豚くん参上。そして退場。
8話 - 豚くん参上。そして退場。
腹もいっぱいになったところで工房に戻ったら、セレンが街で聞いた「なくなったメガネ」の件の続報がはいっていた。
なんでも向こうの工房からも盗まれてなくなったらしい。
なんということでしょう。
盗んだものを盗まれているとは。
セキュリティ意識が低すぎる。
あ、俺のことは神棚に置いておいてください。
シェレスさんもしばらくして戻ってきたのでメガネはもう一回作成することを告げる。
なんか負けた気もしてるけどしょうがない。
フレームなんかは会話しながらでも作れるほど頭の中にちゃんと設計図が出来ている。
レンズ部分は。。。またあとで一人になってからだな。
というか、フレームの完成度、前回のよりあがっていないか?これ。
調子にのってシェレスさんのとセレンさんのも作り上げる。フレームだけね。
そんなことをセレンが入れてくれた紅茶を飲みながらやってまったりとしていると、なにやら工房の前で叫んでいるだみ声が聞こえる。
あー、なんかお約束な予感。
「おい!シェレス工房の人間はいないのか!!!」
店舗部分の扉を豪快に開け、怒鳴り込んできたのは。。。人?
オークとかって言われた方がまだ納得できる。
ひどいまでも肥えた腐臭のする身体、ほとんどハゲあがっているが残ったのをけなげにも横すだれにしてハゲじゃないアピールをしている頭。
汗をダラダラ流しながら口から唾を飛ばしなにやら怒鳴っている。
人間の言葉でOK。
「いたとしても私達は君に用事がないんだが?」
シェレスさんのターン。
先ほどお遊びで作ったメガネのフレーム(美人女教師バージョン)を装着したままゴミでも見るような冷たい目で目の前の豚を一瞥する。
あぁ、女王さま。本日も。。。っと、妄想に入る前にだな。この豚くんが何を言ってくるのか。
「お前のところの職人がうちの技術を盗んだと聞いている。ましてや先ほどうちの工房から試作品が盗まれた。これもお前のところの仕業だろう!!」
「ほう?これは異なことを。」
「なにを開き直っておる。このことは領主さまに報告させてもらう!」
鼻息を荒く、さらに唾を飛ばしながらシェレスさんに食いかかる。
きったねーなぁ。
「あー、まてまて。レイラ様はもうこの件をご存知だ。」
その言葉をシェレスさんが出した瞬間、目の前の豚くんは固まる。
「知ってる。。。だと?」
「あぁ、知っているさ。そもそもレイラ様の依頼でうちの技師が作り上げ、レイラ様が選んだデザインで作ったものだ。」
豚くんの顔が見る見る青ざめていく。
「それをそちらの工房が持っていったところですでにレイラ様は察しておられる。そもそもあれはそちらの工房では作れまい。」
完全に虫を見るかのような目で目の前の豚くんを見下しているが、それにも気づかず下を向いたまま歯を食いしばっている。
ぐぬぬ。。。とか言ってるのをリアルで聞いたのは初めてだわ。
「そもそもなんでそちらで盗まれたものがこの工房にあると思ったんですか?」
ふと疑問に思ったのでシェレスさんの後ろから出て聞いてみた。
豚くんは??といった顔で俺のことを見ているが、正直そのにごった目で見ないで欲しい。
「この街には他にも工房がありますよね。それこそ、そちらの上も下も。それでなんでこの工房に真っ先に来ているんでしょうか?」
シェレスさんは会話の意図がわかったのか、横でニヤニヤした顔で俺の話を聞いている。
セレンは後ろのテーブルでナイフを研いでいる。怖いから。怖いからやめて。
「まるで、最初から『ここの工房にあることを知っていた』かのような動きですね。不思議ですね。」
「それはお前らがうちの技術を盗んだという噂があってだな。。。」
「ほう。ではどのような技術でしょうか?水晶の加工の部分でしょうか?弦の部分でしょうか?そもそものアイデア自体のことでしょうか?」
「全部だ、全部!あれはうちの工房で考え、作成したものだ!技術も!権利も!全てがうちのものだ!」
。。。おおう、やはりこのフレーズはこっちの世界に来てまで聞きたくないな。
邦靖さんが聞いたらぶち切れそうだ。。。。
「では作成方法も整備の方法も活用方法もわかっておられると。ではそちらで新たに作り上げればいいじゃないですか。」
「そんなごたくはいいからおまえらが作ったものをとっととよこせ!」
「なんで渡す必要があるんですか?ご自分達が元祖なんでしょう?偽物を欲してどうするのでしょう?」
こういう輩には、根気よく正論だけをぶつけるに限る。
豚くんの顔はどんどん赤くなってきていて、そのうち頭の血管が切れるんじゃないかという勢いで怒鳴っている。
正直もう耳が痛い。
そもそも起源を主張したり、富や名誉を欲するより、使ってくれる人の使いやすさとかそういう点を重視すべきだろう。
あくまで技師は裏方。
メガネというものをかけてこの世の中にメガネでの萌えが広がれば俺としては言うことはない。
そこをわからないならメガネに携わる資格はない。
「もういい!このことは知っていようとなんだろうと領主様と商業ギルドに報告させていただく!!!」
と捨て台詞を残して扉を出て行こうとするが、うん、そこはスライドドアなんだ。
ものすごい音を立てて開かなかった扉にぶつかり顔面を押さえて悶絶している。
来る時はきちんとあけられたのになんで帰りは開けられなくて顔面をぶつけていくのかね。
しょせんは豚の脳か。
ぶつけたところを撫でながらはかったな。。。とかくっ、覚えておれとかいう捨て台詞をはきつつ、今度はきちんとドアをあけて去っていく。
ほんっと小物。