわからなかった。皆はそれを見て急に焦りだした。いや正確に言うとタイマーを見た後、あの男を見て焦った。残り5分。ゴールが目の前にあっても間に合わないという事を知り絶望した。迅は諦めるな!と言った。皆走った。ゴールに辿り着けたのはごくわずかだった。迅もゴールに着いた。残りはもう10秒だった。
迅「早く!早く来い!市香!」
9秒
市香「駄目!私はもう!」
8
迅「まだ大丈夫だ!あと1mだろ!早く!立ち幅跳びでもしろ!」
7
市香「無理!私立ち幅跳び30cmが限界なの!」
6
迅「だったら走ってでもこっちに来い!」
5
市香「私の事は良いから早く行って!」
4
迅「くそ!じゃあ俺の手を掴め!」
3。市香は手を伸ばした。
市香「ぐっ!」
2
迅「早く!早く来い!」
1。市香はタイマーを見て、走り迅を押した。
市香「ありがとう迅さん。私清志さんと向こうで待ってるね。」
最後は何故か幸せそうな笑顔で、迅に話しかけた。迅は抵抗しようとしたが、押し出されドアを閉められた。
迅「市香ーーー!!市香ぁぁ!!!」
ドアを何度も叩いた。ドンドンと音が鳴ったが、ビクともしない。足が崩れさる様に肘を折った。何も言わなかった。迅は清志だけで無く市香も殺してしまった。
迅(俺の所為で!俺の所為で!!すまないすまない。)
また横からドアを開ける音がした。そして今度はちゃんと明かりが点いた。
迅(このままもし柊花に会ったら・・・今度は柊花が・・・。)
するとトントンと肩を叩かれた。そして「お兄ちゃん?」と聞き慣れた声が聞こえた。振り向きたくなかった。
迅「柊花か?」
柊花「うっ・・・うん。そうだけど。」
迅「俺は多分死神だ。俺の側に近寄ると死ぬぞ。離れた方が良い。いや。俺の側に近寄るな。」
柊花「嫌だよ。私お兄ちゃんから離れたくないよ。折角会えたのに。」
迅は柊花と目を合わせようとしなかった。壁が上に上がっていった。




