第9話(恋)
気付いていなかったというと嘘になる。
今思えば・・
なんとなく、ユキに向けられる笑顔を感じていた。
でも、確信はなかったんだ。
僕は、素直に嬉しかった。
ゆうじも、恋をしていた。
そのことがとても嬉しかったんだ。
恋をしないまま、ゆうじは天国へ行ったと思っていた。
でもゆうじは、恋をしていた。
短い一生を終えたゆうじは、恋のときめきや切なさ、あのきゅんとするキモチを知っていたんだ。
ゆうじの書く詩は、とても清らかで心に染み渡る。
恋を知っていたから・・書けたんだ。
何気なく向けられていたユキへの視線を、思い出す。
ゆうじ、お前のユキへの気持ち、しっかり受け取った。
お前の分まで、ユキを大事にするからな。
お前に負けないように、ユキを愛し続けるから・・・。
どうか、いつまでも見守っていてくれ。
「私・・・全然知らなかった・・」
ユキが気付かないのも当然と言えば当然だった。
いつも、僕とユキを応援して助けてくれていたゆうじがユキを好きだなんて・・・。
ゆうじにとって、身近に現れた初めての女性だったのかもしれない。
ゆうじは、僕の隣にいるユキを好きになってくれたんだ。
ユキも同じことを言っていた。
「ゆうじ君が、好きになってくれたのは、ハルを好きな私・・だよね。」
ユキは、キラキラとした目でその写真を眺めていた。
素敵な笑顔をしているその写真。
いつまでも、その笑顔を失わないで・・
ゆうじの気持ちが伝わってくるようだった。
「あの詩・・めちゃめちゃ良かったよな・・。」
帰りの車の中で、僕はポツリと呟いた。
ユキは、さっきからずっと何かを考えているようだった。
窓の外を眺めながら、遠い目をした。
「うん。一生、大切に心の中にしまっておきたい詩だった。私にはもったいないくらい・・」
「ゆうじがユキをわかってたってことだな・・。僕も、ユキは太陽だって思うよ。」
ユキは、優しく微笑んでまた窓の外に目をやった。
「今、ゆうじ君と話してたんだ・・。雲の上からこっちを見てるみたいで・・。私を好きになってくれてありがとうって言ってたの。」
ユキは、一筋の涙を流し、雲を見つめた。
信号が赤に変わり、僕も雲の隙間から差し込む光の中にゆうじを見つけた。
ゆうじ、ユキを見守っててくれよ!
僕、絶対に幸せにするから・・・