第14話 回転針
迅「糞が!」
力一杯に孝良に蹴りを1発食らわした。孝良は床に体を落とした。
孝良「お前を殺して、俺が生き残ってやる!」
孝良の周りから黒い物が一瞬見えた気がした。恐らくそこ迄殺気が出ているという事なのだろう。だがそんな殺気を感じても、迅は怯まなかった。孝良がこちらに向かって走ってきた。
迅(なっ何だ?これは・・・。)
孝良がこちらに向かって走ってきている。それは同じだった。走ってきているのだが、まるでビデオをスローモーションで見ているかの様に遅かった。
迅(こんなの・・・簡単に避けられる・・・。)
孝良が殴ってきたが、スッと横に避けた。この反射神経は直ぐにわかった。親である洩夜の血が今ここで出て来たのだ。
迅(これだったら、あっという間に終わり・・・。)
そんな時また2人の言葉を思い出した。殺せない・・・。
迅「何だよ!だったらこんなの攻略出来ねぇじゃねぇかよ!!」
孝良「お前急に何言ってんだ!」
直ぐ目の前に孝良の拳があった。
迅「ぐはっ!!」
油断していた所為か、避ける事が出来なかった。
迅「待て!」
孝良「あぁ?」
迅「俺は・・・・・・。俺はお前を殺さない!」
孝良「てめぇ!何を言ってやがんだ!!良いか?このゲームはな!誰かが死なねぇと終わんねぇんだよ!!だったらお前が死ね!ちょこまか避けてないでよ!!」
迅「だから聞けよ!俺の話を!!俺は死なない!お前も死なない!誰も死なずにゲームをクリアする方法を探すんだよ!!」
孝良「だから!そんなのある訳ねぇだろ!!」
また走って来た。迅は周り込んだ。
孝良「なっ!!」
迅の鎖に足が引っ掛かって転けた。戦闘的才能、技術、力は圧倒的に迅の方が強かった。
迅(父さん・・・・・・初めて父さんの子であって良かったと思った・・・。)
孝良が怯んでいる間に、孝良から離れた。時計を見た。残り50:21と書いてあった。
迅(あと21秒・・・。)
タイマーはずっと動いていた。そして50分丁度来ると、足が引き摺り込まれた。
迅「ぐっ!」
孝良「糞っ!」
鎖は止まった。残り5mとなった。もう10分経った。早かった。真ん中の回転針を見た。
迅(こんなの・・・。もし刺さって助かったとしても、刺さった手、もしくは足は絶対一生動かなくなるな。)
回転針は、そこ迄早く回転していなかった。速度で言うと・・・時計の秒針の少し早めぐらいの早さだろうか?そのぐらいの速さだった。だから普通に触る事が出来た。
迅(何故あのTVは刺さると、そのまま巻き込まれると言ったんだ?刺さってもまた抜けば・・・。)
針を触るとザラザラしていた。
迅「?これは・・・?」
針を触っている時だった。後ろを振り向くと孝良が何時の間にか居た。
孝良「死ねぇ!!」
迅「なっ!!」
ハッと孝良の拳を避けた。その時針が頬を傷付けた。
迅「うつ!」
頬を優しく触った。血が当然出ていた。すると横から
孝良「うがぁぁぁぁ!!!」
迅「なっ!何だ!?」
声のする方、つまり回転針の方を見た。孝良の握り拳が針に刺さっていた。目から涙がポロポロ出ていた。幼稚園の子が転けた時の様に泣いていた。
孝良「だずげでぐれぇぇ!!!」
必死に抜こうとしていたが、抜けなかった。迅も一緒に手を抜こうとした。
孝良「早く!!早く抜いてくれぇぇ!!」
スポッと音が鳴るぐらい、手がスッと抜けた。
迅(何でこんなに抜きにくいんだ?まさか!あのザラザラは!!)
孝良の手は大きな穴が空いていた。しかも拳だった為、指が何本か無くなっていた。迅が孝良の服を破り、孝良の手に巻いた。この方法も洩夜から教わった物だ。それからずっと迅は周りを調べた。
〜35分後〜
迅「あぁ!!!糞が!!間に合わない!!!」(落ち着け俺!!落ち着け!!)
残り鎖の長さは1m。残り時間は5分だった。迅「どうすれば・・・。」
また回転針を見た。今度は孝良を見ながら調べた。
迅「やっぱり何も無いな。」
そこで横に倒れた。
迅「終わるのかな・・・。」
と少し呟いた。だがこの呟きに反応した孝良は
孝良「俺は絶対生き残る!!」
また冷静さを失った。孝良は今度は左手で殴ってきた。
迅「少しは学べよ!!おっさん!!」
軽々しく避けて、腹を膝で蹴った。
孝良「ぐはっ!!」
迅「全く。」
回転針に体を向けた瞬間、孝良は迅の足を蹴った。
迅「なっ!?」
ギリギリ針の無い場所に手を突いた。針も顔に掠るか、掠らないかぐらいの距離だった。
孝良「死ねぇ!!!!!」
後頭部を左手で抑え付けられた。針の無い所へ、無い所へ移動させて刺さらない様にした。
迅「お・・・・・・前・・・・・・。やめろ・・・。」
孝良「そのまま頭を刺して死ねぇ!」
迅「・・・しか・・・・・・。」
孝良「あぁ?」
迅「死ねとしかいえねぇのか!!」
頭を下に下げた。その時下には針が無かった。
孝良「ヤバイ!!」
左手だけだった孝良はバランスを崩してしまい、体ごと前に行ってしまった。
孝良「あがっっっ!!!」
孝良は吐血した。迅は顔を上げた。しかし、迅が見た光景は、肩、腹、腕等沢山針が刺されていた。
孝良「早く!!俺を助けろぉぉ!!」
迅(学習しろよ・・・。てか生命力ヤバ過ぎ・・・。ハッ!そんな事より!!)
急いで孝良を引っ張った。やっぱり抜けない。
迅「やっぱり!これは返しか!!」
返しとはモリの先っぽに付いてある、魚を刺した時に抜けにくくする為の物である。その返しが、この針に小さく無数にあるのだ。
迅「くっそっがぁぁぁぁ!!!!!」
手は抜けた、が他は抜けなかった。そうこうしている間に孝良の意識は無くなっていた。
迅「死んだ・・・。のか?」
その時TVが点いた。
TV「迅様おめでとうございます。貴方の勝利でございます。」
回転針の動きは止まった。足の鎖もガチャと取れた。膝を突いた。清志の言っていた事を思い出した。
清志「お前は自分が生き残る為なら、人を殺すのか?」
迅「俺は・・・・・・・・・自分の為なら人を殺すみたいだ・・・。」
こうして回転針ゲームは終わった・・・。このゲームをして、学んだ事が1つだけある。自分は何も出来ないという事だった・・・。