魔法と武術
どうぞ
俺は、あれからもう一人助っ人を頼んで捜索を再開した。
入学式が終わってから、約一時間。一向に兄と出会うことができない。もしかしたら先に帰ってしまったのか?そんな考えを頭を振りかき消す。あの兄に限ってそれはないと。
なにせ、自分を助ける為だけに世界中を旅したのだから。
「それにしても広いなー」
彼女もエドウィンのお屋敷や他にも幾つかのお城を見てきたがこれほどまでの大きさはあまりない。同じくらいといえば精々西の主国エルディオン国の城と天空神殿ぐらいだろう。
廊下や教室に飾られている調度品、絨毯どれをとっても高級その一言に尽きた。
それにこのような光景を見ていると八年前まだルートン家にいた時のことを思い出す。
「ねえ君、少しいいかな?」
そうそうあの事件が起きる時にもちょうど今みたいに知らない人に声を枯れられたっけ。そんなことを思い出しながら誘いを断ろうとして後ろを向く。そこには、それなりに顔は整っているが下心丸出しの下品な顔をした3期生がいた。
「このあと一緒にお茶なんかさ」
「申し訳ありませんが、私この後用がございまして折角ですが遠慮させていただきます」
キッパリと断る。この類は、遠慮がちな返事をするとそんなこと言わずにさ、などとひつこいのだ。
「そんなこと言わないでさ。ね、少しでいいからさ」
そう言って、私の手を掴かんでくる。メンドくさい。はっきり言おう。私はこんな感じの人が嫌いだ。好きな人もいるかもしれないが、私は嫌いだ。
そんなわけで、掴んできた手を振り払おうとしたがその前に第三者によってその手はどかされた。そしてその人は、私を庇う様に前に立った。
「!おっお前は、く。いいのかこんな事上級生にして」
3期生は、少し怯みながらも喧嘩腰で食ってかかる。
「この学校じゃあ、無理に後輩をナンパすることは、正しいことなのかよ先輩」
それに落ち着いた声でされど乱暴な言い方で、淡々と男が返す。大柄の見た目と年上に臆さない態度に押されたのか、3期生は舌打ちをして去っていった。
優羽奈は、少し不安を抱いていた。前にもいたのだ。助けたのだからお礼をしろと迫ってくる輩が。しかしその不安も男がこちらを向いたことで杞憂へと変わった。
「もしかして、アレンさんですか?」
「ああ、3年ぶりかな?あの時よりもずいぶんと綺麗になったね」
そう言ってアレンは優羽奈の頭を撫でる。
ゴツゴツとした硬い手であるがその手は不思議と私の心を落ち着かせてくれるから私は好きだ。アレンさんと会えたからこれで兄を探せると思っていると次の問題が廊下の向こうからやって来た。
「アレン・ゲノム・エドウィン。その乙女から離れなさい」
オペラ歌手顔負けの美声がする方をアレンがあからさまに嫌そうな顔で見る。そこには身長はアレンと同じくらいであり服装も同じ制服であるが、一箇所だけ明確に違うところがある。それは、風紀委員と書かれた腕章をつけた少年がいた。
「その乙女はね、僕の大切な親友の妹殿なんだよ。だから君の様な獣が近づいていい子ではないんだ」
あからさまに見下すような物言いに青筋を立てながらアレンが返す。
「うるせえぞユースタス。そのバカでけぇ声はどうにかなんねぇのか」
「ふん、バカにも分かり易いようにはっきり言っているのが解らないのかい?アレン」
この男は、人の神経を逆なでするのが、得意なのだろう。
「その減らず口聞けないようにしてやるよ」
「やってみたまえ、おバカ君」
二人は、制服のジャケットを脱ぐと近づいていく。そして殴り合いが始まった。
優羽奈は、それを見てオロオロしている。止めたくともあの間に入ったら確実に自分は、潰れてしまうだろう。
「どうしよう」
蓮君と分かれてから三十分ぐらいたった頃、西館の方で騒ぎがあったので見に行ってみることにした。
そこでは、アレン君とユースタス君(いつもの二人)が喧嘩をしていた。
アレン君はまだしも、ユースタス君は風紀委員なんだけどね。そんな事を考えているとその近くでオロオロしている一際目を引く少女を見つけた黒い髪に白い肌、そして蓮君と同じ形のペンダントをした少女。
おそらく彼女が、優羽奈ちゃんだろう。
「貴方が優羽奈ちゃん?」
突然後ろから名前を呼ばれ、びくりとする優羽奈
「突然ごめんね。私は、四季咲神流。君のお兄さん蓮君の先輩で、君を探してたんだよ」
兄の名前が出た途端に明るい顔になる。
(何この子可愛い)その姿に悶えそうになっていると優羽奈が声をかけてきた。
「あの、神流さんあの二人どうしたら」
殴り合う二人を怯え半分、でも止めなきゃの勇気半分の顔をして指さす
ふむ、確かに新入生からしたら彼らは、少し怖いだろう。どれ少し懲らしめるとするか。そう思い二人の間へと歩いていく。
先程突然現れた美人でかっこいい先輩は、軽く笑みを浮かべると二人の男が戦う所へと向かって歩きだした。あの顔からして、自身はあるのだろうけどアレンの半分ぐらいの体格では、怪我をしてしまうのではないだろうか?
「よかった。やっと見つけたよ優羽奈」
そう思っているとそこに蓮が到着した。
「あ、兄さん。やっと会えた。はわわ、それより神流先輩を止めなくちゃ。」
そんな慌てふためく優羽奈を可愛く思いながらも落ち着かせるように肩に手を置く
「大丈夫だよあの人なら。それよりもしっかり見ておくんだ。
蓮が羨望の眼差しを送るほうを見て私は、開いた口がふさがらなかった。
「彼女こそ九歳で剣士の称号を手にし、十二歳で百剣豪の一人に選ばれそして今世界では二十一人しかいない剣聖に選ばれし本物の才女。四季咲家の次女四季咲流正統後継者、四季咲神流先輩だ。」
なぜなら彼女は、木刀で自分の顔程もあるアレンの拳を受け流し左手の手刀でユースタスの拳を下に払い落としていた。
「君達二人も懲りないね。次やったら、お姉さんも黙ってないって言ったでしょ」
「ふむ、お言葉ですが神流殿私は、アレンが蓮の妹殿を怖がらせていたのでお救いしようとしたまでです」
「んだと、テメェの方がよっぽど怖いんだよこの変態紳士」
「口を慎め、腐れ共」
神流を気にもせず再び殴り合いを開始しようとした二人の間で、プチン、と音がした。二人は恐る恐る自分の前の彼女に目を向ける。
そこには、並の魔物ならしっぽを巻いて逃げるのではないかと言うくらいの覇気を放つ剣聖がいた。
「少し、フザケが過ぎるぞ」
先程もでとは違い優しさもユーモアさも微塵も感じられない声が二人の耳に響く頃二人は、真っ青な顔で全力で後ろに飛んだ。そんな二人を見て神流は、口元をにやけさせる。
「どんなに急いでも君達は、私の距離からは逃げられない」
背筋が凍るような死刑宣告にも似た言葉の後、一瞬神流がブレたかと思うとアレンとユースタスは、頭を抑えてのたうち回っていた。
「すごいです神流先輩」
「いや~そんな事もあるかな~」
優羽奈に尊敬の眼差しを送られながら褒められる神流は、顔を赤らめながら優羽奈を抱きしめていた。
「優羽奈ちゃんはさっきの私の動き武術だと思う?」
「違うんですか?」
魔法を使える者なら他人が魔法を発動した時、魔力の動きを感じ取ることができる。しかし先程の神流の一連の動きには、一切の魔力を感じなかった。
だから優羽奈には、武術のナス技に見えただろう。
だがその実は違う。
「あれはね、加速魔法と足運びを同時に行なった魔法ありの動きだったんだよ」
「ですが、魔力の動きは・・・」
「それを感じさせないように魔力を動かす。また魔力を隠蔽する。それらの方法と使い方、戦い方を習うのがここなんだよ優羽奈」
今目で見た出来事こそこの学校が、他国の学校と一線を慨する所である。
魔法を扱う者と、武術を使う者。
それら二つの垣根をなくし、両極を極める。
それこそがここ、マクレーン魔法魔術学校である。
ありがとうございました